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第31話:遺跡の主、エンシェントキマイラ
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最後の扉を開けた先は、これまでの階層とは全く異なる、異様な空間だった。
巨大なドーム状の空洞。天井は見えず、代わりに渦巻く黒い瘴気が空を覆っている。地面には枯れた植物の残骸が散らばり、空気は生命を拒絶するかのように重く、淀んでいた。間違いなく、この遺跡の心臓部。そして、全ての汚染の源だ。
「……ひどい瘴気。ここに長くいれば、精神まで蝕まれてしまうわ」
シルフィリアが、ローブの袖で口元を覆いながら呟いた。彼女の顔にも緊張の色が浮かんでいる。
空洞の中央。瘴気が最も濃く渦巻く場所に、そいつはいた。
眠っていたのだろう。巨大な体が丸くなり、地響きのような寝息を立てている。その異形な姿に、俺もシルフィリも息を呑んだ。
ライオンの胴体に、ドラゴンの翼。そして、毒蛇のように蠢く尾。
だが、最も異様なのは、その首だった。三つの首が、一つの胴体から生えている。
右には、威厳のある鬣を持つ獅子の首。左には、鋭い角と硬い鱗に覆われた竜の首。そして中央には、ねじくれた角を持つ山羊の首があった。
古代の文献にのみ記される伝説の魔獣、キマイラ。
しかも、これほどまでに古く、強大な魔力を宿した個体は、エンシェントキマイラと呼ぶべきだろう。
「……あれが、元凶ね」
シルフィリアが、緊張に満ちた声で囁いた。
「ああ。奴が呼吸するたびに、瘴気が溢れ出している」
俺たちの侵入に、キマイラはまだ気づいていない。だが、このままにしておけば、森はやがて完全に死に絶えるだろう。やるべきことは一つだ。
俺はミスリルの剣を、シルフィリアは白木の杖を、音もなく構えた。
どうやって戦うか。アイコンタクトだけで、互いの意思を確認する。
先手必勝。
シルフィリアが小さく頷き、魔法の詠唱を開始した。彼女の周囲に、膨大な魔力が収束していく。彼女が持つ最大級の攻撃魔法を放つつもりだ。
その魔力の高まりに、ついにエンシェントキマイラが気づいた。
三対、六つの目が、ゆっくりと開かれる。その瞳は、どれも憎悪と破壊衝動に満ちた、濁った赤色をしていた。
「グルオオオオオオッ!」
三つの口から同時に放たれた咆哮は、ただの威嚇ではなかった。それは物理的な衝撃波を伴い、ドーム全体を揺るがす。俺たちは足元がぐらつくのを必死でこらえた。
「貫け、白銀の矢! ホーリーランス!」
詠唱を終えたシルフィリアが、聖属性の光の槍を放つ。対瘴気、対邪悪属性の魔物には最も効果的な魔法のはずだった。
光の槍は、正確にキマイラの胴体へと着弾する。
だが。
キィン、という甲高い音を立てて、槍はキマイラの体表に現れた不可視の障壁に弾かれ、霧散した。
「魔法障壁!? しかも、聖属性を完全に無効化するなんて!」
シルフィリアが愕然とする。
そして、反撃が来た。
エンシェントキマイラの三つの首が、それぞれ異なるエネルギーをその口内に収束させ始めた。
獅子の口には、燃え盛る灼熱の炎が。
竜の口には、全てを凍てつかせる絶対零度の冷気が。
山羊の口には、紫電の雷が渦を巻いていた。
「まずい!」
俺は直感した。あれは、避けられない。三つの属性が同時に、広範囲に放たれる。このドームの中では、逃げ場はどこにもない。
「カイル!」
シルフィリアの悲鳴が響く。
三つの首から同時に、炎、氷、雷のブレスが放射された。三色の破壊の奔流が、扇状に広がり、俺たちを飲み込もうと殺到する。
この遺跡に入ってから、まだ一度も死んでいない。
だが、それもここまでだ。
俺はシルフィリアの前に飛び出し、盾となるように両腕を広げた。
「え……!?」
「いいか。俺が死んでも、絶対に動くな。すぐに戻る」
俺は、背後の彼女にそれだけを告げた。
「何を言ってるの!? 死ぬ気!?」
彼女の悲鳴を背中で聞きながら、俺は不敵に笑った。
死ぬ気? 違う。
強くなる気だ。
炎熱耐性、氷結耐性、電撃耐性。
三つの属性耐性を一度に手に入れる、絶好の機会じゃないか。
