無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ

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第54話 カイト vs 神の使徒。世界の法則を書き換えあう異次元の戦い

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神の使徒(エンジェル)が、その指先に、世界の理を歪めるほどのエネルギーを収束させる。
それは、もはや、魔法などという、生易しいものではない。
この空間の、物理法則そのものを、根こそぎ『削除』しようとする、純粋な、破壊のコマンドだった。

「――全員、伏せろ!」

俺が叫ぶと同時に、神の使徒の指先から、純白の『無』が、放たれた。
それは、光でも、衝撃波でもない。
ただ、そこにあった空間、物質、情報、その全てが、音もなく、綺麗に、えぐり取られていく。
森の木々が、大地が、まるで、存在しなかったかのように、消滅していく。
絶望的な光景。
これが、神々の、本当の力。世界の『管理者』が振るう、絶対的な権能。

「きゃあああっ!」
「ぐっ……!?」
エルフたちの悲鳴と、ヴォルグの苦悶の声が上がる。
かろうじて、直撃は避けられたものの、俺たちは、その余波だけで、吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

『……ターゲットの生存を確認。削除シーケンス、再実行』
神の使徒が、無感情に、再び、指先を俺たちに向ける。
もう、次はない。
あれを受ければ、俺たちは、魂の一片すら残さず、この世界から『削除』される。

「……させるかよ、クソったれが!」
俺は、血の味のする口の端を拭うと、立ち上がった。
そして、俺の持てる、全ての権限を、解放した。
「【ワールド・エディタ】、最大権限、行使! 編集対象、この領域の『空間座標の定義』!」
俺は、神の使徒が放つ、削除のコマンドが、俺たちに着弾する、そのコンマ一秒前に、俺たちが存在する、空間そのものの座標を、強制的に、書き換えた。
俺たちの身体が、一瞬で、数十メートル横に、瞬間移動(テレポート)する。
純白の『無』は、俺たちのいた場所の空間を、虚しく、えぐり取って、消滅した。

『……? ターゲットの、空間転移を確認。論理エラーか? いや……。座標情報への、外部からの、不正なアクセス……?』
神の使徒の、無機質な瞳が、初めて、わずかに、揺らいだ。
彼(あるいは彼女)の、完璧に計算されたプログラムに、予測不能な、イレギュラーが発生したのだ。
「驚いている暇は、ないぜ」
俺は、反撃に出た。
「編集コマンド、『重力定数の増大』! 対象、エンジェルの、直上空間!」
俺が命じると、神の使徒の、頭上わずか数メートルの空間の、重力定数が、一瞬だけ、通常の、数百倍に、書き換えられた。
ズンッ! という、凄まじい轟音と共に、神の使徒の身体が、見えない、巨大なハンマーに、叩きつけられたかのように、地面に、めり込んだ。

『……ぐっ!? な、なんだ、この、圧力は……! 物理法則の、局所的な、暴走……!?』
神の使徒が、初めて、苦痛の声を上げた。
「どうだ。これが、俺の戦い方だ」
俺は、彼(彼女)を、睨みつけた。
「お前が、この世界の『ルール』に従って、俺たちを排除しようとするなら、俺は、その『ルール』そのものを、書き換えてやる」

それは、もはや、剣と魔法の戦いではない。
世界のシステム、そのものの、支配権を奪い合う、管理者と、ハッカーの、異次元のサイバー戦争だった。
互いが、互いのコマンドを、リアルタイムで、上書きし、書き換え合う。
一瞬の判断の遅れが、自らの、存在の『削除』に、直結する。

『……イレギュラー・エンティティ『カイト』。貴様の存在は、システムの安定を著しく、脅かす、最優先駆除対象であると、再認定する』
地面から、ゆっくりと身体を引き抜いた神の使徒の、全身から、金色のオーラが、これまで以上に、激しく、燃え上がった。
『――これより、この領域の、ローカル・物理法則を、一時的に、書き換える。『上位神聖言語』による、オーバーライドを開始』
神の使徒が、人間には、発音不可能な、神々の言語を、紡ぎ始めた。
すると、この森の、全ての理が、捻じ曲がっていく。
木々が、溶け始め、大地が、空へと、隆起する。
俺の【ワールド・エディタ】による、編集権限が、より上位の、神の権能によって、上書きされ、弾かれていく。
「くっ……! 俺のコマンドが、通じない……!」

『――死になさい、世界のバグ』
神の使徒の、両手から、無数の、光の槍が生み出され、俺たちに向かって、殺到する。
一本一本が、先程の、削除のコマンドと、同等の威力を持つ、絶望的な、弾幕。
もう、避けられない。
俺の権限が、無効化された今、なすすべは、ない。

「――諦めるな、カイト!」
その、絶望の、一瞬。
俺の背後から、二つの、温かい光が、俺の身体を、包み込んだ。
「フレア!」
「ルナ!」
(この声は、幻聴じゃない。アレスの、通信石を通して……!)

