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第四十七話:星霜の奔流、託された鍵
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祭壇の上のアーティファクト。それは、古代文明が遺した、時間と空間の法則を操るための装置、あるいは鍵なのかもしれない。俺は精神を集中させ、『法則干渉』の能力を最大限に引き出し、その深淵にコンタクトを試みた。MPを直接使うのではなく、自身の精神エネルギーと、『現象観測』で捉えたアーティファクトのエネルギーパターンを同調させ、その内部情報を読み取るイメージだ。時空結晶に触れた経験と、その後の自身の感覚の変化が、このアプローチを可能にしているようだった。
意識が、アーティファクト内部の複雑なエネルギーの流れへと引き込まれていく。それは、まるで星々の運行を凝縮したかのような、壮大で精密な法則の奔流だった。時間の始まりから終わりまで、無数の可能性の分岐、そしてそれらを繋ぐ因果の糸。
(…すごい…これが、『星霜の秘文字』の力…あるいは、その一部なのか…)
その奔流の中で、俺は断片的な情報を掴み取ろうと試みた。だが、情報はあまりにも膨大で、俺の今の理解力を遥かに超えている。下手に深入りすれば、再び意識を失うか、精神が崩壊しかねない。
(…いや、待て。何か…特定の情報パターンが、俺の意識に反応している…?)
それは、アーティファクトの中心核、時空結晶に似た輝きを放つ部分から発せられているようだった。まるで、俺の『法則操作』能力、あるいは俺自身の存在そのものに、何らかの共鳴を起こしているかのように。
そのパターンに意識を合わせていくと、奔流の中から、一つの明確な「情報パッケージ」のようなものが浮かび上がってきた。それは、古代文字でも、数式でもない。もっと根源的な、イメージと概念の複合体のような情報だった。
俺がその情報を受け取ろうとした、その時。
**「――誰だ? そこにいるのは?」**
突如、アーティファクトそのものから、直接俺の意識に語り掛けるような、思念の声が響いた。それは、老人のようでもあり、子供のようでもあり、あるいは人間ではない何かの声のようでもあった。複数の声が重なり合ったような、不思議な響きを持っている。
(…意識体!? このアーティファクトには、誰かの意識が宿っているのか!?)
俺は驚愕し、咄嗟にコンタクトを断ち切ろうとした。だが、遅かった。アーティファクトの意識は、俺の精神に強くリンクし、さらに深い情報奔流の中へと引きずり込もうとしてくる。
**「待て…お前は…『観測者』か? いや、違う…法則に干渉する者…『調律者』の…末裔…?」**
思念の声は、困惑と、そして僅かな希望のような響きを帯びていた。
「調律者…? 何のことだ!?」
俺は思念で問い返す。
**「…時間がない…永き眠りの終わりが近い…システムは限界だ…コアの暴走を止めなければ、全てが崩壊する…」**
声は、断片的な言葉を繋ぎ合わせるように、切迫した様子で語り続ける。
「コアの暴走? まさか、『風鳴りの渓谷』のコアのことか? いや、それだけじゃない…もっと大きな…?」
**「…世界の…基盤…ダンジョン…それは、傷ついた『現実』を修復するための、応急処置システム…だが、制御を失い、暴走を始めている…」**
ダンジョンが、現実修復システム? まるでSFのような話だが、その声には嘘や偽りがあるようには感じられなかった。
**「…お前には、素質がある…『法則』を理解し、調律する力が…この『クロノスの刻印(アーティファクト)』は、そのための鍵…だが、今のままでは、力に飲み込まれる…」**
アーティファクト――クロノスの刻印――は、俺に力を与えるための鍵?
**「…受け取れ…我々の…遺志を…未来を…託す…」**
そう言うと、アーティファクトの中心核から、膨大な、しかし整理された情報パッケージが、俺の意識へと流れ込んできた。それは、星霜の秘文字の基本的な文法構造、時間と空間の法則に関する基礎理論、そして…このアーティファクトの限定的な制御権限を譲渡するための「認証キー」のようなものだった。
「ぐ…あああああっ!」
凄まじい情報量とエネルギー奔流に、俺の精神は限界を超えた。再び意識が途切れかける。
だが、その寸前、俺は確かに聞いた。
**「…気をつけろ…『ノア』の…影が…」**
『ノア』。その名前を、この古代の意識体も知っている? やはり、全ては繋がっているのか?
