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第十八話:裏市場の評価と新たな変数
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Dランクダンジョン『蟻塚迷宮』の単独踏破。それは、最低ランクのFから抜け出したばかりの俺にとって、大きな転換点となった。クイーン・スチールアントから得た魔石と素材は、今後の活動の文字通り「糧」となるはずだ。問題は、これをいかに安全かつ有利に換金するか、である。
(クイーンの魔石と金属板…通常のギルド換金所では、まず間違いなく詳細を詮索される。Dランクボスのドロップ品を単独で持ち込むなど、前例がないだろう。下手をすれば、パーティーでの横領や窃盗を疑われかねない)
そうなれば、俺の秘密――『法則操作』の存在が露見するリスクが高まる。それは絶対に避けなければならない。となると、選択肢は一つしかない。再び、あの胡散臭い裏路地の道具屋を頼るしかないだろう。
俺はクイーンの魔石と金属板を厳重に梱包し、人目を避けるようにして、再びあの廃屋同然の店へと足を運んだ。相変わらず、淀んだ空気と怪しげな薬品の匂いが漂っている。
「……ほう、またあんたか。懲りないねぇ」
店主は、カウンターの奥で何やら怪しげな液体をフラスコで煮詰めながら、俺を一瞥した。その丸眼鏡の奥の目は、値踏みするように細められている。
「約束の品、ではないがな。別の獲物を持ってきた」
俺はカウンターに、クイーンの魔石と金属板を置いた。瞬間、店主の目の色が変わった。『現象観測』が、彼の驚愕と、それを押し隠そうとする微細な動揺を捉える。
「こ、これは……まさか、クイーン・スチールアントの魔石!? それに、この金属板も……!?」
店主は慌ててフラスコを置き、ルーペを取り出して食い入るように鑑定を始めた。その手は僅かに震えている。
「……信じられん。これほどの大きさ、純度の魔石は滅多にお目にかかれるものじゃない。この金属板も、恐ろしく硬質で、魔力伝導率も高い……。まさか、あんた、一人で『蟻塚迷宮』のクイーンを……?」
店主の声には、畏敬とも恐怖ともつかない響きが混じっていた。裏社会の情報網は早い。俺が持ち込んだ品物が、単なる偶然や幸運で手に入るものではないことを、彼は即座に理解したのだろう。
「どうやったかは関係ないだろう。問題は、これをいくらで買うかだ」
俺は冷静さを装い、単刀直入に切り出した。相手の動揺は、交渉を有利に進めるチャンスでもある。
店主はゴクリと唾を飲み込み、しばらく考え込んだ後、意を決したように口を開いた。
「……いいだろう。破格の値段をつけさせてもらう。魔石と金属板、合わせて……金貨、五十枚!」
金貨五十枚。それは銀貨五千枚に相当する。前回の取引とは比較にならない、まさに破格の値段だ。この金額があれば、当面の研究資金どころか、まともな工房付きの部屋を借りることさえ可能になるかもしれない。
(……ここで欲をかきすぎるのは得策ではないか。この店主との関係は、今後も利用する可能性がある。あまり締め上げすぎると、後々面倒なことになるかもしれない)
俺は計算し、頷いた。
「いいだろう。その値段で手を打とう」
「ほ、本当かね!? 助かるよ!」
店主は、意外なほどあっさりと俺が条件を飲んだことに、安堵の表情を浮かべた。彼はカウンターの奥から、金貨が詰まった重そうな革袋をいくつも持ち出し、俺の前に置いた。
「……確かに。取引成立だ」
金貨の重みを確認し、俺はそれらを慎重に自分のバックパックにしまい込んだ。
「なあ、あんた……一つ聞いてもいいかね?」
店主が、少し躊躇いがちに尋ねてきた。
「なんだ?」
「あんた、一体何者なんだ? ただの駆け出し探索者じゃないだろう? その知識、技術……それに、その度胸。まるで……」
