【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ

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第11話 サラリーマン式準備術

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夜が明け、健太はこれまで感じたことのないほどの覚醒感と共にベッドから起き上がった。昨夜の怒りと興奮は、一夜明けて冷静な闘志へと昇華されていた。もはや、月曜の朝にため息をついていた窓際サラリーマンの面影はない。

「さて、始めようか」

健太はパソコンの前に座ると、まるで新規プロジェクトの企画書を作るかのように、キーボードを叩き始めた。目的は、ソロでのダンジョン攻略。ターゲットは、昨日散々な目に遭った「ゴブリンの洞窟」。

まずは、徹底的な情報収集。探索者向けの匿名掲示板や、有志がまとめた攻略サイトを隅々まで読み漁る。
「ゴブリンの生態……弱点は火、暗視能力は低い、聴覚は鋭いが知能は高くない……」
サラリーマン時代に、競合他社のデータを分析した時と同じ目つきで、健太は情報を整理していく。
「地形は把握済み。敵の出現パターンも大体読める。問題は、戦闘経験ゼロの俺がどうやって戦うかだ」

普通なら、ここで剣や槍の訓練を始めるところだろう。だが、健太の思考は違った。
プロジェクトにおける最大のリスクは何か? それは、予期せぬトラブルだ。健太にとっての最大のリスクは、ゴブリンとの直接戦闘に他ならない。
「ならば、答えは一つ。直接戦闘を徹底的に避ける。俺がやるべきは、戦うことじゃない。一方的に『処理』することだ」

計画の骨子が決まると、次に行うべきは「予算策定」と「資材調達」だ。手持ちのなけなしの金と、昨日手に入れた銀貨五枚。これで最大限の効果を発揮できるアイテムを揃える必要がある。
向かったのは、探索者ギルド周辺のきらびやかな武具店ではない。健太が向かったのは、街の外れにある工業地帯だった。

「すみません、鉄クズをできるだけ安く譲っていただけませんか?」
最初に訪れたのは、小さな鉄工所だった。工場の主人は、怪訝な顔で健太を見たが、金払いがいいと分かると、喜んで錆びた鉄の塊や金属片を山のように売ってくれた。健太はそれを、人の目を盗んでこっそりと【無限収納】に放り込んでいく。
普通の人間ならリヤカーでもなければ運べない量が、音もなく消えていく。

次に向かったのは、廃油の回収業者。
「食用油の古いやつでいいんです。とにかく量を」
一斗缶で十数個分の廃油を格安で買い取り、これも収納。

さらにホームセンターでは、熊などを捕獲するための安物のトラバサミを在庫分すべて買い占め、園芸コーナーでは大量の麻袋と砂を購入した。仕上げに、防災用品コーナーで発煙筒を数ダース。

夕方、アパートに戻る頃には、健太の【無限収納】の中は、もはや何でも屋の倉庫か、あるいはテロリストの武器庫のような有様になっていた。
鉄クズの山、大量の油、トラバサミ、砂袋、発煙筒。どれも一つ一つはガラクタ同然だが、健太の頭の中では、これらが必殺の兵器として組み合わさる光景が鮮明に描かれていた。

これが、健太の編み出した「サラリーマン式準備術」。
最小限のコストとリスクで、最大限の成果を上げる。そのための徹底的な事前準備。

健太は、コンビニで買ったカツ丼をかき込みながら、明日の計画を最終確認する。あの田中たちのように、己の力に驕って無計画に突っ込むなど愚の骨頂だ。勝負は、ダンジョンに入る前にもう決している。

「田中さん、見ていてくださいよ」
健太は空になった弁当の容器をゴミ箱に捨て、静かに呟いた。
「あんたたちが力ずくでこじ開けていた扉を、俺は、俺のやり方でスマートに攻略してみせますから」

彼の目は、自信に満ちた光を宿していた。
明日、世界は知ることになるだろう。最も地味なスキルを持つ男が、最も効率的にダンジョンを蹂躙する、新たな伝説の始まりを。
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