レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第77話:聖剣の継承

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「お受けいたします。国王陛下」

俺の静かな、しかし揺るぎない答えが、壮麗な玉座の間に響き渡った。
その瞬間、張り詰めていた空気が緩み、間を置かずに広間を埋め尽くす騎士や貴族たちから、割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。

国王リチャードは心の底から安堵したように深く頷くと、その威厳に満ちた顔に父のような優しい笑みを浮かべた。

「……感謝する、カイル殿。君たちのその決断が、必ずやこの王国を、いや世界を救う光となるだろう」

彼は俺の肩に置いていた手を力強く握った。その掌から、一国の王としての、そして一人の人間としての切実な願いが伝わってくるようだった。

国王は再び壇上へと戻ると、広間全体に響き渡る声で高らかに宣言した。

「皆、聞け! 今ここに、王国は新たなる希望を得た! 彼ら四人の英雄に、我がアルビオン王国が与えうる最高の栄誉を授ける!」

その言葉に、広間が再びざわめく。最高の栄誉。それが何を意味するのか、ここにいる者なら誰もが知っていた。

「カイル・アッシュフィールド、シルフィリア、ヴォルフガング、エリナ・メイフィールド! 以上四名を、本日この時をもって王国最高の騎士たる『聖騎士』の称号に叙する!」

国王の宣言に、宰相をはじめとする貴族たちが「おお……!」と驚きの声を上げた。
聖騎士。それは王家に代々仕える高位貴族の中でも、特に功績のあった者にしか与えられない伝説的な称号だ。一介の、それも昨日今日現れたばかりの冒険者にその称号が与えられるなど、歴史上前代未聞のことだった。

「陛下、お待ちください! それはあまりにも……!」
宰相が慌てて進言しようとするが、国王はそれを鋭い視線で制した。

「彼らの功績は、その称号に十二分に値する。魔王軍四天王を打ち破り、数万の軍勢から国境を守り抜いたのだ。これ以上の功績が他にあるというのか。異論は認めん」

その有無を言わさぬ口調に、もはや誰も反論することはできなかった。
俺たちは促されるまま再び玉座の前へと進み出る。国王は侍従が捧げ持つ儀礼用の長剣を手に取ると、壇上を降りて俺の目の前に立った。

そして、その剣の腹で俺の右肩、そして左肩を軽く、しかし重々しく叩いた。

「聖騎士カイルよ。汝、その力を弱き者を守る盾として、悪を挫く剣として振るうことを誓うか」
「……誓います」

俺は静かに、そして力強く答えた。
続いてシルフィリア、ヴォルフ、エリナも同様に叙任の儀を受けた。三人もまた、それぞれの覚悟を胸に厳かに誓いの言葉を述べていた。

こうして俺たちは、予期せぬ形で王国最高の騎士としての地位と名誉を手にすることになった。

叙任式が終わった後、国王は俺だけを呼び止めた。

「カイル殿。貴殿に渡したいものがある。少し、我と二人で来てもらえぬか」

その真剣な眼差しに、俺は黙って頷いた。
シルフィリアたちに目配せをし、俺は国王と共に玉座の間の奥にある秘密の通路へと足を踏み入れた。

重厚な石の通路を、二人きりで歩く。道中、国王はぽつりぽつりと語り始めた。

「……我が国にも聖剣に選ばれた勇者がいる。アラン・ゲイルという、貴殿らと同じ年頃の若者だ。彼もまた大きな期待を背負い、魔王討伐の旅に出ているはずなのだが……」

国王はそこで言葉を濁した。彼の元にも、アランのパーティが苦戦しているという報告は届いているのだろう。

「聖剣は持ち主の心の光に呼応する。勇者がその重責に心が揺らぎ、道を見失えば、聖剣もまたその輝きを失う……。今の彼は少し、一人で多くのものを背負いすぎているのかもしれん」

その言葉はアランへの憂慮であると同時に、俺に対する忠告のようにも聞こえた。

やがて俺たちは巨大な鉄の扉の前にたどり着いた。王家の宝物庫だ。国王が自らの血を一滴、扉の紋章に垂らすと、扉は地響きのような音を立ててゆっくりと開いていった。

宝物庫の中はまばゆい光で満ちていた。
歴代の王たちが収集した伝説級の武具。神代の魔道具。古代竜の鱗で作られたという鎧。そのどれもが一国を傾けるほどの価値を持つであろう、至宝の山。