店主は言葉を濁したが、その目が俺を「規格外の存在」として認識しているのは明らかだった。
「ただの、しがない物理学徒の成れの果てさ。世界の法則(ルール)に少しばかり興味があるだけだ」
俺は皮肉めいた笑みを浮かべ、そう答えた。あながち嘘ではない。
「物理学徒……? ますます分からんね……。まあ、いい。あんたのような『特異点』は、時々現れるもんさ。だが、気をつけな。あんたの存在は、いずれ大きな波紋を呼ぶことになるだろうからな。良くも、悪くもね」
店主の言葉は、単なる忠告以上の、何か予言めいた響きを持っていた。俺は何も答えず、店を後にした。
裏路地を抜け、表通りに出る。金貨五十枚の重みが、ずしりと肩に食い込む。これで、俺の計画は大きく前進する。だが、店主の言葉が妙に引っかかっていた。『特異点』、『大きな波紋』……。
(目立ちすぎるのは、やはりリスクか……)
***
翌日、俺はまずギルドへと向かった。目的は情報収集と、探索者ランクの更新申請だ。Dランクダンジョンを踏破したことで、ランクアップの条件は満たしているはずだ。
ギルドのロビーは、相変わらずの賑わいだった。依頼掲示板の前で、探索者たちが情報を交換したり、パーティーメンバーを募集したりしている。俺はまず、受付カウンターへと向かった。
「ランク更新の申請をしたいんだが」
「はい、承知いたしました。探索者証をお願いします」
受付嬢は、俺のFランクの探索者証を受け取ると、端末で何かを確認し始めた。そして、僅かに眉をひそめた。
「神崎譲様……ですね? 確かに、最近の活動記録、特に『蟻塚迷宮』での記録は目覚ましいものがあります。ですが、単独でのDランクダンジョン踏破というのは、にわかには……」
やはり、疑われているようだ。無理もない。
「疑うなら、それでも構わない。だが、事実は事実だ」
「……失礼いたしました。規定に基づき、ランク更新の審査に入らせていただきます。結果が出るまで、少々お時間をいただけますでしょうか?」
受付嬢は、あくまで事務的な態度を崩さなかった。俺は頷き、待合スペースの椅子に腰を下ろした。
周囲の探索者たちの会話が、自然と耳に入ってくる。
「おい、聞いたか? 『蟻塚迷宮』をソロでクリアした奴がいるって話」
「ああ、例のゴブリン洞窟の奴だろ? にわかには信じがたいが……ギルドの記録には残ってるらしいぜ」
「一体どんなスキルを使ってるんだ? Sランク級の隠しスキルでも持ってるのか?」
「いや、噂じゃ、妙な道具や薬品を使ってるって話だぞ。まるで錬金術師か、マッドサイエンティストみたいだってな」
「へえ……『法則(ルール)を捻じ曲げる』ような戦い方をするって聞いたが……もしかして、『法則ハッカー』とか、そんな感じか?」
『法則ハッカー』。その言葉に、俺は僅かに反応した。誰が言い出したのかは知らないが、俺の戦い方の本質を、意外なほど的確に捉えているかもしれない。
(……まあ、悪くない響きだ)
異名が広まるのは、ある意味で目立つことに繋がる。だが、それが俺の能力の核心を隠すためのカモフラージュになるのなら、利用価値はあるかもしれない。
しばらく待っていると、先ほどの受付嬢がやってきた。
「神崎様、お待たせいたしました。審査の結果、Dランクへの昇格が承認されました。こちらが新しい探索者証になります」
差し出されたのは、真新しいDランクの探索者証だった。ランクが一つ上がっただけだが、俺にとっては大きな一歩だ。これで、受けられる依頼の幅も広がり、ギルド内でアクセスできる情報も増えるだろう。
「ありがとうございます」
礼を言い、探索者証を受け取る。周囲の探索者たちから、驚きや好奇の視線が注がれるのを感じた。
ランク更新を済ませた後、俺はギルド内の資料室へと向かった。Dランクになったことで、より詳細なダンジョン情報や、古代文明に関する断片的な記録などを閲覧できるようになったはずだ。