アレスたちが、王城で、俺たちの危機を、察知したのだ。
フレアの声が、俺の魂に、直接、響く。
『カヤツの、そのフザけた上位言語とやら、お前のスキルで、翻訳できねえのかよ!? 言葉の意味が分かれば、対処のしようもあるだろ!』
フレアの、その、単純で、しかし、核心を突いた言葉に、俺は、ハッとした。
そうだ。翻訳。なぜ、それに、気づかなかった。

「【ワールド・エディタ】、編集コマンドじゃない! 『解析』コマンド、最大深度! 対象、『上位神聖言語』! その、構文と、意味を、リアルタイムで、解析、翻訳せよ!」
俺は、最後のMPを、振り絞った。
脳が、焼き切れるほどの、膨大な情報が、流れ込んでくる。
意味不明だった、神の言葉が、俺の中で、一つずつ、意味のある『コマンド』として、再構築されていく。

『――変数『空間』に、値『混沌』を代入』
『――関数『因果律』の、戻り値を、『死』に固定』
その、おぞましいまでの、破壊のコマンドの、羅列。
だが、その、複雑なコードの中に、俺は、一つの、単純な『繰り返し処理(ループ)』を発見した。
この上位神聖言語は、その効果を維持するために、常に、同じ、短い『維持コード』を、バックグラウンドで、実行し続けている。

「……見つけたぜ、お前の、弱点をな」
俺は、ルナに、叫んだ。
「ルナ! 俺の言う通りに、魔法を、詠唱しろ! 一言一句、間違えるな!」
俺は、翻訳した『維持コード』を、無効化するための、カウンターコードを、即席で組み上げ、それを、ルナに、詠唱させる。
それは、もはや、この世界の、誰にも理解できない、バグった、魔法の呪文だった。
「――『■■■・■■・■■■■■』!」
ルナが、俺の言葉を信じ、その、意味不明な呪文を、叫んだ。
すると、彼女の聖なる魔力が、その呪文を、トリガーとして、神の使徒が展開していた、上位神聖言語の、維持コードに、致命的なエラーを、引き起こした。

『……な!? なぜだ!? 我が神聖言語が、無効化された……!? ありえん、人間が、神の言葉を、理解できるはずが……!』
神の使徒が、初めて、明確な『動揺』を見せた。
彼が作り出した、混沌の世界が、崩壊を始め、元の、銀の森の姿へと、戻っていく。
彼の、絶対的な権能が、破られたのだ。

「――今だ、フレアァァァッ!」
俺の、魂の叫びに、呼応するように。
王都にいるはずの、フレアの、最強の一撃が、時空を超えて、ここに、届いた。
アレスの、空間転移の補助を受けた、彼女の剣が、神の使徒の、目の前の空間から、突如として、現れたのだ。
それは、仲間への、相棒への、全ての信頼を乗せた、渾身の一撃。

「神速無双剣、究極奥義――!」
「『絆(アストライア)・ブレイド』!!」

真紅の閃光が、神の使徒の、がら空きになった、その胸を、正確に、そして、容赦なく、貫いた。
『ぐ……ぉ……ああああああ……ッ!?』
神の使徒の、神々しい身体に、亀裂が走り、その内側から、金色の光が、溢れ出す。
『ば、馬鹿な……。この、私が……。神の使徒、たる、私が……。世界の、バグごときに……』
それが、彼の、最後の言葉だった。
彼の身体は、大爆発を起こすこともなく、ただ、静かに、光の粒子となって、風の中に、掻き消えていった。

後に残されたのは、静寂を取り戻した、銀の森と。
全ての力を使い果たし、地面に、膝をつく、俺たちの姿だけだった。
「……はぁ、はぁ……。やった、のか……?」
俺は、まだ、信じられない思いで、神の使徒が消えた、空を見上げていた。
勝った。
俺たちは、神の、その絶対的な力に、打ち勝ったのだ。
仲間との、絆の力で。
だが、それは、これから始まる、本当の戦いの、始まりのゴングが、高らかに、鳴り響いたことを、意味していた。
俺たちの勝利は、神々の、逆鱗に、完全に、触れてしまったのだから。
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