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第47話 利害の一致、魔王との共闘へ
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俺の意識は、温かい光に包まれていた。
心地よい浮遊感の中、遠くから、俺の名を呼ぶ声が聞こえる。
『海斗さん……』
『カイト……!』
ルナと、フレアの声だ。
その声に導かれるように、俺はゆっくりと、瞼(まぶた)を持ち上げた。
最初に目に飛び込んできたのは、無限の星空が広がる、壮麗な天井だった。
身体を起こすと、そこは、魔王城の玉座の間だった。俺は、黒曜石の回廊の、冷たい床の上に横たわっていたらしい。
「……フレア! ルナ!」
俺が叫ぶと、回廊の少し離れた場所で、二人がゆっくりと身を起こすのが見えた。彼女たちも、今、目を覚ましたようだ。二人とも、魔力を使い果たして疲弊してはいるが、大きな怪我はない。
「カイト! よかった、無事だったんだな!」
「海斗さん……!」
二人が、安堵の表情で駆け寄ってくる。俺たちは、互いの無事を確かめ合い、心の底から安堵した。
そして、俺たちは、改めて、玉座の方を見やった。
そこに立っていたのは、もはや、絶望を振りまく魔王ではなかった。
漆黒の王の装束を纏いながらも、その身から放たれるオーラは、どこまでも穏やかで、清浄。白銀の髪は、星々の光を浴びて、神々しく輝いている。そして、その整った顔には、全てを達観したかのような、静かな笑みが浮かんでいた。
彼こそが、世界のバグという呪いから解放された、本来の英雄、アレス。
「……目が覚めたか、カイト」
その声は、重々しい魔王のそれではなく、涼やかで、理知的な、青年の声だった。
「君のおかげで、私も、長い、長い悪夢から解放された。心から、感謝する」
彼は、玉座からゆっくりと降りてくると、俺たちの前に立ち、深々と、頭を下げた。
かつて、この世界の頂点に君臨し、恐怖の象徴とされた王が、俺たちに、頭を下げている。その光景は、あまりにも、非現実的だった。
「顔を上げてくれ、アレス。俺たちは、あんたを断罪しに来たわけじゃない」
「分かっている。君たちは、私を……この世界を、救いに来てくれたのだな」
彼は、顔を上げると、俺の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「君が、私の魂の中で、『原初のバグ』を浄化してくれたおかげで、世界汚染度の上昇は、一時的に、ほぼ停止した。私が、最大の汚染源だったからな。ワールドエンドまでの時間は、当面、稼ぐことができたと言っていい」
「……そうか。ひとまず、最悪の事態は回避できたんだな」
俺の言葉に、フレアとルナも、安堵の息を漏らす。
「だが」
アレスは、静かに続けた。
「根本的な解決には、至っていない。世界のシステムに、生命活動そのものがバグを生み出すという、設計上の欠陥が存在する限り、いずれ、また、第二、第三の『原初のバグ』が、どこかで生まれるだろう。それは、時間の問題だ」
その言葉は、俺たちが神々の観測所で知った、絶望的な真実と同じだった。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ? モグラ叩きみたいに、新しいバグが出てくるたびに、カイトがそれを消して回るのか?」
フレアの、素朴な疑問に、アレスは、静かに首を振った。
「それでは、いずれ限界が来る。この世界のシステムそのものを、根幹から、作り直すしかない。生命が、その輝きを失うことなく、理不尽な苦しみを味わうこともない、完璧な、新しい世界へと……『再構築(リビルド)』するんだ」
再構築。それは、俺が、彼の魂の世界で、最後に使った力と同じ言葉。
「だが、そんなことができるのは、この世界の創造主か、あるいは、正規の管理者権限を持つ者だけだ。今の俺たちには、その力はない」
「……ならば、その権限を、奪い取ればいい」
アレスは、こともなげに言った。
「今の、堕落した管理者――神々から、な」
彼の言葉は、もはや、神々への、明確な宣戦布告だった。
「奴らは、自分たちの怠慢と、失敗を隠すために、ワールドエンドという『初期化』のカードを、今も、手元に残しているはずだ。奴らが、我々の動きに気づき、業を煮やして、そのスイッチを押してしまう前に、我々が、先手を打つ」
「具体的には?」
「神々の住まう領域、『神域』へと乗り込み、世界の管理権限を司る、中枢システム『天の石板』を、我々の支配下に置く。そして、その権限を使って、ワールドエンドを、完全に無力化する。その後、時間をかけて、この世界を、新しいものへと作り変えていく」
それは、あまりにも、壮大で、そして、無謀な計画だった。
神々そのものに、戦いを挑む。それは、この世界の、全ての理に、反逆することを意味していた。
「……正気か、あんた」
「正気だとも」
アレスは、微笑んだ。それは、全てを達観した、王の笑みだった。
