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第五十七話:反王権連合の結成
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「――《アヴァロン》を、落とす方法が、わかりました」
僕の、静かだが確信に満ちた一言は、工房の空気を一変させた。
ゴードンは、驚きに目を見開き、ミモリさんは、息を呑んで僕の言葉の続きを待っている。
僕は、数日間の徹夜で書き上げた、壮大な作戦計画書――もはや論文に近い代物だった――を、テーブルの上に広げた。
「カイザーの城は、地上の、特定の場所を流れる『エーテル流』と、城の心臓部にある『浮遊石』が共鳴することで浮いています。つまり、僕たちが攻撃すべきは、空に浮かぶ城そのものではありません。その城を支えている、地上の『エーテル源』です」
僕は、マップ上の一点を指さした。それは、《アヴァロン》が浮かぶ空域から、遥か南に位置する、巨大なカルデラ火山地帯だった。
「ここです。この火山地帯の地下深くにある、特殊な地質構造こそが、《アヴァロン》の生命線。ここを、僕のスキルで叩く。そうすれば、あの難攻不落の要塞は、ただの石の塊となって、地に堕ちるはずです」
あまりにも、荒唐無稽な作戦。
だが、僕の瞳に宿る、揺るぎない自信と、緻密な理論武装を前にして、ゴードンとミモリさんの顔から、疑いの色は消えていった。
「……はっ。はははは! なるほどな!」
ゴードンは、腹を抱えて笑い出した。
「城を攻めるのに、城を攻撃しねえ、か! お前らしい、最高にひねくれた作戦だぜ! 面白え! 乗ってやろうじゃねえか!」
「私もです!」
ミモリさんも、力強く頷いた。
「リクさんの計算が、これまで間違っていたことなんて、一度もありませんでしたから! 私、信じます!」
二人の、絶対的な信頼。それが、僕の心を、何よりも強く支えてくれた。
だが、問題は、ここからだった。
「しかし、この作戦を実行するには、一つの大きな壁があります」
僕は、表情を引き締めた。
「僕が、地上のエーテル源にたどり着き、スキルを発動するまでの『時間』。カイザーは、僕たちが何かを企んでいることに、必ず気づくでしょう。そして、僕を止めるために、ギルドの総力を挙げて、襲いかかってくるはずです。僕たち三人だけでは、その猛攻を、凌ぎきることはできません」
「――つまり、陽動部隊が必要、ということじゃな」
声の主は、工房の入り口に、いつの間にか立っていた、バルカンだった。彼の背後には、《クラフトヘイム》の各生産ギルドのマスターたちが、厳しい表情で勢揃いしている。彼らは、僕たちの会話を、静かに聞いていたのだ。
「バルカンさん……!」
「リク殿。あんたのやろうとしていることは、理解した。そして、それは、もはや、あんたたち三人だけの戦いではない。この街に住む、我々、全ての戦いじゃ」
バルカンは、重々しく言った。
「《絶対王権》の支配は、我々、物作りを愛する者たちから、自由と、誇りを奪ってきた。奴らの支配下で、息苦しい思いをしてきたのは、我々だけではないはずじゃ」
その言葉を皮切りに、僕たちの工房は、にわかに、作戦司令部としての様相を呈し始めた。
バルカンは、彼の持つ、広範なネットワークを駆使し、エリュシオン・テラ全土に、檄を飛ばしたのだ。
――絶対王者、カイザーの圧政に、終止符を打つ時が来た。
――我々と共に、自由のために、立ち上がる者はいないか。
その呼びかけに、最初に呼応したのは、やはり、僕たちがこれまでに関わってきた、生産職ギルドのプレイヤーたちだった。
そして、その輪は、僕たちが想像していた以上の、大きなうねりとなって、サーバー中に広がっていった。
《絶対王権》によって、一方的にギルドを解散させられた、中小規模の戦闘ギルド。
彼らの独占的な狩場管理によって、活動の場を奪われた、ソロのトッププレイヤーたち。
カイザーの非道なやり方に、密かに、反感を抱いていた、名もなき、無数のプレイヤーたち。
彼らが、リクという「反逆者」の旗印の下に、次々と、集結し始めたのだ。
