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第55話 神の使徒を撃退。しかし、世界の崩壊は加速する
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神の使徒が光の粒子となって消え去った後、銀の森には、嘘のような静寂が戻ってきた。
だが、その静寂は、勝利の安らぎなどではなかった。
俺たちの目の前に広がるのは、神の力によって、無残にえぐり取られた大地。空間そのものが『削除』された傷跡は、決して元に戻ることはなく、世界の理に、修復不可能な傷が刻まれたことを、残酷なまでに物語っていた。
「……はぁ……はぁ……。やった、のか……?」
俺は、MPも、精神力も、完全に使い果たし、地面に膝をついたまま、動くことすらできなかった。隣では、ルナが俺の肩に寄りかかり、荒い息を繰り返している。ヴォルグもまた、その屈強な身体を震わせ、目の前の光景に、ただ、呆然としていた。
「……信じられん。我々は、神を、討ったのか……?」
彼の声には、勝利の喜びよりも、むしろ、畏怖の色が濃く浮かんでいた。
その時、懐で、アレスから渡された通信石が、淡い光を放ち始めた。
俺は、最後の力を振り絞り、それに意識を集中させる。
『カイト! 無事か!?』
アレスの、切迫した声が、直接、頭の中に響いた。
「……ああ、なんとか、な。そっちは、どうだ?」
『こちらも、今、神器『王権の聖杯』を確保した! リリスの転移で、王城からの脱出にも成功した。だが、王都が……!』
アレスの声の向こうで、フレアの、興奮した声が割り込んでくる。
『カイト! やったな、相棒! こっちも、騎士団の奴らを、さんざん、引っ掻き回してやったぜ! アレスの魔法も、リリスの転移も、めちゃくちゃすげえ!』
彼女たちの、無事と、成功の報告に、俺は、心の底から、安堵した。
だが、リリスの、冷静な声が、その安堵を、すぐに、打ち消した。
『……カイト様。喜んでいる場合では、ありません。神の使徒を撃退した影響で、世界のシステムが、極めて不安定な状態に陥っています。各地で、空間の歪みや、原因不明の魔力異常が、多発しているようです。世界の理そのものが、悲鳴を上げています……』
リリスの言葉を、裏付けるかのように。
俺は、この世界の、根源的なシステムから、危険なアラートが、鳴り響いているのを、感じ取っていた。
俺は【ワールド・エディタ】を起動させ、世界の『汚染度』を示す、あの、不吉なゲージを、再び、表示させた。
そして、そこに映し出された光景に、絶句した。
【世界汚染度(World_Corruption_Level)】
【現在値: 99.1%】
【閾値: 100%】
【予測到達時間: 9日 21時間 07分 18秒】
「……嘘だろ……」
俺の口から、乾いた声が漏れた。
ワールドエンドまでのタイムリミットが、アレスを浄化した時点での「35日」から、一気に、「10日未満」にまで、短縮されている。
グラフは、これまでとは比較にならない、異常な角度で、急上昇を続けていた。
「どういうことだ、カイト!?」
アレスが、通信の向こうで、叫ぶ。
俺は、震える声で、その、絶望的な事実を、伝えた。
「……神の使徒を、倒したせいだ。奴は、ただの尖兵じゃなかった。世界の法則を、その強大な力で、無理やり、安定させていた、『重し』のような存在だったんだ。俺たちが、それを排除したことで……システムのタガが、完全に、外れてしまった……!」
神を殺した、代償。
あるいは、システムが、俺たちという、規格外の『バグ』を、これ以上、許容できず、自らを破壊することで、俺たちを排除しようと、ワールドエンドを、加速させているのかもしれない。
いずれにせよ、事態は、最悪の方向へと、転がり落ちていた。
『……なんということだ。我々は、自らの手で、破滅へのカウントダウンを、早めてしまったというのか……』
アレスの、苦渋に満ちた声が、響く。
しばしの、重い沈黙。
その沈黙を破ったのは、やはり、フレアだった。
『……うじうじしてんじゃねえよ! やっちまったもんは、しょうがねえだろ! 残りが10日だろうが、1日だろうが、やることは、変わんねえ! さっさと、最後の神器を見つけ出して、神様のいる場所に、殴り込みに行くだけだ!』
その、単純で、力強い言葉が、俺たちの、沈みかけた心に、再び、火を灯した。
そうだ。絶望している、暇はない。
その時、長老エルロンドを始めとする、エルフたちが、畏敬と、そして、決意の表情を浮かべて、俺たちの元へ、近づいてきた。
「……あなた様方の、戦い、見届けさせていただきました」
エルロンドは、俺の前に、静かに、ひざまずいた。