だが、国王はそれらの財宝には目もくれず、宝物庫の最も奥、特別な光に照らされた祭壇へと俺を導いた。
その祭壇の上には、一本の剣が静かに安置されていた。

それはアランが持つ聖剣のような、華やかで絢爛な装飾はなかった。
黒銀の刀身は光を吸い込むかのように深く、静かな輝きを放っている。柄も鍔も、一切の無駄を削ぎ落とした、実用性だけを追求したかのような洗練されたデザイン。

だが、その剣から放たれる気配は、この宝物庫にあるどの至宝よりも強く、そして底知れないものだった。

「……これは?」
「『無限の聖剣、インフィニティ』。アラン殿が持つ『光の聖剣』と対をなす、もう一つの聖剣だ」

国王は慈しむように、その剣を見つめながら語った。

「光の聖剣が世界の悪を照らし滅する『破邪の力』を象徴するのに対し、この無限の聖剣は持ち主の内に眠る『無限の可能性』を象徴する。この剣は……持ち主と共に成長するのだ」
「……成長する?」

「そうだ。持ち主が強ければ強いほど、この剣もまたその力を無限に増していく。持ち主がただの兵士ならば、それはただの鋭い剣に過ぎぬ。だが、持ち主が神にも匹敵する力を得た時、この剣もまた神殺しの刃となりうる」

その言葉に俺は息を呑んだ。
持ち主の成長に合わせて、無限に強くなる。
それは死ぬたびにステータスが累積していく俺のスキル『やりなおし』と、完璧なまでの相性を持つことを意味していた。

俺の力が上がるほど、この剣も強くなる。
この剣が強くなれば、俺はさらに強い敵と戦い、さらに死に、さらに強くなれる。
それは無限の成長の螺旋。

俺は自分のスキルが持つ本当の恐ろしさと、その可能性に今更ながら打ち震えた。

「この剣は長らく、真の主を待ち続けていた」

国王は俺に向き直った。

「カイル殿。貴殿こそこの剣の主にふさわしい。その身に無限の可能性を秘めた、新たなる英雄だ。どうか、この剣を受け取ってほしい」

彼は俺に剣を取るよう促した。
俺はゴクリと喉を鳴らし、恐る恐るその黒銀の柄へと手を伸ばした。

指が柄に触れた瞬間。

ズウウウウンッ!

剣が脈動した。まるで生命を得たかのように。
そして俺の力に共鳴するかのように、黒銀の刀身からまばゆい七色のオーラが噴き出した。剣は歓喜の歌を歌うかのように、高く澄んだ音を立てて鳴動している。

それは剣が俺を主として認めた、紛れもない証だった。

俺はその剣を祭壇から抜き放った。
手に伝わる確かな重み。それはミスリルの剣とは比べ物にならない物理的な重さだけではない。王国と世界の運命。託された全ての想いの重さだった。

「カイル殿。その剣と共に、どうかこの世界に光を取り戻してほしい」

国王が深々と頭を下げた。
俺は無限の聖剣インフィニティを強く握りしめた。

「……御意に」

その一言に、俺の全ての覚悟を込めた。
アランが勇者として光の道を歩むのなら。
俺は、この無限の可能性を秘めた剣と共に、どんな暗闇の中であろうと自分だけの道を切り開いていく。

宝物庫を出て仲間たちの元へ戻ると、三人は俺の腰に下げられた新しい剣にすぐに気づいた。

「……カイル、その剣は……?」

エリナが息を呑む。
シルフィリアとヴォルフも、その剣が放つ尋常ならざる気配に目を見開いていた。

俺は何も言わなかった。
ただ、その黒銀の柄にそっと手を触れる。

俺の新たな相棒。
無限の聖剣、インフィニティ。

この剣と共に、俺の本当の戦いが今、始まる。
俺の目は王城の窓の外、遥か東の空のその先にあるであろう魔王城を、静かに見据えていた。
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