無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ

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第4話 スキルの検証とゴブリン・デバッグ

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夜明けの光が森の木々の隙間から差し込み、昨夜の死闘がまるで嘘だったかのように、辺りを穏やかに照らし出していた。俺はまだ心臓が早鐘を打っているのを感じながらも、生き延びたという事実を噛みしめていた。手の中には、先ほど倒したゴブリンたちが残したドロップ品――紫色の魔石が数個と、汚れた銅貨が数十枚握られている。

「これが、この世界の金か……」

銅貨を一枚つまみ上げ、【システム解析】を発動させる。

【ITEM_NAME: 銅貨】
【TYPE: Currency】
【VALUE: 1 C】
【DESCRIPTION: アークライト王国で流通している最も価値の低い硬貨。】
【System_Internal_ID: #C-001a-a】

ごく基本的な情報しか表示されない。だが、これだけでも価値が全くないわけではないと分かり、少しだけ安堵した。次に、魔石を解析する。昨夜確認した隠しパラメータが、改めて表示された。

【ITEM_NAME: 魔石(小)】
【HIDDEN_PARAMETER】
- Mana_Value: 15/15
- Purity: 35%
- Attribute: None
...

(このPurity: 35%ってのは、おそらく純度のことだろうな。SEの勘がそう言ってる。もし、この数値を書き換えることができたら……?)

それは、単なる解析に留まらない、より能動的なスキル利用の可能性を示唆していた。もし「読み取り(Read)」だけでなく「書き込み(Write)」が可能なら、このスキルの価値は天と地ほどに跳ね上がる。
試してみる価値はありそうだ。だがその前に、まず解析すべきは俺自身だ。

「自分自身に、【システム解析】」

意識を内に向けると、目の前に俺自身の詳細なステータスウィンドウが展開された。それは神殿で見たものより、遥かに多くの情報を含んでいた。

【NAME: 相馬 海斗(ソウマ・カイト)】
【CLASS: 解析者】
【LEVEL: 1】
【EXP: 30/100】
【HP: 90/90】
【MP: 65/80】
【STATUS】
- STR: 50
- VIT: 55
- AGI: 60
- INT: 50
【SKILLS】
- 【システム解析】 (熟練度: 15/1000)
【SYSTEM_LOG】
- `[INFO] Goblin_Scoutを3体討伐しました。`
- `[INFO] EXPを30獲得しました。`
- `[INFO] スキル【システム解析】の熟練度が15上昇しました。`

「経験値(EXP)に、熟練度……!」

やはり、というべきか。この世界は徹底してゲームのようなシステムで構築されている。ゴブリンを三体倒して得た経験値は30。レベル2になるには、あと70必要だ。そして、スキル自体にも熟練度が存在する。これがおそらく、スキルの性能を向上させる鍵だろう。
MPが少し減っているのは、先ほどの戦闘でスキルを多用したからに違いない。
目標が明確になった。まずはレベルを上げ、スキルを使い込んで熟練度を稼ぐ。それが、この過酷な世界で生き抜くための最優先事項だ。

そして、先ほどの疑問に戻る。
「書き込み(Write)」――すなわち「デバッグ」は可能なのか。
俺は手の中の魔石に意識を集中した。目の前の半透明ウィンドウに表示された `Purity: 35%` の文字列。その数値を、直接編集するかのようにイメージする。

(`Purity: 35%` を、`100%` に……!)

念じると、`35` という数字がカタカタと震え、点滅を始めた。だが、それだけだ。何も変わらない。
(駄目か……? いや、待てよ。データの書き換えには、相応のリソースが必要なはずだ。CPUパワー、メモリ、あるいは……MPか?)

俺はもう一度、今度は自身のMPを意識しながら、書き換えを試みた。体内の魔力(MP)を、指先の魔石に流し込むようなイメージで。

「――デバッグ、開始!」

その瞬間、体の中から何かがごっそりと引き抜かれる感覚と共に、手の中の魔石がまばゆい光を放った!
光が収まると、そこにあったのは、先ほどまでとは比べ物にならないほど透明度と輝きを増した、美しい紫色の宝石だった。
ウィンドウの表示も更新されている。

【ITEM_NAME: 魔石(小)[Purity: 100%]】
【TYPE: Material】
【RARITY: Common -> Rare】
【DESCRIPTION: 魔物の力の結晶。不純物が完全に取り除かれ、極めて高純度の魔力を内包している。武具の強化や魔道具の燃料として使用した場合、通常よりも遥かに高い効果を発揮する。】
【HIDDEN_PARAMETER】
- Mana_Value: 50/50
- Purity: 100%
- Attribute: None

「……できた」

成功だ。俺のスキルは、単なる解析ツールじゃない。世界の法則に則って生成されたオブジェクトのパラメータを、直接書き換えることができる「デバッグツール」だったのだ。
レアリティがコモンからレアに変化し、説明文も変わっている。隠しパラメータの魔力値(Mana_Value)も15から50に跳ね上がっていた。
自分のステータスを確認すると、MPが `65/80` から `45/80` に減っていた。やはり、デバッグにはMPを消費するらしい。
だが、そんなことは些細な問題だ。

(これなら……! これさえあれば、金だって稼げるし、武具だって最強のものを作り出せるかもしれない!)

