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第66話 最強の男
『アフターファイブ』のBランク昇格を祝うパーティーは、ギルドの最上階にある、普段はVIPしか足を踏み入れられないスカイホールで、盛大に執り行われた。
きらびやかなシャンデリアの下、高級な料理や年代物のワインが並び、会場は多くの探索者やギルド幹部、さらにはメディア関係者たちの熱気で満ちていた。
その中心にいるのは、もちろん健太たち三人だった。
「いやー、これがBランクの世界か! 天国だぜ、天国!」
リョウは、片手に高級そうなローストビーフの皿を持ち、もう片方の手でシャンパンのグラスを掲げ、すっかり上機嫌だった。彼は、インタビューを求める記者たちに、自分たちの武勇伝を(多少の脚色を加えながら)得意げに語っている。
その隣で、シオンは美しいドレスを着せられてはいるものの、居心地悪そうに壁際に佇んでいた。彼女は、こういう華やかな場所が何よりも苦手だった。人々の賞賛の視線が、むしろ彼女を落ち着かなくさせている。
そして健太は、といえば。
彼は、まるで会社の面倒な立食パーティーに参加させられた時のように、できるだけ目立たない隅の席で、出されたオレンジジュースをちびちびと飲んでいた。
「佐藤さん! 今回のレース、本当に感動しました!」
「あのショートカット、どうやったんですか!?」
声をかけてくる若手探索者たちに、健太は「いえいえ、すべては仲間のおかげですので」「たまたま、運が良かっただけですよ」と、いつものように曖昧な笑顔で応対する。その姿は、英雄というよりは、手柄を部下に譲る、人の良い中間管理職そのものだった。
「まったく、旦那も相変わらずだな」
記者の輪から抜け出してきたリョウが、呆れたように笑う。
「もっと、こう、ドヤ顔で自慢すりゃいいんスよ! 俺たちが主役なんだから!」
「主役は柄じゃないんでね。それに、こういう場所では、下手に目立つと後が面倒なことになる。サラリーマンの処世術ですよ」
健太が苦笑した、その時だった。
それまで喧騒に満ちていたホールが、まるで水を打ったかのように、急速に静まり返っていった。
入り口の方から、波が引くように、ざわめきが収まっていく。誰もが、息をのみ、ある一点を見つめている。
健太たちも、その異様な雰囲気の変化に気づき、入り口へと視線を向けた。
そこに、一人の男が立っていた。
背はそれほど高くない。だが、その身体は、極限まで鍛え上げられた鋼のように、一切の無駄がなかった。身に纏っているのは、華美な装飾のない、黒一色の戦闘服。その男が、ただそこに立っているだけで、ホールの豪華な内装も、大勢の探索者たちも、全てが背景のように色褪せて見えた。
圧倒的な、存在感。
「……黒崎、剛……」
リョウが、震える声でその名を呟いた。
日本最強のSランク探索者。
テレビの中でしか見たことのない、現代の英雄。
その男が、なぜ、こんな場所に。
黒崎は、周囲の視線を意にも介さず、まっすぐに、健太たち三人がいる場所へと歩を進めてきた。彼が歩くたびに、探索者たちが畏怖の念を込めて、道を空けていく。
やがて、彼は三人の前に立つと、その鋭い、全てを見透かすような目で、一人一人を値踏みするように見つめた。
そして、彼は、静かに、しかしホール全体に響き渡るような、重い声で言った。
「浮かれているところ悪いが」
その声は、絶対者のそれだった。
「お前たちは、根本的な勘違いをしている」
きらびやかなシャンデリアの下、高級な料理や年代物のワインが並び、会場は多くの探索者やギルド幹部、さらにはメディア関係者たちの熱気で満ちていた。
その中心にいるのは、もちろん健太たち三人だった。
「いやー、これがBランクの世界か! 天国だぜ、天国!」
リョウは、片手に高級そうなローストビーフの皿を持ち、もう片方の手でシャンパンのグラスを掲げ、すっかり上機嫌だった。彼は、インタビューを求める記者たちに、自分たちの武勇伝を(多少の脚色を加えながら)得意げに語っている。
その隣で、シオンは美しいドレスを着せられてはいるものの、居心地悪そうに壁際に佇んでいた。彼女は、こういう華やかな場所が何よりも苦手だった。人々の賞賛の視線が、むしろ彼女を落ち着かなくさせている。
そして健太は、といえば。
彼は、まるで会社の面倒な立食パーティーに参加させられた時のように、できるだけ目立たない隅の席で、出されたオレンジジュースをちびちびと飲んでいた。
「佐藤さん! 今回のレース、本当に感動しました!」
「あのショートカット、どうやったんですか!?」
声をかけてくる若手探索者たちに、健太は「いえいえ、すべては仲間のおかげですので」「たまたま、運が良かっただけですよ」と、いつものように曖昧な笑顔で応対する。その姿は、英雄というよりは、手柄を部下に譲る、人の良い中間管理職そのものだった。
「まったく、旦那も相変わらずだな」
記者の輪から抜け出してきたリョウが、呆れたように笑う。
「もっと、こう、ドヤ顔で自慢すりゃいいんスよ! 俺たちが主役なんだから!」
「主役は柄じゃないんでね。それに、こういう場所では、下手に目立つと後が面倒なことになる。サラリーマンの処世術ですよ」
健太が苦笑した、その時だった。
それまで喧騒に満ちていたホールが、まるで水を打ったかのように、急速に静まり返っていった。
入り口の方から、波が引くように、ざわめきが収まっていく。誰もが、息をのみ、ある一点を見つめている。
健太たちも、その異様な雰囲気の変化に気づき、入り口へと視線を向けた。
そこに、一人の男が立っていた。
背はそれほど高くない。だが、その身体は、極限まで鍛え上げられた鋼のように、一切の無駄がなかった。身に纏っているのは、華美な装飾のない、黒一色の戦闘服。その男が、ただそこに立っているだけで、ホールの豪華な内装も、大勢の探索者たちも、全てが背景のように色褪せて見えた。
圧倒的な、存在感。
「……黒崎、剛……」
リョウが、震える声でその名を呟いた。
日本最強のSランク探索者。
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その男が、なぜ、こんな場所に。
黒崎は、周囲の視線を意にも介さず、まっすぐに、健太たち三人がいる場所へと歩を進めてきた。彼が歩くたびに、探索者たちが畏怖の念を込めて、道を空けていく。
やがて、彼は三人の前に立つと、その鋭い、全てを見透かすような目で、一人一人を値踏みするように見つめた。
そして、彼は、静かに、しかしホール全体に響き渡るような、重い声で言った。
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その声は、絶対者のそれだった。
「お前たちは、根本的な勘違いをしている」
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