ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第93話 最後の仕事と新たな旅立ち

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ダグラスが広げた第三大陸への不完全な海図。それは僕の心に、静かだが抗いがたい新たな冒険への情熱の炎を灯した。
僕の『ワールド・ルーラー』の力は確かに世界の崩壊を食い止めた。厄災の侵食は停止し、旧大陸のダンジョンはその活動を沈静化させつつある。
だが、それは根本的な解決ではない。アルケイアが遺した歪んだシステムそのものを『修復』しない限り、いつかまた新たなバグが、新たな厄災が生まれるかもしれない。
そのための『設計図』の断片は、きっとまだ見ぬ世界に眠っているはずだ。
「……面白そうですね」
僕がそう言って微笑むと、ダグラスは満足げに、そして悪戯っぽく笑った。
「だろう? 男の冒険は死ぬまで終わらんものよ。まあ、わしはお前たちのように派手なことはできん。ただ、この目で世界の広さを確かめたいだけだ」
彼は僕に自分の後任となる新しいギルドマスターの名を告げると、「では、先に行っておるぞ」と言い残し、風のように去っていった。その背中は重責から解放された、一人の自由な冒険者のものだった。

その夜、僕たちの家のリビングには久しぶりに三人の仲間が真剣な面持ちで集まっていた。
テーブルの上にはダグラスが残していった第三大陸への海図が広げられている。
「……で? どうするんだ、リーダー」
バルガスが腕を組みながら僕の決断を促した。その声は真剣そのものだったが、その瞳の奥には新たな冒険への期待が隠しきれない炎のように揺らめいている。
「そうね。この家での穏やかな生活も、とても幸せ。でも……」
リリアナもまた、その海図から目を離すことができないでいた。「私たちは、やっぱり『フロンティア』だものね」
フロンティア。
未開拓地を切り開く者。
その名が僕たちの生き方そのものを示していた。
僕は二人の顔をゆっくりと見回した。
バルガス。かつて『置物』と蔑まれたドワーフの戦士は、今や仲間を守る不落の城塞であり、その槌で人々の生活を支える心優しき鍛冶師となった。
リリアナ。かつて『暴発スキル』に怯えていた孤独な少女は、今や誰よりも速く、そして誰よりも優しく、人々の痛みを癒やす神速の剣士であり、錬金術師となった。
そして僕。かつて『無能』と追放された斥候は、世界の理を記述する力を得て、この星の未来をその肩に背負うことになった。
僕たちは出会い、そして変わった。
だが、僕たちの根っこにある冒険者としての魂は何も変わってはいない。
僕は静かに立ち上がった。
「……俺たちの最後の仕事を、始めよう」
僕の言葉に、二人は息を呑んだ。
「最後の、仕事?」
「ああ。この世界のシステムを『修復』するという、俺たちが蛇神と、そして管理者AIと交わした約束だ」
僕は僕がこれまで描き溜めてきた全ての地図をテーブルの上に広げた。
旧大陸の詳細なダンジョンマップ。
新大陸の混沌とした自然の地図。
そして僕の脳内にだけ存在する、この世界のソースコードの設計図。
「この旅はこれまでの冒険とは訳が違う。それは世界の創造主たちが遺した壮大なパズルを解き明かすための、果てしない旅になるだろう。危険もこれまでの比ではないかもしれない。二度とこの穏やかな日常には戻れないかもしれない」
僕は二人の目をまっすぐに見据えた。
「それでも俺は行きたい。いや、行かなければならない。俺がこの世界に呼ばれた本当の意味を、この手で確かめるために」
僕は二人に向かって、深く、深く頭を下げた。
「だから、これが俺からの最後の『お願い』だ。もう一度だけ、俺のこの途方もない冒険に付き合ってはくれないだろうか」
僕が顔を上げると、そこにあったのは二人の呆れたような、そしてどこまでも温かい笑顔だった。
「……ったく、今更水臭えこと言ってんじゃねえよ、リーダー」
バルガスがその大きな手で僕の頭をわしわしと撫でた。「俺たちは家族だろ? 家族がどこへ行こうと、一緒に行くのは当たり前じゃねえか」
「そうよ、ユキナガ」
リリアナも優しく微笑んだ。「あなたが私たちの『地図』なのよ。あなたがいない場所なんて、私たちにとってはただの真っ暗な闇と同じだわ」
二人の揺るぎない答え。
僕の目から熱いものがこぼれ落ちそうになるのを、必死で堪えた。
僕はこの最高の仲間たちと出会えた。
それだけで僕がこの世界に来た意味は、もう十分すぎるほどにあった。