そして、俺の意識は完全にブラックアウトした。
***
「……譲!」
「譲さん!」
再び意識を取り戻した時、俺は祭壇の床に倒れており、レンと栞が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。セバスチャンとミナも、傍らで安堵の表情を浮かべている。
「…俺は…?」
「大丈夫か!? いきなり倒れたから、驚いたぞ!」
レンが、ぶっきらぼうながらも心配そうに言う。
「アーティファクトに触れたわけでもないのに、突然…何かあったんですか?」
栞が尋ねる。
俺はゆっくりと体を起こした。激しい消耗感はあるが、前回のように意識不明になるほどではない。そして、頭の中には、先ほど受け取った膨大な情報が、まだ整理されていないながらも、確かに存在していた。
「…ああ、少しな。あのアーティファクト…『クロノスの刻印』と、コンタクトした」
俺は、アーティファクト内部に宿っていた古代の意識体(あるいはその残滓)との対話と、託された情報について、掻い摘んで話した。ダンジョンが現実修復システムであること、コアが暴走し始めていること、そして『ノア』の影…。
「なんだって…!? ダンジョンが、現実を修復…?」
「コアの暴走…世界の危機…?」
レンも栞も、信じられないといった表情で顔を見合わせる。ミナは、話の内容が難しすぎるのか、ただ呆然としている。
セバスチャンだけは、比較的冷静だった。
「…その話、エリーゼ様が長年提唱されてきた仮説と、一部合致する点がございますな。ダンジョン出現の真相に繋がる、極めて重要な情報かもしれません」
彼の言葉は、アーティファクトの意識体の言葉に信憑性を与えた。
「それで、譲。お前は、そのアーティファクトから何を受け取ったんだ? 『星霜の秘文字』の力か?」
レンが、期待と不安の入り混じった目で尋ねてくる。
「…力そのものではない。だが、その力を理解し、使うための『鍵』のようなものは受け取った。秘文字の基本的な構造、時空法則の基礎理論、そして、このアーティファクトの限定的な制御権限…」
俺は、頭の中にある情報を反芻しながら答えた。
「制御権限…? ということは、このアーティファクトを、俺たちが使えるのか?」
「…おそらくはな。だが、今の俺たちの知識と能力では、その力のほんの一部しか引き出せないだろう。それに、下手に使えば、どんな副作用があるか分からない。これは、慎重に扱う必要がある」
俺は、祭壇の上のアーティファクトを改めて見つめた。それは、もはや単なる古代遺物ではない。世界の運命を左右しかねない、強大な力と、古代からの遺志を宿した、まさに『鍵』なのだ。
「…レン。君が求めていた『星霜の秘文字』の力は、これなんだろう。だが、これは、個人の力を取り戻すためだけに使うには、あまりにも危険すぎる代物だ」
俺は、レンの目を見て、真剣に言った。
レンは、俺の言葉と、アーティファクトから放たれる尋常ではないオーラを感じ取り、しばらくの間、葛藤するように唇を噛み締めていた。彼の目的は、あくまで自身の力の回復だったはずだ。だが、目の前にある力は、それ以上の、世界の運命に関わるものかもしれない。
やがて、彼は決断したように、顔を上げた。
「……分かった。譲、お前の言う通りかもしれん。この力は、俺一人のものじゃない。それに、世界の危機というなら、なおさらだ」
彼の瞳には、個人的な渇望ではなく、より大きなものへの責任感のような光が宿り始めていた。彼もまた、この遺跡での経験を通して、成長しているのかもしれない。
「…だが、このアーティファクトをどうする? ここに置いておくわけにもいかないだろう。アトラス社や、『ノア』に渡すわけには絶対にいかない」
「ああ。持ち帰る必要がある。だが、どうやって?」
アーティファクトは巨大で、そのエネルギーも不安定だ。通常のストレージスキルなどで運べる代物とは思えない。
「…あるいは、制御権限を使えば、一時的に縮小化、あるいは空間転移させることができるかもしれない」
俺は、受け取った情報の中から、アーティファファクトの基本的な操作に関する部分を探り出した。
