レベル1の死に戻り英雄譚 ~追放された俺の【やりなおし】スキルは、死ぬほど強くなる~

夏見ナイ

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第97話:最強のレベル1

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一万回の死を経て、俺はついに魔王と同じ土俵に立った。彼が紡ぎ出す法則を、俺は彼から学び取った知識で相殺し、あるいは書き換える。もはや、彼の絶対的な支配はこの空間において意味をなさなかった。

『……面白い。実に面白いぞ、人間』

魔王は初めて玉座から立ち上がった。
虚無の塊であったはずのその体に輪郭が生まれる。闇が凝縮され、漆黒の鎧を纏った長身の騎士の姿へと変貌していく。その手には、闇そのものを鍛えて作り上げたかのような巨大な黒い剣が出現した。

『我がこの世界に生まれ落ちてより、ここまで我を楽しませてくれた存在は初めてだ。貴様の名を聞こう』
「カイル・アッシュフィールド。ただの、レベル1だ」

俺の答えに、魔王は初めて感情らしきものを見せた。それは歓喜だった。

『カッ、カカカッ! レベル1だと!? 最高だ! 最高に歪で、美しい! 貴様こそ、我が求めていたこの世界の理を破壊するにふさわしい存在よ!』

魔王は高らかに笑った。
そして、その黒い剣を俺へと向けた。

『だが、貴様はまだ我には届かぬ。その身に刻んだ知識だけでは、真の虚無を超えることはできぬ! 我が直々に、万物の終焉を教えてやろう!』

魔王が動いた。
その剣技はヴォルフのそれよりも速く、ガルムのそれよりも重く、アランのそれよりも邪悪だった。あらゆる負の概念を凝縮したかのような絶望の剣。

だが、俺もまた一歩も引かなかった。
無限の聖剣インフィニティが七色の光を放つ。俺の剣は、一万回の死で蓄積された無限の可能性の剣。

黒と七色。
絶望と希望。
二つの剣が、虚無の空間で激しく激突した。

キンッ! ギンッ! ズガガガガガッ!

剣がぶつかり合うたびに空間そのものが悲鳴を上げ、次元に亀裂が走る。俺たちの戦いはもはや物理法則を超えた、概念同士の闘争へと発展していた。

魔王が闇の斬撃を放てば、俺は光の斬撃でそれを相殺する。
魔王が時間を停止させようとすれば、俺は因果を操りその干渉を無効化する。
魔王が空間を断裂させれば、俺は次元を繋ぎ合わせその傷を修復する。

互角。
まさしく互角の戦いだった。
俺は一万回の死の果てに、ついにこの世界の理そのものと肩を並べる存在となっていたのだ。

その神々の戦いとも言うべき光景を、仲間たちはただ呆然と見守ることしかできなかった。

「……すごい」

シルフィリアがかすれた声で呟いた。

「あれがカイル……。私たちが知っているカイルなの……?」

彼女の目にはもはや俺の姿は、ただの人間の青年には映っていなかった。神話に謳われる英雄神。あるいは、世界を創造した原初の巨人。そんな人知を超えた何かに見えていた。

「……ああ。あれが、俺たちの、大将だ」

ヴォルフはただ誇らしげに、その戦いを見つめていた。

「……カイル君……」

エリナは胸の前で強く、強く祈りを捧げていた。
彼女の祈りだけがこの狂った戦場で、唯一の人間らしい温かい光を放っていた。

『やるな、カイル!』

魔王が歓喜の声を上げる。
彼は初めて出会った自分と対等な存在との戦いを、心の底から楽しんでいた。

『だが、まだだ! まだ足りぬ! 貴様の全てを我にぶつけてみせろ!』

魔王の体からさらに強大な闇のオーラが噴き出した。
それに応えるかのように、俺もまた自らの魂をさらに燃え上がらせる。

戦いは膠着状態に陥っていた。
どちらも決定打を与えられない。だが、このままではいずれ俺の魂が摩耗し、限界を迎えるだろう。

(……どうする……)

俺は激しい剣戟の中で思考を巡らせた。
俺と魔王の力は拮抗している。だが、それは俺一人の力だ。

俺には魔王にはない、最大の武器があるではないか。

俺は一瞬の隙を突き、魔王から大きく距離を取った。

『どうした、カイル? 息切れか?』
「……いや」

俺は静かに仲間たちの方へと振り返った。
三人ははっとしたように、俺を見つめ返す。

「……力を貸してくれ」

俺の静かな、しかし切実な願い。
その一言で三人は全てを理解した。

「……言われなくても!」

シルフィリアが杖を構える。

「おう! 任せとけ、大将!」

ヴォルフが大剣を握りしめる。

「……うん! 私たちの全てを、あなたに!」

エリナが祈りを捧げる。

三者三様の三つの力が、俺の元へと流れ込んできた。

シルフィリアの森羅万象を操る古代の叡智。
ヴォルフの大地を揺るがす獣の魂。
そして、エリナの全てを癒し浄化する聖なる光。

それらの力が俺の中で一つに溶け合っていく。
俺の体から放たれる七色のオーラは、さらにその輝きを増し、この虚無の空間そのものを照らし始めた。

インフィニティの刀身がこれまで見たこともないほどにまばゆく輝いている。
それはもはや剣ではなかった。
仲間との絆が生み出した、希望そのものの光の奔流。

『……なんだ、その力は……!』

魔王が初めて狼狽の声を上げた。
彼は理解できなかった。一人で戦うことしか知らなかった彼には、仲間と力を合わせるという、その概念が。

俺は仲間たちの全てをその身に宿し、魔王へと再び向き直った。
その姿はまさしく、最強のレベル1。
いや、もはやレベルなどという矮小な指標では測れない、新たなる神話の始まりだった。

「……行くぞ、魔王」

俺は静かに告げた。

「これが、俺たちの、最後の力だ」

決着の時は来た。
俺は仲間たちの想いを乗せた光の剣を振りかぶった。
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