76 / 101
第76話 政府からの招集
英雄。
世間は、今や『アフターファイブ』をそう呼んだ。
テレビをつければ、連日彼らの特集が組まれ、アナウンサーが興奮気味にその偉業を伝えている。『天の塔』完全攻略という、日本初の快挙。それは、人々に希望と興奮を与え、彼らの名は子供から大人まで、誰もが知るものとなった。
だが、当の英雄たちは、その栄光の中心にいながら、まるで分厚いガラス一枚を隔てたかのように、世間の熱狂をどこか冷めた心地で眺めていた。
アジトの部屋には、ギルドやスポンサー企業から贈られた、祝いの花や高級な酒が山のように積まれている。しかし、その甘い香りは、三人の間に漂う重苦しい空気を、少しも和らげることはなかった。
「……まるで、他人事だな」
リョウは、テレビに映る自分たちの姿を見ながら、ぽつりと呟いた。その顔に、いつものような軽薄な笑みはない。
シオンも、黙って窓の外を眺めている。彼女の心もまた、晴れることのない霧に覆われているようだった。
一番深刻なのは、健太だった。
彼は、あの日以来、ほとんど口を開かず、ただじっと、何もない空間の一点を見つめていることが多くなった。
彼の頭の中では、今も、アークエンジェルを倒した時に流れ込んできた、古代文明の膨大な情報が、嵐のように渦巻いていた。
世界の構造、魔法の本質、そして、壁画に描かれていた『神の使徒』という絶望的な存在。
あまりにも重いその『真実』は、健太の精神を静かに、しかし確実に蝕んでいた。それは、もはやスキル行使による疲労とは質の違う、存在そのものを揺るがすような負荷だった。
「旦那、大丈夫か……?」
リョウが、心配そうに声をかける。
「……ええ。少し、考え事を」
健太は、力なく笑った。だが、その瞳の奥には、サラリーマンだった頃には決してなかった、深淵を覗き込むような、暗い光が宿っていた。
その時だった。
コン、コン。
控えめだが、有無を言わせぬような、硬質なノックの音が、アジトのドアを叩いた。
三人の間に、緊張が走る。メディアやギルド関係者なら、もっと騒がしいはずだ。
リョウは、音もなくドアに近づき、警戒しながら、ゆっくりとそれを開いた。
そこに立っていたのは、黒いスーツに身を包んだ、二人の男だった。二人とも、表情というものが抜け落ちたかのような、能面のような顔をしている。その立ち姿には、一切の隙がなかった。これまで出会ってきた、どの探索者とも、どのギルド職員とも、明らかに異質だった。
「佐藤健太氏、水無月シオン氏、高橋リョウ氏でお間違いないでしょうか」
男の一人が、感情の抑揚がない、事務的な声で言った。
「我々は、防衛省・ダンジョン特務対策室の者です」
男は、懐から手帳を取り出し、簡潔に身分を示した。そこには、健太たちも知る、政府機関の紋章が刻まれている。
「……政府の方が、我々に何の御用で?」
健太が、静かに問い返した。彼の声は、不思議と落ち着いていた。まるで、彼らの訪問を、あらかじめ知っていたかのように。
「単刀直入に申し上げます。『天の塔』最上階で貴殿方が接触した『情報』について、お話を伺いたい。そして、我々の知り得た情報も、貴殿方と共有する必要がある」
男の言葉は、丁寧だったが、その裏には、拒否を一切許さないという、絶対的な強制力が込められていた。
「これは、お願いではありません。国家の安全保障に関わる、最重要事項です。直ちに、我々とご同行願います」
リョウとシオンは、そのあまりに高圧的な物言いに、反発の色を見せた。
だが、健太は、静かにそれを手で制した。
彼は、すべてを悟っていた。自分たちが足を踏み入れたのは、もはや個人の冒険や、ギルド間の競争などという、小さな世界ではない。
国家が、そして世界が、その存亡を懸けて隠してきた、巨大な渦の中心なのだ。
「……分かりました。行きましょう」
健太は、静かに立ち上がった。
三人は、黒いスーツの男たちに先導され、アジトを出る。外には、黒塗りの、窓が完全にスモークされた特殊車両が、音もなく停車していた。
彼らが乗り込むと、車は、まるでこの世の喧騒から隔離するかのように、静かに、そして滑るように走り出した。
行き先は、告げられない。
だが、三人は、もう後戻りのできない、大きな運命の流れに、身を委ねるしかないことを悟っていた。
世間は、今や『アフターファイブ』をそう呼んだ。
