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第48話 空気も読めず、絶望の勇者、来たる
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俺たちが、魔王改め、元英雄アレスとその仲間たちと共に、未来への作戦会議を始めた、まさにその時だった。
玉座の間の、巨大な黒水晶の扉が、凄まじい轟音と共に、外側から、爆発四散した。
「な、何事だ!?」
ヴォルグが、即座に戦斧を構える。
舞い上がる粉塵と、砕け散った扉の破片の向こうから、複数の人影が、なだれ込んできた。
その先頭に立つ人物の姿を認めた瞬間、俺は、心の底から、深いため息をついた。
「……ったく、最悪のタイミングで、来やがったな……」
そこに立っていたのは、ボロボロの鎧を身につけ、その顔には、疲労と、焦燥と、そして、狂気にも似た執念を浮かべた、勇者アレクサンダーだった。
彼の背後には、同じく満身創痍の、レオン、マリア、そしてセシリアの姿もあった。
彼らは、どうやら、嘆きの森で、別の魔王軍幹部との死闘を、かろうじて生き延び、そして、何かの偶然か、あるいは執念か、この玉座の間にまで、たどり着いてしまったらしい。
「はぁ……はぁ……! 見つけたぞ、魔王ッ!」
アレクサンダーは、息も絶え絶えになりながらも、その手に、もはや輝きを失いかけた聖剣(偽)を握りしめ、玉座に座るアレスを、睨みつけていた。
彼らの目には、俺や、ヴォルグ、リリスたちの姿は、まだ入っていない。彼らの思考は、ただ、「魔王を倒す」という、一点にのみ、凝り固まっている。
「……ほう。あれが、今の『勇者』か」
アレスは、呆れたように、しかし、どこか憐れむような目で、アレクサンダーを見つめた。
「神々に選ばれたにしては、随分と、みすぼらしい姿だな。その魂の輝きも、嫉妬と、自己顕示欲で、濁りきっている」
「黙れ、魔王! 貴様のその、ふざけた余裕も、ここまでだ! 今日こそ、この俺が、貴様を討ち取り、真の英雄となる!」
アレクサンダーは、自分を鼓舞するように叫ぶと、最後の力を振り絞り、アレスに向かって、突進してきた。
その、あまりにも、愚かで、そして、空気の読めない行動に、俺たちは、誰もが、額に手を当てた。
「おい、馬鹿、やめろ!」
俺が、制止の声を上げるが、もはや、彼の耳には届かない。
アレスは、向かってくるアレクサンダーを、ただ、静かに見つめていた。
そして、聖剣が、彼の喉元に突きつけられる、その寸前。
彼は、指先で、まるで、鬱陶しい虫でも払うかのように、その剣先を、軽く、弾いた。
キンッ! という、軽い音。
たった、それだけで。
アレクサンダーの身体は、凄まじい勢いで、後方へと吹き飛ばされた。彼は、玉座の間の壁に、叩きつけられ、そのまま、気を失って、動かなくなった。
聖剣(偽)が、カラン、と、虚しい音を立てて、床を転がる。
あまりにも、あっけない、決着だった。
「……アレクサンダー様!」
セシリアが、悲鳴を上げる。
「なっ……!? い、今、何が……!?」
マリアも、レオンも、目の前で起きたことが、信じられないといったように、呆然と立ち尽くしている。
「……さて」
アレスは、彼らには一瞥もくれず、俺に向き直った。
「話の続きをしようか、カイト。この、招かれざる客たちは、どう処理する? 私としては、ここで、塵に還してやっても、構わんが」
その言葉には、一切の、感情がこもっていなかった。彼にとって、もはや、勇者など、道端の石ころ程度の価値もないのだ。
「待ってくれ、アレス!」
俺が、口を開くよりも早く、そう叫んだのは、意外にも、フレアだった。
「こいつら、確かに、ムカつく馬鹿どもだけどよ。カイトの、元仲間なんだろ? それを、目の前で殺させちまうのは、寝覚めが悪すぎるぜ」
彼女は、アレクサンダーたちを、睨みつけながらも、そう言った。
「……わたくしも、フレアさんに、賛成です」
ルナも、静かに、続けた。
「この方々が、海斗さんにしたことは、決して許されることではありません。ですが、彼らもまた、何も知らされずに、神々に利用された、哀れな被害者なのです。命まで、奪う必要は……」
二人の、優しい言葉に、俺は、少しだけ、驚いた。
