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第92話 英雄の凱旋と日常への帰還
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管理者AIが光の中へと消え去った後、第九十九階層の玉座の間はその役目を終えたかのように静まり返っていた。僕たちの目の前には地上へと続く転移の魔法陣が、穏やかな青い光を放っている。
「……終わったんだな」
バルガスがその巨体に似合わぬ静かな声で呟いた。彼の顔には激闘の疲労と、そして世界の真実に触れたことによる一種の虚脱感が浮かんでいる。
「ええ。でも、ここからが本当の始まりなのね」
リリアナもまた、僕が託された二つの理の核、『混沌の核』と『光の種』を感慨深げな瞳で見つめていた。
僕たちは言葉もなく、互いの顔を見合わせた。そして静かに頷き合う。
僕たちは世界の運命をその肩に背負った。だが、その重さに押し潰されてはいなかった。むしろ、その心はどこまでも澄み渡り、そして穏やかだった。
僕たちは一人ではないのだから。
僕たちは転移の魔法陣へと足を踏み入れた。
眩い光に包まれ、僕たちの意識は一瞬だけ遠のいた。
次に僕たちが目を開けた時、そこに広がっていたのは見慣れた、しかしどこか違う光景だった。
僕たちは『天へと至る塔』の麓、あの昇格試験が始まった場所に立っていた。
そして僕たちの目の前には、信じられないほどの数の人々が集まっていた。
冒険者、騎士、貴族、そして王都の市民たち。
彼らは僕たちが塔の中へと消えていったあの日から、ずっとここで僕たちの帰りを待ち続けていたのだ。
僕たちの姿を認めた瞬間、それまで張り詰めていた静寂が、一人の子供の甲高い声によって破られた。
「……帰ってきた!」
その声を皮切りに、大地が揺れるほどの爆発的な大歓声が僕たちを包み込んだ。
「フロンティアだ! 『攻略神』が帰ってきたぞ!」
「見てみろ! あの禍々しかった塔の瘴気が完全に消え去っている!」
人々の言う通りだった。僕たちを覆っていた紫色の瘴気は管理者AIがその機能を停止させたことで嘘のように晴れ渡り、塔は元の美しい白亜の姿を取り戻していた。
それは誰の目にも明らかな、僕たちが『勝利』したことの証だった。
人々は泣き、笑い、そして僕たちの名を何度も、何度も叫んだ。
それはもはやただの賞賛ではない。世界を救った真の英雄たちに捧げられる、心からの感謝と祈りの声だった。
ギルドマスターのダグラスが人垣をかき分けて、僕たちの元へと駆け寄ってきた。その厳つい顔は涙と安堵でぐしゃぐしゃになっていた。
「……よくぞ、戻った。よくぞ、やり遂げてくれた、フロンティア!」
彼は僕の肩をその大きな手で力強く掴んだ。「お前たちはこの国の、いや、この世界の救世主だ」
ランズデール侯爵とアルフレッド様も僕たちの前に進み出て、深々と、そして丁重に頭を下げた。
僕たちはその熱狂の渦の中心で、少しだけ照れくさそうに互いの顔を見合わせて笑った。
僕たちは英雄になろうと思って戦ったわけではない。
ただ自分たちの日常を、仲間を、そしてこの不完全で愛おしい世界を守りたかっただけだ。
だが、その結果として僕たちは人々の希望の象Gとなった。
その温かく、そして少しだけ重い意味を、僕たちはこの時、確かに受け止めた。
英雄の凱旋から数ヶ月が過ぎた。
僕たちの生活は再び穏やかな日常へと戻っていた。
王都の外れにある僕たちの家。そのリビングには暖炉の火がぱちぱちと心地よい音を立てている。
バルガスは地下の工房で、もう武器を作ることはなくなった。代わりに彼は村の子供たちのために壊れたおもちゃを修理したり、農夫たちのために便利な農具を作ったりしていた。その顔にはかつてないほどの穏やかな満足感が浮かんでいる。
リリアナは庭のハーブ園を近所の子供たちに開放していた。彼女は薬草の知識を教えたり、怪我をした子供に自分で調合した優しい軟膏を塗ってあげたりしている。かつて人を遠ざけていた彼女の周りには、今、いつも子供たちの明るい笑い声が響いていた。
そして僕は書斎でペンを走らせていた。
