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第75話 Aランクへの到達
『天空の守護者 アークエンジェル』。
その存在は、アースドラゴンとはまた違う、絶対的な神聖さと、侵すべからざる威厳に満ちていた。その瞳には、悪意も、敵意もない。ただ、この塔の最上階に到達した侵入者を、定められた役割として、ただ無慈悲に排除する、という冷徹な意志だけが宿っていた。
戦いの火蓋は、アークエンジェル側から切られた。
アークエンジェルが、その手に持つ炎の剣を、静かに一振りする。
それだけで、広間全体に聖なる炎の波が、津波のように広がった。それは、サラマンダーが放つような、ただ熱いだけの炎ではない。悪しきものを浄化し、存在そのものを消し去る、神聖な炎だった。
「リョウ、シオンさん、伏せて!」
健太は、最後の気力を振り絞り、三人の前に巨大な氷壁を出現させた。
しかし、聖なる炎は、氷壁に触れた瞬間、まるで紙を燃やすように、音もなくそれを蒸発させていく。
「くっ……! この炎、収納が……効きにくい!」
健太は、炎そのものを【無限収納】で吸い込もうとしたが、スキルが、まるで聖水に触れた闇のように、激しい抵抗を示した。彼の精神が、逆に浄化され、削り取られていくような感覚。
炎の波が過ぎ去った後、三人はなんとか無事だったが、健太は、その場に片膝をついていた。精神的な疲労が、限界に達しようとしている。
アークエンジェルは、休む間もなく、次の攻撃に移る。
天を衝くように掲げた手から、無数の光の槍が生成され、雨のように三人に降り注いだ。
「旦那は休んでな!」
リョウが叫ぶ。
「ここは、俺たちが!」
シオンが、刀を抜き放つ。
もはや、健太のサポートは期待できない。シオンとリョウは、二人だけで、この神の如き存在に立ち向かうしかなかった。
リョウは、その俊敏さを最大限に活かし、光の槍の雨の中を駆け抜ける。そして、アークエンジェルの注意を自分に引きつけるため、陽動攻撃を仕掛けた。
シオンは、その隙を突き、アークエンジェルの背後へと回り込む。そして、渾身の力を込めた一撃を、その光の翼の付け根へと叩き込んだ。
だが、ガキン!という硬い手応えと共に、彼女の刃は、まるで不可視の障壁に阻まれたかのように、弾かれてしまった。
「聖域(サンクチュアリ)か……!」
シオンは、歯噛みした。アークエンジェルの周囲には、常に神聖な力の結界が張られており、生半可な攻撃は届きすらしないのだ。
万策尽きた。
二人が、絶望に打ちひしがれそうになった、その時だった。
「……まだ、です」
健太が、ふらつきながらも、ゆっくりと立ち上がった。
「まだ、手はあります。俺のスキルが『現実改変』だというのなら……」
彼は、黒崎の言葉を思い出していた。
『お前は、この世界のルールそのものに、干渉する力を持っている』
「俺が干渉すべきは、目の前の敵じゃない。この塔を、この塔たらしめている、ルールそのものだ!」
健太は、最後の、そして最大の賭けに出た。
彼は、アークエンジェルではなく、この広間全体に、そして壁に描かれた古代の壁画に、その意識を向けた。
――この空間に記録されている、古代文明の叡智、歴史、そして、この塔を『楔』として機能させている、その『概念』そのものを、俺の中に、一時的に『収納』する!
それは、彼の精神が完全に崩壊しかねない、あまりにも無謀な試みだった。
健太の脳を、情報の津波が襲う。古代人の記憶、魔法の知識、世界の成り立ち。数千年分の情報が、一瞬にして彼の中に流れ込んできた。
「ぐ……あああああああっ!」
健太は、血を吐きながらも、その情報の奔流に耐えた。
その瞬間、アークエンジェルの動きが、ぴたりと止まった。
健太が、塔のシステムの根幹に干渉したことで、守護者としての力の供給が、ほんの一瞬だけ、断たれたのだ。
絶対的な防御を誇っていた、聖域の結界が、陽炎のように揺らめき、消えた。
「――今だッ!」
健太の、最後の叫び。
シオンとリョウは、その一瞬を見逃さなかった。
リョウが、アークエンジェルの足元に滑り込み、その体勢を崩す。
そして、シオンの刃が、無防備になったアークエンジェルの胸の中心、その力の源であるコアへと、吸い込まれるように突き立てられた。
パリン、という、ガラスが砕けるような澄んだ音。
アークエンジェルの身体が、ゆっくりと光の粒子に変わっていく。
その表情には、苦悶はなく、ただ、役目を終えた安堵のようなものが浮かんでいた。
『……未来を、託す……』
最後に、そんな声が、三人の心に直接響いた気がした。
アークエンジェルが完全に消滅し、広間には、ただ静寂だけが残された。
健太は、糸が切れたようにその場に倒れ込み、意識を失った。
数日後。
『アフターファイブ』が『天の塔』を完全攻略したというニュースは、日本中を、いや、世界中を震撼させた。
三人は、ギルド史上最速で、Aランクへの昇格を果たした。
彼らは英雄となった。だが、アジトに戻った三人の顔に、晴れやかな笑顔はなかった。
勝利の達成感よりも、知ってしまった世界の秘密。
そして、これから自分たちが背負うであろう、あまりにも重い責任。
健太の胸には、古代文明が遺した膨大な情報と、来るべき『神の使徒』との戦いの予感が、重くのしかかっていた。
