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第97話 最後の切り札
「……健太?」
シオンの声が、震えていた。
立ち上がった健太の背中は、いつもの、少し猫背気味で頼りなげなそれとは、全く違っていた。
それは、まるで天を支える柱のように、どこまでもまっすぐで、揺るぎない。
振り向いたその顔に、もはや、しがないサラリーマンの面影はなかった。瞳には、人間的な感情の光はなく、ただ、これから成すべきことだけを映す、静かで、冷徹な神性が宿っていた。
侵略者の王は、黒崎を屠った指先の星を、今度は、その新たな抵抗者である健太へと向けた。
その瞳(があったであろう虚無)が、初めて、明確な『興味』を示していた。
ちっぽけな人間の中に、自分と同じ、世界の理に干渉する力の、萌芽を見たからだ。
「……シオンさん、リョウ君を頼みます」
健太の声は、平坦で、どこか遠い場所から響いてくるようだった。
「健太、あなた、何を……」
「大丈夫です。全て、終わらせますから」
健太は、ゆっくりと王に向かって歩き出した。
王が、指先の星を、弾いた。
黒崎の全てを無に還した、絶対的な『消滅』の光が、健太へと、ゆっくりと降下してくる。
健太は、その光を見つめながら、静かに、自分のスキルの本質を理解していた。
(【無限収納】。その本当の名は、おそらく違う)
(これは、ただの収納スキルじゃない。俺という観測者が、この世の森羅万象を『認識』し、『定義』し、『分類』し、そして、この世界から『隔離』するための力だ)
(だから、重力も、沈黙も、絶望すらも、俺が『収納可能なもの』と定義すれば、収納できた)
黒崎は言った。『現実改変』の力、と。
ならば、今、俺が改変すべき現実は、ただ一つ。
『消滅』の光が、健太の目前まで迫る。
シオンが、悲鳴を上げた。
だが、健太は、ただ静かに、その光に向かって、手をかざしただけだった。
「【概念収納】」
彼が、初めて口にした、そのスキルの真の名。
「――『攻撃』という概念を、今、この瞬間、この座標から、収納する」
奇跡が、起きた。
『消滅』の光は、健太に触れる、その寸前で、ぴたりと、その意味を失った。
それは、もはや攻撃ではない。ただの、無害で、きらきらと輝く、美しい光の粒子へと変貌し、健太の身体を通り抜け、そして、はかなく消えていった。
「…………」
戦場にいた、誰もが、言葉を失った。
侵略者の王ですら、その虚無の奥で、初めて『理解不能』という感情を抱いたようだった。
「どうやら、あなたにも、俺は『消滅』させられないらしい」
健太は、淡々と、王に告げた。
「俺という存在は、今、この世界の理から、少しだけ、外れてしまったので」
だが、その代償は、あまりにも大きかった。
健太の身体が、足元から、ゆっくりと、光の粒子となって、透け始めていた。
世界の理から外れるということは、この世界に、存在できなくなるということ。
「健太っ! ダメだ!」
シオンは、全てを悟った。彼が、これから何をしようとしているのか。そして、その先に、何が待っているのかを。
彼女は、健太の元へと駆け寄ろうとした。
だが、見えない壁が、彼女の行く手を阻んだ。健太が、彼女たちを巻き込まないために、最後の【空間固定】を展開していたのだ。
「シオンさん。リョウ君」
健太は、仲間たちの方を、ゆっくりと振り返った。
その顔には、先ほどまでの神性は消え、いつもの、少し困ったような、不器用で、優しい笑顔が浮かんでいた。
「あなたたちと会えて、良かった。俺の人生も、捨てたもんじゃなかったですよ」
それは、別れの言葉だった。
「ありがとう。俺の、最高の仲間たち」
健太は、そう言うと、再び王へと向き直った。
いや、王ですらない。彼は、この世界そのものを、天を、大地を、全てを、その視界に収めていた。
「これが、俺の、最後の仕事だ」
彼は、天に向かって、その両手を、大きく、広げた。
これから始まるのは、もはや戦いですらない。
一人の男が、その存在全てを懸けて行う、世界の『再定義』。
最後の切り札が、今、切られようとしていた。
