【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ

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第74話 世界の秘密

鏡の世界を突破した後、健太は、まるで燃え尽きたかのようにその場に座り込んでいた。
「……少し、休憩させてください」
その声は、自分でも驚くほどにかすれていた。スキルの連続行使、特に「沈黙」や「壁」といった、より概念に近いものを操作した代償は、彼の精神を根こそぎ削り取っていた。もはや、立っていることすら億劫だった。

「旦那、大丈夫か!? 顔、真っ白だぜ!」
リョウが、慌てて駆け寄り、彼の顔を覗き込む。
シオンも、無言で健太の隣に座ると、自分の水筒を差し出した。
「……無理をするな。あなたのスキルは、あなたの精神そのものだ。それが尽きれば、私たちも終わる」
その言葉には、かつてないほどの、深い気遣いが込められていた。今や、このパーティーの生命線は、シオンの剣技だけではなく、健太の精神力にもかかっていることを、誰もが理解していた。

三人は、次の階層へ進むのをやめ、その場で数時間の長い休息を取ることにした。
健太が眠っている間、シオンとリョウは、まるで親鳥のように、交代で周囲の警戒にあたった。彼らの間には、もう言葉は必要なかった。健太を守る。それが、今の二人の、共通の最優先任務だった。

やがて、健太の呼吸が安定してきたのを見計らい、三人は再び立ち上がった。
目の前には、天へと続く、最後の階段があった。
その階段を上りきった先は、これまでのどの階層とも全く違う、荘厳な空気に満ちた空間だった。

そこは、まるで古代の神殿か、王の墓所のような、巨大な石造りの広間だった。風化した柱が立ち並び、天井には、今は光を失った巨大な魔石が、星々のように埋め込まれている。そして、広間の最も奥にある壁一面に、巨大な壁画が、色褪せながらも、その壮大な物語を刻みつけていた。

「なんだ……ここは……?」
リョウが、息をのむ。
これまでの無機質な試練の空間とは、明らかに異質だった。ここだけが、明確な『誰か』の意思を持って、造られた場所だと感じられた。

三人は、まるで何かに導かれるように、その巨大な壁画の前へと歩み寄った。
壁画は、古代の文字と共に、一つの壮大な叙事詩を描いていた。
最初の場面には、魔法と科学が高度に融合した、輝かしい古代文明の姿があった。人々は空を飛び、大地を豊かにし、平和を謳歌している。
だが、次の場面で、その平和は突如として破られる。
空に、禍々しい亀裂が走り、そこから、異形の『何か』が、この世界へと侵略してくる様子が描かれていた。それは、特定の形を持たない、混沌としたエネルギーの塊のように見えた。

「これは……ダンジョンの出現か?」
健太が、壁画を分析しながら呟く。

物語は続く。
異世界からの侵略は、世界の理そのものを歪ませ、大地を汚染し、生命を狂わせていった。古代人たちは、その持てる技術のすべてを結集し、それに対抗しようとする。
そして、彼らが建造したのが、この『天の塔』だった。
壁画によると、この塔は、侵略エネルギーを中和し、世界の崩壊を防ぐための巨大な『楔』。そして、万が一、自分たちが敗れた場合に、未来の世代にこの真実を伝えるための『記録装置(アーカイブ)』でもあった。

三人の顔から、血の気が引いていく。
これは、ただのダンジョンではない。世界の存亡を懸けた、古代の遺産なのだ。

そして、壁画の最後の場面。
そこには、古代人たちが最も恐れた、最悪の存在が描かれていた。
空の亀裂から降臨する、光り輝く人型のシルエット。壁画は、それを『神の使徒』と記している。その周囲には、『星の終わり』『神々の黄昏』といった、絶望的な言葉が並んでいた。
使徒に立ち向かい、そして無残に敗れ去っていく、古代の英雄たちの姿。

その、あまりにも重い真実を前に、三人は言葉を失った。
黒崎の言っていた『世界の真実』の一端。それは、彼らが想像していたよりも、遥かに過酷で、絶望的なものだった。

「……つまり、ダンジョンってのは、ただの宝箱じゃなくて、いつ噴火するか分かんねえ、ヤバい火山の火口みたいなもんだったってことかよ……」
リョウの声が、震える。

三人が、壁画の衝撃から立ち直れずにいる、その時だった。
広間の中央、何もない空間が、眩い光と共に裂けた。
そして、そこから、一体の存在が、静かに降臨した。
それは、壁画の最後に描かれていた、古代の英雄の姿によく似ていた。
背中には、光でできた六対の翼。その手には、炎の剣。顔立ちは神々しいほどに美しいが、その瞳には、一切の感情が宿っていない。

この塔の、最後の守護者。
『天空の守護者 アークエンジェル』。
それは、黒崎が三人に課した、最後の、そして最難関の試練だった。
健太は、限界に近い精神を奮い立たせ、仲間たちと共に、静かにその存在と対峙した。
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