「かつての私は、全てを諦め、世界を破壊することしか、考えられなかった。だが、君が、教えてくれた。仲間と共に、運命に抗うことの、本当の強さを。……だから、今度は、私が、君の力になりたい。いや、ならせてほしい。この世界の、真の夜明けのために、君と共に、戦わせてはくれないか?」
彼は、俺に、手を差し出した。
それは、元魔王から、元追放者への、対等な「仲間」としての、誓いの求めだった。
俺は、その手を、迷わず、強く、握り返した。
「……ああ。こちらこそ、よろしく頼むぜ、相棒」
こうして、俺と、再生した魔王アレスは、固い、固い、絆で結ばれた。
それは、利害の一致などという、生易しいものではない。
同じ、理不尽な運命に翻弄され、それでも、大切なものを守るために、立ち上がった者同士の、魂の共鳴だった。
その時、玉座の間の扉が、勢いよく開かれた。
ヴォルグとリリスが、主君の身を案じ、駆け込んできたのだ。
「アレス様!」
彼らは、そこに立つ、穏やかで、力強い、本来の主の姿を見て、言葉を失った。
そして、次の瞬間、その場に、ひざまずいた。
「おお……! アレス様! お戻りになられたのですね……!」
ヴォルグの、厳つい顔が、涙で濡れている。
「アレス様……。アレス様……! よかった……!」
リリスもまた、子供のように、泣きじゃくっていた。
「……ヴォルグ、リリス。心配をかけたな。そして、ありがとう。お前たちが、私を信じ続けてくれたおかげで、私は、心を取り戻すことができた」
アレスは、二人の元へ歩み寄り、その肩に、優しく手を置いた。
主君と、忠実なる臣下。その、感動的な再会を、俺たちは、温かい気持ちで、見守っていた。
魔王軍は、ここに、世界の崩壊を阻止するための「連合軍」として、生まれ変わったのだ。
俺たちは、全員で、玉座の間に円になって座り、改めて、今後の計画を練り始めた。
真の敵は、神々。
目的は、神域に乗り込み、管理権限を奪うこと。
そのために、まずは、神域への道を開くための『鍵』となる、三つの『神器』を探し出す必要がある。
「一つは、エルフの聖地。一つは、アークライト王国の宝物庫。そして、最後の一つは、行方知れず……か。前途多難だな」
俺が言うと、アレスは、不敵な笑みを浮かべた。
「ああ。だが、君と、そして、ここにいる仲間たちとなら、どんな困難も、乗り越えられる気がするよ」
世界の命運を賭けた、途方もない旅。
だが、俺たちの心には、もはや、一片の絶望もなかった。
あるのはただ、仲間と共に、未来を切り開くという、燃えるような、希望だけ。
物語は、ついに、最終章の幕を開けようとしていた。
真の敵、神々との、最後の戦いが、今、始まろうとしていた。
心地よい浮遊感の中、遠くから、俺の名を呼ぶ声が聞こえる。
『海斗さん……』
『カイト……!』
ルナと、フレアの声だ。
その声に導かれるように、俺はゆっくりと、瞼(まぶた)を持ち上げた。
最初に目に飛び込んできたのは、無限の星空が広がる、壮麗な天井だった。
身体を起こすと、そこは、魔王城の玉座の間だった。俺は、黒曜石の回廊の、冷たい床の上に横たわっていたらしい。
「……フレア! ルナ!」
俺が叫ぶと、回廊の少し離れた場所で、二人がゆっくりと身を起こすのが見えた。彼女たちも、今、目を覚ましたようだ。二人とも、魔力を使い果たして疲弊してはいるが、大きな怪我はない。
「カイト! よかった、無事だったんだな!」
「海斗さん……!」
二人が、安堵の表情で駆け寄ってくる。俺たちは、互いの無事を確かめ合い、心の底から安堵した。
そして、俺たちは、改めて、玉座の方を見やった。
そこに立っていたのは、もはや、絶望を振りまく魔王ではなかった。
漆黒の王の装束を纏いながらも、その身から放たれるオーラは、どこまでも穏やかで、清浄。白銀の髪は、星々の光を浴びて、神々しく輝いている。そして、その整った顔には、全てを達観したかのような、静かな笑みが浮かんでいた。
彼こそが、世界のバグという呪いから解放された、本来の英雄、アレス。
「……目が覚めたか、カイト」
その声は、重々しい魔王のそれではなく、涼やかで、理知的な、青年の声だった。
「君のおかげで、私も、長い、長い悪夢から解放された。心から、感謝する」
彼は、玉座からゆっくりと降りてくると、俺たちの前に立ち、深々と、頭を下げた。
かつて、この世界の頂点に君臨し、恐怖の象徴とされた王が、俺たちに、頭を下げている。その光景は、あまりにも、非現実的だった。
「顔を上げてくれ、アレス。俺たちは、あんたを断罪しに来たわけじゃない」
「分かっている。君たちは、私を……この世界を、救いに来てくれたのだな」
彼は、顔を上げると、俺の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「君が、私の魂の中で、『原初のバグ』を浄化してくれたおかげで、世界汚染度の上昇は、一時的に、ほぼ停止した。私が、最大の汚染源だったからな。ワールドエンドまでの時間は、当面、稼ぐことができたと言っていい」