俺は、迫り来る三色の絶望を、その身一つで迎え撃った。
世界が、白と赤と紫の光に包まれていく。
巨大なドーム状の空洞。天井は見えず、代わりに渦巻く黒い瘴気が空を覆っている。地面には枯れた植物の残骸が散らばり、空気は生命を拒絶するかのように重く、淀んでいた。間違いなく、この遺跡の心臓部。そして、全ての汚染の源だ。
「……ひどい瘴気。ここに長くいれば、精神まで蝕まれてしまうわ」
シルフィリアが、ローブの袖で口元を覆いながら呟いた。彼女の顔にも緊張の色が浮かんでいる。
空洞の中央。瘴気が最も濃く渦巻く場所に、そいつはいた。
眠っていたのだろう。巨大な体が丸くなり、地響きのような寝息を立てている。その異形な姿に、俺もシルフィリも息を呑んだ。
ライオンの胴体に、ドラゴンの翼。そして、毒蛇のように蠢く尾。
だが、最も異様なのは、その首だった。三つの首が、一つの胴体から生えている。
右には、威厳のある鬣を持つ獅子の首。左には、鋭い角と硬い鱗に覆われた竜の首。そして中央には、ねじくれた角を持つ山羊の首があった。
古代の文献にのみ記される伝説の魔獣、キマイラ。
しかも、これほどまでに古く、強大な魔力を宿した個体は、エンシェントキマイラと呼ぶべきだろう。
「……あれが、元凶ね」
シルフィリアが、緊張に満ちた声で囁いた。
「ああ。奴が呼吸するたびに、瘴気が溢れ出している」
俺たちの侵入に、キマイラはまだ気づいていない。だが、このままにしておけば、森はやがて完全に死に絶えるだろう。やるべきことは一つだ。
俺はミスリルの剣を、シルフィリアは白木の杖を、音もなく構えた。
どうやって戦うか。アイコンタクトだけで、互いの意思を確認する。
先手必勝。
シルフィリアが小さく頷き、魔法の詠唱を開始した。彼女の周囲に、膨大な魔力が収束していく。彼女が持つ最大級の攻撃魔法を放つつもりだ。
その魔力の高まりに、ついにエンシェントキマイラが気づいた。
三対、六つの目が、ゆっくりと開かれる。その瞳は、どれも憎悪と破壊衝動に満ちた、濁った赤色をしていた。
「グルオオオオオオッ!」
三つの口から同時に放たれた咆哮は、ただの威嚇ではなかった。それは物理的な衝撃波を伴い、ドーム全体を揺るがす。俺たちは足元がぐらつくのを必死でこらえた。
「貫け、白銀の矢! ホーリーランス!」
詠唱を終えたシルフィリアが、聖属性の光の槍を放つ。対瘴気、対邪悪属性の魔物には最も効果的な魔法のはずだった。
光の槍は、正確にキマイラの胴体へと着弾する。
だが。
キィン、という甲高い音を立てて、槍はキマイラの体表に現れた不可視の障壁に弾かれ、霧散した。
「魔法障壁!? しかも、聖属性を完全に無効化するなんて!」
シルフィリアが愕然とする。
そして、反撃が来た。
エンシェントキマイラの三つの首が、それぞれ異なるエネルギーをその口内に収束させ始めた。
獅子の口には、燃え盛る灼熱の炎が。
竜の口には、全てを凍てつかせる絶対零度の冷気が。
山羊の口には、紫電の雷が渦を巻いていた。
「まずい!」
俺は直感した。あれは、避けられない。三つの属性が同時に、広範囲に放たれる。このドームの中では、逃げ場はどこにもない。
「カイル!」
シルフィリアの悲鳴が響く。
三つの首から同時に、炎、氷、雷のブレスが放射された。三色の破壊の奔流が、扇状に広がり、俺たちを飲み込もうと殺到する。
この遺跡に入ってから、まだ一度も死んでいない。
だが、それもここまでだ。
俺はシルフィリアの前に飛び出し、盾となるように両腕を広げた。
「え……!?」
「いいか。俺が死んでも、絶対に動くな。すぐに戻る」
俺は、背後の彼女にそれだけを告げた。
「何を言ってるの!? 死ぬ気!?」
彼女の悲鳴を背中で聞きながら、俺は不敵に笑った。
死ぬ気? 違う。
強くなる気だ。
炎熱耐性、氷結耐性、電撃耐性。
三つの属性耐性を一度に手に入れる、絶好の機会じゃないか。
俺は、迫り来る三色の絶望を、その身一つで迎え撃った。
世界が、白と赤と紫の光に包まれていく。
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