テレビをつければ、連日彼らの特集が組まれ、アナウンサーが興奮気味にその偉業を伝えている。『天の塔』完全攻略という、日本初の快挙。それは、人々に希望と興奮を与え、彼らの名は子供から大人まで、誰もが知るものとなった。
だが、当の英雄たちは、その栄光の中心にいながら、まるで分厚いガラス一枚を隔てたかのように、世間の熱狂をどこか冷めた心地で眺めていた。
アジトの部屋には、ギルドやスポンサー企業から贈られた、祝いの花や高級な酒が山のように積まれている。しかし、その甘い香りは、三人の間に漂う重苦しい空気を、少しも和らげることはなかった。
「……まるで、他人事だな」
リョウは、テレビに映る自分たちの姿を見ながら、ぽつりと呟いた。その顔に、いつものような軽薄な笑みはない。
シオンも、黙って窓の外を眺めている。彼女の心もまた、晴れることのない霧に覆われているようだった。
一番深刻なのは、健太だった。
彼は、あの日以来、ほとんど口を開かず、ただじっと、何もない空間の一点を見つめていることが多くなった。
彼の頭の中では、今も、アークエンジェルを倒した時に流れ込んできた、古代文明の膨大な情報が、嵐のように渦巻いていた。
世界の構造、魔法の本質、そして、壁画に描かれていた『神の使徒』という絶望的な存在。
あまりにも重いその『真実』は、健太の精神を静かに、しかし確実に蝕んでいた。それは、もはやスキル行使による疲労とは質の違う、存在そのものを揺るがすような負荷だった。
「旦那、大丈夫か……?」
リョウが、心配そうに声をかける。
「……ええ。少し、考え事を」
健太は、力なく笑った。だが、その瞳の奥には、サラリーマンだった頃には決してなかった、深淵を覗き込むような、暗い光が宿っていた。
その時だった。
コン、コン。
控えめだが、有無を言わせぬような、硬質なノックの音が、アジトのドアを叩いた。
三人の間に、緊張が走る。メディアやギルド関係者なら、もっと騒がしいはずだ。
リョウは、音もなくドアに近づき、警戒しながら、ゆっくりとそれを開いた。
そこに立っていたのは、黒いスーツに身を包んだ、二人の男だった。二人とも、表情というものが抜け落ちたかのような、能面のような顔をしている。その立ち姿には、一切の隙がなかった。これまで出会ってきた、どの探索者とも、どのギルド職員とも、明らかに異質だった。
「佐藤健太氏、水無月シオン氏、高橋リョウ氏でお間違いないでしょうか」
男の一人が、感情の抑揚がない、事務的な声で言った。
「我々は、防衛省・ダンジョン特務対策室の者です」
男は、懐から手帳を取り出し、簡潔に身分を示した。そこには、健太たちも知る、政府機関の紋章が刻まれている。
「……政府の方が、我々に何の御用で?」
健太が、静かに問い返した。彼の声は、不思議と落ち着いていた。まるで、彼らの訪問を、あらかじめ知っていたかのように。
「単刀直入に申し上げます。『天の塔』最上階で貴殿方が接触した『情報』について、お話を伺いたい。そして、我々の知り得た情報も、貴殿方と共有する必要がある」
男の言葉は、丁寧だったが、その裏には、拒否を一切許さないという、絶対的な強制力が込められていた。
「これは、お願いではありません。国家の安全保障に関わる、最重要事項です。直ちに、我々とご同行願います」
リョウとシオンは、そのあまりに高圧的な物言いに、反発の色を見せた。
だが、健太は、静かにそれを手で制した。
彼は、すべてを悟っていた。自分たちが足を踏み入れたのは、もはや個人の冒険や、ギルド間の競争などという、小さな世界ではない。
国家が、そして世界が、その存亡を懸けて隠してきた、巨大な渦の中心なのだ。
「……分かりました。行きましょう」
健太は、静かに立ち上がった。
三人は、黒いスーツの男たちに先導され、アジトを出る。外には、黒塗りの、窓が完全にスモークされた特殊車両が、音もなく停車していた。
彼らが乗り込むと、車は、まるでこの世の喧騒から隔離するかのように、静かに、そして滑るように走り出した。
行き先は、告げられない。
だが、三人は、もう後戻りのできない、大きな運命の流れに、身を委ねるしかないことを悟っていた。
あなたにおすすめの小説
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。