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第1話:レベル1の荷物持ち
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ずしりとした重みが肩に食い込む。背負った巨大なバックパックには、パーティメンバー全員の着替えや食料、ポーション類、野営道具、そして先ほど倒したモンスターの素材まで、ありとあらゆるものが詰め込まれていた。総重量は、とうに俺自身の体重を超えているだろう。
「おいカイル! ぐずぐずするな! 足手まといが」
前方から苛立ちを含んだ声が飛ぶ。声の主はアラン。聖剣に選ばれた勇者であり、このパーティ「暁の剣」のリーダー。そして俺の幼馴染だ。彼は、輝く銀の鎧を身にまとい、腰に下げた聖剣の柄に手をやりながら、忌々しげにこちらを睨みつけていた。
「ご、ごめん、アラン。すぐ行く」
俺は歯を食いしばり、軋む膝に力を込めて一歩を踏み出す。ここはオークが闊歩するという「グレイヴ大森林」。薄暗い木々の間を、湿った土の匂いが満たしていた。
俺の名前はカイル。職業は冒険者。しかし、レベルは1のままだ。神から授かった俺のスキル『やりなおし』は、どんなにモンスターを倒して経験値を稼いでも、死ぬと全てがリセットされてしまうという、いわばハズレスキルだった。死ななければいいだけの話だが、一度でも死ねば振り出しに戻る。この呪いのようなスキルのせいで、俺はパーティのお荷物、ただの荷物持ちに成り下がっていた。
「ったく、レベル1の雑魚を連れてくるから進むのが遅くなるんだ」
悪態をついたのは、大盾を構える戦士のゴードンだ。筋骨隆々の大男で、パーティの壁役を担っている。彼の言葉に、後衛から甲高い声が同調した。
「本当にそうよね。ただでさえ荷物が多くて大変なのに。ポーション運びくらい、自分でやればいいのよ」
ローブを翻したのは、魔術師のレナ。派手な化粧をした女で、強力な炎の魔法を操る。彼女たちは、俺のことなど仲間だとは思っていない。その視線は、道端の石ころを見るそれと何ら変わりはなかった。
四人の中で、唯一俺を庇ってくれるのは、神官のエリナだけだ。彼女もアランと同じく、俺の幼馴染だった。
「みんな、そんな言い方しないで。カイル君だって頑張ってるんだから」
純白の法衣に身を包んだエリナが、困ったように眉を下げて言う。彼女の優しい声が、ささくれだった俺の心を少しだけ癒してくれた。
「エリナは甘すぎるぞ。こいつが役に立たないのは事実だろう」
アランはエリナの言葉を冷たく一蹴する。そして再び俺に向き直り、顎で前方をしゃくった。
「いいかカイル。俺たちの足だけは引っ張るなよ。お前の仕事は荷物を運ぶことと、いざという時に俺たちの盾になることだ。それくらいはできるだろう?」
盾になる。それはつまり、モンスターの攻撃を受ける囮になれということだ。レベル1の俺がそんなことをすれば、一撃で死ぬ。そうなれば、また経験値はゼロからのスタートだ。
「……うん。分かってる」
俺は俯いて、そう答えることしかできなかった。これが、パーティ「暁の剣」における俺の日常だった。
しばらく進むと、前方の開けた場所から野太い雄叫びが聞こえてきた。木の幹ほどもある棍棒を振り回す、二体のオークだ。緑色の醜悪な肌、突き出た牙。その体躯はゴードンよりも一回りは大きい。
「オークが二体か。よし、俺が一体引き受ける。ゴードンはもう一体を抑えろ! レナは魔法の準備だ!」
アランが的確に指示を飛ばす。彼はリーダーとしては優秀だった。聖剣を抜き放つと、その刀身が淡い光を帯びる。
「エリナ、支援を頼む! カイル! お前はそこを動くな。絶対に前に出るなよ!」
アランはそう言い放つと、オークの一体に向かって疾風のように駆け出した。ゴードンも雄叫びを上げて突進し、もう一体のオークの棍棒を大盾で受け止める。凄まじい衝撃音が森に響き渡った。
「燃え盛る紅蓮の矢よ! ファイアアロー!」
レナの詠唱と共に、三本の炎の矢がオークの背中に突き刺さる。オークは苦痛に呻き、さらに凶暴に棍棒を振り回した。
「エリナ! ゴードンの回復を!」
「はい! 聖なる光よ、彼の者に癒しを与えたまえ! ヒール!」
エリナの掌から放たれた柔らかな光が、ゴードンを包み込む。激しい戦闘が目の前で繰り広げられていた。
俺にできることは何もない。ただ、この重い荷物を背負い、彼らの邪魔にならないように息を潜めているだけだ。戦闘に参加したくても、レベル1の俺ではオークに一撃も耐えられないだろう。アランの言う通り、前に出れば死ぬだけだ。
