悪役貴族? いえ、ただの合理主義者ですが何か? ~冷徹と呼ばれる俺の改革が、いつの間にか国を豊かにし聖女にまで懐かれる件~

夏見ナイ

文字の大きさ
82 / 100

第82話:産業革命の兆し

しおりを挟む
ゼノンとアルフォンス。
水と油のように決して交わらないと思われた二人が手を組んだ。
そのニュースは王都の貴族社会に、最後の、そして決定的な衝撃を与えた。
アルフォンス王子という旧体制の象徴ですら、ゼノンの改革の前に膝を屈し、その軍門に下った。
もはやこの国にゼノンへ逆らう者は一人もいなくなった。

ベルシュタイン王国は、ゼノンという絶対的なエンジンと、アルフォンスという国民的な人気を誇る顔を得て、驚異的なスピードでその姿を変えていった。

ゼノンが宰相府の執務室で冷徹な計算に基づき、次々と改革案を立案する。
それをアルフォンスが王城の会議室で貴族たちに分かりやすく、そして熱意を込めて説明し、協力の約束を取り付ける。
理想を語るアルフォンスの言葉には、ゼノンが導き出した圧倒的なデータという裏付けがあった。
ゼノンの急進的な改革案には、アルフォンスという王家の権威と信頼というクッションが置かれた。
二人の歯車は完璧に噛み合った。

東部地域の復興は瞬く間に完了した。
そこにはかつての貧しい農村の面影はなく、合理的に区画整理された農地と清潔で機能的な街並みが広がる近代的な都市が生まれていた。

王立アカデミーと王立病院も驚異的な速さで建設が進んでいく。
それはもはやただの建物ではなかった。
新しい時代のベルシュタイン王国を象徴する、二つの巨大なモニュメントだった。

そして、その変化の波は、ついにこの国の産業のあり方そのものを根底から変えようとしていた。
その発端となったのは、アークライト領で生まれ、今や王国全土へと広がりつつある『魔導技術』だった。

きっかけは農業だった。
ゼノンが考案した『魔導トラクター』。
それは当初あまりにも高価で、一部の裕福な領主しか手にすることができなかった。
だが、ゼノンは国家予算を投じてその量産化と低コスト化を強力に推し進めた。
王都の近くに巨大な魔導工房が建設され、多くの職人たちが集められた。
彼らは分業制と流れ作業という、ゼノンが導入した新しい生産方式によって、驚くべき効率で魔導トラクターを作り出していった。

やがて、その鉄の怪物は王国中の農地へと普及し始めた。
それは文字通り革命だった。
これまで何十人もの人間が何日もかけて行っていた農作業が、たった一人の人間が操る一台の機械によって数時間で終わってしまう。
農業生産性は爆発的に向上した。
食料はもはや誰もが当たり前のように手にできる安価なものとなった。

そして、農業から解放された膨大な労働力は、新たな産業へと流れ込んでいった。
ゼノンは、その受け皿として次々と新しい産業を興した。

製鉄業。
魔力を利用した新しい高炉が開発され、これまでの数倍の強度を持つ鋼鉄が大量に生産されるようになった。

紡績業。
水車と魔導エンジンを組み合わせた自動織機が発明され、安価で質の良い布地が市場に溢れた。

そして、輸送業。
整備された街道の上を、荷物を満載した『魔導トラック』が煙を上げることなく、静かに、そして高速で走り抜けていく。

魔導技術は、農業、工業、そして物流、その全てを塗り替えていった。
それは歴史の教科書が『産業革命』と呼ぶ、巨大なうねりの始まりだった。

王都ロンディニウムは、もはやただの政治の中心地ではなかった。
それは新しい技術と富が生まれる巨大な工場であり、市場だった。
古い貴族たちが支配していた静かで停滞した街は消え失せ、そこには商人、職人、そして労働者たちの熱気と野心が渦巻くエネルギッシュな大都市が誕生していた。

ゼノンは宰相府の最も高い塔の窓から、その自分が作り変えた街の姿を見下ろしていた。
煙突の煙の代わりに、魔導エンジンの放つ淡い光が街のあちこちでまたたいている。
それは彼が望んだ、合理的で効率的な世界の一つの完成形だった。

(……悪くない)
彼は静かに呟いた。
(……だが、まだ足りない。まだ無駄が多すぎる)

彼の改革への渇望はとどまることを知らなかった。
この国をもっと完璧なシステムへと作り変えたい。
その純粋な技術者としての探究心が彼を突き動かしていた。

だが、彼はまだ気づいていなかった。
自分が産み出したこの巨大な変化のうねりが、このベルシュタイン王国という一つの器の中だけで収まるはずがないことを。

彼がもたらした産業革命。
その圧倒的な富と力は、当然のように大陸の他の国々の警戒心と、そして嫉妬を煽り立てることになる。
彼が消し去ったはずの戦争の火種。
それが今、全く新しい、そしてより巨大な形で再び生まれようとしていることに、彼はまだ気づいていなかった。
彼の望まぬ戦いは、まだ本当の意味では終わっていなかったのだ。


後書き
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
以前よりご指摘いただいておりました「読点の多さ」につきまして、改めてお詫び申し上げます。読みにくい文章で物語への没入を妨げてしまい、大変申し訳ありませんでした。
一度修正を行ったのですが、私の確認が不十分で、依然として読みにくい箇所が多く残っておりました。この度の皆様からの再びのご指摘を受け、今回、ご指摘をいただいた箇所から最終話まで、全ての文章を根本的に見直す作業を完了いたしました。
今後は投稿前の推敲をより一層丁寧に行い、皆様に快適に物語を楽しんでいただけるよう、細心の注意を払ってまいります。
未熟な作者ではありますが、皆様からのご意見が作品を良くしていく何よりの力となります。本当にありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

処理中です...