「あなた様方こそ、我らが信じるべき、真の希望。どうか、我ら森の民にも、その、世界の運命を賭けた、聖なる戦いに、加わる名誉を、お与えください」
「我らも、戦います!」
「この森を、この世界を、守るために!」
他のエルフたちも、次々と、同調する。
彼らは、俺たちの戦いを見て、そして、世界の真実を知って、自らの運命と、戦うことを、選んだのだ。
「……ありがとう、エルロンド殿。その申し出、心から感謝する」
俺は、彼に、最後の神器について、尋ねた。
「最後の一つは、行方知れずだと聞いている。何か、手がかりはないか?」
俺の問いに、エルロンドは、しばらく、記憶の糸をたぐり寄せ、やがて、ハッとしたように、顔を上げた。
「……そういえば、一つだけ、古い、古い、言い伝えが、ございます」
彼は、真剣な眼差しで、俺を見つめた。
「三つ目の神器は、『最も矮小なる勇者の、砕け散った誇りの中に、その真の姿を隠し、眠りにつく』、と……」
『最も、矮小なる勇者』
『砕け散った、誇り』
その言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に、一人の男の、最後の姿が、鮮明に、蘇った。
砂となって、風に消えていった、哀れな、道化。
勇者、アレクサンダー。
そして、彼が持っていた、あの、聖剣(偽)。
『カイト、まさか……!』
通信の向こうで、アレスもまた、同じ結論に、たどり着いたようだった。
「……ああ。最後の神器の正体は、聖剣アスカロン。いや、その名を騙った、『始まりの剣』だ」
全ての、ピースが、繋がった。
神々は、最も重要な神器の一つを、自らが選んだ、偽りの勇者に持たせることで、その真の力を、封印し、隠していたのだ。
「……急いで、合流するぞ」
俺は、通信石に向かって、言った。
「アレクサンダーが、消滅した場所……魔王城の、城門の前だ。そこに、きっと、手がかりが残っているはずだ」
『了解した! 我々も、すぐに向かう!』
俺たちは、もはや、一刻の猶予もなかった。
ルナは、故郷の同胞たちに、必ず、生きて、この森に戻ることを、強く、誓った。
「……行ってまいります、皆さん。この森の、本当の春を、取り戻すために」
エルフたちの、熱いエールを、背に受けて。
俺たちは、ヴォルグの案内で、森に古くから伝わる、最短ルートを使い、魔王城へと、急いだ。
世界の崩壊が、加速する。
絶望的な状況。
だが、俺たちの瞳には、もはや、諦めの色はなかった。
最後の、希望の欠片は、確かにある。
それを、この手で、掴み取るために。
俺たちは、走る。
神々が仕掛けた、この、理不尽な、終末のゲームを、終わらせるために。
だが、その静寂は、勝利の安らぎなどではなかった。
俺たちの目の前に広がるのは、神の力によって、無残にえぐり取られた大地。空間そのものが『削除』された傷跡は、決して元に戻ることはなく、世界の理に、修復不可能な傷が刻まれたことを、残酷なまでに物語っていた。
「……はぁ……はぁ……。やった、のか……?」
俺は、MPも、精神力も、完全に使い果たし、地面に膝をついたまま、動くことすらできなかった。隣では、ルナが俺の肩に寄りかかり、荒い息を繰り返している。ヴォルグもまた、その屈強な身体を震わせ、目の前の光景に、ただ、呆然としていた。
「……信じられん。我々は、神を、討ったのか……?」
彼の声には、勝利の喜びよりも、むしろ、畏怖の色が濃く浮かんでいた。
その時、懐で、アレスから渡された通信石が、淡い光を放ち始めた。
俺は、最後の力を振り絞り、それに意識を集中させる。
『カイト! 無事か!?』
アレスの、切迫した声が、直接、頭の中に響いた。
「……ああ、なんとか、な。そっちは、どうだ?」
『こちらも、今、神器『王権の聖杯』を確保した! リリスの転移で、王城からの脱出にも成功した。だが、王都が……!』
アレスの声の向こうで、フレアの、興奮した声が割り込んでくる。
『カイト! やったな、相棒! こっちも、騎士団の奴らを、さんざん、引っ掻き回してやったぜ! アレスの魔法も、リリスの転移も、めちゃくちゃすげえ!』
彼女たちの、無事と、成功の報告に、俺は、心の底から、安堵した。
だが、リリスの、冷静な声が、その安堵を、すぐに、打ち消した。
『……カイト様。喜んでいる場合では、ありません。神の使徒を撃退した影響で、世界のシステムが、極めて不安定な状態に陥っています。各地で、空間の歪みや、原因不明の魔力異常が、多発しているようです。世界の理そのものが、悲鳴を上げています……』
リリスの言葉を、裏付けるかのように。
俺は、この世界の、根源的なシステムから、危険なアラートが、鳴り響いているのを、感じ取っていた。
俺は【ワールド・エディタ】を起動させ、世界の『汚染度』を示す、あの、不吉なゲージを、再び、表示させた。
