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第49話 【ざまぁ③】哀れな道化の終幕、最後の救済
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俺たちが、それぞれの目的地へと旅立とうと、魔王城の城門をくぐった、その時だった。
空が、裂けた。
文字通りの意味で、夜明け前の薄明の空に、巨大な亀裂が走り、そこから、神々しい、しかし、どこまでも冷たい、金色の光が溢れ出した。
「な、なんだ、あれは!?」
フレアが、空を指さして叫ぶ。
「……神域からの、強制介入か。奴ら、もう動き出したというのか……!」
アレスが、忌々しげに、その光を睨みつけた。
光の中から、四つの人影が、隕石のように、俺たちの前に落下してきた。
凄まじい衝撃波が、周囲の大地を揺るがす。
土煙が晴れた時、そこに立っていたのは、俺たちにとって、見飽きた、そして、二度と会いたくなかったはずの顔ぶれだった。
勇者アレクサンダー。聖女セシリア。賢者レオン。戦士マリア。
つい先ほど、アレスによって、王都の神殿に送り返されたばかりの、勇者パーティー。
だが、その姿は、先程とは、明らかに、異なっていた。
彼らの全身からは、禍々しいほどの、金色のオーラが立ち上っている。その瞳には、理性のかけらもなく、ただ、純粋な、殺意と、破壊衝動だけが、ぎらぎらと輝いていた。
そして、その力の中心にいるアレクサンダーの身体は、聖なる力に耐えきれず、皮膚のあちこちがひび割れ、そこから、血の代わりに、金色の光が漏れ出している。
もはや、それは、人間ではなかった。
神々の手によって、魂を無理やり改造され、作り変えられた、ただの、殺戮人形。
「……アレクサンダー、様……?」
セシリアだけが、かろうじて、わずかな理性を残しているのか、自分の身に起きた変化に、戸惑うように、呟いた。
だが、アレクサンダーは、そんな彼女の声など、聞こえていない。
その、虚ろな瞳は、ただ、一点。
俺と、俺の隣に立つ、アレスだけを、捉えていた。
「……コロセ……。セカイノ、バグヲ……。カイトヲ……アレスヲ……コロセ……」
彼の口から漏れ出たのは、もはや、言葉とは呼べない、ただの、命令の反芻だった。
「……なるほどな。女神アルテミスめ、使い捨ての駒を、最後の最後まで、しゃぶり尽くすつもりか」
アレスが、冷たく吐き捨てた。
「彼らは、神々の手によって、魂そのものを『燃料』として、強制的に、力を暴走させられている。もはや、対話は不可能だ。そして、あのままでは、あと数分もすれば、その魂は、完全に燃え尽きて、消滅するだろう」
その、あまりにも、非道な仕打ちに、俺は、奥歯を、強く、噛みしめた。
俺を追放し、見下したこいつらが、憎い。
だが、それ以上に、命を、魂を、まるで、使い捨ての道具のように弄ぶ、神々のやり方が、許せなかった。
これは、もはや、復讐劇ではない。
ただ、あまりにも、哀れな、道化たちの、最後の舞台だ。
「殺セェェェェェッ!」
アレクサンダーが、獣のような咆哮を上げ、俺たちに向かって、突進してきた。
その速度、その力は、先程とは、比較にならない。神の力による、最後のブースト。
「させん!」
ヴォルグとリリスが、その前に立ちはだかる。
だが、アレクサンダーの振るう、暴走した聖剣の一撃は、二人の防御を、いともたやすく弾き飛ばした。
「ぐっ……!? なんだ、この、神聖な力は……! 我ら魔族とは、相性が、悪すぎる……!」
ヴォルグが、苦悶の声を上げる。
「下がってろ、二人とも!」
フレアが、代わりに、前に出た。
「こいつらの相手は、俺がやる!」
彼女の【神速無双剣】と、暴走したアレクサンダーの剣が、激しく、火花を散らす。
だが、その拮抗も、長くは続かなかった。
「ぐああっ!?」
マリアの、理性を失った突撃が、横から、フレアの体勢を崩す。その一瞬の隙を、アレクサンダーは見逃さない。聖剣が、フレアの肩を、深く、切り裂いた。
「フレア!」
俺の叫び声。
「……くそっ……! この程度……!」
フレアは、血を流しながらも、倒れずに、踏みとどまる。
「『聖なる癒しの光よ!』」
ルナが、即座に、フレアに回復魔法をかける。
