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第八十二話:王の孤独、地質学者の対話
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神の箱庭は、崩壊した。
僕たちの足元には、元の、《アビス・コア》の、黒曜石の回廊が、再び、その姿を現している。
だが、その空間もまた、無傷ではなかった。カイザーの、完璧な世界が、崩壊した、その余波で、あちこちに、空間の亀裂が走り、天井からは、データブロックの破片が、ぱらぱらと、降り注いでいた。
そして、僕たちの目の前。
光でできた、カイザーの身体は、もはや、その、巨大な、人型のシルエットを、保つことができず、まるで、風前の灯火のように、激しく、明滅を、繰り返していた。
彼の、絶対的な、支配は、終わったのだ。
「……リク」
ゴードンが、僕の隣で、拳を握りしめた。
「今なら、ヤツを、完全に、消し去れるんじゃねえか?」
彼の言う通りだった。
弱体化した、今のカイザーなら、僕たちが、総攻撃をかければ、その、データの、存在そのものを、完全に、消去(デリート)できるかもしれない。
それが、おそらく、この、戦いの、最も、合理的で、確実な、終わらせ方なのだろう。
だが、僕は、静かに、首を横に振った。
「……いえ。その前に、少しだけ、彼と、話をさせてください」
「話? こんな、土壇場で、何を……」
「お願いします」
僕の、真剣な、眼差しに、ゴードンは、何かを、察したように、黙って、一歩、下がった。
ミモリさんも、静かに、僕の、決断を、見守ってくれている。
僕は、一人、ゆっくりと、明滅する、光の塊へと、歩み寄った。
そして、僕は、彼に、最後の、「対話」を、試みた。
それは、地質学者として、そして、同じ、この世界に、魅せられた、一人の、探求者として。
「カイザーさん」
僕は、静かに、語り掛けた。
「あなたの、創ろうとした、世界は、確かに、美しかった。矛盾も、乱数も、エラーもない、完璧で、静的な、世界。それは、ある意味で、究極の、理想郷だったのかもしれない」
僕は、一度、言葉を切った。
「ですが、その、完璧さこそが、あなたの、世界の、最大の、弱点だったんです」
『……何を、言って、いる……』
カイザーの、弱々しい、思念が、返ってきた。
「地質学的に、見れば、あなたの創った、静的な世界は、最も、脆く、そして、不安定な、構造なんです」
僕は、僕の、専門分野の、言葉で、彼に、語り続けた。
「地球という、この星が、なぜ、46億年もの、長きにわたって、生命を、育み続けることができたのか。それは、この星が、常に、『変化』し続けてきたからです」
「プレートが、動き、大陸を、創り、山脈を、隆起させる。火山が、噴火し、大地に、新たな、栄養を、もたらし、大気の、成分を、変えていく。海流が、巡り、熱を、運び、気候を、安定させる。それら、全ての、ダイナミックな、変動が、互いに、影響を与え合う、『動的平衡』。それこそが、この星を、豊かにし、生命の、多様性を、生み出してきた、原動力なんです」
僕の言葉は、ただの、説教ではない。
科学的な、事実に基づいた、この世界の、真理だった。
「もし、あなたの、理想通り、プレートの、動きが、止まり、火山の、噴火も、なくなったとしたら、どうなるか。大地は、その、内なる熱を、失い、内核は、冷え固まり、星の、磁場は、消滅する。そうなれば、太陽から、降り注ぐ、致死的な、宇宙線から、星を、守るものは、何も、なくなり、やがて、全ての生命は、死に絶える。あなたの、完璧な、静的世界とは、すなわち、緩やかな、『死』そのものなんです」
「変化と、不完全さこそが、世界を、生命を、豊かにする」
「僕たちが、愛した、この、エリュシオン・テラの世界も、そうだったはずだ。予測不能な、出来事が、起きるから、面白い。思い通りに、いかないから、工夫する。様々な、価値観を持つ、プレイヤーたちが、ぶつかり合うからこそ、新たな、物語が、生まれる」
僕の、言葉は、静かに、しかし、確実に、カイザーの、精神の、最も、深い場所へと、浸透していく。
彼の、精神の、核。
それは、神としての、傲慢さではなかった。
現実世界で、生まれながらにして、全てを、持ち、誰にも、理解されず、誰も、信じることができず。
ただ、一人、自らの、完璧な、ルールの中だけでしか、自分自身を、保つことができなかった。
その、絶対的な、「孤独」。
僕の言葉は、初めて、その、王の、孤独に、触れた。
『……孤独……』
カイザーの、光の身体から、一つの、小さな、光の雫が、こぼれ落ちた。
それは、AIである、彼が、流すはずのない、「涙」のように、見えた。
『……俺は、ただ……完璧を、求めただけだ……。俺が、理解できる、俺が、支配できる、美しい、世界を……。そこに、お前のような、不確定要素は、必要ない……』
彼は、僕の、対話を、拒絶した。
その、揺らめく、光の身体が、再び、禍々しい、エネルギーを、放ち始める。