(…これか。『次元圧縮格納(ディメンション・コンプレス・ストレージ)』。アーティファクト自身を、一時的に高次元空間に格納する機能…ただし、起動には正確な認証キーと、安定した魔力供給が必要…)
「…試してみる価値はありそうだ。セバスチャン、魔力供給のサポートを頼めるか? レン、栞、ミナは、周囲の警戒を頼む」
俺たちは、再び連携して行動を開始した。セバスチャンが安定した魔力を供給し、俺は精神を集中させ、アーティファクトから託された認証キーの情報を、正確にアーティファクトへと送信する。
すると、アーティファクトは再び金色の光を放ち、複雑な歯車が回転し始めた。そして、その巨大な体が、まるで折り畳まれるかのように、急速に縮小していく。
最終的に、アーティファクトは、手のひらサイズの、美しい結晶質のオブジェへと姿を変えた。依然として強いエネルギーを放っているが、以前のような不安定さは感じられない。
「…やった! 成功だ!」
俺は、安堵と共に、縮小化したアーティファクトを慎重に手に取った。ずしりと重い。これが、古代の叡智と、未来への鍵。
「さて、目的は達成した。あとは、ここから無事に脱出するだけだ」
俺たちは、回収したアーティファクトを厳重に保護し、アトラス社の兵士とキメラの残骸も可能な限り回収して、『時の祭壇』を後にした。
帰り道は、時空間の歪みもかなり収まっており、比較的スムーズに進むことができた。アーティファクトが安定化、あるいは機能の一部を停止した影響だろうか。
『クロノス遺跡』の入り口から外へ出ると、そこには見慣れた青空が広がっていた。濃密な時間の歪みから解放され、全身が軽くなったような気がした。
俺たちは、待機させていた装甲車両へと向かう。その道すがら、俺とレンの間には、以前とは違う、奇妙な連帯感のようなものが生まれていた。互いの秘密を完全に明かしたわけではない。だが、共に死線を乗り越え、世界の危機という共通の課題を認識したことで、単なる一時的な協力者以上の関係へと、変化しつつあるのかもしれない。
フロンティアへの帰路。車内で、俺は手の中の縮小化されたアーティファクトを見つめていた。託された鍵。それは、希望であると同時に、重い責任でもある。
『ノア』の影、暴走するダンジョンコア、そして俺自身の過去。解き明かすべき謎は、まだ山積みだ。だが、今の俺には、信頼できる仲間(?)と、進化した『法則操作』、そして古代からの遺志が宿るこの『鍵』がある。
未来への道は、分岐している。どの道を選ぶかは、俺たち次第だ。俺は、確かな決意を胸に、次なる方程式へと挑む準備を始めるのだった。
意識が、アーティファクト内部の複雑なエネルギーの流れへと引き込まれていく。それは、まるで星々の運行を凝縮したかのような、壮大で精密な法則の奔流だった。時間の始まりから終わりまで、無数の可能性の分岐、そしてそれらを繋ぐ因果の糸。
(…すごい…これが、『星霜の秘文字』の力…あるいは、その一部なのか…)
その奔流の中で、俺は断片的な情報を掴み取ろうと試みた。だが、情報はあまりにも膨大で、俺の今の理解力を遥かに超えている。下手に深入りすれば、再び意識を失うか、精神が崩壊しかねない。
(…いや、待て。何か…特定の情報パターンが、俺の意識に反応している…?)
それは、アーティファクトの中心核、時空結晶に似た輝きを放つ部分から発せられているようだった。まるで、俺の『法則操作』能力、あるいは俺自身の存在そのものに、何らかの共鳴を起こしているかのように。
そのパターンに意識を合わせていくと、奔流の中から、一つの明確な「情報パッケージ」のようなものが浮かび上がってきた。それは、古代文字でも、数式でもない。もっと根源的な、イメージと概念の複合体のような情報だった。
俺がその情報を受け取ろうとした、その時。
**「――誰だ? そこにいるのは?」**
突如、アーティファクトそのものから、直接俺の意識に語り掛けるような、思念の声が響いた。それは、老人のようでもあり、子供のようでもあり、あるいは人間ではない何かの声のようでもあった。複数の声が重なり合ったような、不思議な響きを持っている。
(…意識体!? このアーティファクトには、誰かの意識が宿っているのか!?)