彼らの戦いは、まだ始まったばかりなのだ。そのことを、三人は、誰よりも深く理解していた。
その存在は、アースドラゴンとはまた違う、絶対的な神聖さと、侵すべからざる威厳に満ちていた。その瞳には、悪意も、敵意もない。ただ、この塔の最上階に到達した侵入者を、定められた役割として、ただ無慈悲に排除する、という冷徹な意志だけが宿っていた。
戦いの火蓋は、アークエンジェル側から切られた。
アークエンジェルが、その手に持つ炎の剣を、静かに一振りする。
それだけで、広間全体に聖なる炎の波が、津波のように広がった。それは、サラマンダーが放つような、ただ熱いだけの炎ではない。悪しきものを浄化し、存在そのものを消し去る、神聖な炎だった。
「リョウ、シオンさん、伏せて!」
健太は、最後の気力を振り絞り、三人の前に巨大な氷壁を出現させた。
しかし、聖なる炎は、氷壁に触れた瞬間、まるで紙を燃やすように、音もなくそれを蒸発させていく。
「くっ……! この炎、収納が……効きにくい!」
健太は、炎そのものを【無限収納】で吸い込もうとしたが、スキルが、まるで聖水に触れた闇のように、激しい抵抗を示した。彼の精神が、逆に浄化され、削り取られていくような感覚。
炎の波が過ぎ去った後、三人はなんとか無事だったが、健太は、その場に片膝をついていた。精神的な疲労が、限界に達しようとしている。
アークエンジェルは、休む間もなく、次の攻撃に移る。
天を衝くように掲げた手から、無数の光の槍が生成され、雨のように三人に降り注いだ。
「旦那は休んでな!」
リョウが叫ぶ。
「ここは、俺たちが!」
シオンが、刀を抜き放つ。
もはや、健太のサポートは期待できない。シオンとリョウは、二人だけで、この神の如き存在に立ち向かうしかなかった。
リョウは、その俊敏さを最大限に活かし、光の槍の雨の中を駆け抜ける。そして、アークエンジェルの注意を自分に引きつけるため、陽動攻撃を仕掛けた。
シオンは、その隙を突き、アークエンジェルの背後へと回り込む。そして、渾身の力を込めた一撃を、その光の翼の付け根へと叩き込んだ。
だが、ガキン!という硬い手応えと共に、彼女の刃は、まるで不可視の障壁に阻まれたかのように、弾かれてしまった。
「聖域(サンクチュアリ)か……!」
シオンは、歯噛みした。アークエンジェルの周囲には、常に神聖な力の結界が張られており、生半可な攻撃は届きすらしないのだ。
万策尽きた。
二人が、絶望に打ちひしがれそうになった、その時だった。
「……まだ、です」
健太が、ふらつきながらも、ゆっくりと立ち上がった。
「まだ、手はあります。俺のスキルが『現実改変』だというのなら……」
彼は、黒崎の言葉を思い出していた。
『お前は、この世界のルールそのものに、干渉する力を持っている』
「俺が干渉すべきは、目の前の敵じゃない。この塔を、この塔たらしめている、ルールそのものだ!」
健太は、最後の、そして最大の賭けに出た。
彼は、アークエンジェルではなく、この広間全体に、そして壁に描かれた古代の壁画に、その意識を向けた。
――この空間に記録されている、古代文明の叡智、歴史、そして、この塔を『楔』として機能させている、その『概念』そのものを、俺の中に、一時的に『収納』する!
それは、彼の精神が完全に崩壊しかねない、あまりにも無謀な試みだった。
健太の脳を、情報の津波が襲う。古代人の記憶、魔法の知識、世界の成り立ち。数千年分の情報が、一瞬にして彼の中に流れ込んできた。
「ぐ……あああああああっ!」
健太は、血を吐きながらも、その情報の奔流に耐えた。
その瞬間、アークエンジェルの動きが、ぴたりと止まった。
健太が、塔のシステムの根幹に干渉したことで、守護者としての力の供給が、ほんの一瞬だけ、断たれたのだ。
絶対的な防御を誇っていた、聖域の結界が、陽炎のように揺らめき、消えた。
「――今だッ!」
健太の、最後の叫び。
シオンとリョウは、その一瞬を見逃さなかった。
リョウが、アークエンジェルの足元に滑り込み、その体勢を崩す。
そして、シオンの刃が、無防備になったアークエンジェルの胸の中心、その力の源であるコアへと、吸い込まれるように突き立てられた。
パリン、という、ガラスが砕けるような澄んだ音。
アークエンジェルの身体が、ゆっくりと光の粒子に変わっていく。
その表情には、苦悶はなく、ただ、役目を終えた安堵のようなものが浮かんでいた。
『……未来を、託す……』
最後に、そんな声が、三人の心に直接響いた気がした。
アークエンジェルが完全に消滅し、広間には、ただ静寂だけが残された。
健太は、糸が切れたようにその場に倒れ込み、意識を失った。
数日後。
『アフターファイブ』が『天の塔』を完全攻略したというニュースは、日本中を、いや、世界中を震撼させた。
三人は、ギルド史上最速で、Aランクへの昇格を果たした。
彼らは英雄となった。だが、アジトに戻った三人の顔に、晴れやかな笑顔はなかった。
勝利の達成感よりも、知ってしまった世界の秘密。
そして、これから自分たちが背負うであろう、あまりにも重い責任。
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