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第69話 エピローグ③ 愛すべき、世界の『バグ』
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穏やかな、昼下がり。
俺は、アストライアの街を、目的もなく、ぶらぶらと歩いていた。
ルナとフレアは、「新しいケーキのレシピを試す」と言って、朝から、キッチンで、何やら、楽しげに奮闘している。甘い匂いに満ちた家から、俺は、少しだけ、散歩に出ることにしたのだ。
新世界の街並みは、活気に満ち溢れている。
ドワーフの打った、頑丈な石畳の上を、エルフの作った、軽やかな馬車が走り、獣人の子供たちが、魔族の露天商が売る、不思議な果物を、目を輝かせて、頬張っている。
かつては、決して交わることのなかった、文化と、技術が、融合し、そこには、毎日、新しい、驚きと、発見が、生まれていた。
俺は、そんな光景を眺めるのが、好きだった。
この、俺たちが創った世界の、脈動を、肌で感じることができるからだ。
「お、カイトじゃないか! ちょっと、いいところに!」
不意に、後ろから、声をかけられた。
振り返ると、そこにいたのは、衛兵の詰所で、サボっていた、ヴォルグだった。彼は、もはや、魔王軍の猛将ではなく、この都の、治安を守る、頼れる、衛兵隊長だ。
「どうしたんだ、そんなに慌てて」
「いや、大したことじゃないんだがな。最近、街の子供たちの間で、妙な『魔法』が、流行っているらしくてな。ちょっと、見てくれんか」
彼に案内されて、向かったのは、街の裏路地だった。
そこでは、数人の、様々な種族の子供たちが、集まって、何やら、キャッキャと、はしゃいでいる。
そして、その中心で、一人の、人間の少年が、得意げに、指を鳴らした。
パチン!
すると、彼の指先から、シャボン玉のような、虹色の、光の玉が、いくつも、生まれ、ふわふわと、宙を舞い始めた。
子供たちが、それを見て、歓声を上げる。
「……なんだ、綺麗なもんじゃないか。何か、問題でも?」
俺が尋ねると、ヴォルグは、困ったように、頭を掻いた。
「ああ、見た目はな。だが、あのシャボン玉、割れると、とんでもなく、臭い匂いを、放つんだ。街の、あちこちで、被害報告が出ててな……。俺たちも、どんな魔法なのか、さっぱり、分からんのだ」
「なるほどな。悪戯、というわけか」
俺は、その、虹色のシャボン玉に、そっと、【システム解析】を、かけてみた。
【ITEM_NAME: 虹色うんちくシャボン】
【TYPE: いたずら魔法(亜種)】
【EFFECT: 割れると、半径3メートルに、強烈な悪臭を拡散させる。】
【CREATOR: 少年レオ(Lv5)】
【LOGIC_SCRIPT】
- `function create_bubble() {`
- ` let base_magic = 'シャボン玉';`
- ` let add_element = '腐った卵の匂いデータ'; // [ERROR] 本来は結合不可能なデータ型です。`
- ` return base_magic + add_element;`
- `}`
【SYSTEM_LOG: [WARNING] 論理的に、ありえない魔法構成です。世界の『遊び』が、システムの、想定を超えた、未知のバグを、発生させています。】
「…………」
俺は、解析結果を見て、思わず、吹き出してしまった。
「はは……。ははははは!」
「お、おい、カイト? 何がおかしいんだ?」
「いや、すまんすまん。なるほどな、これは、確かに『バグ』だ」