悔しさで唇を噛む。俺だって、戦いたい。みんなと一緒に、背中を預け合える仲間になりたい。だが、現実は非情だった。
アランの聖剣が閃き、オークの首筋を切り裂く。彼の剣技は、幼馴染の俺から見ても神がかっていた。勇者と呼ばれるにふさわしい才能だ。ゴードンもレナの援護を受けながら、オークの動きを着実に封じ込めている。エリナの回復魔法も的確だ。
俺だけが、このパーティに必要ない存在だった。
その時、アランが抑えていたオークが、最後の力を振り絞ったかのように棍棒を横薙ぎに振るった。アランはそれをバックステップで回避したが、薙ぎ払われた棍棒の先端が、近くにあった巨大な岩に激突した。
ゴッという鈍い音と共に、岩がぐらりと傾く。その先には、詠唱に集中しているレナがいた。
「レナ! 危ない!」
アランが叫ぶ。だが、レナは魔法の発動直前で動けない。ゴードンももう一体のオークに組み付かれていて身動きが取れない。
間に合わない。誰もがそう思った瞬間、俺は動いていた。
「うおおおお!」
背負っていたバックパックをその場に放り捨て、全力でレナの元へ走る。そして、彼女の体を突き飛ばした。
「きゃっ! 何すんのよ!」
「ぐっ……!」
俺の背中に、岩が倒れかかってくる衝撃。息が詰まり、視界が真っ赤に染まった。骨が砕ける嫌な音が、自分自身の体から聞こえてくる。
「カイル君!」
エリナの悲鳴が遠くに聞こえる。意識が薄れていく中、アランがオークにとどめを刺すのが見えた。ゴードンも、相方のオークを地面に組み伏せていた。
どうやら、戦闘は終わったらしい。俺は、少しは役に立てただろうか。そんなことを考えながら、俺の意識は闇に沈んでいった。
次に気がついた時、俺はエリナの膝の上で寝かされていた。背中の痛みは、彼女の治癒魔法のおかげで和らいでいる。
「……よかった。気がついたのね、カイル君」
エリナが、涙で濡れた瞳で俺を見下ろしていた。その表情に、俺は申し訳ない気持ちになる。
「ごめん、エリナ。また心配かけちゃった」
「ううん。ううん。ありがとう。レナさんを助けてくれて」
彼女はそう言ってくれたが、助けられた当の本人であるレナの態度は冷たかった。
「余計なことしないでくれる? あんたみたいな雑魚に助けられるなんて、屈辱だわ」
悪態をつきながら、彼女は自分のローブについた土を払っている。俺が押しつぶされかけたというのに、心配する素振りすらない。
「レナ! 言い過ぎだぞ!」
アランがレナを諌めたが、その声にあまり熱はこもっていない。彼は俺の方を一瞥すると、ため息混じりに言った。
「まあ、今回は結果的に助かったが、無駄死にするところだったな。いいかカイル、お前は俺の指示なしに動くなと言ったはずだ」
「ご、ごめん……」
「謝って済む問題じゃない。死んでレベルが1に戻ったら、また荷物持ちとしての筋力すらなくなるんだぞ。少しは自分の立場を考えろ」
突き放すような言葉が、治りかけの傷口に突き刺さる。そうだ。俺は死ぬことすら許されない。死ねば、このパーティにいる価値が、本当にゼロになってしまうからだ。
その夜、野営の準備はいつも通り、全て俺の仕事だった。テントを張り、薪を集めて火を起こし、簡単なスープを作る。アランたちは、戦利品であるオークの牙や皮を検分しながら、今日の戦闘について語り合っていた。もちろん、そこに俺が加わる余地はない。
「それにしても、最近オークの数が増えてないか?」
「ええ。森の奥で、何か異変が起きているのかもしれないわね」
「次の街で情報を集めてみるか」
スープが出来上がり、木の器によそって一人一人に渡していく。
「ほらよ、カイル。お前の分だ」
ゴードンが、戦利品の中から一番価値の低いオークの爪を一つ、無造作に放り投げてきた。これが、今日の俺の報酬の全てだった。
「……ありがとう」
俺はそれを黙って拾い、ポケットにしまう。スープをすすりながら、燃え盛る焚き火の炎を見つめた。揺らめく炎が、まるで俺の無力さを嘲笑っているように見える。
食事の後、見張りも俺の役目だ。他の三人は早々にテントに入ってしまった。エリナだけが、俺の隣に座ってくれていた。
「カイル君、ごめんね。私、何も言えなくて……」
「いいんだよ、エリナ。気にしないで。俺が弱いのが全部悪いんだから」
俺は無理に笑顔を作って見せた。エリナは悲しそうに瞳を伏せる。
「そんなことない。カイル君は昔から、誰よりも優しくて、努力家だったじゃない。アラン君だって、昔は……」
「昔の話だよ」
俺はエリナの言葉を遮った。そうだ、昔は違った。アランが勇者に選ばれる前は、三人でよく森に遊びに来ていた。アランはいつも俺を庇ってくれる、自慢の親友だった。