俺自身は、彼らがどうなろうと、正直、どうでもいいと思っていた。だが、この二人は、俺の気持ちを、慮ってくれているのだ。
俺は、アレスに、言った。
「……そういうわけだ。こいつらは、見逃してやってくれ。それに、生かしておけば、神々の欺瞞を、世に知らしめるための、生きた証拠にもなる」
俺の言葉に、アレスは、少し、意外そうな顔をしたが、やがて、穏やかに、微笑んだ。
「……分かった。君が、そう言うのなら」
彼は、指を鳴らした。
すると、気絶していたアレクサンダーと、動けずにいた残りの三人の身体が、光の粒子に包まれ、次の瞬間、その場から、掻き消えるように、いなくなった。
「……王都の、神殿に、送り返しておいた。二度と、我々の前に、現れることはないだろう」
こうして、勇者パーティーの、長かった物語は、あまりにも、情けない形で、その幕を、完全に、閉じた。
彼らは、結局、最後まで、この世界の、本当の真実に、たどり着くことは、なかった。
「……さて、改めて、作戦会議だ」
アレスが、仕切り直すように言った。
俺たちは、再び、円になって座り、神器の探索計画を、具体的に、詰め始めた。
エルフの森へ向かう、俺、ルナ、ヴォルグのチーム。
アークライト王国へ向かう、アレス、フレア、リリスのチーム。
それぞれの役割と、合流地点、そして、緊急時の連絡方法などを、綿密に、確認していく。
もはや、そこに、魔王も、勇者もいない。
あるのはただ、同じ目的のために、背中を預け合う、信頼できる「仲間」だけだった。
数時間後。
全ての打ち合わせを終えた俺たちは、玉座の間を後にし、魔王城の、外へと出た。
外の世界は、アレスの魂が浄化されたことに呼応するように、これまでの、禍々しい紫色の空から、穏やかな、夜明け前の、薄明の空へと、その姿を変えていた。
「……夜明け、か」
アレスが、眩しそうに、その光を見上げながら、呟いた。
「ああ。この世界の、本当の夜明けは、俺たちが、これから、作るんだ」
俺たちは、互いに、力強く、頷き合った。
二手に分かれて、それぞれの、危険な旅が、今、始まる。
だが、俺たちの心には、一点の曇りもなかった。
必ず、再会を、誓って。
俺たちは、それぞれの、新たな一歩を、踏み出した。
神々との、最終決戦の、火蓋が切られる、その時に向けて。
玉座の間の、巨大な黒水晶の扉が、凄まじい轟音と共に、外側から、爆発四散した。
「な、何事だ!?」
ヴォルグが、即座に戦斧を構える。
舞い上がる粉塵と、砕け散った扉の破片の向こうから、複数の人影が、なだれ込んできた。
その先頭に立つ人物の姿を認めた瞬間、俺は、心の底から、深いため息をついた。
「……ったく、最悪のタイミングで、来やがったな……」
そこに立っていたのは、ボロボロの鎧を身につけ、その顔には、疲労と、焦燥と、そして、狂気にも似た執念を浮かべた、勇者アレクサンダーだった。
彼の背後には、同じく満身創痍の、レオン、マリア、そしてセシリアの姿もあった。
彼らは、どうやら、嘆きの森で、別の魔王軍幹部との死闘を、かろうじて生き延び、そして、何かの偶然か、あるいは執念か、この玉座の間にまで、たどり着いてしまったらしい。
「はぁ……はぁ……! 見つけたぞ、魔王ッ!」
アレクサンダーは、息も絶え絶えになりながらも、その手に、もはや輝きを失いかけた聖剣(偽)を握りしめ、玉座に座るアレスを、睨みつけていた。
彼らの目には、俺や、ヴォルグ、リリスたちの姿は、まだ入っていない。彼らの思考は、ただ、「魔王を倒す」という、一点にのみ、凝り固まっている。
「……ほう。あれが、今の『勇者』か」
アレスは、呆れたように、しかし、どこか憐れむような目で、アレクサンダーを見つめた。
「神々に選ばれたにしては、随分と、みすぼらしい姿だな。その魂の輝きも、嫉妬と、自己顕示欲で、濁りきっている」
「黙れ、魔王! 貴様のその、ふざけた余裕も、ここまでだ! 今日こそ、この俺が、貴様を討ち取り、真の英雄となる!」
アレクサンダーは、自分を鼓舞するように叫ぶと、最後の力を振り絞り、アレスに向かって、突進してきた。
その、あまりにも、愚かで、そして、空気の読めない行動に、俺たちは、誰もが、額に手を当てた。
「おい、馬鹿、やめろ!」
俺が、制止の声を上げるが、もはや、彼の耳には届かない。