俺は驚愕し、咄嗟にコンタクトを断ち切ろうとした。だが、遅かった。アーティファクトの意識は、俺の精神に強くリンクし、さらに深い情報奔流の中へと引きずり込もうとしてくる。
**「待て…お前は…『観測者』か? いや、違う…法則に干渉する者…『調律者』の…末裔…?」**
思念の声は、困惑と、そして僅かな希望のような響きを帯びていた。
「調律者…? 何のことだ!?」
俺は思念で問い返す。
**「…時間がない…永き眠りの終わりが近い…システムは限界だ…コアの暴走を止めなければ、全てが崩壊する…」**
声は、断片的な言葉を繋ぎ合わせるように、切迫した様子で語り続ける。
「コアの暴走? まさか、『風鳴りの渓谷』のコアのことか? いや、それだけじゃない…もっと大きな…?」
**「…世界の…基盤…ダンジョン…それは、傷ついた『現実』を修復するための、応急処置システム…だが、制御を失い、暴走を始めている…」**
ダンジョンが、現実修復システム? まるでSFのような話だが、その声には嘘や偽りがあるようには感じられなかった。
**「…お前には、素質がある…『法則』を理解し、調律する力が…この『クロノスの刻印(アーティファクト)』は、そのための鍵…だが、今のままでは、力に飲み込まれる…」**
アーティファクト――クロノスの刻印――は、俺に力を与えるための鍵?
**「…受け取れ…我々の…遺志を…未来を…託す…」**
そう言うと、アーティファクトの中心核から、膨大な、しかし整理された情報パッケージが、俺の意識へと流れ込んできた。それは、星霜の秘文字の基本的な文法構造、時間と空間の法則に関する基礎理論、そして…このアーティファクトの限定的な制御権限を譲渡するための「認証キー」のようなものだった。
「ぐ…あああああっ!」
凄まじい情報量とエネルギー奔流に、俺の精神は限界を超えた。再び意識が途切れかける。
だが、その寸前、俺は確かに聞いた。
**「…気をつけろ…『ノア』の…影が…」**
『ノア』。その名前を、この古代の意識体も知っている? やはり、全ては繋がっているのか?
そして、俺の意識は完全にブラックアウトした。
***
「……譲!」
「譲さん!」
再び意識を取り戻した時、俺は祭壇の床に倒れており、レンと栞が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。セバスチャンとミナも、傍らで安堵の表情を浮かべている。
「…俺は…?」
「大丈夫か!? いきなり倒れたから、驚いたぞ!」
レンが、ぶっきらぼうながらも心配そうに言う。
「アーティファクトに触れたわけでもないのに、突然…何かあったんですか?」
栞が尋ねる。
俺はゆっくりと体を起こした。激しい消耗感はあるが、前回のように意識不明になるほどではない。そして、頭の中には、先ほど受け取った膨大な情報が、まだ整理されていないながらも、確かに存在していた。
「…ああ、少しな。あのアーティファクト…『クロノスの刻印』と、コンタクトした」
俺は、アーティファクト内部に宿っていた古代の意識体(あるいはその残滓)との対話と、託された情報について、掻い摘んで話した。ダンジョンが現実修復システムであること、コアが暴走し始めていること、そして『ノア』の影…。
「なんだって…!? ダンジョンが、現実を修復…?」
「コアの暴走…世界の危機…?」
レンも栞も、信じられないといった表情で顔を見合わせる。ミナは、話の内容が難しすぎるのか、ただ呆然としている。
セバスチャンだけは、比較的冷静だった。
「…その話、エリーゼ様が長年提唱されてきた仮説と、一部合致する点がございますな。ダンジョン出現の真相に繋がる、極めて重要な情報かもしれません」
彼の言葉は、アーティファクトの意識体の言葉に信憑性を与えた。
「それで、譲。お前は、そのアーティファクトから何を受け取ったんだ? 『星霜の秘文字』の力か?」
レンが、期待と不安の入り混じった目で尋ねてくる。
「…力そのものではない。だが、その力を理解し、使うための『鍵』のようなものは受け取った。秘文字の基本的な構造、時空法則の基礎理論、そして、このアーティファクトの限定的な制御権限…」
俺は、頭の中にある情報を反芻しながら答えた。
「制御権限…? ということは、このアーティファクトを、俺たちが使えるのか?」
「…おそらくはな。だが、今の俺たちの知識と能力では、その力のほんの一部しか引き出せないだろう。それに、下手に使えば、どんな副作用があるか分からない。これは、慎重に扱う必要がある」