いつからだろう。俺たちの間に、こんなにも深い溝ができてしまったのは。
「このスキルさえなければ……」
俺は自分のステータスウィンドウを開く。そこには、くっきりと『レベル:1』の文字と、『スキル:やりなおし』という表示があった。俺の人生を狂わせた、呪いの刻印だ。
「きっと、いつかこのスキルにも何か意味があるはずよ。だから、諦めないで」
エリナはそう言って俺の手を握ってくれた。その温もりが、冷え切った心にじんわりと染み渡る。
「……うん。ありがとう、エリナ」
彼女がテントに戻った後、俺は一人、再び焚き火の番に戻った。パチパチと薪がはぜる音だけが、静かな夜の森に響いている。
遠くのテントからは、アランたちの話し声が微かに漏れ聞こえてきた。
「なあ、アラン。いつまであいつを連れていくつもりだ?」
ゴードンの低い声。
「エリナが庇うから仕方ないだろう。だが、次のミノタウロスの迷宮……あそこであいつが役に立たなかったら、もう潮時だな」
アランの冷たい声が、俺の耳に届いた。
ミノタウロスの迷宮。それは、この先の街で挑む予定の高難易度ダンジョンだ。そこで役に立たなければ、潮時。つまり、追放されるということだろう。
分かっていたことだ。いつかは、こんな日が来ると。それでも、心のどこかで信じていたかった。いつかきっと、昔のように笑い合える日が来ると。
冷たい夜気が、彼の心を静かに蝕んでいく。それでも彼は、仲間だと信じる者たちのために、ただ黙々と夜番を続けた。その先に待つ運命が、絶望に満ちたものであることなど、まだ知りようもなかった。いや、本当は気づいていたのかもしれない。気づかないふりをしていた、ただそれだけだった。
「おいカイル! ぐずぐずするな! 足手まといが」
前方から苛立ちを含んだ声が飛ぶ。声の主はアラン。聖剣に選ばれた勇者であり、このパーティ「暁の剣」のリーダー。そして俺の幼馴染だ。彼は、輝く銀の鎧を身にまとい、腰に下げた聖剣の柄に手をやりながら、忌々しげにこちらを睨みつけていた。
「ご、ごめん、アラン。すぐ行く」
俺は歯を食いしばり、軋む膝に力を込めて一歩を踏み出す。ここはオークが闊歩するという「グレイヴ大森林」。薄暗い木々の間を、湿った土の匂いが満たしていた。
俺の名前はカイル。職業は冒険者。しかし、レベルは1のままだ。神から授かった俺のスキル『やりなおし』は、どんなにモンスターを倒して経験値を稼いでも、死ぬと全てがリセットされてしまうという、いわばハズレスキルだった。死ななければいいだけの話だが、一度でも死ねば振り出しに戻る。この呪いのようなスキルのせいで、俺はパーティのお荷物、ただの荷物持ちに成り下がっていた。
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悪態をついたのは、大盾を構える戦士のゴードンだ。筋骨隆々の大男で、パーティの壁役を担っている。彼の言葉に、後衛から甲高い声が同調した。
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四人の中で、唯一俺を庇ってくれるのは、神官のエリナだけだ。彼女もアランと同じく、俺の幼馴染だった。
「みんな、そんな言い方しないで。カイル君だって頑張ってるんだから」
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アランはエリナの言葉を冷たく一蹴する。そして再び俺に向き直り、顎で前方をしゃくった。
「いいかカイル。俺たちの足だけは引っ張るなよ。お前の仕事は荷物を運ぶことと、いざという時に俺たちの盾になることだ。それくらいはできるだろう?」
盾になる。それはつまり、モンスターの攻撃を受ける囮になれということだ。レベル1の俺がそんなことをすれば、一撃で死ぬ。そうなれば、また経験値はゼロからのスタートだ。
「……うん。分かってる」
俺は俯いて、そう答えることしかできなかった。これが、パーティ「暁の剣」における俺の日常だった。
しばらく進むと、前方の開けた場所から野太い雄叫びが聞こえてきた。木の幹ほどもある棍棒を振り回す、二体のオークだ。緑色の醜悪な肌、突き出た牙。その体躯はゴードンよりも一回りは大きい。
「オークが二体か。よし、俺が一体引き受ける。ゴードンはもう一体を抑えろ! レナは魔法の準備だ!」
アランが的確に指示を飛ばす。彼はリーダーとしては優秀だった。聖剣を抜き放つと、その刀身が淡い光を帯びる。
「エリナ、支援を頼む! カイル! お前はそこを動くな。絶対に前に出るなよ!」
