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第18話 Dランク探索者へ
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森の広場を支配していた絶対的な静寂は、遠巻きに見ていた野次馬たちの誰かがゴクリと唾を飲み込む音によって破られた。
「……終わった、のか?」
「うそだろ……キングが、一瞬で……」
監視用水晶に映し出された、あまりにも一方的で、あまりにも異質な戦闘の結末に、誰もが言葉を失っていた。魔法でもなければ、剣技でもない。それは彼らの知るどんな戦い方とも似ていなかった。
やがて、試験官であるギルド職員が、恐る恐る健太のもとへ歩み寄ってきた。彼の顔には、畏怖と困惑が半分ずつ浮かんでいる。
「さ、佐藤様……。ご、ご無事ですか?」
「ええ、問題ありません」
健太は、まるでオフィスの廊下で声をかけられたかのように平然と答えると、ゴブリンキングの亡骸に近づいた。そして、慣れた手つきで懐からナイフを取り出し、その胸の中心部を器用に切り開いていく。中から現れたのは、通常の魔石よりも一回り大きく、禍々しい光を放つ紫色の魔石だった。
「これで、試験は完了ということでよろしいでしょうか」
健太はキングの魔石を布で拭いながら、事もなげに尋ねる。その淡々とした態度が、職員の目にはかえって異常なものに映った。
「は、はい! もちろんです! 完璧な、いえ、規格外の討伐成功です!」
ギルドへの帰路、健太の後ろを歩く職員と野次馬たちは、誰一人として彼に話しかけることができなかった。噂の「見えざる運び屋」の正体は、彼らの想像を遥かに超える、得体の知れない何かだった。
ギルドのロビーに足を踏み入れた瞬間、健太は空気が変わったことに気づいた。昨日まで自分に向けられていた「不気味なもの」を見る視線は、今や「恐ろしいもの」を見るそれへと変化していた。探索者たちは、健太のために道を空けるように左右に分かれる。モーセの十戒のようだった。
カウンターで報告を済ませると、すぐに奥の部屋へと通された。そこはギルドの支部長室で、重厚な執務机の向こうに、壮年の男性が厳しい表情で座っていた。ギルド支部長さえが、健太の報告を待っていたのだ。
「佐藤健太君、だな。よく来てくれた」
支部長は監視水晶に記録された映像を再生しながら、鋭い目で健太を観察する。
「君の戦い方を見させてもらった。…実に、合理的だ。無駄がなく、リスクを徹底的に排除している。まるで、精密な機械のようだ」
「お褒めいただき光栄です」
健太は、上司に業務報告をする時と同じように、当たり障りなく頭を下げた。
「単刀直入に聞こう。君のスキルは、本当にただの【無限収納】なのかね?」
支部長の問いは、核心を突いていた。健太は少し考える素振りを見せた後、正直に、しかし核心はぼかして答えた。
「ええ、ギルドで授かった通りのスキルです。ただ、少し応用が利くだけで。サラリーマン時代に、限られた予算とリソースで成果を出す訓練だけはしてきましたので。その癖が抜けないだけですよ」
「……そうか」
支部長はそれ以上は追及せず、引き出しから一枚の新しい登録証を取り出した。それは、Eランクの安っぽい銅色ではなく、鈍い銀色に輝いていた。
「見事だった。本日付で、君をDランク探索者として正式に認定する。これが新しい身分証だ」
健太は、Dランクの登録証を恭しく受け取った。ランクが上がったことへの高揚感よりも、これでより高単価のダンジョンに入れるという、実利的な喜びの方が大きかった。
「ありがとうございます。これからも、ギルドの規定に則り、真摯に業務に励む所存です」
深々と頭を下げる健太の姿に、支部長は「やはり底が知れん」と内心で呟いた。
部屋を辞した健太は、手にした銀色のカードを眺める。
これで、会社の給料に頼らずとも、両親への仕送りも、自分の生活も、十分に成り立たせることができる。
だが、健太の思考は、すでに次のステップへと向かっていた。
「さて、Dランクで入れるダンジョンは、と……」
彼はギルドの依頼掲示板に向かい、新たな「現場」の情報を集め始めた。
その背中を、もはや誰も「ポーター」や「荷物持ち」と呼ぶ者はいなかった。
