不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第十一話 結成、いびつなトライアングル

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「決めた! お前、俺たちのパーティーに入れ! いや、入れ! これから、俺と、ミモリと、お前で、最強のパーティーを作るんだ!」

 ゴードンの、決定事項の宣告のような勧誘。それは、僕の意思など一切介在しない、一方的な宣言だった。僕の肩を掴むその巨大な手は、まるで万力のように僕の自由を奪っている。

「お待ちください、話が違います。僕は一回だけの協力だと……」
「細かいことはいいんだよ! 百の言葉より、一つの結果だろ? あんたのおかげで、一ヶ月も足止めされてたこのゴーレムを倒せたんだ! これはもう、運命ってやつだ!」

 運命。僕が最も縁遠いと思っていた言葉だ。ゴードンは、僕の抗議などまるで意に介さず、ガハハと豪快に笑っている。理屈が通じる相手ではないことを、僕は嫌というほど理解した。

 その時だった。ダンジョンの入り口から、数人のプレイヤーが慌てた様子で駆け込んできた。その先頭にいたのは、純白のローブをまとったヒーラー、ミモリさんだった。

「ゴードンさん! 今の地響きは……って、ゴーレムが!?」
 ミモリさんは、ゴーレムの残骸と水浸しの床を見て、驚きに目を見開いた。そして、ゴードンに捕獲されている僕の姿を認めると、さらに驚いたように声を上げた。
「リクさん!? どうしてここに……それに、ゴードンさん、リクさんに何をしているんですか!」

 彼女は、僕をいじめていると思ったのか、少しだけ頬を膨らませてゴードンを咎めた。その姿は、巨大な熊に立ち向かう、勇敢な子犬のようだった。

「おお、ミモリ! 見ろよ、こいつがやったんだ! リクのすげえ魔法で、この石ころ野郎をひっくり返してやったんだぜ!」
 ゴードンは興奮気味に戦いの顛末を語る。ミモリさんや、後ろに控えていた他のパーティーメンバーたちは、その説明を聞いて、改めて僕の方を信じられないものを見る目で見た。

「リクさん、本当なんですか……?」
 ミモリさんが、おずおずと尋ねてくる。僕はただ、こくりと頷くことしかできなかった。
「そんな……やっぱり、リクさんはすごい方だったんですね……!」
 彼女の瞳に、再び尊敬の光が宿る。その純粋な眼差しが、僕には少しだけ痛かった。

「だろ!? だから今、こいつを俺たちのパーティーにスカウトしてるところよ!」
「えっ!? でも、リクさんにはリクさんのご都合が……」
 ミモリさんは、僕の意思を尊重しようとしてくれているらしい。だが、ゴードンはそんな彼女の気遣いを、豪快な一言で吹き飛ばした。
「いいんだよ! こんだけ相性がいいんだ、一緒にやらなきゃ損だろ! なあ、ミモリもそう思うだろ?」
「う、それは……その……リクさんと一緒に冒険できたら、嬉しい、ですけど……」

 ミモリさんは、押しに弱い性格らしく、ゴードンの勢いに押されて口ごもってしまった。彼女の視線が、助けを求めるように僕へと向けられる。
 完全に、外堀を埋められた。

 僕は深いため息をついた。ここで頑なに拒否することもできるだろう。だが、その場合、この脳筋タンクが僕を解放してくれる保証はない。最悪、街までこのまま引きずられていく可能性すらある。

 どうしたものか。僕の思考は、高速で回転を始めていた。
 パーティーを組むことのデメリット。それは、僕の最大の目的である、自由な地質調査が阻害されることだ。集団行動は、僕のペースを乱す。

 では、メリットは?
 僕は、目の前の二人を改めて観察した。
 ゴードン。サーバー屈指の防御力を誇るタンク。彼がいれば、大抵のモンスターの攻撃は僕に届かない。調査中に不意の襲撃を受けても、彼が鉄壁の盾となってくれるだろう。僕がモンスターのハザードマップを作る必要すらなくなるかもしれない。それは、調査効率の飛躍的な向上を意味する。

 ミモリさん。トップクラスの回復能力を持つヒーラー。僕がうっかり毒の沼にはまっても、崖から足を滑らせても、彼女がいれば即座に回復してくれる。デスペナルティの心配が格段に減る。これもまた、より危険な未踏地帯へ挑戦するための、最高の保険になる。

 ――僕のユニークスキル【地形編集】は、強力だ。だが、それはあくまで補助的な力。直接的な戦闘や、危機的状況からの回復はできない。僕の能力は、僕一人で使うよりも、彼らのような専門家と組むことで、初めてその真価を最大限に発揮できるのではないか?

