レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第3話:追放宣告

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エリナの治癒魔法で俺の体はなんとか動けるまでに回復した。だが心の傷は、回復するどころか抉られるように深く広がっていくばかりだった。

ミノタウロスの魔石と心臓を回収し、俺たちは黙々と迷宮の出口を目指した。重苦しい沈黙がパーティを支配している。アランもゴードンもレナも、誰一人として俺と目を合わせようとしない。エリナだけが、心配そうに何度もこちらを振り返っていた。

迷宮の外に出ると、傾きかけた太陽が街をオレンジ色に染めていた。冒険者たちの喧騒が戻ってくる。俺たちのパーティだけが、まるで別の世界にいるかのように冷え切っていた。

冒険者ギルドの建物が見えてきたところで、アランが不意に足を止めた。そして、ゆっくりとこちらに振り返る。その顔には、何の感情も浮かんでいなかった。

「カイル」

静かな、だが有無を言わさぬ響きを持った声だった。

「お前は今日限りで、このパーティを抜けろ」

告げられた言葉は、まるで遠い国の出来事のように現実感がなかった。頭の中で、アランの声が何度も繰り返される。何を言われたのか、理解するのに数秒かかった。

「……え?」

俺の口から漏れたのは、そんな間の抜けた声だけだった。エリナが息を呑む気配がする。

アランはため息を一つつくと、まるで出来の悪い生徒に言い聞かせるように言葉を続けた。

「だから、お前はクビだと言っているんだ。もう用済みだ。分かるか?」

用済み。その一言が、鋭い刃となって俺の胸を貫いた。

「な、なんで……俺、ちゃんと囮になって、それで……」
「だからなんだ? レベル1のお前が瀕死の覚悟で稼いだ時間など、俺たちにとってはほんの数秒の価値もない。お前がいるだけで、パーティ全体の効率がどれだけ落ちていると思っているんだ」

アランの言葉は、どこまでも冷徹で、合理的だった。

「荷物持ちなら、金でいくらでも雇える。戦闘では足手まといにしかならない。成長もしない。そんなお荷物を、これ以上連れて歩く義理はないだろう」

「そんな言い方!」

たまらず声を上げたのはエリナだった。彼女は俺の前に立つようにして、アランを睨みつけた。

「ひどいよ、アラン君! カイル君は私たちの仲間じゃない! 昔からの、幼馴染じゃない!」
「感傷でパーティが組めるか。俺たちは勇者パーティだ。世界を救うという使命がある。そのためには、不要なものは切り捨てていく必要があるんだ」

アランはエリナの訴えを、虫けらを払うように一蹴した。

ゴードンが腕を組み、アランに同調する。
「アランの言う通りだぜ、エリナ。こいつがいると、どうにも戦いに集中できん。いつ死ぬか分からん奴の心配までしてられるか」

「そうよ。それに、報酬の分配だって不公平じゃない。何もしていないのに、私たちと同じだけ分け前をもらうなんて」
レナが、扇子で口元を隠しながら蔑むように言った。俺がもらっていたのは、彼らが捨てた端金にも満たないガラクタだけだというのに。

仲間だと思っていた。少なくとも、俺はそう信じていた。だが、それは俺の一方的な幻想に過ぎなかったらしい。彼らにとって、俺はただの「不要なもの」だったのだ。

「待ってよ! カイル君がいなくなったら、誰が斥候役をするの? 罠の解除だって、いつもカイル君が……」
「代わりはいくらでもいる」

エリナの必死の言葉を、アランは再び冷たく遮った。

「それともエリナ。お前は、そんなにこいつがいいなら一緒に抜けるか? 俺たち勇者パーティを捨てて、レベル1の雑魚と二人でやっていくと」

その言葉に、エリナは唇を噛んで俯いた。彼女は優秀な神官だ。勇者パーティにいれば、その力を最大限に発揮できる。だが、俺と一緒になれば、日銭を稼ぐことすらままならないだろう。俺が、彼女の未来を奪うことになる。

「……ごめんなさい」

エリナは、泣き出しそうな声でそう呟くことしかできなかった。

「分かればいい」

アランは満足げに頷くと、再び俺に視線を向けた。そして、俺が着ている革鎧と、足元のブーツを指さした。

「それ、パーティの金で買ったものだよな。脱いでいけ。お前にやるにはもったいない」
「そ、そんな……!」
「当然だろう? お前はもう仲間じゃないんだからな」

あまりの仕打ちに、言葉が出なかった。周囲の冒険者たちが、何事かとこちらを遠巻きに見ている。晒し者にされている屈辱で、体の芯が震えた。

俺は黙って、言われた通りに革鎧を脱ぎ、ブーツを脱いだ。下に身につけていたのは、村を出る時に着ていたボロボロの布の服だけだ。硬い石畳の冷たさが、足の裏から直接伝わってくる。

ゴードンが、俺から奪った装備を無造作に受け取った。

「じゃあな、カイル。達者でやれよ。まあ、お前じゃ明日生きているかも怪しいがな」

彼は心底愉快そうに笑った。

レナは俺のことなどもう見ていなかった。興味を失くしたように、ギルドの扉に視線を向けている。

「話はそれだけだ。俺たちは依頼の報告に行く。お前はもう来るなよ」

アランは俺に背を向けた。その背中は、かつて俺が追いかけていた、頼もしい親友の背中ではなかった。知らない誰かの、冷たくて大きな背中だった。

「アラン君!」

エリナが最後に何かを言おうとしたが、アランは振り返ることなくギルドの中へ消えていく。ゴードンとレナも、その後を追った。

一人残されたエリナは、涙を浮かべながら俺とギルドの入り口を交互に見て、どうしようもなく立ち尽くしていた。

「エリナ、行っていいよ」

俺は、かろうじてそれだけを言った。

「でも……!」
「俺のことは、気にしないで。今まで、ありがとう」

無理やり笑顔を作って見せる。それが、俺にできる最後の強がりだった。

エリナは、嗚咽を漏らしながらも、ゆっくりとギルドの扉に向かって歩き出した。そして、中へ入る直前、もう一度だけ振り返った。

「ごめんなさい……カイル君……ごめんなさい……」

その唇の動きだけが、俺にははっきりと見えた。そして、彼女の姿も扉の向こうに消えた。

夕暮れの喧騒の中、俺はたった一人になった。着の身着のまま、なけなしの装備すら奪われて。信じていた仲間、信じていた絆、その全てを失って。

これからどうすればいいのか。どこへ行けばいいのか。何も分からない。ただ、心臓を鷲掴みにされるような絶望感と、体の奥底から這い上がってくるような途方もない孤独感だけが、俺の全身を支配していた。

日が落ちていく。街の明かりが灯り始める。その光が、やけに目に染みた。
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