シオンの声が、震えていた。
立ち上がった健太の背中は、いつもの、少し猫背気味で頼りなげなそれとは、全く違っていた。
それは、まるで天を支える柱のように、どこまでもまっすぐで、揺るぎない。
振り向いたその顔に、もはや、しがないサラリーマンの面影はなかった。瞳には、人間的な感情の光はなく、ただ、これから成すべきことだけを映す、静かで、冷徹な神性が宿っていた。
侵略者の王は、黒崎を屠った指先の星を、今度は、その新たな抵抗者である健太へと向けた。
その瞳(があったであろう虚無)が、初めて、明確な『興味』を示していた。
ちっぽけな人間の中に、自分と同じ、世界の理に干渉する力の、萌芽を見たからだ。
「……シオンさん、リョウ君を頼みます」
健太の声は、平坦で、どこか遠い場所から響いてくるようだった。
「健太、あなた、何を……」
「大丈夫です。全て、終わらせますから」
健太は、ゆっくりと王に向かって歩き出した。
王が、指先の星を、弾いた。
黒崎の全てを無に還した、絶対的な『消滅』の光が、健太へと、ゆっくりと降下してくる。
健太は、その光を見つめながら、静かに、自分のスキルの本質を理解していた。
(【無限収納】。その本当の名は、おそらく違う)
(これは、ただの収納スキルじゃない。俺という観測者が、この世の森羅万象を『認識』し、『定義』し、『分類』し、そして、この世界から『隔離』するための力だ)
(だから、重力も、沈黙も、絶望すらも、俺が『収納可能なもの』と定義すれば、収納できた)
黒崎は言った。『現実改変』の力、と。
ならば、今、俺が改変すべき現実は、ただ一つ。
『消滅』の光が、健太の目前まで迫る。
シオンが、悲鳴を上げた。
だが、健太は、ただ静かに、その光に向かって、手をかざしただけだった。
「【概念収納】」
彼が、初めて口にした、そのスキルの真の名。
「――『攻撃』という概念を、今、この瞬間、この座標から、収納する」
奇跡が、起きた。
『消滅』の光は、健太に触れる、その寸前で、ぴたりと、その意味を失った。
それは、もはや攻撃ではない。ただの、無害で、きらきらと輝く、美しい光の粒子へと変貌し、健太の身体を通り抜け、そして、はかなく消えていった。
「…………」
戦場にいた、誰もが、言葉を失った。
侵略者の王ですら、その虚無の奥で、初めて『理解不能』という感情を抱いたようだった。
「どうやら、あなたにも、俺は『消滅』させられないらしい」
健太は、淡々と、王に告げた。
「俺という存在は、今、この世界の理から、少しだけ、外れてしまったので」
だが、その代償は、あまりにも大きかった。
健太の身体が、足元から、ゆっくりと、光の粒子となって、透け始めていた。
世界の理から外れるということは、この世界に、存在できなくなるということ。
「健太っ! ダメだ!」
シオンは、全てを悟った。彼が、これから何をしようとしているのか。そして、その先に、何が待っているのかを。
彼女は、健太の元へと駆け寄ろうとした。
だが、見えない壁が、彼女の行く手を阻んだ。健太が、彼女たちを巻き込まないために、最後の【空間固定】を展開していたのだ。
「シオンさん。リョウ君」
健太は、仲間たちの方を、ゆっくりと振り返った。
その顔には、先ほどまでの神性は消え、いつもの、少し困ったような、不器用で、優しい笑顔が浮かんでいた。
「あなたたちと会えて、良かった。俺の人生も、捨てたもんじゃなかったですよ」
それは、別れの言葉だった。
「ありがとう。俺の、最高の仲間たち」
健太は、そう言うと、再び王へと向き直った。
いや、王ですらない。彼は、この世界そのものを、天を、大地を、全てを、その視界に収めていた。
「これが、俺の、最後の仕事だ」
彼は、天に向かって、その両手を、大きく、広げた。
これから始まるのは、もはや戦いですらない。
一人の男が、その存在全てを懸けて行う、世界の『再定義』。
最後の切り札が、今、切られようとしていた。
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