資料室で、『蟻塚迷宮』の壁に刻まれていた模様と似たような図形や記号がないか探してみる。だが、膨大な資料の中から、それらしきものを見つけ出すのは容易ではない。
(やはり、専門家の助けが必要か……? 例えば、考古学や古代言語学に詳しい人間……)
ふと、以前ギルドの掲示板で見た、Aランク探索者・橘蓮の指名手配依頼を思い出した。彼は名門探索者一族の出身だ。そうした家系には、古代文明に関する知識や資料が蓄積されている可能性もあるかもしれない。だが、指名手配中の彼に接触するのは現実的ではない。
(……となると、やはり別のコネクションを探すしかないか)
俺が資料を読み漁っていると、不意に、背後から静かな声がかかった。
「……あなた様が、神崎譲様、でいらっしゃいますか?」
振り返ると、そこには、上質な執事服に身を包んだ、銀髪の老紳士が立っていた。その佇まいは、場違いなほどに洗練されており、ギルドの喧騒の中では異質な存在感を放っている。その瞳は穏やかだが、奥には鋭い知性が宿っているのが窺えた。
「そうだが……どちら様だ?」
俺は警戒しながら問い返した。この男からは、敵意は感じられない。だが、ただ者ではないオーラを纏っている。
「私は、セバスチャンと申します。我が主人が、あなた様に是非お会いしたいと申しておりまして」
老紳士は、恭しく一礼した。
「ご主人?」
「はい。エリーゼ・フォン・リンドバーグと申します。あなた様のその類稀なる知識と能力に、大変興味を持っておいでなのです」
エリーゼ・フォン・リンドバーグ。その名前に、俺は聞き覚えがあった。世界有数の大財閥、リンドバーグ家の令嬢。そして、古代文明の研究に情熱を燃やしているという、謎多き人物。
(……ついに来たか)
裏社会の道具屋の店主が言っていた『波紋』。それは、俺が予想していたよりも早く、そして大きな形で現れようとしていた。
新たな変数。それも、とてつもなく巨大な変数が、俺の目の前に現れたのだ。この出会いが、俺の未来に何をもたらすのか。まだ、予測することはできない。ただ、何かが大きく動き出そうとしている。その確かな予感だけが、そこにあった。
(クイーンの魔石と金属板…通常のギルド換金所では、まず間違いなく詳細を詮索される。Dランクボスのドロップ品を単独で持ち込むなど、前例がないだろう。下手をすれば、パーティーでの横領や窃盗を疑われかねない)
そうなれば、俺の秘密――『法則操作』の存在が露見するリスクが高まる。それは絶対に避けなければならない。となると、選択肢は一つしかない。再び、あの胡散臭い裏路地の道具屋を頼るしかないだろう。
俺はクイーンの魔石と金属板を厳重に梱包し、人目を避けるようにして、再びあの廃屋同然の店へと足を運んだ。相変わらず、淀んだ空気と怪しげな薬品の匂いが漂っている。
「……ほう、またあんたか。懲りないねぇ」
店主は、カウンターの奥で何やら怪しげな液体をフラスコで煮詰めながら、俺を一瞥した。その丸眼鏡の奥の目は、値踏みするように細められている。
「約束の品、ではないがな。別の獲物を持ってきた」
俺はカウンターに、クイーンの魔石と金属板を置いた。瞬間、店主の目の色が変わった。『現象観測』が、彼の驚愕と、それを押し隠そうとする微細な動揺を捉える。
「こ、これは……まさか、クイーン・スチールアントの魔石!? それに、この金属板も……!?」
店主は慌ててフラスコを置き、ルーペを取り出して食い入るように鑑定を始めた。その手は僅かに震えている。
「……信じられん。これほどの大きさ、純度の魔石は滅多にお目にかかれるものじゃない。この金属板も、恐ろしく硬質で、魔力伝導率も高い……。まさか、あんた、一人で『蟻塚迷宮』のクイーンを……?」
店主の声には、畏敬とも恐怖ともつかない響きが混じっていた。裏社会の情報網は早い。俺が持ち込んだ品物が、単なる偶然や幸運で手に入るものではないことを、彼は即座に理解したのだろう。