僕が書いているのは、世界の理を解き明かすための難解な研究書ではない。
それは僕たち『フロンティア』がこれまで冒険してきた、数々のダンジョンの正確で、そして誰にでも分かりやすい『攻略地図』だった。
僕が持つ知識と力はもはや僕たちだけの秘密の武器ではない。それはこれから冒険を始める全ての若い芽たちのために、共有されるべき道標なのだ。
僕たちはそれぞれのやり方で世界を『修復』するという、僕たちの本当の仕事を始めていた。
それは世界のソースコードを書き換えるような派手な奇跡ではない。
ただ人々の日常に寄り添い、その小さな幸せを一つ一つ守り、そして育んでいくという地道で、しかし何よりも尊い仕事だった。
ある晴れた日の午後。
僕がリビングでリリアナが入れてくれたハーブティーを飲んでいると、珍しい来客があった。
ギルドマスターのダグラスだった。
だが、今日の彼はギルドの制服ではなく、ラフな旅装束を身につけていた。
「やあ、ユキナガ。少し、いいか」
彼はどこか吹っ切れたような、晴れやかな顔で笑っていた。
「どうしたんですか、その格好は」
「はっはっは。わしも今日でギルドマスターを引退することにしたのだ」
彼の突然の言葉に僕は驚いた。
「もう十分に働いた。これからは若い者たちに任せて、わしは一人の冒-険者に戻ろうと思うてな。昔のようにまだ見ぬ世界をこの足で歩いてみたくなったのだ」
彼はそう言うと、一枚の古びた羊皮紙を僕の前に広げた。
それは僕たちが旅した新大陸のさらにその向こう。広大な海のその先に存在する、第三の大陸の不完全な海図だった。
「最近、海の向こうから奇妙な報せが届いていてな。新大陸よりもさらに未知の、そして危険なダンジョンがいくつも発見されたらしい」
彼の瞳が少年のようにきらきらと輝いている。
「どうだ、ユキナ-ガ。お前たちのその完璧な『地図』に、また新しいページを加える気はないか?」
それは新たな冒険への誘いだった。
僕の心の中で忘れかけていた冒険者としての血が、再び熱く騒ぎ出すのを感じた。
僕たちの戦いは終わった。
だが、僕たちの冒険はまだ終わらない。
この広大で謎に満ちた世界がある限り。
そしてこのかけがえのない仲間たちがそばにいてくれる限り。
僕たちの物語は、どこまでも続いていくのだ。
「……終わったんだな」
バルガスがその巨体に似合わぬ静かな声で呟いた。彼の顔には激闘の疲労と、そして世界の真実に触れたことによる一種の虚脱感が浮かんでいる。
「ええ。でも、ここからが本当の始まりなのね」
リリアナもまた、僕が託された二つの理の核、『混沌の核』と『光の種』を感慨深げな瞳で見つめていた。
僕たちは言葉もなく、互いの顔を見合わせた。そして静かに頷き合う。
僕たちは世界の運命をその肩に背負った。だが、その重さに押し潰されてはいなかった。むしろ、その心はどこまでも澄み渡り、そして穏やかだった。
僕たちは一人ではないのだから。
僕たちは転移の魔法陣へと足を踏み入れた。
眩い光に包まれ、僕たちの意識は一瞬だけ遠のいた。
次に僕たちが目を開けた時、そこに広がっていたのは見慣れた、しかしどこか違う光景だった。
僕たちは『天へと至る塔』の麓、あの昇格試験が始まった場所に立っていた。
そして僕たちの目の前には、信じられないほどの数の人々が集まっていた。
冒険者、騎士、貴族、そして王都の市民たち。
彼らは僕たちが塔の中へと消えていったあの日から、ずっとここで僕たちの帰りを待ち続けていたのだ。
僕たちの姿を認めた瞬間、それまで張り詰めていた静寂が、一人の子供の甲高い声によって破られた。
「……帰ってきた!」
その声を皮切りに、大地が揺れるほどの爆発的な大歓声が僕たちを包み込んだ。
「フロンティアだ! 『攻略神』が帰ってきたぞ!」
「見てみろ! あの禍々しかった塔の瘴気が完全に消え去っている!」
人々の言う通りだった。僕たちを覆っていた紫色の瘴気は管理者AIがその機能を停止させたことで嘘のように晴れ渡り、塔は元の美しい白亜の姿を取り戻していた。
それは誰の目にも明らかな、僕たちが『勝利』したことの証だった。
人々は泣き、笑い、そして僕たちの名を何度も、何度も叫んだ。
