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第二十五話:リク工房、爆誕
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谷を埋め尽くした土砂の山を前に、完全な静寂が支配していた。
数百というモンスターの軍勢が存在した痕跡は、今やどこにもない。ただ、巨大な墓標のように、圧倒的な量の土砂が、月明かりの下で静かに横たわっているだけだった。
やがて、その静寂を破ったのは、崖の上から駆け下りてくる、ドワーフたちの地響きのような足音だった。
「おお……おお……!」
先頭を走ってきたバルカンは、僕の目の前で立ち止まると、僕が引き起こした天災の跡を、信じられないものを見る目で何度も見返した。その瞳には、恐怖と、畏怖と、そして何よりも強い興奮の色が浮かんでいた。
「小僧……いや、リク殿。あんた、いったい……何をしでかしたんじゃ……」
彼の声は、尊敬の念で震えていた。
「言ったはずです。地形を、少し利用させてもらっただけです」
僕は、何事もなかったかのように答えた。
そこに、鉱脈の奥からゴードンとミモリさんも合流した。
「リク! お前、マジでとんでもねえな!」
ゴードンは、僕の肩を力いっぱい叩きながら、心の底から楽しそうに笑った。
「谷ごと生き埋めって、どんな頭してたらそんな作戦思いつくんだよ! 最高にイカしてるぜ!」
「リクさん、お見事でした。でも、一歩間違えれば私たちも……。本当に、無事でよかったです」
ミモリさんは、安堵の息をつきながら、僕の無事を喜んでくれた。
バルカンに続いて、他のドワーフたちも僕を取り囲んだ。彼らは、もう僕を変人を見るような目では見ていない。自分たちを、そして自分たちの生活の糧である鉱脈を、たった一人の知略で救った英雄として、尊敬と感謝の眼差しを向けていた。
「リク殿、ありがとう!」
「あんたのおかげで、助かった!」
ドワーフたちの飾り気のない、しかし心のこもった感謝の言葉。それは、僕にとって、どんなレアアイテムよりも価値のある報酬だった。
僕たちは、夜が明けるのを待って《クラフトヘイム》へと凱旋した。
鉱脈防衛戦の顛末は、僕たちが街に戻るよりも早く、鳥の知らせか何かで伝わっていたらしい。街の入り口では、多くの生産職プレイヤーたちが、僕たちを英雄として出迎えてくれた。
「あのリクが、土石流でモンスターを壊滅させたって本当か!?」
「《絶対王権》の妨害を、またしても退けたんだ! 俺たちの希望だ!」
これまで《絶対王権》の横暴に苦しめられてきた彼らにとって、僕の勝利は、自分たちの勝利も同然だったのだ。彼らの歓声に、僕は少し気恥ずかしさを感じながらも、胸が熱くなるのを抑えきれなかった。
その日の午後、僕は約束通り、バルカンの工房を訪れていた。
「リク殿。約束の品、早速作らせてもらうぞ」
バルカンは、工房の炉に、これまでにないほどの炎を燃え上がらせていた。その瞳は、最高の素材を前にした、職人の喜びに満ちている。
「まずは、あんたのつるはしだ。この【灼炎石】、どう加工するのが一番いい。あんたの知識を、わしに教えてくれ」
僕とバルカンの、奇妙な共同作業が始まった。
「この石の魔力伝導性を最大限に引き出すには、純粋なミスリル銀と合金にするのが最適です。ですが、単純に混ぜるだけではダメだ。灼炎石の熱エネルギーが、ミスリルの構造を破壊してしまう。そこで……」
僕は、鉱物学の知識を総動員し、二つの素材を融合させるための、最適な温度、圧力、そして冷却速度を提案した。バルカンは、僕の理論に驚きながらも、その長年の経験と勘で、僕の言葉を完璧に理解し、それを自らの技術で形にしていく。
カン! カン! カン!
