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第六章:総力戦
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第五十六話:最後の解析、アヴァロンの秘密
《アビス・コア》から帰還した僕たちは、《クラフトヘイム》の工房で、ガイアから得た情報の整理と分析に追われていた。僕の頭の中は、あの光の球体が語った、衝撃的な事実で飽和状態だった。
「カイザーが、二人目のイレギュラー……。そして、この世界の深層システムにアクセスしようとしている……」
僕は、工房の研究室の黒板に、ガイアから得たキーワードを書き出していく。ゴードンとミモリさんは、僕のただならぬ様子を、固唾を飲んで見守っていた。
「どういうことなんだ、リク? カイザーの野郎が、お前と同じ『イレギュラー』ってのは」
「簡単に言えば、彼もまた、この世界の法則を、ある程度、捻じ曲げることができる存在だということです。僕が『地質学』という知識体系をトリガーにしているのに対し、彼は、おそらく『支配』や『王権』といった概念をトリガーに、システムに干渉している」
「だから、あんなに強かったんだ……」
ミモリさんが、納得したように呟く。
「ですが、問題はそこではありません」
僕は、黒板に書かれた「深層システムへのアクセス」という文字を、強くチョークで囲んだ。
「ガイアによれば、カイザーは、僕に敗北したことで、表層的なルールでの支配を諦めた。そして、もっと根源的な、この世界のOSそのものを書き換えるような、禁断の領域に、足を踏み入れようとしている、と」
それは、もはやゲームのプレイヤーという範疇を、完全に逸脱した行為だ。一人のプレイヤーの歪んだ支配欲が、このETOという世界そのものを、内側から破壊しかねない。
「そんなこと、止めなきゃ……!」
ミモリさんが、悲痛な声を上げる。
「ええ。その通りです。そして、彼を止める方法は、一つしかない」
僕は、黒板の隅に描かれた、一枚のスケッチを指さした。雲海に浮かぶ、白亜の城。
「カイザーの力の源泉であり、彼の支配の象徴である、あの城――《アヴァロン》を、攻略するんです。彼を、彼の玉座から引きずり下ろし、その野望を、完全に打ち砕く」
僕の宣言に、工房の空気が、シンと張り詰めた。
《アヴァロン》攻略。それは、このサーバーの全てのプレイヤーが、不可能だと諦めている、究極の目標だった。
「……正気かよ、リク」
ゴードンが、呻くように言った。
「あの城は、難攻不落だぜ。これまで、いくつものトップギルドが挑んでは、門前払いを食らってきた。空に浮かんでるってだけで、まともに近づくことすらできねえんだぞ」
「だからこそ、です」
僕は、静かに、しかし、力強く言った。
「誰もが、不可能だと思っているからこそ、やる価値がある。そして、僕には、その『不可能』を『可能』に変えるための、糸口が見えています」
僕は、その日から、工房に籠もりきりになった。
食事も、睡眠も、最小限。僕の頭の中は、ただ一つ、《アヴァロン》の浮遊原理を解き明かすことだけで、満たされていた。
手がかりは、ガイアが残してくれた、いくつかの断片的なキーワードだけだ。
『安定化プロトコル』
『エーテル流との共鳴』
『古代文明の遺物』
僕は、それらのキーワードと、僕がこれまで集めてきた、この世界の地質データ、魔法工学の文献、そして、古代文明に関する伝承を、全て、頭の中で繋ぎ合わせ、一つの巨大な仮説を構築していく。
僕の研究室の壁は、数日で、膨大な計算式と、複雑な概念図で、埋め尽くされていった。
「『エーテル流』……。これは、いわゆる、大地の魔力が流れる、龍脈のようなものか。もし、そうなら、その流れは、地質構造に、大きく左右されるはずだ」
僕は、自らが作り上げた、エリュシオン・テラ全土の地質図の上に、目に見えないエーテル流の走行ルートを、予測して描き込んでいく。プレートの境界、巨大な断層、特殊な鉱脈。それらが、エーテルの流れを収束させ、あるいは、増幅させる、特異点となる。
