不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

文字の大きさ
66 / 80

第七十話:勝利、そして絶対王権の崩壊

しおりを挟む
 カイザーの消滅を示す、無機質なシステムメッセージが、僕たちの視界の隅で、静かに、消えていった。
 後に残されたのは、アヴァロンの巨大な残骸が突き刺さる、広大なクレーターと、僕たち三人の、荒い息遣いだけ。
 風が、瓦礫の山を吹き抜け、ひゅう、と、物悲しい音を立てた。まるで、一つの時代の終わりを、弔うかのような、挽歌だった。

「……終わったんだな。本当に」
 ゴードンが、天を仰ぎ、ぽつりと呟いた。彼の巨体は、無数の傷で覆われ、満身創痍だったが、その表情には、戦いを終えた戦士だけが浮かべることのできる、深い安堵の色が浮かんでいた。
「はい……。終わりましたね」
 ミモリさんの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。それは、恐怖から解放された安堵の涙であり、この壮絶な戦いで散っていった、多くの仲間たちへの、祈りの涙でもあった。

 僕もまた、胸に、ぽっかりと、大きな穴が空いたような、奇妙な喪失感を、感じていた。
 憎むべき、敵だった。だが、同時に、彼ほど、僕の知的好奇心を、刺激し、僕を、成長させてくれた存在も、いなかった。
 カイザーという、絶対的な「壁」があったからこそ、僕は、仲間と出会い、自らの知識の、新たな可能性を、切り拓くことができたのだ。

 ――さらばだ、カイザー。
 僕の、最初で、最後の、好敵手(ライバル)。

 僕は、心の中で、静かに、彼に、別れを告げた。
 その時だった。
 僕たちの、視界の上部に、そして、おそらくは、このETOにログインしている、全てのプレイヤーの視界に、金色の縁取りが施された、巨大なテロップが、流れ始めた。

【サーバーアナウンス】
《絶対王権》のギルドマスター『カイザー』の死亡、及び、ギルド本拠地《アヴァロン》の完全崩壊を確認しました。

 その、アナウンスが、引き金となった。
 エリュシオン・テラの、各地で、戦いの趨勢を、固唾を飲んで見守っていた、全てのプレイヤーたちの間で、爆発的な、歓声が、巻き起こったのだ。

「うおおおおお! やった! 本当に、やりやがった!」
「絶対王権が、崩壊したぞ!」
「『反王権連合』の、勝利だ!」

 僕たちがいた、クレーターの周囲にも、後方で待機していた、連合軍の仲間たちが、雄叫びを上げながら、駆け寄ってきた。
 彼らは、僕たち三人を、見つけると、その場の勢いで、僕たちを、何度も、何度も、胴上げした。

「リク! お前が、俺たちの、英雄だ!」
「ゴードン! ミモリ! よく、やってくれた!」

 バルカンも、その、皺だらけの顔を、くしゃくしゃにしながら、僕たちの肩を、力強く叩いた。
「見事じゃった、リク殿。あんたは、本当に、この世界を、変えてみせたわい」

 勝利の、歓喜。
 仲間たちの、笑顔。
 僕の胸を、温かい、達成感が、満たしていく。
 僕たちの、戦いは、確かに、報われたのだ。

 この日を境に、《絶対王権》という、巨大なギルドは、その実体を、完全に、失った。
 王を失い、本拠地を失った、残存メンバーたちは、完全に、戦意を喪失した。
 ある者は、その場に崩れ落ち、ただ、呆然とし。
 ある者は、静かに、このゲームから、ログアウトしていった。
 かつて、このサーバーに、絶対的な恐怖と、支配を、もたらした、巨大な帝国は、あまりにも、あっけなく、砂の城のように、崩れ去ったのだ。

 僕たち、『反王権連合』の勝利。
 そして、その中心にいた、僕と、ゴードン、ミモリさんの名は、このETOの世界の、救世主として、英雄として、サーバー中に、永遠に、語り継がれることになるだろう。
 僕たちの、長い、長い戦いは、ついに、終わりを告げたのだ。


 ――はず、だった。

 仲間たちとの、勝利の祝宴も、一段落し、僕が、一人、静かに、アヴァロンの残骸を、見つめていた、その時。
 僕の、脳裏に、あの、ガイアの声が、再び、響き渡った。
 それは、以前のような、穏やかなものではなかった。
 明確な、焦りと、警告を、含んだ、緊迫した、声だった。

『……探求者、リク。聞こえますか』
(ガイア……? どうしたんだ)
『……事態は、最悪の、方向へと、進んでいます』

 ガイアの、その言葉に、僕の、心臓が、冷たく、跳ねた。

『彼は、死んだのでは、ありませんでした。肉体という、枷を、失っただけ』
『彼は、その、強靭な、精神力と、執着だけで、私ですら、容易に、触れることのできない、あの場所へと、到達してしまった』

 ガイアが、言っていた、言葉が、僕の脳裏に、蘇る。
『――彼は、この世界の、もっと根源的な、深層のシステムへと、アクセスしようとしています』

「まさか……!」
 僕は、戦慄した。
 カイザーの、死は、本当の、終わりでは、なかった。
 それは、彼が、プレイヤーという、存在を、超越するための、最後の、プロセスだったのだ。
 彼は、肉体を、失ったが、その、歪んだ、意識は、データとなり、ガイアの言う、「深層システム」へと、アクセスすることに、成功してしまった。
 彼は、もはや、プレイヤーではない。
 この、世界の、理そのものに、寄生する、悪性の「バグ」。
 あるいは、「ウイルス」のような、存在へと、変貌を遂げてしまったのだ。

『……聞こえます。彼の、思考が』
 ガイアの声が、恐怖に、震えていた。
『彼は、この世界の、全てを、破壊し、そして、自らの、理想とする、ただ一つの、法則だけの、世界へと、再構築しようとしています。始まりの、場所から。全てを、ゼロに、戻すために』

 世界の、危機は、去ってはいなかった。
 それどころか、それは、これまでとは、比較にならない、新たな、そして、より深刻な形で、今まさに、始まろうとしていた。
 王は、死んだ。
 そして、代わりに、神を、僭称する、悪魔が、生まれようとしている。

 僕の、本当の、最後の戦いは、まだ、終わってはいなかったのだ。
 僕は、勝利の歓声に沸く、仲間たちに、背を向け、アヴァロンの、残骸が突き刺さる、クレーターの、深淵を、静かに、見つめた。
 その、闇の、さらに奥底から、この世界、全ての、終わりを告げる、不気味な、胎動が、聞こえてくるような、気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

処理中です...