だが、その魔法に、賢者レオンの、無機質な攻撃魔法が、殺到した。
「きゃあっ!」
ルナは、かろうじて、防御結界で身を守るが、その顔色は、青ざめている。
一対一なら、俺たちの仲間の方が、遥かに強い。
だが、相手は、痛みも、恐怖も、感じない、四体の、殺戮人形。その、連携を無視した、波状攻撃は、あまりにも、厄介だった。
「……もう、終わりにしよう」
アレスが、静かに、一歩、前に出た。
その瞳には、哀れな操り人形たちへの、冷たい、慈悲が宿っていた。
「彼らの魂が、完全に砕け散る前に、私が、眠らせてやろう」
彼が、指先を、天に掲げる。
この空間の、全ての法則が、彼の一点に、収束していく。
間違いなく、彼が、本気を出せば、勇者たちは、一瞬で、塵と化すだろう。
「――待て、アレス」
俺は、彼の肩を、そっと、押さえた。
「……なぜだ、カイト? 彼らを、まだ、仲間とでも言うつもりか?」
「違う」
俺は、首を振った。
「こいつらは、もう、俺の仲間じゃない。だが、俺が、追放された時に、失くしたもの。その、最後の、落とし前は……。俺自身が、つけなくちゃならない」
俺は、一人で、暴走する勇者たちの前に、進み出た。
「カイト!?」「海斗さん!」
フレアとルナの、制止の声が飛ぶ。
だが、俺は、振り返らなかった。
「……コロセ……コロセ……」
アレクサンダーたちが、虚ろな目で、俺を、ターゲットとして、認識する。
「ああ。もう、楽にしてやる」
俺は、静かに、目を閉じた。そして、俺の、魂の、全てを、解放した。
「【ワールド・エディタ】――最大権限、行使」
俺の周囲の、空間が、世界が、プログラムのソースコードとなって、俺の目の前に、展開される。
暴走する勇者たち。その魂に、強制的に、インストールされた、神々の作った、悪質な『暴走プログラム』のコードが、赤い、警告色で、点滅していた。
それは、複雑で、悪意に満ちた、スパゲッティコードだった。
だが、今の俺の目には、その、全ての構造が、手に取るように、分かった。
「……くだらない、コードだ」
俺は、その、悪意の塊に、指先で、そっと、触れた。
「編集コマンド、『デリート』」
俺は、彼らの魂を縛り付けていた、暴走プログラムの、中核をなす、たった一行の、メインルーチンを。
何の、感慨もなく。
まるで、不要なファイルを、ゴミ箱に捨てるかのように。
静かに、消去した。
その瞬間。
勇者たちを包んでいた、禍々しい、金色のオーラが、まるで、陽炎のように、掻き消えていった。
彼らの身体から、全ての力が、抜け落ちる。
アレクサンダーの聖剣(偽)が、マリアの斧が、レオンの杖が、次々と、その手から、こぼれ落ちた。
そして、四人は、糸が切れた人形のように、その場に、へなへなと、崩れ落ちた。
「……あ……。あれ……?」
最初に、我に返ったのは、マリアだった。
「……身体に、力が、入らない……」
レオンも、呆然と、自分の手を見つめている。
セシリアは、ただ、静かに、涙を流していた。自分たちが、何をしていたのかを、ようやく、理解したのだ。
そして、アレクサンダー。
彼の、虚ろだった瞳に、一瞬だけ、正気の光が戻った。
彼は、俺の姿を、見つめた。
その瞳には、もはや、憎しみも、嫉妬もなかった。
ただ、深い、深い、疲労と、そして、ほんの少しの、安堵の色が、浮かんでいた。
「……そう、か……。これで……やっと……」
それが、彼の、最後の言葉だった。
彼の身体は、魂が、完全に燃え尽きたことで、ゆっくりと、砂のように、崩れ始めた。
風が吹くと、その灰は、あっけなく、空の彼方へと、消えていった。
勇者アレクサンダーは、この世界から、完全に、消滅した。
残された三人は、ただ、その光景を、泣きながら、見つめているだけだった。
俺は、彼らに、もう、一瞥もくれることなく、背を向けた。
俺と、彼らの因縁は、今、この瞬間、本当に、完全に、終わったのだ。
哀れな道化たちの、長くて、くだらない物語の、本当の、終幕だった。
「行こう」
俺は、仲間たちの元へ、戻った。
「俺たちの、本当の敵は、あいつらじゃない。こんな、悲劇を、平然と生み出す、天上の、クソったれどもだ」
俺の言葉に、仲間たちは、力強く、頷いた。
俺たちは、もはや、振り返らない。
ただ、前へ。
