10 / 101
第10話 スキルの再検証
しおりを挟む
ギシ、と軋む音を立ててドアを開け、健太は自分のアパートの部屋に転がり込んだ。壁に背を預け、そのままズルズルと床に座り込む。左腕には、塞がったとはいえ生々しい傷跡が残っていた。ポケットの中では、あの理不尽の象徴である五枚の銀貨が冷たい感触を伝えてくる。
悔しい。
腹立たしい。
田中たちの顔を思い出すだけで、胃の腑が煮えくり返るようだった。だが、それ以上に自分自身に腹が立った。なぜ、何も言い返せなかったのか。なぜ、みすみす手柄を横取りされたのか。
結局、自分は何も変わっていない。会社で上司に理不尽を押し付けられていた頃と、本質的には何一つ。場所と相手が変わっただけで、弱い立場であることには変わりない。
「……いや」
健太は、ふと何かに気づいたように顔を上げた。
本当にそうだろうか?
今日のダンジョンでの出来事を、もう一度、冷静に思い返してみる。
鈴木の口元に、ピンポイントで出現したポーション。
田中の背後を狙うゴブリンの足元に、突然現れた盾。
そして、ゴブリンリーダーの胸を内側から貫くように射出された、ショートソード。
あれは、本当に「たまたま」だったのか? 運が良かっただけ?
違う。断じて違う。
あれはすべて、健太自身の意思によって引き起こされた現象だ。
「……試してみよう」
健太は立ち上がり、テーブルの上に置いてあったテレビのリモコンを手に取った。意識を集中させ、スキルを発動する。リモコンは淡い光に包まれ、掌から掻き消えた。
これは今まで通りだ。
問題はここからだ。
健太は部屋の反対側にあるベッドの方に視線を向け、心の中で強く念じた。
――リモコンを、枕の上に。
すると、ベッドの枕元に、先ほどと同じように何もない空間からリモコンがことりと現れた。
健太は息をのんだ。自分の目で見ていながら、信じがたい光景だった。
もう一度試す。今度は、キッチンのシンクの中へ。成功。次は、本棚の隙間へ。これも成功。距離や場所にほとんど制約がない。
「思考による、即時・任意地点への取り出し……」
健太の心臓が、興奮で早鐘を打ち始める。これは、ただの物入れの機能ではない。
次に、重量。パーティーのあれだけ大量の荷物を収納しても、健太は全く重さを感じなかった。試しに、部屋で一番重いであろう、古びた本で満載のダンボール箱を収納してみる。やはり、体に何の負荷もかからない。
重量・質量の完全無視。これだけでも、ポーターとしては破格の性能だ。
そして、最大の問題は「射出」だ。
健太は収納したリモコンを、今度はクッションに向かって「撃ち出す」イメージで取り出した。
ビュッ、と短い風切り音と共に、リモコンがクッションに突き刺さるほどの勢いで飛んでいった。
「……できる」
確信が、全身を駆け巡った。
収納口のサイズや形状を、ある程度コントロールできるのだ。細く絞れば、中にあるものを銃弾のように射出できる。ゴブリンリーダーを倒した一撃は、まぐれではなかった。
【無限収納】。
それは、ギルドの誰もが「ハズレ」と嘲笑したスキル。
だが、その真の姿は、無限の倉庫であると同時に、無限の射出機であり、無限の罠設置機でもあった。使い方次第では、どんな戦闘スキルよりも恐ろしい兵器庫になりうる。
「……そうか」
健太の口元に、追放されて以来、初めて笑みが浮かんだ。それは自嘲でも、諦めでもない。新たな可能性を見出した者の、獰猛な笑みだった。
ソロでやれる。いや、ソロの方がいい。
パーティーに縛られていては、このスキルの真価は発揮できない。
健太はポケットから五枚の銀貨を取り出し、テーブルの上に置いた。
「田中さん。あんたが俺を追放してくれたおかげで、目が覚めましたよ」
誰に言うでもなく呟き、彼はパソコンの電源を入れた。
まずは情報収集だ。ソロで、安全に、そして効率的に稼ぐための。
サラリーマン時代に培った、徹底的な事前準備とリスク管理。それに、この規格外のスキルが加わればどうなるか。
彼の胸の中では、悔しさの炎が、未来を照らす希望の炎へと静かに燃え移っていた。
悔しい。
腹立たしい。
田中たちの顔を思い出すだけで、胃の腑が煮えくり返るようだった。だが、それ以上に自分自身に腹が立った。なぜ、何も言い返せなかったのか。なぜ、みすみす手柄を横取りされたのか。
結局、自分は何も変わっていない。会社で上司に理不尽を押し付けられていた頃と、本質的には何一つ。場所と相手が変わっただけで、弱い立場であることには変わりない。
「……いや」
健太は、ふと何かに気づいたように顔を上げた。
本当にそうだろうか?