「……そうか。ひとまず、最悪の事態は回避できたんだな」
俺の言葉に、フレアとルナも、安堵の息を漏らす。
「だが」
アレスは、静かに続けた。
「根本的な解決には、至っていない。世界のシステムに、生命活動そのものがバグを生み出すという、設計上の欠陥が存在する限り、いずれ、また、第二、第三の『原初のバグ』が、どこかで生まれるだろう。それは、時間の問題だ」
その言葉は、俺たちが神々の観測所で知った、絶望的な真実と同じだった。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ? モグラ叩きみたいに、新しいバグが出てくるたびに、カイトがそれを消して回るのか?」
フレアの、素朴な疑問に、アレスは、静かに首を振った。
「それでは、いずれ限界が来る。この世界のシステムそのものを、根幹から、作り直すしかない。生命が、その輝きを失うことなく、理不尽な苦しみを味わうこともない、完璧な、新しい世界へと……『再構築(リビルド)』するんだ」
再構築。それは、俺が、彼の魂の世界で、最後に使った力と同じ言葉。
「だが、そんなことができるのは、この世界の創造主か、あるいは、正規の管理者権限を持つ者だけだ。今の俺たちには、その力はない」
「……ならば、その権限を、奪い取ればいい」
アレスは、こともなげに言った。
「今の、堕落した管理者――神々から、な」
彼の言葉は、もはや、神々への、明確な宣戦布告だった。
「奴らは、自分たちの怠慢と、失敗を隠すために、ワールドエンドという『初期化』のカードを、今も、手元に残しているはずだ。奴らが、我々の動きに気づき、業を煮やして、そのスイッチを押してしまう前に、我々が、先手を打つ」
「具体的には?」
「神々の住まう領域、『神域』へと乗り込み、世界の管理権限を司る、中枢システム『天の石板』を、我々の支配下に置く。そして、その権限を使って、ワールドエンドを、完全に無力化する。その後、時間をかけて、この世界を、新しいものへと作り変えていく」
それは、あまりにも、壮大で、そして、無謀な計画だった。
神々そのものに、戦いを挑む。それは、この世界の、全ての理に、反逆することを意味していた。
「……正気か、あんた」
「正気だとも」
アレスは、微笑んだ。それは、全てを達観した、王の笑みだった。
「かつての私は、全てを諦め、世界を破壊することしか、考えられなかった。だが、君が、教えてくれた。仲間と共に、運命に抗うことの、本当の強さを。……だから、今度は、私が、君の力になりたい。いや、ならせてほしい。この世界の、真の夜明けのために、君と共に、戦わせてはくれないか?」
彼は、俺に、手を差し出した。
それは、元魔王から、元追放者への、対等な「仲間」としての、誓いの求めだった。
俺は、その手を、迷わず、強く、握り返した。
「……ああ。こちらこそ、よろしく頼むぜ、相棒」
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それは、利害の一致などという、生易しいものではない。
同じ、理不尽な運命に翻弄され、それでも、大切なものを守るために、立ち上がった者同士の、魂の共鳴だった。
その時、玉座の間の扉が、勢いよく開かれた。
ヴォルグとリリスが、主君の身を案じ、駆け込んできたのだ。
「アレス様!」
彼らは、そこに立つ、穏やかで、力強い、本来の主の姿を見て、言葉を失った。
そして、次の瞬間、その場に、ひざまずいた。
「おお……! アレス様! お戻りになられたのですね……!」
ヴォルグの、厳つい顔が、涙で濡れている。
「アレス様……。アレス様……! よかった……!」
リリスもまた、子供のように、泣きじゃくっていた。
「……ヴォルグ、リリス。心配をかけたな。そして、ありがとう。お前たちが、私を信じ続けてくれたおかげで、私は、心を取り戻すことができた」
アレスは、二人の元へ歩み寄り、その肩に、優しく手を置いた。
主君と、忠実なる臣下。その、感動的な再会を、俺たちは、温かい気持ちで、見守っていた。
魔王軍は、ここに、世界の崩壊を阻止するための「連合軍」として、生まれ変わったのだ。
俺たちは、全員で、玉座の間に円になって座り、改めて、今後の計画を練り始めた。
真の敵は、神々。
目的は、神域に乗り込み、管理権限を奪うこと。
そのために、まずは、神域への道を開くための『鍵』となる、三つの『神器』を探し出す必要がある。
「一つは、エルフの聖地。一つは、アークライト王国の宝物庫。そして、最後の一つは、行方知れず……か。前途多難だな」
俺が言うと、アレスは、不敵な笑みを浮かべた。
「ああ。だが、君と、そして、ここにいる仲間たちとなら、どんな困難も、乗り越えられる気がするよ」
世界の命運を賭けた、途方もない旅。
だが、俺たちの心には、もはや、一片の絶望もなかった。
あるのはただ、仲間と共に、未来を切り開くという、燃えるような、希望だけ。
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