俺は、祭壇の上のアーティファクトを改めて見つめた。それは、もはや単なる古代遺物ではない。世界の運命を左右しかねない、強大な力と、古代からの遺志を宿した、まさに『鍵』なのだ。
「…レン。君が求めていた『星霜の秘文字』の力は、これなんだろう。だが、これは、個人の力を取り戻すためだけに使うには、あまりにも危険すぎる代物だ」
俺は、レンの目を見て、真剣に言った。
レンは、俺の言葉と、アーティファクトから放たれる尋常ではないオーラを感じ取り、しばらくの間、葛藤するように唇を噛み締めていた。彼の目的は、あくまで自身の力の回復だったはずだ。だが、目の前にある力は、それ以上の、世界の運命に関わるものかもしれない。
やがて、彼は決断したように、顔を上げた。
「……分かった。譲、お前の言う通りかもしれん。この力は、俺一人のものじゃない。それに、世界の危機というなら、なおさらだ」
彼の瞳には、個人的な渇望ではなく、より大きなものへの責任感のような光が宿り始めていた。彼もまた、この遺跡での経験を通して、成長しているのかもしれない。
「…だが、このアーティファクトをどうする? ここに置いておくわけにもいかないだろう。アトラス社や、『ノア』に渡すわけには絶対にいかない」
「ああ。持ち帰る必要がある。だが、どうやって?」
アーティファクトは巨大で、そのエネルギーも不安定だ。通常のストレージスキルなどで運べる代物とは思えない。
「…あるいは、制御権限を使えば、一時的に縮小化、あるいは空間転移させることができるかもしれない」
俺は、受け取った情報の中から、アーティファファクトの基本的な操作に関する部分を探り出した。
(…これか。『次元圧縮格納(ディメンション・コンプレス・ストレージ)』。アーティファクト自身を、一時的に高次元空間に格納する機能…ただし、起動には正確な認証キーと、安定した魔力供給が必要…)
「…試してみる価値はありそうだ。セバスチャン、魔力供給のサポートを頼めるか? レン、栞、ミナは、周囲の警戒を頼む」
俺たちは、再び連携して行動を開始した。セバスチャンが安定した魔力を供給し、俺は精神を集中させ、アーティファクトから託された認証キーの情報を、正確にアーティファクトへと送信する。
すると、アーティファクトは再び金色の光を放ち、複雑な歯車が回転し始めた。そして、その巨大な体が、まるで折り畳まれるかのように、急速に縮小していく。
最終的に、アーティファクトは、手のひらサイズの、美しい結晶質のオブジェへと姿を変えた。依然として強いエネルギーを放っているが、以前のような不安定さは感じられない。
「…やった! 成功だ!」
俺は、安堵と共に、縮小化したアーティファクトを慎重に手に取った。ずしりと重い。これが、古代の叡智と、未来への鍵。
「さて、目的は達成した。あとは、ここから無事に脱出するだけだ」
俺たちは、回収したアーティファクトを厳重に保護し、アトラス社の兵士とキメラの残骸も可能な限り回収して、『時の祭壇』を後にした。
帰り道は、時空間の歪みもかなり収まっており、比較的スムーズに進むことができた。アーティファクトが安定化、あるいは機能の一部を停止した影響だろうか。
『クロノス遺跡』の入り口から外へ出ると、そこには見慣れた青空が広がっていた。濃密な時間の歪みから解放され、全身が軽くなったような気がした。
俺たちは、待機させていた装甲車両へと向かう。その道すがら、俺とレンの間には、以前とは違う、奇妙な連帯感のようなものが生まれていた。互いの秘密を完全に明かしたわけではない。だが、共に死線を乗り越え、世界の危機という共通の課題を認識したことで、単なる一時的な協力者以上の関係へと、変化しつつあるのかもしれない。
フロンティアへの帰路。車内で、俺は手の中の縮小化されたアーティファクトを見つめていた。託された鍵。それは、希望であると同時に、重い責任でもある。
『ノア』の影、暴走するダンジョンコア、そして俺自身の過去。解き明かすべき謎は、まだ山積みだ。だが、今の俺には、信頼できる仲間(?)と、進化した『法則操作』、そして古代からの遺志が宿るこの『鍵』がある。
未来への道は、分岐している。どの道を選ぶかは、俺たち次第だ。俺は、確かな決意を胸に、次なる方程式へと挑む準備を始めるのだった。
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