アレスは、向かってくるアレクサンダーを、ただ、静かに見つめていた。
そして、聖剣が、彼の喉元に突きつけられる、その寸前。
彼は、指先で、まるで、鬱陶しい虫でも払うかのように、その剣先を、軽く、弾いた。
キンッ! という、軽い音。
たった、それだけで。
アレクサンダーの身体は、凄まじい勢いで、後方へと吹き飛ばされた。彼は、玉座の間の壁に、叩きつけられ、そのまま、気を失って、動かなくなった。
聖剣(偽)が、カラン、と、虚しい音を立てて、床を転がる。
あまりにも、あっけない、決着だった。
「……アレクサンダー様!」
セシリアが、悲鳴を上げる。
「なっ……!? い、今、何が……!?」
マリアも、レオンも、目の前で起きたことが、信じられないといったように、呆然と立ち尽くしている。
「……さて」
アレスは、彼らには一瞥もくれず、俺に向き直った。
「話の続きをしようか、カイト。この、招かれざる客たちは、どう処理する? 私としては、ここで、塵に還してやっても、構わんが」
その言葉には、一切の、感情がこもっていなかった。彼にとって、もはや、勇者など、道端の石ころ程度の価値もないのだ。
「待ってくれ、アレス!」
俺が、口を開くよりも早く、そう叫んだのは、意外にも、フレアだった。
「こいつら、確かに、ムカつく馬鹿どもだけどよ。カイトの、元仲間なんだろ? それを、目の前で殺させちまうのは、寝覚めが悪すぎるぜ」
彼女は、アレクサンダーたちを、睨みつけながらも、そう言った。
「……わたくしも、フレアさんに、賛成です」
ルナも、静かに、続けた。
「この方々が、海斗さんにしたことは、決して許されることではありません。ですが、彼らもまた、何も知らされずに、神々に利用された、哀れな被害者なのです。命まで、奪う必要は……」
二人の、優しい言葉に、俺は、少しだけ、驚いた。
俺自身は、彼らがどうなろうと、正直、どうでもいいと思っていた。だが、この二人は、俺の気持ちを、慮ってくれているのだ。
俺は、アレスに、言った。
「……そういうわけだ。こいつらは、見逃してやってくれ。それに、生かしておけば、神々の欺瞞を、世に知らしめるための、生きた証拠にもなる」
俺の言葉に、アレスは、少し、意外そうな顔をしたが、やがて、穏やかに、微笑んだ。
「……分かった。君が、そう言うのなら」
彼は、指を鳴らした。
すると、気絶していたアレクサンダーと、動けずにいた残りの三人の身体が、光の粒子に包まれ、次の瞬間、その場から、掻き消えるように、いなくなった。
「……王都の、神殿に、送り返しておいた。二度と、我々の前に、現れることはないだろう」
こうして、勇者パーティーの、長かった物語は、あまりにも、情けない形で、その幕を、完全に、閉じた。
彼らは、結局、最後まで、この世界の、本当の真実に、たどり着くことは、なかった。
「……さて、改めて、作戦会議だ」
アレスが、仕切り直すように言った。
俺たちは、再び、円になって座り、神器の探索計画を、具体的に、詰め始めた。
エルフの森へ向かう、俺、ルナ、ヴォルグのチーム。
アークライト王国へ向かう、アレス、フレア、リリスのチーム。
それぞれの役割と、合流地点、そして、緊急時の連絡方法などを、綿密に、確認していく。
もはや、そこに、魔王も、勇者もいない。
あるのはただ、同じ目的のために、背中を預け合う、信頼できる「仲間」だけだった。
数時間後。
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外の世界は、アレスの魂が浄化されたことに呼応するように、これまでの、禍々しい紫色の空から、穏やかな、夜明け前の、薄明の空へと、その姿を変えていた。
「……夜明け、か」
アレスが、眩しそうに、その光を見上げながら、呟いた。
「ああ。この世界の、本当の夜明けは、俺たちが、これから、作るんだ」
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二手に分かれて、それぞれの、危険な旅が、今、始まる。
だが、俺たちの心には、一点の曇りもなかった。
必ず、再会を、誓って。
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