この世界の、理不尽な『仕様』そのものを、デバッグするために。
俺たちの、最後の戦いが、今、静かに、始まろうとしていた。
空が、裂けた。
文字通りの意味で、夜明け前の薄明の空に、巨大な亀裂が走り、そこから、神々しい、しかし、どこまでも冷たい、金色の光が溢れ出した。
「な、なんだ、あれは!?」
フレアが、空を指さして叫ぶ。
「……神域からの、強制介入か。奴ら、もう動き出したというのか……!」
アレスが、忌々しげに、その光を睨みつけた。
光の中から、四つの人影が、隕石のように、俺たちの前に落下してきた。
凄まじい衝撃波が、周囲の大地を揺るがす。
土煙が晴れた時、そこに立っていたのは、俺たちにとって、見飽きた、そして、二度と会いたくなかったはずの顔ぶれだった。
勇者アレクサンダー。聖女セシリア。賢者レオン。戦士マリア。
つい先ほど、アレスによって、王都の神殿に送り返されたばかりの、勇者パーティー。
だが、その姿は、先程とは、明らかに、異なっていた。
彼らの全身からは、禍々しいほどの、金色のオーラが立ち上っている。その瞳には、理性のかけらもなく、ただ、純粋な、殺意と、破壊衝動だけが、ぎらぎらと輝いていた。
そして、その力の中心にいるアレクサンダーの身体は、聖なる力に耐えきれず、皮膚のあちこちがひび割れ、そこから、血の代わりに、金色の光が漏れ出している。
もはや、それは、人間ではなかった。
神々の手によって、魂を無理やり改造され、作り変えられた、ただの、殺戮人形。
「……アレクサンダー、様……?」
セシリアだけが、かろうじて、わずかな理性を残しているのか、自分の身に起きた変化に、戸惑うように、呟いた。
だが、アレクサンダーは、そんな彼女の声など、聞こえていない。
その、虚ろな瞳は、ただ、一点。
俺と、俺の隣に立つ、アレスだけを、捉えていた。
「……コロセ……。セカイノ、バグヲ……。カイトヲ……アレスヲ……コロセ……」
彼の口から漏れ出たのは、もはや、言葉とは呼べない、ただの、命令の反芻だった。
「……なるほどな。女神アルテミスめ、使い捨ての駒を、最後の最後まで、しゃぶり尽くすつもりか」
アレスが、冷たく吐き捨てた。
「彼らは、神々の手によって、魂そのものを『燃料』として、強制的に、力を暴走させられている。もはや、対話は不可能だ。そして、あのままでは、あと数分もすれば、その魂は、完全に燃え尽きて、消滅するだろう」
その、あまりにも、非道な仕打ちに、俺は、奥歯を、強く、噛みしめた。
俺を追放し、見下したこいつらが、憎い。
だが、それ以上に、命を、魂を、まるで、使い捨ての道具のように弄ぶ、神々のやり方が、許せなかった。
これは、もはや、復讐劇ではない。
ただ、あまりにも、哀れな、道化たちの、最後の舞台だ。
「殺セェェェェェッ!」
アレクサンダーが、獣のような咆哮を上げ、俺たちに向かって、突進してきた。
その速度、その力は、先程とは、比較にならない。神の力による、最後のブースト。
「させん!」
ヴォルグとリリスが、その前に立ちはだかる。
だが、アレクサンダーの振るう、暴走した聖剣の一撃は、二人の防御を、いともたやすく弾き飛ばした。
「ぐっ……!? なんだ、この、神聖な力は……! 我ら魔族とは、相性が、悪すぎる……!」
ヴォルグが、苦悶の声を上げる。
「下がってろ、二人とも!」
フレアが、代わりに、前に出た。
「こいつらの相手は、俺がやる!」
彼女の【神速無双剣】と、暴走したアレクサンダーの剣が、激しく、火花を散らす。
だが、その拮抗も、長くは続かなかった。
「ぐああっ!?」
マリアの、理性を失った突撃が、横から、フレアの体勢を崩す。その一瞬の隙を、アレクサンダーは見逃さない。聖剣が、フレアの肩を、深く、切り裂いた。
「フレア!」
俺の叫び声。
「……くそっ……! この程度……!」
フレアは、血を流しながらも、倒れずに、踏みとどまる。
「『聖なる癒しの光よ!』」
ルナが、即座に、フレアに回復魔法をかける。
だが、その魔法に、賢者レオンの、無機質な攻撃魔法が、殺到した。
「きゃあっ!」
ルナは、かろうじて、防御結界で身を守るが、その顔色は、青ざめている。
一対一なら、俺たちの仲間の方が、遥かに強い。
だが、相手は、痛みも、恐怖も、感じない、四体の、殺戮人形。その、連携を無視した、波状攻撃は、あまりにも、厄介だった。