「どうやったかは関係ないだろう。問題は、これをいくらで買うかだ」
俺は冷静さを装い、単刀直入に切り出した。相手の動揺は、交渉を有利に進めるチャンスでもある。
店主はゴクリと唾を飲み込み、しばらく考え込んだ後、意を決したように口を開いた。
「……いいだろう。破格の値段をつけさせてもらう。魔石と金属板、合わせて……金貨、五十枚!」
金貨五十枚。それは銀貨五千枚に相当する。前回の取引とは比較にならない、まさに破格の値段だ。この金額があれば、当面の研究資金どころか、まともな工房付きの部屋を借りることさえ可能になるかもしれない。
(……ここで欲をかきすぎるのは得策ではないか。この店主との関係は、今後も利用する可能性がある。あまり締め上げすぎると、後々面倒なことになるかもしれない)
俺は計算し、頷いた。
「いいだろう。その値段で手を打とう」
「ほ、本当かね!? 助かるよ!」
店主は、意外なほどあっさりと俺が条件を飲んだことに、安堵の表情を浮かべた。彼はカウンターの奥から、金貨が詰まった重そうな革袋をいくつも持ち出し、俺の前に置いた。
「……確かに。取引成立だ」
金貨の重みを確認し、俺はそれらを慎重に自分のバックパックにしまい込んだ。
「なあ、あんた……一つ聞いてもいいかね?」
店主が、少し躊躇いがちに尋ねてきた。
「なんだ?」
「あんた、一体何者なんだ? ただの駆け出し探索者じゃないだろう? その知識、技術……それに、その度胸。まるで……」
店主は言葉を濁したが、その目が俺を「規格外の存在」として認識しているのは明らかだった。
「ただの、しがない物理学徒の成れの果てさ。世界の法則(ルール)に少しばかり興味があるだけだ」
俺は皮肉めいた笑みを浮かべ、そう答えた。あながち嘘ではない。
「物理学徒……? ますます分からんね……。まあ、いい。あんたのような『特異点』は、時々現れるもんさ。だが、気をつけな。あんたの存在は、いずれ大きな波紋を呼ぶことになるだろうからな。良くも、悪くもね」
店主の言葉は、単なる忠告以上の、何か予言めいた響きを持っていた。俺は何も答えず、店を後にした。
裏路地を抜け、表通りに出る。金貨五十枚の重みが、ずしりと肩に食い込む。これで、俺の計画は大きく前進する。だが、店主の言葉が妙に引っかかっていた。『特異点』、『大きな波紋』……。
(目立ちすぎるのは、やはりリスクか……)
***
翌日、俺はまずギルドへと向かった。目的は情報収集と、探索者ランクの更新申請だ。Dランクダンジョンを踏破したことで、ランクアップの条件は満たしているはずだ。
ギルドのロビーは、相変わらずの賑わいだった。依頼掲示板の前で、探索者たちが情報を交換したり、パーティーメンバーを募集したりしている。俺はまず、受付カウンターへと向かった。
「ランク更新の申請をしたいんだが」
「はい、承知いたしました。探索者証をお願いします」
受付嬢は、俺のFランクの探索者証を受け取ると、端末で何かを確認し始めた。そして、僅かに眉をひそめた。
「神崎譲様……ですね? 確かに、最近の活動記録、特に『蟻塚迷宮』での記録は目覚ましいものがあります。ですが、単独でのDランクダンジョン踏破というのは、にわかには……」
やはり、疑われているようだ。無理もない。
「疑うなら、それでも構わない。だが、事実は事実だ」
「……失礼いたしました。規定に基づき、ランク更新の審査に入らせていただきます。結果が出るまで、少々お時間をいただけますでしょうか?」
受付嬢は、あくまで事務的な態度を崩さなかった。俺は頷き、待合スペースの椅子に腰を下ろした。
周囲の探索者たちの会話が、自然と耳に入ってくる。
「おい、聞いたか? 『蟻塚迷宮』をソロでクリアした奴がいるって話」
