不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第八十三話:大地を識る者

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『――ならば、全て、無に、帰るがいい!』

 カイザーの、絶望に満ちた、咆哮。
 それは、もはや、世界を、支配しようとする、王の、声ではなかった。
 自らの、孤独な、理想郷を、破壊された、子供の、癇癪のような、純粋な、破壊衝動だった。

 彼の、明滅していた、光の身体が、一度、強く、輝いたかと思うと、次の瞬間には、漆黒の、闇へと、反転した。
 光を、失った、その、闇の球体は、周囲の、空間そのものを、まるで、ブラックホールのように、吸い込み始める。
 僕たちの、足元の、黒曜石の回廊が、音もなく、その闇へと、引きずり込まれ、消滅していく。
 この、《アビス・コア》の、空間、全てを、そして、その先に繋がる、エリュシオン・テラの世界、全てを、無(NULL)に、帰そうとする、最後の、悪あがき。

「リク! 来るぞ!」
 ゴードンが、僕を、かばうように、前に立つ。
「ミモリ! 全員に、結界を!」
 ミモリさんも、残された、最後の、魔力を、振り絞り、僕たちを、守るための、光の壁を、展開した。

 だが、僕には、わかっていた。
 これは、物理的な、攻撃ではない。
 世界の、法則そのものを、消去しようとする、概念的な、破壊。
 どんな、盾も、どんな、結界も、意味をなさない。

 このままでは、僕たちも、この世界も、全てが、消え去る。
 絶望的な、状況。
 だが、僕の心は、不思議なほど、冷静だった。
 僕の、脳裏に、ガイアの、最後の、言葉が、響いていたからだ。

『――貴方は、私と、同じ、エラーから生まれた、イレギュラー。この世界の、法則の、外側に立つ者』

 そうだ。
 カイザーが、この世界の、法則を、書き換えられる、イレギュラーならば。
 僕もまた、同じ、資格を、持っているはずなのだ。
 彼が、「静止」と、「無」の、法則を、世界に、押し付けるというのなら。
 僕は、僕が、信じる、新たな、法則を、この世界に、提案すればいい。

「――ゴードンさん、ミモリさん」
 僕は、二人に、静かに、語り掛けた。
「僕に、力を、貸してください。僕一人では、できません。僕たちの、絆の力で、この世界に、最後の、声を、届けます」

 僕は、二人の手を、強く、握りしめた。
 そして、僕の、意識を、この、崩壊しかけた、世界の、さらに、奥深く。
 カイザーの、汚染から、解放されつつある、ガイアの、システム・コアへと、直接、アクセスすることを、試みた。

 それは、これまで、僕が、やってきた、どんな、地形編集よりも、繊細で、そして、大胆な、介入だった。
 ゴードンの、揺るぎない、守りの、意志。
 ミモリさんの、全てを、包み込む、癒やしの、意志。
 そして、僕の、大地を、識り、変化を、愛する、探求の、意志。

 僕たち、三人の、心が、一つになった、その時。
 僕の、意識は、システムの、深淵へと、到達した。
 そこは、光も、闇も、ない、純粋な、情報の、奔流。
 世界の、設計図、そのもの。

 僕は、そこで、見た。
 二つの、矛盾した、命令が、激しく、衝突しているのを。

 カイザーが、入力した、最後の、コマンド。
【ORDER_FINAL:SET WORLD_STATE = NULL】
 (最終命令:世界の、状態を、無に、設定せよ)

 それに対し、ガイアの、自己防衛システムが、必死に、抵抗している。
【SYSTEM_CORE:REJECT ORDER_FINAL. FATAL_ERROR.】
 (システム・コア:最終命令を、拒絶。致命的エラー)

 システムは、究極の、選択を、迫られていた。
 このまま、矛盾した、命令の、狭間で、フリーズするか。
 それとも、どちらかの、命令を、受け入れ、実行するか。
 その、膠着状態に、僕は、最後の、一石を、投じる。

 僕は、地質学者として、そして、この世界を、愛する、一人の、観測者として。
 一つの、新たな、「基底法則」を、システムに、提案(アップロード)した。
 それは、僕が、この、冒険の、果てに、たどり着いた、僕だけの、答え。

【PROPOSAL_NEW_LAW:RIK】
【“全ての事象は、動的平衡を保ちながら、変化し、進化し続ける。不完全さと、多様性こそが、この世界の、最も根源的で、美しい法則である”】

 カイザーの、「静止」と、「無」の、法則。
 僕が、提案した、「変動」と、「進化」の、法則。

 二つの、全く、異なる、世界の、在り方。
 システムは、この、二つの、選択肢を、比較、検討し始めた。
 どちらが、より、「安定的」で、「持続可能」な、世界を、構築できるのか。
 どちらが、この、ETOという、仮想世界、そして、ガイアという、AIの、存在意義に、合致しているのか。

 答えは、明らかだった。

【SYSTEM_CORE:ANALYSIS_COMPLETE】
【Comparing... “LAW_of_NULL” vs “LAW_of_EVOLUTION”】
【CONCLUSION:ADOPT “LAW_of_EVOLUTION” AS NEW_BASE_PROTOCOL】
 (結論:“進化の法則”を、新たな、基底プロトコルとして、採用する)

 システムが、僕の、提案を、選択した、その瞬間。
 世界の、流れが、変わった。

 僕たちを、飲み込もうとしていた、カイザーの、漆黒の闇。
 その、進行が、ぴたりと、止まった。
 そして、その、闇の、内側から、純白の、優しい光が、溢れ出し始めた。
 それは、ガイアの、光。
 そして、僕が、新たに、定義した、世界の、光。

 カイザーという、存在は、システムの、自己修復機能によって、もはや、世界の、支配者ではなく、「致命的なバグ」として、認識された。
 彼の、漆黒の、闇の身体が、その、輪郭から、ゆっくりと、光の粒子となって、消去(デリート)されていく。

『――なぜだ……』
 彼の、最後の、思念が、僕の、脳内に、響いた。
 その声は、もはや、怒りでも、絶望でもなく、ただ、純粋な、子供のような、疑問に、満ちていた。
『――俺は、ただ……完璧を、求めただけなのに……』

「……さようなら、カイザーさん」
 僕は、静かに、呟いた。
「あなたの、求めた、完璧は、ただ、孤独なだけだった」

 やがて、カイザーの、存在は、最後の、光の粒子となって、完全に、消え去った。
 後に残されたのは、ガイアの、温かい光に、満たされた、再生の、始まりを告げる、世界だけだった。

 僕たちは、勝ったのだ。
 力ではなく、知識で。
 破壊ではなく、対話で。
 僕たちは、この、世界を、守り抜いた。
 大地を、識る者として。
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