この魔法は、本来なら、決して、組み合わせることのできない、二つの異なる、魔法のデータを、子供の、純粋な「面白がってほしい」という、強い意志が、無理やり、結合させて、生み出した、奇跡の産物だった。
それは、世界の、ルールが、まだ、完全に、固まりきっていない、この、新しい世界だからこそ、生まれた、イレギュラー。
世界の、バグ。
それは、かつて、俺たちが、命を懸けて、戦った、脅威だった。
だが、今、目の前にある、この『バグ』は。
どこまでも、くだらなくて、愛おしくて、そして、平和の、象徴のようだった。
世界が、安定し、人々が、自由に、その、想像力を、羽ばたかせているからこそ、生まれる、予測不能な、エラー。
「……なあ、ヴォルグ。こいつは、放っておこうぜ」
俺は、笑いを堪えながら、言った。
「はあ!? だが、被害が……!」
「大丈夫だ。どうせ、子供の、やることだ。すぐに、飽きるさ。それに……」
俺は、得意げに、シャボン玉を、飛ばしている、少年レオを、見つめた。
「……あいつ、将来、とんでもない、大魔法使いになるかもしれんぞ」
俺の言葉に、ヴォルグは、納得がいかない、という顔をしながらも、渋々と、引き下がっていった。
俺は、しばらく、その場で、子供たちが、はしゃぐ様子を、眺めていた。
世界の、バグは、きっと、これからも、生まれ続けるだろう。
恋する、乙女の、魔力が、暴走して、街中に、花を咲かせてしまったり。
頑固な、ドワーフの職人が、ありえない、素材を、組み合わせて、とんでもない、発明品を、生み出してしまったり。
それは、かつて、デミウルゴスが、望んだ、予測不能な、エンターテイメント、そのものなのかもしれない。
だが、もう、その『バグ』が、誰かの、悲しみや、絶望に、繋がることは、ない。
なぜなら、この世界には、もう、それを、正しく、導き、そして、笑って、許してくれる、仲間たちが、いるのだから。
俺は、空を見上げた。
どこまでも、青く、澄み渡った、空。
「……悪くないな。こういう、平和な『バグ』に、満ち溢れた、世界ってのも」
俺は、心から、そう、思った。
そして、そろそろ、ルナとフレアの、ケーキが、焼き上がる頃だろうと、俺は、我が家へと続く、坂道を、ゆっくりと、登り始めた。
この、愛すべき、日常を、噛みしめながら。
俺は、アストライアの街を、目的もなく、ぶらぶらと歩いていた。
ルナとフレアは、「新しいケーキのレシピを試す」と言って、朝から、キッチンで、何やら、楽しげに奮闘している。甘い匂いに満ちた家から、俺は、少しだけ、散歩に出ることにしたのだ。
新世界の街並みは、活気に満ち溢れている。
ドワーフの打った、頑丈な石畳の上を、エルフの作った、軽やかな馬車が走り、獣人の子供たちが、魔族の露天商が売る、不思議な果物を、目を輝かせて、頬張っている。
かつては、決して交わることのなかった、文化と、技術が、融合し、そこには、毎日、新しい、驚きと、発見が、生まれていた。
俺は、そんな光景を眺めるのが、好きだった。
この、俺たちが創った世界の、脈動を、肌で感じることができるからだ。
「お、カイトじゃないか! ちょっと、いいところに!」
不意に、後ろから、声をかけられた。
振り返ると、そこにいたのは、衛兵の詰所で、サボっていた、ヴォルグだった。彼は、もはや、魔王軍の猛将ではなく、この都の、治安を守る、頼れる、衛兵隊長だ。
「どうしたんだ、そんなに慌てて」
「いや、大したことじゃないんだがな。最近、街の子供たちの間で、妙な『魔法』が、流行っているらしくてな。ちょっと、見てくれんか」
彼に案内されて、向かったのは、街の裏路地だった。
そこでは、数人の、様々な種族の子供たちが、集まって、何やら、キャッキャと、はしゃいでいる。
そして、その中心で、一人の、人間の少年が、得意げに、指を鳴らした。
パチン!