工房に、心地よい槌の音が響き渡る。学者の知識と、職人の技術。二つの異なる才能が、一つの金床の上で、奇跡的な化学反応を起こしていた。
数時間後。ついに、その一本が完成した。
僕が受け取った新しいつるはしは、もはや「道具」というよりも「聖遺物」と呼ぶにふさわしいオーラを放っていた。ミスリル銀でできた柄は、僕の手に吸い付くように馴染み、先端に取り付けられた【灼炎石】のピックは、内なる炎を静かに燃やしている。
【ジオ・ブレイカー】
種別:つるはし(ユニーク装備)
効果:
・採掘速度、掘削速度が大幅に上昇。
・《鑑定》スキルと連動し、視界内の岩盤や地層の弱点(断層・節理など)を自動でハイライト表示する。
・【地形編集】スキルの消費MPを30%軽減する。
・所有者:リク
「これは……!」
僕は、その驚異的な性能に息を呑んだ。まさに、僕という地質学者のためだけに作られた、究極の相棒。これがあれば、僕の調査能力と戦闘補助能力は、飛躍的に向上するだろう。
「次は、そこの脳筋タンクと聖女様の番じゃな!」
バルカンは、休む間もなく、次の製作に取り掛かった。ゴードンの盾には、防衛した鉱脈から採れた最高純度のアダマンタイトと、僕が提供したサラマンダーの溶岩核を。ミモリさんの杖には、希少なミスリル銀と、彼女の聖なる魔力に共鳴する霊木を。
僕のアドバイスと、バルカンの神業的な技術によって、これまでにない性能を持つ武具が、次々と生み出されていく。
完成したゴードンの盾【イグニス・ウォール】は、受けたダメージの一部を熱エネルギーとして蓄積し、任意のタイミングで炎の衝撃波として放出する、カウンター能力を備えていた。
ミモリさんの杖【ミスリル・カドゥケウス】は、回復魔法の効果範囲を1.5倍に広げ、さらに詠唱時間を短縮するという、ヒーラーにとっては夢のような性能を持っていた。
「すげえ! 俺の盾が火を噴くぞ!」
「こ、こんなに素晴らしい杖……! 大切にします!」
二人は、新しい装備を手に、子供のようにはしゃいでいる。その姿を見て、僕も自然と笑みがこぼれた。
全ての作業を終えたバルカンは、満足げに汗を拭うと、僕に向き直った。
「リク殿。あんた、この街に、腰を落ち着ける気はないか?」
「え?」
「あんたの知識は、宝じゃ。わしら生産職にとって、これ以上ないほどのな。あんたがこの街にいてくれるなら、わしらは、どんな協力も惜しまん」
彼は、工房の隣にある、空き家を指さした。
「あそこを使うがいい。わしや、他のギルドの連中が、改装して、最高の研究室にしてやろう。もちろん、家賃なんぞはいらん」
それは、あまりにも破格の提案だった。
《クラフトヘイム》に、僕たちの活動拠点を持つ。それは、常に移動を続けてきた僕たちにとって、大きな変化をもたらすだろう。
「どうする、リク?」
ゴードンが、僕の顔を覗き込む。
僕は、少しだけ考えると、静かに頷いた。
「……お言葉に甘えさせていただきます」
数日後。
街の一角に、小さな、しかし最新の調査機器や書棚が備え付けられた、立派な工房が完成した。
その入り口には、バルカンが心を込めて彫ってくれた、真新しい木の看板が掲げられている。
――リク工房(兼 地質研究所)
僕たちの新たな拠点の誕生だった。
僕は、工房の窓から、活気に満ちた《クラフトヘイム》の街並みを眺めた。ここから、僕たちの新たな物語が始まる。それは、もはや単なる調査や冒険ではない。この世界の生産の根幹を支え、やがては、絶対王者の支配体制すら揺るがすことになる、大きなうねりの始まりだった。
数百というモンスターの軍勢が存在した痕跡は、今やどこにもない。ただ、巨大な墓標のように、圧倒的な量の土砂が、月明かりの下で静かに横たわっているだけだった。
やがて、その静寂を破ったのは、崖の上から駆け下りてくる、ドワーフたちの地響きのような足音だった。
「おお……おお……!」
先頭を走ってきたバルカンは、僕の目の前で立ち止まると、僕が引き起こした天災の跡を、信じられないものを見る目で何度も見返した。その瞳には、恐怖と、畏怖と、そして何よりも強い興奮の色が浮かんでいた。
「小僧……いや、リク殿。あんた、いったい……何をしでかしたんじゃ……」
彼の声は、尊敬の念で震えていた。
「言ったはずです。地形を、少し利用させてもらっただけです」
僕は、何事もなかったかのように答えた。
そこに、鉱脈の奥からゴードンとミモリさんも合流した。
「リク! お前、マジでとんでもねえな!」
ゴードンは、僕の肩を力いっぱい叩きながら、心の底から楽しそうに笑った。
「谷ごと生き埋めって、どんな頭してたらそんな作戦思いつくんだよ! 最高にイカしてるぜ!」
「リクさん、お見事でした。でも、一歩間違えれば私たちも……。本当に、無事でよかったです」
ミモリさんは、安堵の息をつきながら、僕の無事を喜んでくれた。
バルカンに続いて、他のドワーフたちも僕を取り囲んだ。彼らは、もう僕を変人を見るような目では見ていない。自分たちを、そして自分たちの生活の糧である鉱脈を、たった一人の知略で救った英雄として、尊敬と感謝の眼差しを向けていた。
「リク殿、ありがとう!」
「あんたのおかげで、助かった!」
ドワーフたちの飾り気のない、しかし心のこもった感謝の言葉。それは、僕にとって、どんなレアアイテムよりも価値のある報酬だった。
僕たちは、夜が明けるのを待って《クラフトヘイム》へと凱旋した。
鉱脈防衛戦の顛末は、僕たちが街に戻るよりも早く、鳥の知らせか何かで伝わっていたらしい。街の入り口では、多くの生産職プレイヤーたちが、僕たちを英雄として出迎えてくれた。
「あのリクが、土石流でモンスターを壊滅させたって本当か!?」
「《絶対王権》の妨害を、またしても退けたんだ! 俺たちの希望だ!」
これまで《絶対王権》の横暴に苦しめられてきた彼らにとって、僕の勝利は、自分たちの勝利も同然だったのだ。彼らの歓声に、僕は少し気恥ずかしさを感じながらも、胸が熱くなるのを抑えきれなかった。
その日の午後、僕は約束通り、バルカンの工房を訪れていた。
「リク殿。約束の品、早速作らせてもらうぞ」
バルカンは、工房の炉に、これまでにないほどの炎を燃え上がらせていた。その瞳は、最高の素材を前にした、職人の喜びに満ちている。
「まずは、あんたのつるはしだ。この【灼炎石】、どう加工するのが一番いい。あんたの知識を、わしに教えてくれ」
僕とバルカンの、奇妙な共同作業が始まった。
「この石の魔力伝導性を最大限に引き出すには、純粋なミスリル銀と合金にするのが最適です。ですが、単純に混ぜるだけではダメだ。灼炎石の熱エネルギーが、ミスリルの構造を破壊してしまう。そこで……」
僕は、鉱物学の知識を総動員し、二つの素材を融合させるための、最適な温度、圧力、そして冷却速度を提案した。バルカンは、僕の理論に驚きながらも、その長年の経験と勘で、僕の言葉を完璧に理解し、それを自らの技術で形にしていく。
カン! カン! カン!
