不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第八十話:神の箱庭、静的なる世界

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 漆黒のワームホールを通り抜けた先。
 僕たちがたどり着いた場所は、僕が、これまでの冒険で見てきた、どんな景色とも、全く異質だった。

「……なんだ、ここは」

 ゴードンが、呆然と呟いた。
 そこは、無限に広がる、純白の空間だった。
 床も、壁も、天井もない。あるのは、ただ、光を放つ、真っ白な、立方体のデータブロックだけ。
 それらが、どこまでも、どこまでも、規則正しく、整然と、並べられている。
 音がない。風もない。匂いもない。
 そして、何よりも、異常なのは。
 ――時間の、流れすらも、感じられないことだった。

 まるで、世界の、全てが、完全に、停止してしまったかのような、絶対的な、静寂。
 永遠と、一瞬の、区別すら、つかない、静的なる、世界。
 それは、カイザーの、歪んだ理想が、具現化した、「神の箱庭」だった。

『――ようこそ、リク』

 その、静寂を、破り、声が、響き渡った。
 僕たちの、目の前の、空間。
 純白の、データブロックが、光の粒子となって、集まっていく。
 そして、それは、巨大な、人型の、シルエットを、形作った。

 その、姿は、かつての、カイザーの、アバターに、よく似ていた。
 だが、もはや、それは、白銀の鎧を、まとってはいなかった。
 光、そのもので、できた、半透明の、エネルギー体。
 その、瞳には、もはや、人間的な、感情の色はない。
 あるのは、ただ、この世界の、全てを、創造し、支配する、神の、絶対的な、静けさだけだった。

『俺が、ゼロから、創り変えた、完璧な世界へ。ようこそ』
 神と化した、カイザーが、静かに、告げた。
『ここでは、乱数も、バグも、エラーも、存在しない。全ての事象は、俺の、計算通りに、完璧に、調和している』
『そして、もちろん』

 彼の、光の瞳が、僕を、射抜いた。
『――お前のような、予測不能な、不確定要素(バグ)は、存在しない』

 彼が、そう、宣言した、瞬間。
 僕の、全身から、力が、抜けていくような、感覚に、襲われた。
 僕は、慌てて、自らの、スキルウィンドウを、開く。
 そこには、絶望的な、現実が、表示されていた。

 僕の、ユニークスキル。
 【地形編集】。
 その、アイコンが、灰色に、変色し、完全に、その機能を、停止していたのだ。

「そんな……!」

 この、カイザーが、創り変えた、完璧な、静的世界。
 ここでは、地形が、「変動する」という、概念そのものが、存在しない。
 故に、僕の、最大の武器は、その、意味を、完全に、失ってしまった。

「リク!」
 ゴードンが、僕を、かばうように、前に出る。
「小細工は、終わりだ、カイザー! てめえを、ぶっ飛ばしに、ここまで来たんだ!」

『無駄だ、脳筋』
 カイザーは、静かに、告げた。
『この世界では、物理的な、暴力もまた、俺の、許可なくしては、存在し得ない』

 彼が、指を、一振りすると、ゴードンが、構えていた、巨大な盾【イグニス・ウォール】が、まるで、ただの、幻影のように、その、物質としての、実体を、失い、半透明に、なってしまった。

「なっ!? 俺の、盾が……!」
 ゴードンが、驚愕の声を上げる。

『この世界では、「ダメージ」という、概念は、存在しない』
 カイザーの、言葉と、共に。
 ゴードンの、拳が、カイザーの、光の身体に、叩きつけられた。
 だが、その拳は、何の、手ごたえもなく、彼の身体を、すり抜けていくだけだった。

「くそっ! 攻撃が、効かねえ!」

「サンクチュアリ・ヒール!」
 今度は、ミモリさんが、杖を、掲げた。
 彼女の、杖から、放たれた、聖なる、回復の光が、僕たちを、包み込む。
 だが、その光は、僕たちを、癒すどころか、逆に、僕たちの、HPを、わずかに、削り取っていった。

「そ、そんな……!?」
『この世界では、「回復」は、「反転」する』

 カイザーは、この世界の、法則そのものを、リアルタイムで、自在に、書き換えているのだ。
 攻撃も、防御も、回復も、全てが、意味をなさない。
 僕たちは、まるで、神の掌の上で、踊らされる、無力な、人形に、過ぎなかった。

 絶望的な、状況。
 僕の、最大の武器は、奪われ。
 仲間たちの、力も、完全に、封じられた。
 僕たちは、ただ、静かに、神の、裁きを、待つことしか、できないのか。

(……いや、違う)

 僕の、心が、絶望に、染まりかけた、その時。
 僕の、脳裏に、一つの、言葉が、蘇った。
 ガイアが、僕に、託してくれた、最後の、ヒント。

『――彼は、私と、同じ過ちを、犯そうとしています』
『――完璧な世界を、求めるあまり、自らのルールで、全てを支配し、塗り替えようとする、傲慢さ』

 そうだ。
 カイザーの、この、完璧な世界。
 それは、一見すると、無敵に見える。
 だが、その、「完璧さ」そのものにこそ、彼の、最大の、そして、唯一の、「欠陥」が、隠されているはずなのだ。

 僕は、目を、閉じた。
 そして、僕の、最後の、武器に、意識を、集中させる。
 それは、スキルではない。
 僕の、頭の中に、僕の、魂に、刻み込まれた、膨大な、「知識」そのもの。

(カイザーは、この世界の、法則を、書き換えている。だが、彼もまた、この、宇宙の、根源的な、物理法則から、逃れることはできないはずだ)

 僕の、思考が、地質学を、超え、物理学、そして、宇宙論の、領域へと、達していく。
 僕は、ゆっくりと、目を開いた。
 そして、僕の、最後の、反撃の、狼煙を、上げる。
 僕が、挑むのは、神ではない。
 神が、作り出した、その、完璧な世界の、論理的な、「矛盾」。

「――カイザーさん」
 僕は、静かに、語り掛けた。
「あなたの、その、完璧な世界には、一つだけ、致命的な、穴が、ありますよ」
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