興奮で身体が震える。これは、錬金術などという生易しいものではない。世界の理そのものを捻じ曲げる、神の御業だ。
アレクサンダーたちが、上等な武具や金貨を自慢げに受け取っていた光景が蘇る。だが、彼らが持つ既製品の輝きなど、俺がこれから生み出す「完全品」の前では霞んで見えるだろう。

「よし、決めた」

俺は立ち上がった。
まずは、この森で徹底的にレベルと熟練度を上げ、資金を稼ぐ。そのためには、もっと効率的にゴブリンを狩る必要がある。
幸い、この森にはゴブリンがいくらでもいるようだ。俺は索敵のため【システム解析】を発動させながら、慎重に森の奥へと進んだ。

すぐに、新たなゴブリンの群れを発見した。今度は五匹。
昨夜のように、一体一体相手にするのは効率が悪い。もっとスマートに、SEらしく解決する方法はないか。
俺は身を隠しながら、一体のゴブリンに【システム解析】をかけた。表示される行動ロジック(BEHAVIOR_LOGIC_SCRIPT)。

- `Target: null`
- `State: Patrol`
- `IF (find(Player_Kaito_Soma)) {`
- `     Target = Player_Kaito_Soma;`
- `     State = Hostile;`
- `}`

(なるほどな。俺を視認したら、ターゲットを俺に設定して、敵対状態に移行する、と。単純なプログラムだ。なら、このターゲット情報を書き換えたらどうなる?)

俺はMPを消費し、そのゴブリンの行動ロジックに介入した。
`Target: Player_Kaito_Soma` の部分を、別のオブジェクト――すぐ隣にいた別のゴブリンのIDに書き換える。

- `Target = Goblin_Scout_ID_002;`

書き換えが完了した瞬間、ターゲットにされたゴブリンを、ロジックを改変されたゴブリンが、突如として棍棒で殴りつけた!
「ギィ!?」
殴られたゴブリンは、何が起きたか分からないといった様子で、しかし本能的に反撃を開始する。
それを皮切りに、ゴブリンたちの間で仲間割れが始まった。互いに棍棒を振り回し、石を投げつけ合う醜い争い。

俺は、茂みの中からその光景を静かに眺めていた。
戦闘らしい戦闘は一切していない。ただ、一体のゴブリンのターゲット情報を書き換えただけ。それだけで、敵は自滅していく。
これこそ、俺が求めていた戦い方だ。力でねじ伏せるのではなく、システムの穴を突き、最小限のリスクで最大限の結果を得る。まさに「デバッグ」そのものだった。

やがて、五匹のゴブリンは全て光の粒子となって消え去り、後には魔石と銅貨だけが残された。
俺は悠々と戦利品を回収し、再び次の獲物を探して歩き出す。
ターゲットの書き換え、行動パターンの強制ループ、認識範囲のパラメータ操作。俺はまるで、壊れたプログラムを修正する作業のように、淡々とゴブリンたちを「処理」していった。
経験値が溜まるたびにレベルが上がり、ステータスが上昇していく。スキルを使えば使うほど、熟練度のゲージも着実に伸びていった。

日が傾き始める頃には、俺のレベルは5になり、MPの最大値も大幅に増えていた。懐の革袋はずっしりと重く、中にはデバッグ済みの高純度魔石が数十個と、大量の銅貨が詰まっている。
もう、王都を追放された時の絶望感はどこにもなかった。あるのは、この力への絶対的な確信と、未来への高揚感だけだ。

「……そろそろ、この森を出るか」

食料も水もない状況は変わらない。いつまでもここにいるわけにはいかない。
俺は街道の方向へと戻り、森を抜けた。
夕日に照らされた街道に立ち、改めて王都の方角を振り返る。あの場所で俺を嘲笑った勇者たちは、今頃、豪華な食事でも楽しんでいるのだろうか。

「待ってろよ、アレクサンダー。お前たちが捨てた"役立たず"が、どこまでやれるか、じっくりと見せてやる」

その声は、もはや負け犬の遠吠えではなかった。
確固たる力と意志を宿した、反撃の狼煙。
俺は決意を新たに、王都とは逆の方向へ、人の営みがあるであろう未知の街を目指して、力強く一歩を踏み出した。
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