「……もう、終わりにしよう」
アレスが、静かに、一歩、前に出た。
その瞳には、哀れな操り人形たちへの、冷たい、慈悲が宿っていた。
「彼らの魂が、完全に砕け散る前に、私が、眠らせてやろう」
彼が、指先を、天に掲げる。
この空間の、全ての法則が、彼の一点に、収束していく。
間違いなく、彼が、本気を出せば、勇者たちは、一瞬で、塵と化すだろう。
「――待て、アレス」
俺は、彼の肩を、そっと、押さえた。
「……なぜだ、カイト? 彼らを、まだ、仲間とでも言うつもりか?」
「違う」
俺は、首を振った。
「こいつらは、もう、俺の仲間じゃない。だが、俺が、追放された時に、失くしたもの。その、最後の、落とし前は……。俺自身が、つけなくちゃならない」
俺は、一人で、暴走する勇者たちの前に、進み出た。
「カイト!?」「海斗さん!」
フレアとルナの、制止の声が飛ぶ。
だが、俺は、振り返らなかった。
「……コロセ……コロセ……」
アレクサンダーたちが、虚ろな目で、俺を、ターゲットとして、認識する。
「ああ。もう、楽にしてやる」
俺は、静かに、目を閉じた。そして、俺の、魂の、全てを、解放した。
「【ワールド・エディタ】――最大権限、行使」
俺の周囲の、空間が、世界が、プログラムのソースコードとなって、俺の目の前に、展開される。
暴走する勇者たち。その魂に、強制的に、インストールされた、神々の作った、悪質な『暴走プログラム』のコードが、赤い、警告色で、点滅していた。
それは、複雑で、悪意に満ちた、スパゲッティコードだった。
だが、今の俺の目には、その、全ての構造が、手に取るように、分かった。
「……くだらない、コードだ」
俺は、その、悪意の塊に、指先で、そっと、触れた。
「編集コマンド、『デリート』」
俺は、彼らの魂を縛り付けていた、暴走プログラムの、中核をなす、たった一行の、メインルーチンを。
何の、感慨もなく。
まるで、不要なファイルを、ゴミ箱に捨てるかのように。
静かに、消去した。
その瞬間。
勇者たちを包んでいた、禍々しい、金色のオーラが、まるで、陽炎のように、掻き消えていった。
彼らの身体から、全ての力が、抜け落ちる。
アレクサンダーの聖剣(偽)が、マリアの斧が、レオンの杖が、次々と、その手から、こぼれ落ちた。
そして、四人は、糸が切れた人形のように、その場に、へなへなと、崩れ落ちた。
「……あ……。あれ……?」
最初に、我に返ったのは、マリアだった。
「……身体に、力が、入らない……」
レオンも、呆然と、自分の手を見つめている。
セシリアは、ただ、静かに、涙を流していた。自分たちが、何をしていたのかを、ようやく、理解したのだ。
そして、アレクサンダー。
彼の、虚ろだった瞳に、一瞬だけ、正気の光が戻った。
彼は、俺の姿を、見つめた。
その瞳には、もはや、憎しみも、嫉妬もなかった。
ただ、深い、深い、疲労と、そして、ほんの少しの、安堵の色が、浮かんでいた。
「……そう、か……。これで……やっと……」
それが、彼の、最後の言葉だった。
彼の身体は、魂が、完全に燃え尽きたことで、ゆっくりと、砂のように、崩れ始めた。
風が吹くと、その灰は、あっけなく、空の彼方へと、消えていった。
勇者アレクサンダーは、この世界から、完全に、消滅した。
残された三人は、ただ、その光景を、泣きながら、見つめているだけだった。
俺は、彼らに、もう、一瞥もくれることなく、背を向けた。
俺と、彼らの因縁は、今、この瞬間、本当に、完全に、終わったのだ。
哀れな道化たちの、長くて、くだらない物語の、本当の、終幕だった。
「行こう」
俺は、仲間たちの元へ、戻った。
「俺たちの、本当の敵は、あいつらじゃない。こんな、悲劇を、平然と生み出す、天上の、クソったれどもだ」
俺の言葉に、仲間たちは、力強く、頷いた。
俺たちは、もはや、振り返らない。
ただ、前へ。
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俺たちの、最後の戦いが、今、静かに、始まろうとしていた。
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