彼の異名、「見えざる運び屋」は、この日を境に、畏怖と敬意を込めて語られる伝説の始まりとなったのである。
「……終わった、のか?」
「うそだろ……キングが、一瞬で……」
監視用水晶に映し出された、あまりにも一方的で、あまりにも異質な戦闘の結末に、誰もが言葉を失っていた。魔法でもなければ、剣技でもない。それは彼らの知るどんな戦い方とも似ていなかった。
やがて、試験官であるギルド職員が、恐る恐る健太のもとへ歩み寄ってきた。彼の顔には、畏怖と困惑が半分ずつ浮かんでいる。
「さ、佐藤様……。ご、ご無事ですか?」
「ええ、問題ありません」
健太は、まるでオフィスの廊下で声をかけられたかのように平然と答えると、ゴブリンキングの亡骸に近づいた。そして、慣れた手つきで懐からナイフを取り出し、その胸の中心部を器用に切り開いていく。中から現れたのは、通常の魔石よりも一回り大きく、禍々しい光を放つ紫色の魔石だった。
「これで、試験は完了ということでよろしいでしょうか」
健太はキングの魔石を布で拭いながら、事もなげに尋ねる。その淡々とした態度が、職員の目にはかえって異常なものに映った。
「は、はい! もちろんです! 完璧な、いえ、規格外の討伐成功です!」
ギルドへの帰路、健太の後ろを歩く職員と野次馬たちは、誰一人として彼に話しかけることができなかった。噂の「見えざる運び屋」の正体は、彼らの想像を遥かに超える、得体の知れない何かだった。
ギルドのロビーに足を踏み入れた瞬間、健太は空気が変わったことに気づいた。昨日まで自分に向けられていた「不気味なもの」を見る視線は、今や「恐ろしいもの」を見るそれへと変化していた。探索者たちは、健太のために道を空けるように左右に分かれる。モーセの十戒のようだった。
カウンターで報告を済ませると、すぐに奥の部屋へと通された。そこはギルドの支部長室で、重厚な執務机の向こうに、壮年の男性が厳しい表情で座っていた。ギルド支部長さえが、健太の報告を待っていたのだ。
「佐藤健太君、だな。よく来てくれた」
支部長は監視水晶に記録された映像を再生しながら、鋭い目で健太を観察する。
「君の戦い方を見させてもらった。…実に、合理的だ。無駄がなく、リスクを徹底的に排除している。まるで、精密な機械のようだ」
「お褒めいただき光栄です」
健太は、上司に業務報告をする時と同じように、当たり障りなく頭を下げた。
「単刀直入に聞こう。君のスキルは、本当にただの【無限収納】なのかね?」
支部長の問いは、核心を突いていた。健太は少し考える素振りを見せた後、正直に、しかし核心はぼかして答えた。
「ええ、ギルドで授かった通りのスキルです。ただ、少し応用が利くだけで。サラリーマン時代に、限られた予算とリソースで成果を出す訓練だけはしてきましたので。その癖が抜けないだけですよ」
「……そうか」
支部長はそれ以上は追及せず、引き出しから一枚の新しい登録証を取り出した。それは、Eランクの安っぽい銅色ではなく、鈍い銀色に輝いていた。
「見事だった。本日付で、君をDランク探索者として正式に認定する。これが新しい身分証だ」
健太は、Dランクの登録証を恭しく受け取った。ランクが上がったことへの高揚感よりも、これでより高単価のダンジョンに入れるという、実利的な喜びの方が大きかった。
「ありがとうございます。これからも、ギルドの規定に則り、真摯に業務に励む所存です」
深々と頭を下げる健太の姿に、支部長は「やはり底が知れん」と内心で呟いた。
部屋を辞した健太は、手にした銀色のカードを眺める。
これで、会社の給料に頼らずとも、両親への仕送りも、自分の生活も、十分に成り立たせることができる。
だが、健太の思考は、すでに次のステップへと向かっていた。
「さて、Dランクで入れるダンジョンは、と……」
彼はギルドの依頼掲示板に向かい、新たな「現場」の情報を集め始めた。
その背中を、もはや誰も「ポーター」や「荷物持ち」と呼ぶ者はいなかった。
彼の異名、「見えざる運び屋」は、この日を境に、畏怖と敬意を込めて語られる伝説の始まりとなったのである。
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