すると、彼の指先から、シャボン玉のような、虹色の、光の玉が、いくつも、生まれ、ふわふわと、宙を舞い始めた。
子供たちが、それを見て、歓声を上げる。
「……なんだ、綺麗なもんじゃないか。何か、問題でも?」
俺が尋ねると、ヴォルグは、困ったように、頭を掻いた。
「ああ、見た目はな。だが、あのシャボン玉、割れると、とんでもなく、臭い匂いを、放つんだ。街の、あちこちで、被害報告が出ててな……。俺たちも、どんな魔法なのか、さっぱり、分からんのだ」
「なるほどな。悪戯、というわけか」
俺は、その、虹色のシャボン玉に、そっと、【システム解析】を、かけてみた。
【ITEM_NAME: 虹色うんちくシャボン】
【TYPE: いたずら魔法(亜種)】
【EFFECT: 割れると、半径3メートルに、強烈な悪臭を拡散させる。】
【CREATOR: 少年レオ(Lv5)】
【LOGIC_SCRIPT】
- `function create_bubble() {`
- ` let base_magic = 'シャボン玉';`
- ` let add_element = '腐った卵の匂いデータ'; // [ERROR] 本来は結合不可能なデータ型です。`
- ` return base_magic + add_element;`
- `}`
【SYSTEM_LOG: [WARNING] 論理的に、ありえない魔法構成です。世界の『遊び』が、システムの、想定を超えた、未知のバグを、発生させています。】
「…………」
俺は、解析結果を見て、思わず、吹き出してしまった。
「はは……。ははははは!」
「お、おい、カイト? 何がおかしいんだ?」
「いや、すまんすまん。なるほどな、これは、確かに『バグ』だ」
この魔法は、本来なら、決して、組み合わせることのできない、二つの異なる、魔法のデータを、子供の、純粋な「面白がってほしい」という、強い意志が、無理やり、結合させて、生み出した、奇跡の産物だった。
それは、世界の、ルールが、まだ、完全に、固まりきっていない、この、新しい世界だからこそ、生まれた、イレギュラー。
世界の、バグ。
それは、かつて、俺たちが、命を懸けて、戦った、脅威だった。
だが、今、目の前にある、この『バグ』は。
どこまでも、くだらなくて、愛おしくて、そして、平和の、象徴のようだった。
世界が、安定し、人々が、自由に、その、想像力を、羽ばたかせているからこそ、生まれる、予測不能な、エラー。
「……なあ、ヴォルグ。こいつは、放っておこうぜ」
俺は、笑いを堪えながら、言った。
「はあ!? だが、被害が……!」
「大丈夫だ。どうせ、子供の、やることだ。すぐに、飽きるさ。それに……」
俺は、得意げに、シャボン玉を、飛ばしている、少年レオを、見つめた。
「……あいつ、将来、とんでもない、大魔法使いになるかもしれんぞ」
俺の言葉に、ヴォルグは、納得がいかない、という顔をしながらも、渋々と、引き下がっていった。
俺は、しばらく、その場で、子供たちが、はしゃぐ様子を、眺めていた。
世界の、バグは、きっと、これからも、生まれ続けるだろう。
恋する、乙女の、魔力が、暴走して、街中に、花を咲かせてしまったり。
頑固な、ドワーフの職人が、ありえない、素材を、組み合わせて、とんでもない、発明品を、生み出してしまったり。
それは、かつて、デミウルゴスが、望んだ、予測不能な、エンターテイメント、そのものなのかもしれない。
だが、もう、その『バグ』が、誰かの、悲しみや、絶望に、繋がることは、ない。
なぜなら、この世界には、もう、それを、正しく、導き、そして、笑って、許してくれる、仲間たちが、いるのだから。
俺は、空を見上げた。
どこまでも、青く、澄み渡った、空。
「……悪くないな。こういう、平和な『バグ』に、満ち溢れた、世界ってのも」
俺は、心から、そう、思った。
そして、そろそろ、ルナとフレアの、ケーキが、焼き上がる頃だろうと、俺は、我が家へと続く、坂道を、ゆっくりと、登り始めた。
この、愛すべき、日常を、噛みしめながら。
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