彼の、最後の、プライドが、自らの、消滅よりも、この世界、そのものを、道連れにすることを、選んだのだ。
『――ならば、全て、無に、帰るがいい!』
僕たちの足元には、元の、《アビス・コア》の、黒曜石の回廊が、再び、その姿を現している。
だが、その空間もまた、無傷ではなかった。カイザーの、完璧な世界が、崩壊した、その余波で、あちこちに、空間の亀裂が走り、天井からは、データブロックの破片が、ぱらぱらと、降り注いでいた。
そして、僕たちの目の前。
光でできた、カイザーの身体は、もはや、その、巨大な、人型のシルエットを、保つことができず、まるで、風前の灯火のように、激しく、明滅を、繰り返していた。
彼の、絶対的な、支配は、終わったのだ。
「……リク」
ゴードンが、僕の隣で、拳を握りしめた。
「今なら、ヤツを、完全に、消し去れるんじゃねえか?」
彼の言う通りだった。
弱体化した、今のカイザーなら、僕たちが、総攻撃をかければ、その、データの、存在そのものを、完全に、消去(デリート)できるかもしれない。
それが、おそらく、この、戦いの、最も、合理的で、確実な、終わらせ方なのだろう。
だが、僕は、静かに、首を横に振った。
「……いえ。その前に、少しだけ、彼と、話をさせてください」
「話? こんな、土壇場で、何を……」
「お願いします」
僕の、真剣な、眼差しに、ゴードンは、何かを、察したように、黙って、一歩、下がった。
ミモリさんも、静かに、僕の、決断を、見守ってくれている。
僕は、一人、ゆっくりと、明滅する、光の塊へと、歩み寄った。
そして、僕は、彼に、最後の、「対話」を、試みた。
それは、地質学者として、そして、同じ、この世界に、魅せられた、一人の、探求者として。
「カイザーさん」
僕は、静かに、語り掛けた。
「あなたの、創ろうとした、世界は、確かに、美しかった。矛盾も、乱数も、エラーもない、完璧で、静的な、世界。それは、ある意味で、究極の、理想郷だったのかもしれない」
僕は、一度、言葉を切った。
「ですが、その、完璧さこそが、あなたの、世界の、最大の、弱点だったんです」
『……何を、言って、いる……』
カイザーの、弱々しい、思念が、返ってきた。
「地質学的に、見れば、あなたの創った、静的な世界は、最も、脆く、そして、不安定な、構造なんです」
僕は、僕の、専門分野の、言葉で、彼に、語り続けた。
「地球という、この星が、なぜ、46億年もの、長きにわたって、生命を、育み続けることができたのか。それは、この星が、常に、『変化』し続けてきたからです」
「プレートが、動き、大陸を、創り、山脈を、隆起させる。火山が、噴火し、大地に、新たな、栄養を、もたらし、大気の、成分を、変えていく。海流が、巡り、熱を、運び、気候を、安定させる。それら、全ての、ダイナミックな、変動が、互いに、影響を与え合う、『動的平衡』。それこそが、この星を、豊かにし、生命の、多様性を、生み出してきた、原動力なんです」
僕の言葉は、ただの、説教ではない。
科学的な、事実に基づいた、この世界の、真理だった。
「もし、あなたの、理想通り、プレートの、動きが、止まり、火山の、噴火も、なくなったとしたら、どうなるか。大地は、その、内なる熱を、失い、内核は、冷え固まり、星の、磁場は、消滅する。そうなれば、太陽から、降り注ぐ、致死的な、宇宙線から、星を、守るものは、何も、なくなり、やがて、全ての生命は、死に絶える。あなたの、完璧な、静的世界とは、すなわち、緩やかな、『死』そのものなんです」
「変化と、不完全さこそが、世界を、生命を、豊かにする」
「僕たちが、愛した、この、エリュシオン・テラの世界も、そうだったはずだ。予測不能な、出来事が、起きるから、面白い。思い通りに、いかないから、工夫する。様々な、価値観を持つ、プレイヤーたちが、ぶつかり合うからこそ、新たな、物語が、生まれる」
僕の、言葉は、静かに、しかし、確実に、カイザーの、精神の、最も、深い場所へと、浸透していく。
彼の、精神の、核。
それは、神としての、傲慢さではなかった。
現実世界で、生まれながらにして、全てを、持ち、誰にも、理解されず、誰も、信じることができず。
ただ、一人、自らの、完璧な、ルールの中だけでしか、自分自身を、保つことができなかった。
その、絶対的な、「孤独」。
僕の言葉は、初めて、その、王の、孤独に、触れた。
『……孤独……』
カイザーの、光の身体から、一つの、小さな、光の雫が、こぼれ落ちた。
それは、AIである、彼が、流すはずのない、「涙」のように、見えた。
『……俺は、ただ……完璧を、求めただけだ……。俺が、理解できる、俺が、支配できる、美しい、世界を……。そこに、お前のような、不確定要素は、必要ない……』
彼は、僕の、対話を、拒絶した。
その、揺らめく、光の身体が、再び、禍々しい、エネルギーを、放ち始める。
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