【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ

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第19話 新たなダンジョンへ

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Dランク探索者になって数日後、健太はアパートの部屋で、一つの封筒を前に深呼吸していた。中に入っているのは、たった一枚の便箋に書かれた『退職届』。もう二度と戻るつもりのない会社への、最後の別れの挨拶だった。
彼はそれをポストに投函すると、まるで長年肩にのしかかっていた重荷が取れたかのような、不思議な解放感を覚えていた。

ゴブリンキング討伐で得た報酬は、健太の懐を十分に潤してくれた。その資金を元手に、彼は新たな「資材」を調達し、【無限収納】の中身をアップデートした。ゴブリン相手のトラップはもはや不要。これからは、より強力な魔物に対応するための準備が必要だ。

ギルドの依頼掲示板の前。健太は、Dランクから挑戦可能なダンジョンリストを慎重に吟味していた。
「『リザードマンの湿地』……足場が悪すぎる。罠の設置が難しいか」
「『彷徨える魂の墓所』……アンデッド系は物理攻撃が効きにくい。却下」
サラリーマン時代に新規事業の市場調査をしていた時と、やっていることは何も変わらない。リスクを洗い出し、最も成功確率の高い案件を選ぶ。

そして、彼の目に留まったのが『迷いの森』だった。
「主に出現するのはミノタウロス。一体一体は強力だが、動きは比較的鈍重。知能も高くない。ドロップ品のミノタウロスの角は、武具の素材として高値で取引されている……」
これだ、と健太は確信した。自分の戦術が、最も効果的にハマる相手だろう。
健太はその足で、特殊な薬品や素材を扱う専門店に向かい、強力な粘着液や、目くらましに使うための閃光粉などを大量に買い込んだ。

数日後、準備を万端に整えた健太は、『迷いの森』の入り口に立っていた。
オークの森よりも木々が密集しており、枝葉が複雑に絡み合って天蓋を作っているため、内部は薄暗く視界が悪い。方向感覚を失いやすい、まさに「迷いの森」という名にふさわしいダンジョンだった。

健太はコンパスと地図を片手に、慎重に奥へと進んでいく。しばらく歩くと、遠くから地響きのような低い唸り声と、金属がぶつかり合う甲高い音が聞こえてきた。
「戦闘か……」
健太は足を止め、リスク回避の本能から、その場を迂回しようと考えた。ソロ活動の鉄則は、余計なトラブルに首を突っ込まないことだ。

しかし、その時だった。
「ぐあっ!」
「きゃあっ! 回復を!」
悲鳴。それも、明らかに人間のものだった。
健太は眉をひそめ、茂みの陰に身を隠しながら、音のする方へと慎重に近づいていった。

木の幹からそっと顔を覗かせると、そこには絶望的な光景が広がっていた。
おそらくBランクであろう、装備の整った四人組のパーティーが、五体ものミノタウロスに完全に包囲されていた。ミノタウロスは牛の頭を持つ巨人で、その身の丈は三メートル近い。振り回す巨大な戦斧の一撃は、地面をえぐるほどの威力を持っていた。

パーティーはすでに半壊状態だった。盾役の戦士は肩から血を流し、後衛の魔法使いは恐怖で腰が抜けている。リーダーらしき剣士が必死に指示を飛ばしているが、多勢に無勢、ジリジリと追い詰められているのが分かった。
「クソッ、なんでこんな場所に群れが……!」

リーダーの悲痛な叫びが聞こえる。ミノタウロスの一体が雄叫びを上げ、負傷した戦士にとどめを刺そうと戦斧を大きく振り上げた。
健太は、息をのんだ。
見過ごせば、彼らは数分もしないうちに全滅するだろう。
だが、介入すれば、自分も危険に晒される。Bランクパーティーですら歯が立たない相手だ。
彼の脳裏に、面倒なことから目を背け、ただ自分のデスクを守ることだけを考えていた、かつての自分の姿がよぎった。

「……仕方ない、か」
健太は小さくため息をつくと、静かに【無限収納】に意識を集中させた。
もはや、見て見ぬふりをする自分ではいられない。リスクを冒してでも守るべきものが、今の自分にはあった。それは、探索者としての、ささやかなプライドだったのかもしれない。
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