数日後。
僕たちは最後の準備を終え、再びフロンティア号の前に立っていた。
船はバルガスによってさらに改良が加えられ、長期の探検航海にも耐えられる完璧な状態に仕上がっている。
船倉にはリリアナが開発した数年分の保存食と、あらゆる事態に対応できる万能薬がぎっしりと積み込まれていた。
僕たちは誰に見送られるでもなく、静かに旅立とうとしていた。
僕たちが守ったこの日常をこれ以上騒がせる必要はない。
僕たちが去った後のことはアルフレッド様や、新しいギルドマスターがきっとうまくやってくれるだろう。
僕たちはただ歴史の裏側で、世界の歪みを正す名もなき『修復者』となればいい。
僕がタラップを上がろうとした、その時だった。
「――待て」
静かな、しかし芯の通った声が僕たちを呼び止めた。
振り返ると、そこに立っていたのは質素な旅装束を身につけたアレクサンダーだった。
彼の隣にはヴォルフとセシリアもいる。
「……何の用だ」
僕が警戒しながら尋ねると、アレクサンダーはゆっくりと僕たちの前に進み出た。
そして彼は、かつて僕が彼にしたように、深く、そして丁寧に頭を下げた。
「……俺たちも、連れて行ってはもらえないだろうか」
その予想外の言葉に、僕たち三人は絶句した。
「俺たちはこの数ヶ月、この国を旅して見てきた。厄災の脅威は去ってはいない。ただ小康状態にあるだけだ。そして人々がまだ見えぬ脅威に怯えながら、それでも必死に日々を生きている姿を」
彼は顔を上げた。その瞳にはかつての勇者の輝きとは違う、静かで、そして深い覚悟の光が宿っていた。
「俺たちは罪を償いたい。だが、ただ人々をモンスターから守るだけでは本当の償いにはならないと知った。この世界の根本的な歪みを正すこと。それこそが俺たちが本当に為すべきことなのだと」
彼は僕の目をまっすぐに見つめた。
「俺たちは、お前たちのようにはなれない。だが、お前たちの『剣』として『盾』として、その旅の手伝いをさせてはもらえないだろうか。これは勇者としてではない。ただの一人の冒険者として、アレクサンダーとしての心からの『願い』だ」
その言葉に、嘘はなかった。
彼は本当に変わったのだ。
僕はリリアナとバルガスを見た。二人は驚きながらも、どこか納得したような顔で静かに頷いていた。
僕たちの船は大きい。
そして僕たちがこれから挑む仕事はあまりにも巨大だ。
仲間は多いに越したことはない。
僕はしばらく黙って空を見上げた。
そして一つの答えにたどり着く。
「……分かった」
僕はアレクサンダーに手を差し伸べた。「だが、勘違いするな。お前たちは、お客さんじゃない。俺のパーティの一番下っ端の雑用係からだ。文句はあるか?」
僕の意地悪な問いに、アレクサンダーは初めて心からの笑みを浮かべた。
「……ない。光栄だ、リーダー」
こうして僕たちの最後の、そして本当の冒険が始まろうとしていた。
かつての宿敵を新たな仲間として迎え入れて。
僕たちの船は六人の乗組員を乗せ、世界のまだ見ぬ『設計図』を求めて、再び広大な海原へとその帆を上げた。
僕たちの物語は、まだ終わらない。
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