それはもはやただの賞賛ではない。世界を救った真の英雄たちに捧げられる、心からの感謝と祈りの声だった。
ギルドマスターのダグラスが人垣をかき分けて、僕たちの元へと駆け寄ってきた。その厳つい顔は涙と安堵でぐしゃぐしゃになっていた。
「……よくぞ、戻った。よくぞ、やり遂げてくれた、フロンティア!」
彼は僕の肩をその大きな手で力強く掴んだ。「お前たちはこの国の、いや、この世界の救世主だ」
ランズデール侯爵とアルフレッド様も僕たちの前に進み出て、深々と、そして丁重に頭を下げた。
僕たちはその熱狂の渦の中心で、少しだけ照れくさそうに互いの顔を見合わせて笑った。
僕たちは英雄になろうと思って戦ったわけではない。
ただ自分たちの日常を、仲間を、そしてこの不完全で愛おしい世界を守りたかっただけだ。
だが、その結果として僕たちは人々の希望の象Gとなった。
その温かく、そして少しだけ重い意味を、僕たちはこの時、確かに受け止めた。
英雄の凱旋から数ヶ月が過ぎた。
僕たちの生活は再び穏やかな日常へと戻っていた。
王都の外れにある僕たちの家。そのリビングには暖炉の火がぱちぱちと心地よい音を立てている。
バルガスは地下の工房で、もう武器を作ることはなくなった。代わりに彼は村の子供たちのために壊れたおもちゃを修理したり、農夫たちのために便利な農具を作ったりしていた。その顔にはかつてないほどの穏やかな満足感が浮かんでいる。
リリアナは庭のハーブ園を近所の子供たちに開放していた。彼女は薬草の知識を教えたり、怪我をした子供に自分で調合した優しい軟膏を塗ってあげたりしている。かつて人を遠ざけていた彼女の周りには、今、いつも子供たちの明るい笑い声が響いていた。
そして僕は書斎でペンを走らせていた。
僕が書いているのは、世界の理を解き明かすための難解な研究書ではない。
それは僕たち『フロンティア』がこれまで冒険してきた、数々のダンジョンの正確で、そして誰にでも分かりやすい『攻略地図』だった。
僕が持つ知識と力はもはや僕たちだけの秘密の武器ではない。それはこれから冒険を始める全ての若い芽たちのために、共有されるべき道標なのだ。
僕たちはそれぞれのやり方で世界を『修復』するという、僕たちの本当の仕事を始めていた。
それは世界のソースコードを書き換えるような派手な奇跡ではない。
ただ人々の日常に寄り添い、その小さな幸せを一つ一つ守り、そして育んでいくという地道で、しかし何よりも尊い仕事だった。
ある晴れた日の午後。
僕がリビングでリリアナが入れてくれたハーブティーを飲んでいると、珍しい来客があった。
ギルドマスターのダグラスだった。
だが、今日の彼はギルドの制服ではなく、ラフな旅装束を身につけていた。
「やあ、ユキナガ。少し、いいか」
彼はどこか吹っ切れたような、晴れやかな顔で笑っていた。
「どうしたんですか、その格好は」
「はっはっは。わしも今日でギルドマスターを引退することにしたのだ」
彼の突然の言葉に僕は驚いた。
「もう十分に働いた。これからは若い者たちに任せて、わしは一人の冒-険者に戻ろうと思うてな。昔のようにまだ見ぬ世界をこの足で歩いてみたくなったのだ」
彼はそう言うと、一枚の古びた羊皮紙を僕の前に広げた。
それは僕たちが旅した新大陸のさらにその向こう。広大な海のその先に存在する、第三の大陸の不完全な海図だった。
「最近、海の向こうから奇妙な報せが届いていてな。新大陸よりもさらに未知の、そして危険なダンジョンがいくつも発見されたらしい」
彼の瞳が少年のようにきらきらと輝いている。
「どうだ、ユキナ-ガ。お前たちのその完璧な『地図』に、また新しいページを加える気はないか?」
それは新たな冒険への誘いだった。
僕の心の中で忘れかけていた冒険者としての血が、再び熱く騒ぎ出すのを感じた。
僕たちの戦いは終わった。
だが、僕たちの冒険はまだ終わらない。
この広大で謎に満ちた世界がある限り。
そしてこのかけがえのない仲間たちがそばにいてくれる限り。
僕たちの物語は、どこまでも続いていくのだ。
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