僕が、これまで、意図せずに行ってきた、数々の奇跡――PKギルドの撃退、サーバーイベントでの勝利、そして、システムの介入すら覆した一件。それらが、僕という存在に、彼らが希望を託すに足る、カリスマと、信頼性を、与えてくれていた。
ゴードンとミモリさんは、僕の右腕、左腕として、各地から集まってくるギルドとの、交渉や、連携調整に、奔走した。
猪突猛進だが、裏表のないゴードンの性格は、武骨な戦闘ギルドのマスターたちの心を掴み、心優しく、誰にでも分け隔てなく接するミモリさんの人柄は、疑心暗鬼になっていたプレイヤーたちの心を、解きほぐしていった。
そして、数日後。
《クラフトヘイム》の大広場には、信じられないほどの数のプレイヤーたちが、集結していた。
その数、実に、数千。
それぞれが掲げるギルドの旗印は、バラバラだ。装備も、練度も、決して、一枚岩ではない。
だが、彼らの瞳には、共通の、熱い光が宿っていた。
打倒、カイザー。
自由の、奪還。
僕は、その、数千のプレイヤーたちの前に、立った。
人前に立つのは、苦手だ。スピーチなど、もってのほか。
だが、今、僕の口から紡がれる言葉は、僕一人のものではなかった。この場に集った、全ての者たちの、思いを代弁する、言葉だった。
「――僕は、地質学者です」
僕は、静かに、語り始めた。
「僕にできることは、ただ、大地の声を聞き、その理を、読み解くことだけ。ですが、その、小さな知識が、今、巨大な権力という、厚い岩盤を、打ち砕くことができると、信じています」
僕は、集まった全員の顔を、一人一人、見渡した。
「僕たちは、烏合の衆かもしれない。ですが、無数の、小さな亀裂が集まれば、どんなに強固な岩盤にも、必ず、風穴を開けることができる! 僕に、皆さんの力を、貸してください!」
僕の、精一杯の演説。
それに、応えたのは、地を揺るがすような、雄叫びだった。
「うおおおおおお!」
「リク! リク! リク!」
その日、エリュシオン・テラの歴史に、新たな名前が刻まれた。
打倒《絶対王権》を掲げ、自由を愛する、全てのプレイヤーたちが、その垣根を越えて、結集した、史上最大の、連合軍。
――『反王権連合(アンチ・モナーキー・アライアンス)』。
その、結成の瞬間だった。
僕たちの、反撃の狼煙は、もはや、小さな火種ではない。
サーバー全体を巻き込み、王者の玉座を焼き尽くす、巨大な、業火となって、燃え上がろうとしていた。
僕の、静かだが確信に満ちた一言は、工房の空気を一変させた。
ゴードンは、驚きに目を見開き、ミモリさんは、息を呑んで僕の言葉の続きを待っている。
僕は、数日間の徹夜で書き上げた、壮大な作戦計画書――もはや論文に近い代物だった――を、テーブルの上に広げた。
「カイザーの城は、地上の、特定の場所を流れる『エーテル流』と、城の心臓部にある『浮遊石』が共鳴することで浮いています。つまり、僕たちが攻撃すべきは、空に浮かぶ城そのものではありません。その城を支えている、地上の『エーテル源』です」
僕は、マップ上の一点を指さした。それは、《アヴァロン》が浮かぶ空域から、遥か南に位置する、巨大なカルデラ火山地帯だった。
「ここです。この火山地帯の地下深くにある、特殊な地質構造こそが、《アヴァロン》の生命線。ここを、僕のスキルで叩く。そうすれば、あの難攻不落の要塞は、ただの石の塊となって、地に堕ちるはずです」
あまりにも、荒唐無稽な作戦。
だが、僕の瞳に宿る、揺るぎない自信と、緻密な理論武装を前にして、ゴードンとミモリさんの顔から、疑いの色は消えていった。
「……はっ。はははは! なるほどな!」
ゴードンは、腹を抱えて笑い出した。
「城を攻めるのに、城を攻撃しねえ、か! お前らしい、最高にひねくれた作戦だぜ! 面白え! 乗ってやろうじゃねえか!」
「私もです!」
ミモリさんも、力強く頷いた。
「リクさんの計算が、これまで間違っていたことなんて、一度もありませんでしたから! 私、信じます!」
二人の、絶対的な信頼。それが、僕の心を、何よりも強く支えてくれた。
だが、問題は、ここからだった。
「しかし、この作戦を実行するには、一つの大きな壁があります」
僕は、表情を引き締めた。
「僕が、地上のエーテル源にたどり着き、スキルを発動するまでの『時間』。カイザーは、僕たちが何かを企んでいることに、必ず気づくでしょう。そして、僕を止めるために、ギルドの総力を挙げて、襲いかかってくるはずです。僕たち三人だけでは、その猛攻を、凌ぎきることはできません」
