嫌われ者の悪役貴族、追放されたので好きにすることにした

夏見ナイ

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第55話:アヴァロンブランド

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アヴァロン・ウィングの処女航海は、驚くほど順調だった。
魔導炉は安定してエネルギーを供給し続け、ドワーフたちが作り上げた船体は高高度の強い風にもびくともしない。眼下には緑豊かな森や峻険な山脈、そしてアルビオン王国の広大な領土が、まるで地図のように広がっていた。
俺たちは王国の上空を誰にも気づかれることなく悠々と飛び越えていった。国境線など空から見れば、ただの地面に引かれた意味のない線に過ぎない。

数日後、俺たちはついに最初の目的地である南方自由都市同盟の港湾都市『ポルト・フィオーレ』の上空に到達した。
そこはアヴァロンとは全く違う活気に満ちた場所だった。無数の帆船が港を行き交い、様々な人種の商人たちの威勢のいい声が上空まで聞こえてくるようだった。
俺たちの巨大な銀色の船が空に姿を現すと、街は一時大パニックに陥った。
『空飛ぶ魔物か!?』
『帝国の新型兵器か!?』
だが、俺たちが船体に大きく掲げた白地に四つの種族が手を取り合う紋章が描かれたアヴァロンの旗を見せ、そして拡声の魔道具で平和的な交易のために訪れたことを告げると、彼らのパニックはすぐに熱狂的な好奇心へと変わっていった。

港への着陸許可を得た俺たちは、街の広場にゆっくりとアヴァロン・ウィングを着陸させた。
着陸の瞬間、広場を埋め尽くした群衆から割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。彼らは歴史が動く瞬間を目の当たりにしていたのだ。
俺と通商代表のマルコ、そして護衛のシルヴィアと獣人たちがタラップを降りると、街の領主と商人ギルドの代表者たちが興奮した面持ちで俺たちを出迎えた。

「よ、ようこそ、空の旅人よ! わ、私はこのポルト・フィオーレの領主、ドン・フェルナンドと申す!」
恰幅のいい領主は額の汗を拭いながら必死に平静を装っている。
「我々はアヴァロンからの使者だ。貴殿らと友好な通商関係を結ぶためにやってきた」
俺の言葉に、商人ギルドのマスターが抜け目ない目で俺たちの船と積荷を値踏みするように見回した。
「アヴァロン……。近頃、噂に聞く北の幻の都市ですな。して、その積荷とは一体どのようなものですかな?」

その問いに、マルコが待ってましたとばかりに一歩前に出た。
「皆様、百聞は一見に如かず! これぞ我が国アヴァロンが誇る至高の産品の数々です!」
彼の合図でゴンドラから次々と商品が運び出され、広場に設けられた即席の市場に並べられていく。
ドワーヴン・スチール製の錆びない、曲がらない、驚くほど軽量な農具や工具の数々。
エルフたちが賢者の森の秘薬を調合して作ったどんな傷も瞬時に癒す高純度のポーション。
獣人たちが鞣した極上の魔物の毛皮を使った軽くて暖かい防寒具。
そしてアヴァロンの家庭ですでに日常的に使われている安全で長時間燃え続ける携帯式の魔導ランプ。

ポルト・フィオーレの商人たちは最初、それらの商品を半信半疑で眺めていた。
だが、その品質を実際にその手に取って確かめた瞬間、彼らの表情は驚愕一色に染まった。
「……なんだ、この鍬は! まるで羽のように軽い! なのにこの岩を叩いても刃こぼれ一つしねえ!」
「このポーション……信じられん! 今自分でつけた切り傷が一瞬で塞がったぞ! 王宮に納められているどんな霊薬よりも効果が高い!」
「このランプ……火を使わずにこんなに明るい光が……。しかも熱くない! これなら火事の心配もいらん!」
広場はあっという間に熱狂の渦に包まれた。
商人たちは我先にとマルコの元へ殺到し、取引の交渉を始めた。
提示された価格は彼らが普段扱っている商品の数分の一。
圧倒的な高品質と驚異的な低価格。
その二つを両立させたアヴァロンの製品はポルト・フィオーレの市場に革命的な衝撃を与えたのだ。

その日のうちに俺たちが持ち込んだ商品は全て飛ぶように売れていった。
商人ギルドのマスターは俺の前に来ると、もはや先ほどの抜け目ない表情ではなく畏敬の念に満ちた目で深く頭を下げた。
「アッシュ殿……。完敗です。貴国がどれほど進んだ技術を持っているのか、よく分かりました。どうか我々と独占的な交易契約を結んでいただけないでしょうか!」
「独占はせん」
俺はきっぱりと断った。
「アヴァロンの製品は、それを必要とする全ての人々のためにある。我々はポルト・フィオーレだけでなく、この大陸の全ての自由な都市と公正な取引を行うつもりだ」
その言葉は俺たちの目的が単なる金儲けではないことを彼らに明確に示した。
俺たちはアヴァロンの優れた製品を通して、この大陸全体の人々の生活を豊かにしたいのだ。

数日後。
俺たちは空になった船倉に代わりに、この港町でしか手に入らない珍しい香辛料や海産物、そして俺たちがまだ持たない南方の植物の種子などを満載してポルト・フィオーレを後にした。
その出発はもはやパニックではなく、街を挙げての盛大な見送りとなった。
港からは無数の船が歓迎の汽笛を鳴らし、人々は空飛ぶ銀色の船に向かっていつまでも手を振り続けていた。

このポルト・フィオーレでの大成功を皮切りに、『アヴァロン』という名はもはや単なる噂ではなく確かな『ブランド』として大陸全土に認知され始めた。
『アヴァロン製』という言葉は、すなわち『最高品質』の代名詞となったのだ。
アヴァロン・ウィングはその後も次々と南方の都市を巡り、各地で熱狂的な歓迎を受けた。
王国の経済制裁という厚い壁は、俺たちが切り開いた『空の道』の前には全くの無意味と化した。
それどころか、その壁は皮肉にもアヴァロンの名声をより一層劇的なものとして演出する最高の舞台装置となったのだった。

アヴァロンは今やただの辺境の都市国家ではない。
空を制し、独自の交易ルートを持つ強力な経済大国としての第一歩を力強く踏み出したのだ。
そしてその翼が運んでくる富と名声は、やがてアヴァロンに新たな出会いと新たな仲間を引き寄せていくことになる。
空の彼方から俺たちの存在をじっと見つめる、翼を持つ者たちの視線を感じながら。
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