「そして、『古代文明の遺物』。これが、おそらく、《アヴァロン》の心臓部にある、浮力を生み出す装置……『浮遊石』の正体だ」
僕は、文献に残された、浮遊石に関する、ごくわずかな記述を、読み解いていく。
『――それは、星の心臓の欠片。大地の歌に、耳を澄まし、空へと舞い上がる――』
「大地の歌……。これだ。『共鳴』だ」
パズルの、最後のピースが、はまった。
僕の脳裏に、その、壮大なシステムの、全貌が、浮かび上がった。
《アヴァロン》は、ただ、魔法の力だけで浮いているのではない。
城の心臓部にある「浮遊石」が、特定の周波数を持つ「エーテル流」と、共鳴現象を引き起こすことで、その巨体を、空中に安定させているのだ。
それは、超巨大な、音叉(おんさ)のようなものだ。片方の音叉を鳴らせば、それに共鳴して、もう片方も鳴り出す。それと同じ原理で、大地が奏でる、特定の「歌」に、浮遊石が、共鳴している。
「……ならば」
僕の口元に、不敵な笑みが浮かんだ。
「その『歌』を、乱してやればいい」
攻略の糸口が、見えた。
僕のユニークスキル【地形編集】は、エーテル流そのものに、直接、干渉することはできないだろう。
だが、エーテル流の流れを、決定づけている、「地質構造」になら、干渉できる。
エーテル流の、源流、あるいは、中継点となっている、地上の、どこかにある、特殊な地質構造。
そこを、僕が、わずかに、ほんのわずかに、改変してやるだけで。
共鳴の周波数は、乱れ、浮遊石は、その力を失う。
難攻不落の空中要塞は、自らの重みを支えきれなくなり、大地へと、堕ちてくる。
あまりにも、壮大で、そして、あまりにも、地質学者らしい、攻略プラン。
僕は、工房のドアを、勢いよく開けた。
そこには、僕の身を案じて、ゴードンとミモリさんが、心配そうな顔で、待っていた。
「二人とも、聞いてください」
僕は、寝不足でかすれた声で、しかし、確信に満ちた瞳で、彼らに告げた。
「……《アヴァロン》を、落とす方法が、わかりました」
僕のその一言は、これから始まる、壮絶な総力戦の、始まりを告げる、静かな、しかし、力強い、ファンファーレだった。
《アビス・コア》から帰還した僕たちは、《クラフトヘイム》の工房で、ガイアから得た情報の整理と分析に追われていた。僕の頭の中は、あの光の球体が語った、衝撃的な事実で飽和状態だった。
「カイザーが、二人目のイレギュラー……。そして、この世界の深層システムにアクセスしようとしている……」
僕は、工房の研究室の黒板に、ガイアから得たキーワードを書き出していく。ゴードンとミモリさんは、僕のただならぬ様子を、固唾を飲んで見守っていた。
「どういうことなんだ、リク? カイザーの野郎が、お前と同じ『イレギュラー』ってのは」
「簡単に言えば、彼もまた、この世界の法則を、ある程度、捻じ曲げることができる存在だということです。僕が『地質学』という知識体系をトリガーにしているのに対し、彼は、おそらく『支配』や『王権』といった概念をトリガーに、システムに干渉している」
「だから、あんなに強かったんだ……」
ミモリさんが、納得したように呟く。
「ですが、問題はそこではありません」
僕は、黒板に書かれた「深層システムへのアクセス」という文字を、強くチョークで囲んだ。
「ガイアによれば、カイザーは、僕に敗北したことで、表層的なルールでの支配を諦めた。そして、もっと根源的な、この世界のOSそのものを書き換えるような、禁断の領域に、足を踏み入れようとしている、と」
それは、もはやゲームのプレイヤーという範疇を、完全に逸脱した行為だ。一人のプレイヤーの歪んだ支配欲が、このETOという世界そのものを、内側から破壊しかねない。
「そんなこと、止めなきゃ……!」
ミモリさんが、悲痛な声を上げる。
「ええ。その通りです。そして、彼を止める方法は、一つしかない」
僕は、黒板の隅に描かれた、一枚のスケッチを指さした。雲海に浮かぶ、白亜の城。
「カイザーの力の源泉であり、彼の支配の象徴である、あの城――《アヴァロン》を、攻略するんです。彼を、彼の玉座から引きずり下ろし、その野望を、完全に打ち砕く」
僕の宣言に、工房の空気が、シンと張り詰めた。
《アヴァロン》攻略。それは、このサーバーの全てのプレイヤーが、不可能だと諦めている、究極の目標だった。
「……正気かよ、リク」
ゴードンが、呻くように言った。
「あの城は、難攻不落だぜ。これまで、いくつものトップギルドが挑んでは、門前払いを食らってきた。空に浮かんでるってだけで、まともに近づくことすらできねえんだぞ」
「だからこそ、です」
僕は、静かに、しかし、力強く言った。
「誰もが、不可能だと思っているからこそ、やる価値がある。そして、僕には、その『不可能』を『可能』に変えるための、糸口が見えています」
僕は、その日から、工房に籠もりきりになった。
食事も、睡眠も、最小限。僕の頭の中は、ただ一つ、《アヴァロン》の浮遊原理を解き明かすことだけで、満たされていた。
手がかりは、ガイアが残してくれた、いくつかの断片的なキーワードだけだ。
『安定化プロトコル』
『エーテル流との共鳴』
『古代文明の遺物』
僕は、それらのキーワードと、僕がこれまで集めてきた、この世界の地質データ、魔法工学の文献、そして、古代文明に関する伝承を、全て、頭の中で繋ぎ合わせ、一つの巨大な仮説を構築していく。
僕の研究室の壁は、数日で、膨大な計算式と、複雑な概念図で、埋め尽くされていった。
「『エーテル流』……。これは、いわゆる、大地の魔力が流れる、龍脈のようなものか。もし、そうなら、その流れは、地質構造に、大きく左右されるはずだ」
僕は、自らが作り上げた、エリュシオン・テラ全土の地質図の上に、目に見えないエーテル流の走行ルートを、予測して描き込んでいく。プレートの境界、巨大な断層、特殊な鉱脈。それらが、エーテルの流れを収束させ、あるいは、増幅させる、特異点となる。
「そして、『古代文明の遺物』。これが、おそらく、《アヴァロン》の心臓部にある、浮力を生み出す装置……『浮遊石』の正体だ」
僕は、文献に残された、浮遊石に関する、ごくわずかな記述を、読み解いていく。
『――それは、星の心臓の欠片。大地の歌に、耳を澄まし、空へと舞い上がる――』
「大地の歌……。これだ。『共鳴』だ」
パズルの、最後のピースが、はまった。
僕の脳裏に、その、壮大なシステムの、全貌が、浮かび上がった。
《アヴァロン》は、ただ、魔法の力だけで浮いているのではない。
城の心臓部にある「浮遊石」が、特定の周波数を持つ「エーテル流」と、共鳴現象を引き起こすことで、その巨体を、空中に安定させているのだ。
それは、超巨大な、音叉(おんさ)のようなものだ。片方の音叉を鳴らせば、それに共鳴して、もう片方も鳴り出す。それと同じ原理で、大地が奏でる、特定の「歌」に、浮遊石が、共鳴している。
「……ならば」
僕の口元に、不敵な笑みが浮かんだ。
「その『歌』を、乱してやればいい」
攻略の糸口が、見えた。
僕のユニークスキル【地形編集】は、エーテル流そのものに、直接、干渉することはできないだろう。
だが、エーテル流の流れを、決定づけている、「地質構造」になら、干渉できる。
エーテル流の、源流、あるいは、中継点となっている、地上の、どこかにある、特殊な地質構造。
そこを、僕が、わずかに、ほんのわずかに、改変してやるだけで。
共鳴の周波数は、乱れ、浮遊石は、その力を失う。
難攻不落の空中要塞は、自らの重みを支えきれなくなり、大地へと、堕ちてくる。
あまりにも、壮大で、そして、あまりにも、地質学者らしい、攻略プラン。
僕は、工房のドアを、勢いよく開けた。
そこには、僕の身を案じて、ゴードンとミモリさんが、心配そうな顔で、待っていた。
「二人とも、聞いてください」
僕は、寝不足でかすれた声で、しかし、確信に満ちた瞳で、彼らに告げた。
「……《アヴァロン》を、落とす方法が、わかりました」
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