そして、そこに映し出された光景に、絶句した。
【世界汚染度(World_Corruption_Level)】
【現在値: 99.1%】
【閾値: 100%】
【予測到達時間: 9日 21時間 07分 18秒】
「……嘘だろ……」
俺の口から、乾いた声が漏れた。
ワールドエンドまでのタイムリミットが、アレスを浄化した時点での「35日」から、一気に、「10日未満」にまで、短縮されている。
グラフは、これまでとは比較にならない、異常な角度で、急上昇を続けていた。
「どういうことだ、カイト!?」
アレスが、通信の向こうで、叫ぶ。
俺は、震える声で、その、絶望的な事実を、伝えた。
「……神の使徒を、倒したせいだ。奴は、ただの尖兵じゃなかった。世界の法則を、その強大な力で、無理やり、安定させていた、『重し』のような存在だったんだ。俺たちが、それを排除したことで……システムのタガが、完全に、外れてしまった……!」
神を殺した、代償。
あるいは、システムが、俺たちという、規格外の『バグ』を、これ以上、許容できず、自らを破壊することで、俺たちを排除しようと、ワールドエンドを、加速させているのかもしれない。
いずれにせよ、事態は、最悪の方向へと、転がり落ちていた。
『……なんということだ。我々は、自らの手で、破滅へのカウントダウンを、早めてしまったというのか……』
アレスの、苦渋に満ちた声が、響く。
しばしの、重い沈黙。
その沈黙を破ったのは、やはり、フレアだった。
『……うじうじしてんじゃねえよ! やっちまったもんは、しょうがねえだろ! 残りが10日だろうが、1日だろうが、やることは、変わんねえ! さっさと、最後の神器を見つけ出して、神様のいる場所に、殴り込みに行くだけだ!』
その、単純で、力強い言葉が、俺たちの、沈みかけた心に、再び、火を灯した。
そうだ。絶望している、暇はない。
その時、長老エルロンドを始めとする、エルフたちが、畏敬と、そして、決意の表情を浮かべて、俺たちの元へ、近づいてきた。
「……あなた様方の、戦い、見届けさせていただきました」
エルロンドは、俺の前に、静かに、ひざまずいた。
「あなた様方こそ、我らが信じるべき、真の希望。どうか、我ら森の民にも、その、世界の運命を賭けた、聖なる戦いに、加わる名誉を、お与えください」
「我らも、戦います!」
「この森を、この世界を、守るために!」
他のエルフたちも、次々と、同調する。
彼らは、俺たちの戦いを見て、そして、世界の真実を知って、自らの運命と、戦うことを、選んだのだ。
「……ありがとう、エルロンド殿。その申し出、心から感謝する」
俺は、彼に、最後の神器について、尋ねた。
「最後の一つは、行方知れずだと聞いている。何か、手がかりはないか?」
俺の問いに、エルロンドは、しばらく、記憶の糸をたぐり寄せ、やがて、ハッとしたように、顔を上げた。
「……そういえば、一つだけ、古い、古い、言い伝えが、ございます」
彼は、真剣な眼差しで、俺を見つめた。
「三つ目の神器は、『最も矮小なる勇者の、砕け散った誇りの中に、その真の姿を隠し、眠りにつく』、と……」
『最も、矮小なる勇者』
『砕け散った、誇り』
その言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に、一人の男の、最後の姿が、鮮明に、蘇った。
砂となって、風に消えていった、哀れな、道化。
勇者、アレクサンダー。
そして、彼が持っていた、あの、聖剣(偽)。
『カイト、まさか……!』
通信の向こうで、アレスもまた、同じ結論に、たどり着いたようだった。
「……ああ。最後の神器の正体は、聖剣アスカロン。いや、その名を騙った、『始まりの剣』だ」
全ての、ピースが、繋がった。
神々は、最も重要な神器の一つを、自らが選んだ、偽りの勇者に持たせることで、その真の力を、封印し、隠していたのだ。
「……急いで、合流するぞ」
俺は、通信石に向かって、言った。
「アレクサンダーが、消滅した場所……魔王城の、城門の前だ。そこに、きっと、手がかりが残っているはずだ」
『了解した! 我々も、すぐに向かう!』
俺たちは、もはや、一刻の猶予もなかった。
ルナは、故郷の同胞たちに、必ず、生きて、この森に戻ることを、強く、誓った。
「……行ってまいります、皆さん。この森の、本当の春を、取り戻すために」
エルフたちの、熱いエールを、背に受けて。
俺たちは、ヴォルグの案内で、森に古くから伝わる、最短ルートを使い、魔王城へと、急いだ。
世界の崩壊が、加速する。
絶望的な状況。
だが、俺たちの瞳には、もはや、諦めの色はなかった。
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