「――つまり、陽動部隊が必要、ということじゃな」
声の主は、工房の入り口に、いつの間にか立っていた、バルカンだった。彼の背後には、《クラフトヘイム》の各生産ギルドのマスターたちが、厳しい表情で勢揃いしている。彼らは、僕たちの会話を、静かに聞いていたのだ。
「バルカンさん……!」
「リク殿。あんたのやろうとしていることは、理解した。そして、それは、もはや、あんたたち三人だけの戦いではない。この街に住む、我々、全ての戦いじゃ」
バルカンは、重々しく言った。
「《絶対王権》の支配は、我々、物作りを愛する者たちから、自由と、誇りを奪ってきた。奴らの支配下で、息苦しい思いをしてきたのは、我々だけではないはずじゃ」
その言葉を皮切りに、僕たちの工房は、にわかに、作戦司令部としての様相を呈し始めた。
バルカンは、彼の持つ、広範なネットワークを駆使し、エリュシオン・テラ全土に、檄を飛ばしたのだ。
――絶対王者、カイザーの圧政に、終止符を打つ時が来た。
――我々と共に、自由のために、立ち上がる者はいないか。
その呼びかけに、最初に呼応したのは、やはり、僕たちがこれまでに関わってきた、生産職ギルドのプレイヤーたちだった。
そして、その輪は、僕たちが想像していた以上の、大きなうねりとなって、サーバー中に広がっていった。
《絶対王権》によって、一方的にギルドを解散させられた、中小規模の戦闘ギルド。
彼らの独占的な狩場管理によって、活動の場を奪われた、ソロのトッププレイヤーたち。
カイザーの非道なやり方に、密かに、反感を抱いていた、名もなき、無数のプレイヤーたち。
彼らが、リクという「反逆者」の旗印の下に、次々と、集結し始めたのだ。
僕が、これまで、意図せずに行ってきた、数々の奇跡――PKギルドの撃退、サーバーイベントでの勝利、そして、システムの介入すら覆した一件。それらが、僕という存在に、彼らが希望を託すに足る、カリスマと、信頼性を、与えてくれていた。
ゴードンとミモリさんは、僕の右腕、左腕として、各地から集まってくるギルドとの、交渉や、連携調整に、奔走した。
猪突猛進だが、裏表のないゴードンの性格は、武骨な戦闘ギルドのマスターたちの心を掴み、心優しく、誰にでも分け隔てなく接するミモリさんの人柄は、疑心暗鬼になっていたプレイヤーたちの心を、解きほぐしていった。
そして、数日後。
《クラフトヘイム》の大広場には、信じられないほどの数のプレイヤーたちが、集結していた。
その数、実に、数千。
それぞれが掲げるギルドの旗印は、バラバラだ。装備も、練度も、決して、一枚岩ではない。
だが、彼らの瞳には、共通の、熱い光が宿っていた。
打倒、カイザー。
自由の、奪還。
僕は、その、数千のプレイヤーたちの前に、立った。
人前に立つのは、苦手だ。スピーチなど、もってのほか。
だが、今、僕の口から紡がれる言葉は、僕一人のものではなかった。この場に集った、全ての者たちの、思いを代弁する、言葉だった。
「――僕は、地質学者です」
僕は、静かに、語り始めた。
「僕にできることは、ただ、大地の声を聞き、その理を、読み解くことだけ。ですが、その、小さな知識が、今、巨大な権力という、厚い岩盤を、打ち砕くことができると、信じています」
僕は、集まった全員の顔を、一人一人、見渡した。
「僕たちは、烏合の衆かもしれない。ですが、無数の、小さな亀裂が集まれば、どんなに強固な岩盤にも、必ず、風穴を開けることができる! 僕に、皆さんの力を、貸してください!」
僕の、精一杯の演説。
それに、応えたのは、地を揺るがすような、雄叫びだった。
「うおおおおおお!」
「リク! リク! リク!」
その日、エリュシオン・テラの歴史に、新たな名前が刻まれた。
打倒《絶対王権》を掲げ、自由を愛する、全てのプレイヤーたちが、その垣根を越えて、結集した、史上最大の、連合軍。
――『反王権連合(アンチ・モナーキー・アライアンス)』。
その、結成の瞬間だった。
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