今日のダンジョンでの出来事を、もう一度、冷静に思い返してみる。
鈴木の口元に、ピンポイントで出現したポーション。
田中の背後を狙うゴブリンの足元に、突然現れた盾。
そして、ゴブリンリーダーの胸を内側から貫くように射出された、ショートソード。
あれは、本当に「たまたま」だったのか? 運が良かっただけ?
違う。断じて違う。
あれはすべて、健太自身の意思によって引き起こされた現象だ。
「……試してみよう」
健太は立ち上がり、テーブルの上に置いてあったテレビのリモコンを手に取った。意識を集中させ、スキルを発動する。リモコンは淡い光に包まれ、掌から掻き消えた。
これは今まで通りだ。
問題はここからだ。
健太は部屋の反対側にあるベッドの方に視線を向け、心の中で強く念じた。
――リモコンを、枕の上に。
すると、ベッドの枕元に、先ほどと同じように何もない空間からリモコンがことりと現れた。
健太は息をのんだ。自分の目で見ていながら、信じがたい光景だった。
もう一度試す。今度は、キッチンのシンクの中へ。成功。次は、本棚の隙間へ。これも成功。距離や場所にほとんど制約がない。
「思考による、即時・任意地点への取り出し……」
健太の心臓が、興奮で早鐘を打ち始める。これは、ただの物入れの機能ではない。
次に、重量。パーティーのあれだけ大量の荷物を収納しても、健太は全く重さを感じなかった。試しに、部屋で一番重いであろう、古びた本で満載のダンボール箱を収納してみる。やはり、体に何の負荷もかからない。
重量・質量の完全無視。これだけでも、ポーターとしては破格の性能だ。
そして、最大の問題は「射出」だ。
健太は収納したリモコンを、今度はクッションに向かって「撃ち出す」イメージで取り出した。
ビュッ、と短い風切り音と共に、リモコンがクッションに突き刺さるほどの勢いで飛んでいった。
「……できる」
確信が、全身を駆け巡った。
収納口のサイズや形状を、ある程度コントロールできるのだ。細く絞れば、中にあるものを銃弾のように射出できる。ゴブリンリーダーを倒した一撃は、まぐれではなかった。
【無限収納】。
それは、ギルドの誰もが「ハズレ」と嘲笑したスキル。
だが、その真の姿は、無限の倉庫であると同時に、無限の射出機であり、無限の罠設置機でもあった。使い方次第では、どんな戦闘スキルよりも恐ろしい兵器庫になりうる。
「……そうか」
健太の口元に、追放されて以来、初めて笑みが浮かんだ。それは自嘲でも、諦めでもない。新たな可能性を見出した者の、獰猛な笑みだった。
ソロでやれる。いや、ソロの方がいい。
パーティーに縛られていては、このスキルの真価は発揮できない。
健太はポケットから五枚の銀貨を取り出し、テーブルの上に置いた。
「田中さん。あんたが俺を追放してくれたおかげで、目が覚めましたよ」
誰に言うでもなく呟き、彼はパソコンの電源を入れた。
まずは情報収集だ。ソロで、安全に、そして効率的に稼ぐための。
サラリーマン時代に培った、徹底的な事前準備とリスク管理。それに、この規格外のスキルが加わればどうなるか。
彼の胸の中では、悔しさの炎が、未来を照らす希望の炎へと静かに燃え移っていた。
272
あなたにおすすめの小説
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる