【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ

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第91話 第二の使徒「時間」

第一の使徒「絶望」の消滅と共に、戦場を覆っていた重苦しい精神汚染は完全に霧散した。兵士たちは、悪夢から覚めたかのように顔を上げ、眼前の勝利を信じられないといった表情で見つめている。
やがて、その呆然は、熱狂的な歓喜の波へと変わった。

「うおおおおお! 勝ったぞ!」
「神の使徒を、俺たちが倒したんだ!」
ヘルメットを空に投げ、抱き合って勝利を喜ぶ兵士たち。その歓声は、荒廃した東京の空に、確かな希望の狼煙として立ち上った。

だが、その歓喜の中心にいるはずの英雄たちは、勝利に浸る余裕など微塵もなかった。
「健太っ!」
シオンは、その場に倒れ込み、糸が切れたように意識を失った健太の身体を、必死に揺すぶった。
「おい、旦那! 目を覚ませって! 俺たちの勝ちだぞ!」
リョウも、健太の肩を叩くが、その身体はぐったりとして、何の反応も示さない。ただ、その顔は、まるで全ての苦しみを一人で背負ったかのように、深い疲労と苦痛の色を浮かべていた。

「医療班! 急げ! ここに重傷者が!」
リョウが叫ぶ。
だが、その声が、歓声の渦にかき消されようとした、その時だった。
ピタリ、と。
全ての音が、止んだ。

勝利を喜ぶ兵士たちの歓声も、遠くで鳴り響いていたサイレンも、風の音すらも。世界から、音が消えた。
そして、誰もが気づいた。空を見上げていた兵士は、その姿勢のまま。抱き合っていた兵士は、笑顔のまま。全ての人間が、全ての物体が、まるで時が止められたかのように、完全に静止している。
動いているのは、使徒と直接対峙した、ごく一部の強大な魔力を持つ者たちだけだった。

「……何が、起きた……?」
シオンは、周囲の異様な光景に、息をのんだ。
黒崎は、傷を押さえながら、ゆっくりと空を見上げた。その顔には、勝利の安堵ではなく、最悪の事態を予感したかのような、苦渋の色が浮かんでいる。

東京上空。
『神の門』は、閉じるどころか、その輝きを、さらに不気味なものへと変えていた。
門の奥から、チク、タク、チク、タク、と。古びた時計の針が刻むような、冷たく、無機質な音が響き渡る。
それは、世界そのものの心拍が、狂ったリズムを刻み始めたかのような、嫌な音だった。

そして、門の奥から、第二の使徒が、静かに降臨した。
その姿は、「絶望」とは全く異なっていた。
まるで、巨大な砂時計を胴体とし、無数の歯車を四肢としたかのような、機械仕掛けの人形。その顔には、目も、鼻も、口もなく、ただ、ローマ数字が刻まれた巨大な時計盤だけが、埋め込まれている。その針は、ありえない速度で逆回転したり、不規則に震えたりしていた。

第二の使徒「時間」は、感情も、意志も、何も感じさせない、ただ冷徹な機械のように、地上の光景を見下ろした。
そして、その腕の歯車の一つが、カチリ、と音を立てて動いた。

次の瞬間。
信じられない光景が、起こった。
先ほど、シオンと黒崎が放った合体攻撃の、光の軌跡が、巻き戻されていく。
光の塵となって消滅したはずの第一の使徒「絶望」の残骸が、再び集まり、その輪郭を形成しようとする。
健太が倒した百足型モンスターの死骸が、まるでビデオを逆再生するように、ゆっくりと起き上がろうとする。
攻撃で破壊されたビルが、その破片を空中に集め、元の形へと修復されていく。

「な……なんだ、これは……」
リョウは、目の前で起きている、物理法則を完全に無視した現象に、言葉を失った。
「時間を……巻き戻しているのか……!」

第二の使徒は、再び、その腕の歯車を動かした。
カチリ。
今度は、全ての時間が、完全に停止した。
空中で修復されかかっていたビルの破片が、その場でぴたりと静止する。
アークナイツのメンバーの一人が放った反撃の魔法が、使徒に届く寸前で、まるで琥珀の中に閉じ込められた虫のように、完全に動きを止めた。

攻撃は、届かない。
回復は、巻き戻される。
抵抗しようとすれば、その時間ごと、止められる。
それは、あまりにも理不尽で、あまりにも絶対的な、神の権能だった。

「……まずいな」
黒崎が、苦々しく呟いた。
「こいつは、『時』を司るタイプか。最も、厄介な相手だ」
深手を負った彼に、この神に抗う力は残されていない。シオンやリョウも、その攻撃が届かない以上、なすすべもなかった。

戦場は、再び、絶望よりもさらに質の悪い、絶対的な無力感に支配された。
この、時を支配する神を前に、人類に、打つ手は残されているのだろうか。
シオンは、意識のない健太の顔を見つめ、ただ、その名を呼ぶことしかできなかった。
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