「ああ、例のゴブリン洞窟の奴だろ? にわかには信じがたいが……ギルドの記録には残ってるらしいぜ」
「一体どんなスキルを使ってるんだ? Sランク級の隠しスキルでも持ってるのか?」
「いや、噂じゃ、妙な道具や薬品を使ってるって話だぞ。まるで錬金術師か、マッドサイエンティストみたいだってな」
「へえ……『法則(ルール)を捻じ曲げる』ような戦い方をするって聞いたが……もしかして、『法則ハッカー』とか、そんな感じか?」
『法則ハッカー』。その言葉に、俺は僅かに反応した。誰が言い出したのかは知らないが、俺の戦い方の本質を、意外なほど的確に捉えているかもしれない。
(……まあ、悪くない響きだ)
異名が広まるのは、ある意味で目立つことに繋がる。だが、それが俺の能力の核心を隠すためのカモフラージュになるのなら、利用価値はあるかもしれない。
しばらく待っていると、先ほどの受付嬢がやってきた。
「神崎様、お待たせいたしました。審査の結果、Dランクへの昇格が承認されました。こちらが新しい探索者証になります」
差し出されたのは、真新しいDランクの探索者証だった。ランクが一つ上がっただけだが、俺にとっては大きな一歩だ。これで、受けられる依頼の幅も広がり、ギルド内でアクセスできる情報も増えるだろう。
「ありがとうございます」
礼を言い、探索者証を受け取る。周囲の探索者たちから、驚きや好奇の視線が注がれるのを感じた。
ランク更新を済ませた後、俺はギルド内の資料室へと向かった。Dランクになったことで、より詳細なダンジョン情報や、古代文明に関する断片的な記録などを閲覧できるようになったはずだ。
資料室で、『蟻塚迷宮』の壁に刻まれていた模様と似たような図形や記号がないか探してみる。だが、膨大な資料の中から、それらしきものを見つけ出すのは容易ではない。
(やはり、専門家の助けが必要か……? 例えば、考古学や古代言語学に詳しい人間……)
ふと、以前ギルドの掲示板で見た、Aランク探索者・橘蓮の指名手配依頼を思い出した。彼は名門探索者一族の出身だ。そうした家系には、古代文明に関する知識や資料が蓄積されている可能性もあるかもしれない。だが、指名手配中の彼に接触するのは現実的ではない。
(……となると、やはり別のコネクションを探すしかないか)
俺が資料を読み漁っていると、不意に、背後から静かな声がかかった。
「……あなた様が、神崎譲様、でいらっしゃいますか?」
振り返ると、そこには、上質な執事服に身を包んだ、銀髪の老紳士が立っていた。その佇まいは、場違いなほどに洗練されており、ギルドの喧騒の中では異質な存在感を放っている。その瞳は穏やかだが、奥には鋭い知性が宿っているのが窺えた。
「そうだが……どちら様だ?」
俺は警戒しながら問い返した。この男からは、敵意は感じられない。だが、ただ者ではないオーラを纏っている。
「私は、セバスチャンと申します。我が主人が、あなた様に是非お会いしたいと申しておりまして」
老紳士は、恭しく一礼した。
「ご主人?」
「はい。エリーゼ・フォン・リンドバーグと申します。あなた様のその類稀なる知識と能力に、大変興味を持っておいでなのです」
エリーゼ・フォン・リンドバーグ。その名前に、俺は聞き覚えがあった。世界有数の大財閥、リンドバーグ家の令嬢。そして、古代文明の研究に情熱を燃やしているという、謎多き人物。
(……ついに来たか)
裏社会の道具屋の店主が言っていた『波紋』。それは、俺が予想していたよりも早く、そして大きな形で現れようとしていた。
新たな変数。それも、とてつもなく巨大な変数が、俺の目の前に現れたのだ。この出会いが、俺の未来に何をもたらすのか。まだ、予測することはできない。ただ、何かが大きく動き出そうとしている。その確かな予感だけが、そこにあった。
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