レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第20話:ギルドマスターの呼び出し

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バルガンに導かれ、俺はギルドの奥にある一室へと通された。重厚なマホガニーの扉が閉まると、外の喧騒は完全に遮断され、部屋は静寂に包まれた。

そこはギルドマスターの執務室だった。壁一面に書物が並んだ本棚。机の上には分厚い書類の山と、大陸全土を示す巨大な地図。壁には、巨大なドラゴンの頭蓋骨や、歴戦の武器がいくつも飾られている。部屋全体が、このドワーフの生きてきた歴史そのものを物語っているようだった。

バルガンは部屋の中央にある大きな執務机の椅子にどっかりと腰を下ろすと、革張りの来客用の椅子を顎でしゃくった。

「座れ」

俺は言われた通り、静かに椅子に腰を下ろした。机を挟んで、俺とギルドマスターは真正面から向き合う形になる。彼の鋭い視線が、俺の一挙手一投足を観察しているのが分かった。

しばらくの沈黙の後、バルガンは重々しく口を開いた。

「単刀直入に聞く。貴様、何者だ」

その問いは、俺の素性を尋ねているのではなかった。俺という存在の、本質を問う質問だった。

「カイル・アッシュフィールド。Fランクの冒険者だ」
「ふざけるな。レベル1のFランクが、オークジェネラルやミノタウロスを単独で討伐できるものか。俺の目は節穴ではないぞ」

バルガンの声に、苛立ちの色が混じる。彼は机の上に置かれていた俺のギルドカードを指で弾いた。

「この数字が偽りであることは分かっている。問題は、どうやってその力を手に入れたかだ。生まれつきのギフトか。それとも、禁断のアーティファクトでも手に入れたか」

俺は黙っていた。スキル『やりなおし』のことは、誰にも話すつもりはない。この力は、俺だけの秘密だ。

俺が答えないのを見て、バルガンは大きなため息をついた。

「まあいい。冒険者には誰しも、墓まで持っていく秘密の一つや二つあるものだ。無理に聞き出すつもりはない」

彼は意外にも、あっさりと追求をやめた。そして、椅子に深くもたれかかり、腕を組む。

「だがな、小僧。貴様のような規格外の存在を、野放しにしておくわけにもいかん。貴様のその力は、使い方を間違えれば街一つを滅ぼしかねん。善にも悪にも、どちらにも転ぶ危うさを孕んでいる」

その言葉は、俺の心に深く突き刺さった。確かにそうだ。俺が手に入れたこの力は、あまりにも強大で、制御不能だ。一歩間違えれば、俺はただの破壊者になりかねない。

「貴様には、目的があるのか。その力で、何を成したい?」

バルガンの問いに、俺は初めて自分の内面と向き合った。
追放された当初は、ただ生き延びるためだった。スキルに目覚めてからは、強くなること自体が目的になっていた。

だが、今は違う。

「俺は、俺の力を証明したい。ただそれだけだ」
「証明だと?」
「そうだ。レベルやスキル、生まれや血筋……そんなもので人の価値が決まるわけじゃないと。ただひたすらに己を鍛え上げれば、どんな壁でも乗り越えられると、俺自身の体で証明したい」

それは、俺の偽らざる本心だった。
俺の言葉を聞いたバルガンは、しばらくの間、何も言わずに俺の目をじっと見つめていた。その瞳の奥で、激しい思考の火花が散っているのが分かった。

やがて、彼は重々しい沈黙を破り、これまで見せたことのない、豪快な笑みを浮かべた。

「……カッカッカッ! 面白い! 気に入ったぞ、小僧!」

バルガンは腹を抱えて笑った。その笑い声は、部屋全体を震わせるほど力強かった。

「生まれや血筋で価値が決まらんだと? いいじゃねえか、その心意気! 俺も、貧しい坑夫の生まれでな。腕っぷし一つで、ここまで成り上がってきたクチだ。貴様のような奴は、嫌いじゃない」

彼は機嫌良さそうに言うと、机の引き出しから大きな革袋を取り出し、カウンターに叩きつけた。中から、金貨がぶつかり合う重い音が響く。

「ミノタウロス討伐の報酬だ。金貨二十枚。それに、ダンジョンの隠された領域を発見した功績として、さらに十枚上乗せしておいた。文句はないな」
「……ああ」

金貨三十枚。またしても、とんでもない大金が手に入った。

「それから、もう一つだ」

バルガンは、俺のギルドカードを手に取ると、その表面に指を置いた。すると、彼の指先から魔力が流れ込み、カードに刻まれた『F』の文字が光を放ち始めた。

文字は『E』『D』『C』と目まぐるしく変化していく。そして、最終的に『B』の文字を刻んで、その光は収まった。

「貴様のランクを、特例でBに引き上げておく。レベル1のBランク冒険者。前代未聞だが、貴様の功績を考えれば妥当な判断だろう」

レベル1のBランク。それは、ギルドの歴史においても、ありえないほどの異例措置だった。

「いいか、小僧。ランクが上がれば、受けられる依頼の質も変わる。貴様が求める『証明』の場は、これからいくらでも見つかるだろう。だが、忘れるな。力には、責任が伴う」

バルガンは、真剣な眼差しで俺に告げた。

「その力を、何のために使うのか。常に自問自答しろ。道を踏み外したと俺が判断した時は……この俺が、直々に貴様を叩き潰す」

それは、脅しではなかった。ギルドマスターとしての、覚悟の言葉だった。

「……分かっている」

俺は、彼の言葉を胸に刻むように、力強く頷いた。

話は終わった。俺は報酬の革袋と、新しくなったギルドカードを受け取り、椅子から立ち上がった。

部屋を出る直前、バルガンが俺を呼び止めた。

「小僧、名はなんと言った」
「カイルだ」
「そうか。カイル。覚えておこう。貴様の『証明』、この俺が、最後まで見届けてやる」

その言葉を背に、俺は執務室を後にした。

ギルドホールに戻ると、冒険者たちの視線が一斉に俺へと突き刺さった。彼らは、俺がギルドマスターの部屋から無事に出てきたこと、そして、その手に報酬の袋を握っていることに、驚きを隠せない様子だった。

俺は誰に声をかけるでもなく、そのままギルドの出口へと向かった。
手にした金貨の重みが、心地よかった。ランクBのプレートが、誇らしかった。

だが、それ以上に、バルガンという男に認められたことが、俺の心を震わせていた。
初めてだ。俺の表面的なレベルではなく、俺という人間の本質を見て、評価してくれたのは。

追放され、全てを失ったあの日から、俺の戦いは始まった。
そして今日、俺は新たなスタートラインに立ったのだ。

空は、どこまでも青く澄み渡っていた。
俺は、これから始まるであろう、さらなる激闘と、まだ見ぬ強敵たちとの出会いに、胸を高鳴らせていた。

「さあ、次はどこで死のうか」

誰に聞かせるでもなく呟いた言葉は、街の喧騒の中に、静かに消えていった。
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