工房に、心地よい槌の音が響き渡る。学者の知識と、職人の技術。二つの異なる才能が、一つの金床の上で、奇跡的な化学反応を起こしていた。
数時間後。ついに、その一本が完成した。
僕が受け取った新しいつるはしは、もはや「道具」というよりも「聖遺物」と呼ぶにふさわしいオーラを放っていた。ミスリル銀でできた柄は、僕の手に吸い付くように馴染み、先端に取り付けられた【灼炎石】のピックは、内なる炎を静かに燃やしている。
【ジオ・ブレイカー】
種別:つるはし(ユニーク装備)
効果:
・採掘速度、掘削速度が大幅に上昇。
・《鑑定》スキルと連動し、視界内の岩盤や地層の弱点(断層・節理など)を自動でハイライト表示する。
・【地形編集】スキルの消費MPを30%軽減する。
・所有者:リク
「これは……!」
僕は、その驚異的な性能に息を呑んだ。まさに、僕という地質学者のためだけに作られた、究極の相棒。これがあれば、僕の調査能力と戦闘補助能力は、飛躍的に向上するだろう。
「次は、そこの脳筋タンクと聖女様の番じゃな!」
バルカンは、休む間もなく、次の製作に取り掛かった。ゴードンの盾には、防衛した鉱脈から採れた最高純度のアダマンタイトと、僕が提供したサラマンダーの溶岩核を。ミモリさんの杖には、希少なミスリル銀と、彼女の聖なる魔力に共鳴する霊木を。
僕のアドバイスと、バルカンの神業的な技術によって、これまでにない性能を持つ武具が、次々と生み出されていく。
完成したゴードンの盾【イグニス・ウォール】は、受けたダメージの一部を熱エネルギーとして蓄積し、任意のタイミングで炎の衝撃波として放出する、カウンター能力を備えていた。
ミモリさんの杖【ミスリル・カドゥケウス】は、回復魔法の効果範囲を1.5倍に広げ、さらに詠唱時間を短縮するという、ヒーラーにとっては夢のような性能を持っていた。
「すげえ! 俺の盾が火を噴くぞ!」
「こ、こんなに素晴らしい杖……! 大切にします!」
二人は、新しい装備を手に、子供のようにはしゃいでいる。その姿を見て、僕も自然と笑みがこぼれた。
全ての作業を終えたバルカンは、満足げに汗を拭うと、僕に向き直った。
「リク殿。あんた、この街に、腰を落ち着ける気はないか?」
「え?」
「あんたの知識は、宝じゃ。わしら生産職にとって、これ以上ないほどのな。あんたがこの街にいてくれるなら、わしらは、どんな協力も惜しまん」
彼は、工房の隣にある、空き家を指さした。
「あそこを使うがいい。わしや、他のギルドの連中が、改装して、最高の研究室にしてやろう。もちろん、家賃なんぞはいらん」
それは、あまりにも破格の提案だった。
《クラフトヘイム》に、僕たちの活動拠点を持つ。それは、常に移動を続けてきた僕たちにとって、大きな変化をもたらすだろう。
「どうする、リク?」
ゴードンが、僕の顔を覗き込む。
僕は、少しだけ考えると、静かに頷いた。
「……お言葉に甘えさせていただきます」
数日後。
街の一角に、小さな、しかし最新の調査機器や書棚が備え付けられた、立派な工房が完成した。
その入り口には、バルカンが心を込めて彫ってくれた、真新しい木の看板が掲げられている。
――リク工房(兼 地質研究所)
僕たちの新たな拠点の誕生だった。
僕は、工房の窓から、活気に満ちた《クラフトヘイム》の街並みを眺めた。ここから、僕たちの新たな物語が始まる。それは、もはや単なる調査や冒険ではない。この世界の生産の根幹を支え、やがては、絶対王者の支配体制すら揺るがすことになる、大きなうねりの始まりだった。
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