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「はい! 聖なる光よ、彼の者に癒しを与えたまえ! ヒール!」
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俺にできることは何もない。ただ、この重い荷物を背負い、彼らの邪魔にならないように息を潜めているだけだ。戦闘に参加したくても、レベル1の俺ではオークに一撃も耐えられないだろう。アランの言う通り、前に出れば死ぬだけだ。
悔しさで唇を噛む。俺だって、戦いたい。みんなと一緒に、背中を預け合える仲間になりたい。だが、現実は非情だった。
アランの聖剣が閃き、オークの首筋を切り裂く。彼の剣技は、幼馴染の俺から見ても神がかっていた。勇者と呼ばれるにふさわしい才能だ。ゴードンもレナの援護を受けながら、オークの動きを着実に封じ込めている。エリナの回復魔法も的確だ。
俺だけが、このパーティに必要ない存在だった。
その時、アランが抑えていたオークが、最後の力を振り絞ったかのように棍棒を横薙ぎに振るった。アランはそれをバックステップで回避したが、薙ぎ払われた棍棒の先端が、近くにあった巨大な岩に激突した。
ゴッという鈍い音と共に、岩がぐらりと傾く。その先には、詠唱に集中しているレナがいた。
「レナ! 危ない!」
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間に合わない。誰もがそう思った瞬間、俺は動いていた。
「うおおおお!」
背負っていたバックパックをその場に放り捨て、全力でレナの元へ走る。そして、彼女の体を突き飛ばした。
「きゃっ! 何すんのよ!」
「ぐっ……!」
俺の背中に、岩が倒れかかってくる衝撃。息が詰まり、視界が真っ赤に染まった。骨が砕ける嫌な音が、自分自身の体から聞こえてくる。
「カイル君!」
エリナの悲鳴が遠くに聞こえる。意識が薄れていく中、アランがオークにとどめを刺すのが見えた。ゴードンも、相方のオークを地面に組み伏せていた。
どうやら、戦闘は終わったらしい。俺は、少しは役に立てただろうか。そんなことを考えながら、俺の意識は闇に沈んでいった。
次に気がついた時、俺はエリナの膝の上で寝かされていた。背中の痛みは、彼女の治癒魔法のおかげで和らいでいる。
「……よかった。気がついたのね、カイル君」
エリナが、涙で濡れた瞳で俺を見下ろしていた。その表情に、俺は申し訳ない気持ちになる。
「ごめん、エリナ。また心配かけちゃった」
「ううん。ううん。ありがとう。レナさんを助けてくれて」
彼女はそう言ってくれたが、助けられた当の本人であるレナの態度は冷たかった。
「余計なことしないでくれる? あんたみたいな雑魚に助けられるなんて、屈辱だわ」
悪態をつきながら、彼女は自分のローブについた土を払っている。俺が押しつぶされかけたというのに、心配する素振りすらない。
「レナ! 言い過ぎだぞ!」
アランがレナを諌めたが、その声にあまり熱はこもっていない。彼は俺の方を一瞥すると、ため息混じりに言った。
「まあ、今回は結果的に助かったが、無駄死にするところだったな。いいかカイル、お前は俺の指示なしに動くなと言ったはずだ」
「ご、ごめん……」
「謝って済む問題じゃない。死んでレベルが1に戻ったら、また荷物持ちとしての筋力すらなくなるんだぞ。少しは自分の立場を考えろ」
突き放すような言葉が、治りかけの傷口に突き刺さる。そうだ。俺は死ぬことすら許されない。死ねば、このパーティにいる価値が、本当にゼロになってしまうからだ。
その夜、野営の準備はいつも通り、全て俺の仕事だった。テントを張り、薪を集めて火を起こし、簡単なスープを作る。アランたちは、戦利品であるオークの牙や皮を検分しながら、今日の戦闘について語り合っていた。もちろん、そこに俺が加わる余地はない。
「それにしても、最近オークの数が増えてないか?」
「ええ。森の奥で、何か異変が起きているのかもしれないわね」
「次の街で情報を集めてみるか」
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「ほらよ、カイル。お前の分だ」
ゴードンが、戦利品の中から一番価値の低いオークの爪を一つ、無造作に放り投げてきた。これが、今日の俺の報酬の全てだった。
「……ありがとう」
俺はそれを黙って拾い、ポケットにしまう。スープをすすりながら、燃え盛る焚き火の炎を見つめた。揺らめく炎が、まるで俺の無力さを嘲笑っているように見える。
