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第58話 ショートカット
「道を作る……? 旦那、何言ってんだよ! あんな壁、オークジェネラルの斧でもなきゃ壊せねえぞ!」
リョウは、健太の突拍子もない言葉に戸惑いを隠せない。
しかし、健太はリョウの言葉には答えず、ただ目の前の分厚い石壁に、ゆっくりと手をかざした。
観客も、解説者も、そしてライバルである他のパーティーも、健太の奇行を訝しげに見つめていた。
「一体何をするつもりだ? 『アフターファイブ』!」
「もはや、戦意を喪失してしまったのかーっ!?」
ジンは、その光景を嘲笑うかのように、余裕の表情で次のエリアへと進んでいく。
健太は、周囲の喧騒を完全に遮断し、意識を極限まで集中させた。
彼の脳裏に描かれているのは、ただ一点。
目の前の壁を、破壊するのではない。この壁という『物体』そのものを、限定的に、そして一時的に、この空間から『消し去る』イメージ。
「【無限収納・領域指定】」
健太が、自分にしか聞こえない声で呟いた。
これまで、個々の物体を対象としてきたスキルを、初めて『空間』そのものに適応させる、無謀な試み。アースドラゴン戦でリョウを救った時とはまた違う、精密で、膨大な集中力を要する高等技術だった。
健太の掌が触れている壁の部分が、まるで水面に投げ込まれた石のように、ぐにゃりと歪んだ。
そして、次の瞬間。
壁に、人間二人がギリギリ通れるほどの、完璧な方形の穴が、音もなく空いたのだ。
「なっ……!?」
「壁が……消えた!?」
会場中が、どよめきに包まれた。健太は、壁を破壊したのではない。その一部を、文字通り『収納』してしまったのだ。壁の向こう側には、ミノタウロスの広間を完全に迂回した、次のエリアへと続く通路が見えている。
これこそが、健太が編み出した、究極のショートカットだった。
「リョウ君、行きますよ!」
「お、おおっ!」
健太は、呆然とするリョウの手を引いて、その穴へと飛び込んだ。
数秒後、健太がスキルの維持を解くと、穴は元通り、何事もなかったかのように塞がっていた。
この理不尽なショートカットにより、『アフターファイブ』は、ミノタウロスの群れと戦っていた他のパーティーをごぼう抜きにし、一気に中団グループまで順位を上げた。
「な、なんだ今のショートカットはーっ!? あのようなルートは、設計図には存在しないはずだ!」
レースの解説者が、興奮して絶叫する。
観客席のどよめきは、驚愕から熱狂へと変わっていった。
「すげえ! あの地味なパーティー、何かとんでもない隠し玉を持ってやがる!」
「いけーっ! 見えざる運び屋!」
その熱狂は、アジトで中継を見ていたシオンの元にも届いていた。
彼女は、スクリーンに映し出された、ありえない光景に、息をのんだ。
彼らは、諦めていなかった。自分がいないという、圧倒的な不利な状況下で、誰も思いつかないような奇策を捻り出し、必死に戦っている。
自分のために。自分たちの誇りのために。
シオンの胸に、熱いものがこみ上げてきた。
彼女は、震える手で、傍らに置いてあった自分の刀を、ゆっくりと握りしめた。
その刃は、まだ重い。まだ、怖い。
だが、あの二人が戦っている場所に、自分もいなければならない。
仲間と共に、戦いたい。
その想いが、恐怖を、ほんの少しだけ上回った。
シオンは、ふらつきながらも、ゆっくりと立ち上がった。
そして、重い足取りで、部屋のドアへと向かう。
彼女の心は、まだ完全には晴れていない。だが、一歩、踏み出す覚悟は、確かにそこに芽生え始めていた。
リョウは、健太の突拍子もない言葉に戸惑いを隠せない。
しかし、健太はリョウの言葉には答えず、ただ目の前の分厚い石壁に、ゆっくりと手をかざした。
観客も、解説者も、そしてライバルである他のパーティーも、健太の奇行を訝しげに見つめていた。
「一体何をするつもりだ? 『アフターファイブ』!」
「もはや、戦意を喪失してしまったのかーっ!?」
ジンは、その光景を嘲笑うかのように、余裕の表情で次のエリアへと進んでいく。
健太は、周囲の喧騒を完全に遮断し、意識を極限まで集中させた。
彼の脳裏に描かれているのは、ただ一点。
目の前の壁を、破壊するのではない。この壁という『物体』そのものを、限定的に、そして一時的に、この空間から『消し去る』イメージ。
「【無限収納・領域指定】」
健太が、自分にしか聞こえない声で呟いた。
これまで、個々の物体を対象としてきたスキルを、初めて『空間』そのものに適応させる、無謀な試み。アースドラゴン戦でリョウを救った時とはまた違う、精密で、膨大な集中力を要する高等技術だった。
健太の掌が触れている壁の部分が、まるで水面に投げ込まれた石のように、ぐにゃりと歪んだ。
そして、次の瞬間。
壁に、人間二人がギリギリ通れるほどの、完璧な方形の穴が、音もなく空いたのだ。
「なっ……!?」
「壁が……消えた!?」
会場中が、どよめきに包まれた。健太は、壁を破壊したのではない。その一部を、文字通り『収納』してしまったのだ。壁の向こう側には、ミノタウロスの広間を完全に迂回した、次のエリアへと続く通路が見えている。
これこそが、健太が編み出した、究極のショートカットだった。
「リョウ君、行きますよ!」
「お、おおっ!」
健太は、呆然とするリョウの手を引いて、その穴へと飛び込んだ。
数秒後、健太がスキルの維持を解くと、穴は元通り、何事もなかったかのように塞がっていた。
この理不尽なショートカットにより、『アフターファイブ』は、ミノタウロスの群れと戦っていた他のパーティーをごぼう抜きにし、一気に中団グループまで順位を上げた。
「な、なんだ今のショートカットはーっ!? あのようなルートは、設計図には存在しないはずだ!」
レースの解説者が、興奮して絶叫する。
観客席のどよめきは、驚愕から熱狂へと変わっていった。
「すげえ! あの地味なパーティー、何かとんでもない隠し玉を持ってやがる!」
「いけーっ! 見えざる運び屋!」
その熱狂は、アジトで中継を見ていたシオンの元にも届いていた。
彼女は、スクリーンに映し出された、ありえない光景に、息をのんだ。
彼らは、諦めていなかった。自分がいないという、圧倒的な不利な状況下で、誰も思いつかないような奇策を捻り出し、必死に戦っている。
自分のために。自分たちの誇りのために。
シオンの胸に、熱いものがこみ上げてきた。
彼女は、震える手で、傍らに置いてあった自分の刀を、ゆっくりと握りしめた。
その刃は、まだ重い。まだ、怖い。
だが、あの二人が戦っている場所に、自分もいなければならない。
仲間と共に、戦いたい。
その想いが、恐怖を、ほんの少しだけ上回った。
シオンは、ふらつきながらも、ゆっくりと立ち上がった。
そして、重い足取りで、部屋のドアへと向かう。
彼女の心は、まだ完全には晴れていない。だが、一歩、踏み出す覚悟は、確かにそこに芽生え始めていた。
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