 僕が地形を支配し、彼らが敵を食い止める。
 地質学、物理防御、回復魔法。それぞれが専門分野に特化した、いびつだが、噛み合えば恐ろしいほどの力を発揮するトライアングル。

「……わかりました」
 僕がぽつりと呟くと、場の空気が変わった。ゴードンは「おお!?」と期待の声を上げ、ミモリさんは固唾を飲んで僕の言葉の続きを待っている。

「ただし、条件があります」
「条件? なんだ、言ってみろ!」
「僕は、正式なパーティーメンバーにはなりません。あくまで、暫定的な協力者です」
「ざんてーてき?」
 ゴードンが、意味を理解できずに首を傾げる。僕は構わず続けた。

「僕の第一目標は、あくまでこの世界の地質調査です。皆さんのダンジョン攻略やクエストが、僕の調査対象と一致した場合にのみ、協力する。それ以外の時は、僕は自由に行動させてもらう。この条件を飲んでくれるなら、力を貸しましょう」

 これが、僕の最大限の譲歩だった。僕の自由を確保しつつ、彼らの力を利用する。対等な協力関係。これならば、僕にもメリットがある。

 僕の提案を聞いたゴードンは、数秒間、難しい顔で腕を組んでいたが、やがてニカッと笑った。
「よくわかんねえが、要は一緒に冒険してくれるってことだな! よし、それでいいぜ!」

 どうやら、彼は細かい部分はどうでもよかったらしい。僕が「協力する」と言った事実だけで、満足したようだ。
「よ、よかったです……!」
 ミモリさんは、心から安堵したように、胸をなでおろした。
「リクさん、これから、よろしくお願いします!」

 彼女は、僕に向かって、再び深々と頭を下げた。その笑顔は、僕がこの面倒な交渉を受け入れたことへの、十分すぎる報酬のように思えた。

 こうして、僕の意思とは少し違う形で、僕のVRMMOライフは新たなステージへと移行した。
 戦闘能力ゼロの地質学者、リク。
 猪突猛進の鉄壁タンク、ゴードン。
 心優しき聖女ヒーラー、ミモリ。
 僕たち三人を核とした、奇妙でいびつなパーティーが、この日、産声を上げたのだ。

 ゴードンの仲間たちも、僕の力を目の当たりにした後では、異論を唱える者はいなかった。むしろ、規格外の存在である僕に、好奇と期待の眼差しを向けている。

「それじゃあ、決まりだな! 早速、次の作戦会議だ! 祝杯も兼ねて、街の酒場に行くぞ!」
 ゴードンは上機嫌で叫ぶと、僕の背中をバシンと叩き、意気揚々とダンジョンを後にした。ミモリさんが、僕のHPが僅かに減ったのを見て、慌ててヒールをかけてくれる。

 この先、一体どうなることやら。
 僕は、期待と、それからほんの少しの不安を胸に、彼らの後を追った。

 その頃、アルトス・ゲートの酒場では、僕たちの知らないところで、新たな噂が熱を帯びていた。
「おい、聞いたか!? 例の『リク』が、今度は《石巨人の採掘場》に現れたらしいぞ!」
「ああ! しかも、トッププレイヤーたちが束になっても倒せなかったゴーレムを、地面をひっくり返して倒したって話だ!」
「地面をひっくり返す!? なんだその魔法!?」
「知るかよ! だが、目撃者も複数いる! あの脳筋タンクのゴードンも、完全に懐柔されたらしい!」
「『ダンジョンを掘る男』、か……。あいつは一体、何者なんだ……」

 一つの伝説が、また新たな尾ひれをつけて、プレイヤーたちの間で語られていく。その中心にいる青年が、今まさに仲間たちに引きずられるようにして、その酒場の扉を開けようとしていることを、まだ誰も知らなかった。
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