食事の後、見張りも俺の役目だ。他の三人は早々にテントに入ってしまった。エリナだけが、俺の隣に座ってくれていた。
「カイル君、ごめんね。私、何も言えなくて……」
「いいんだよ、エリナ。気にしないで。俺が弱いのが全部悪いんだから」
俺は無理に笑顔を作って見せた。エリナは悲しそうに瞳を伏せる。
「そんなことない。カイル君は昔から、誰よりも優しくて、努力家だったじゃない。アラン君だって、昔は……」
「昔の話だよ」
俺はエリナの言葉を遮った。そうだ、昔は違った。アランが勇者に選ばれる前は、三人でよく森に遊びに来ていた。アランはいつも俺を庇ってくれる、自慢の親友だった。
いつからだろう。俺たちの間に、こんなにも深い溝ができてしまったのは。
「このスキルさえなければ……」
俺は自分のステータスウィンドウを開く。そこには、くっきりと『レベル:1』の文字と、『スキル:やりなおし』という表示があった。俺の人生を狂わせた、呪いの刻印だ。
「きっと、いつかこのスキルにも何か意味があるはずよ。だから、諦めないで」
エリナはそう言って俺の手を握ってくれた。その温もりが、冷え切った心にじんわりと染み渡る。
「……うん。ありがとう、エリナ」
彼女がテントに戻った後、俺は一人、再び焚き火の番に戻った。パチパチと薪がはぜる音だけが、静かな夜の森に響いている。
遠くのテントからは、アランたちの話し声が微かに漏れ聞こえてきた。
「なあ、アラン。いつまであいつを連れていくつもりだ?」
ゴードンの低い声。
「エリナが庇うから仕方ないだろう。だが、次のミノタウロスの迷宮……あそこであいつが役に立たなかったら、もう潮時だな」
アランの冷たい声が、俺の耳に届いた。
ミノタウロスの迷宮。それは、この先の街で挑む予定の高難易度ダンジョンだ。そこで役に立たなければ、潮時。つまり、追放されるということだろう。
分かっていたことだ。いつかは、こんな日が来ると。それでも、心のどこかで信じていたかった。いつかきっと、昔のように笑い合える日が来ると。
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「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」
「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」
「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」
「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」
「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」
「くっ……」
問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。
彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。
さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。
「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」
「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」
「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」
拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。
これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
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危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
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これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
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