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第二十七話 王子の言い分、アリアの反論
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私の声は、確かに届いていた。
だが、彼らの心は、それを真実として受け入れることを拒絶した。アルフォンス王子が叫んだ「あれは偽物だ」という言葉は、彼らが聞きたかった唯一の答えだったのだ。
動揺は、瞬く間に狂信へと上書きされる。
騎士たちは再び剣を掲げ、その瞳に盲目的な正義の光を宿した。
「総攻撃を開始せよ!」
王子の号令が、戦いの開始を告げる。
数百の騎士たちが、一斉に魔法を放った。炎の矢、氷の槍、雷の礫。色とりどりの死の光が、一つの巨大な奔流となって、天空城へと殺到する。
世界が、音と光に飲み込まれた。
ズウウウウウウンッ!
凄まじい轟音と共に、城全体が激しく揺れる。私は思わずカイザーのマントを強く握りしめた。
光の津波は、城を覆う見えない結界に激突した。
だが、次の瞬間、信じられない光景が広がった。
あれほど凄まจいエネルギーの塊が、まるで硬い水晶の壁にぶつかった水飛沫のように、あっけなく弾け飛んだのだ。結界は、びくともしていない。揺らぎさえ、見せなかった。
「なっ……!?」
アルフォンス王子が、絶句する声が聞こえる。
騎士たちも、自分たちの全力攻撃が全く通用しなかった現実に、呆然としていた。ワイバーンたちが不安げな鳴き声を上げる。
「怯むなあっ!」
王子の金切り声が、再び響き渡った。その顔は、屈辱と焦りで醜く歪んでいる。
「第二波を放て! 魔力が尽きるまで撃ち続けろ! あれほどの結界、いつまでも維持できるはずがない!」
彼の言葉は、もはや理性を失っていた。騎士たちは、戸惑いながらも、主君の狂気に満ちた命令に従うしかない。
再び、魔法の光が放たれる。
一度、二度、三度。
無意味な攻撃が、何度も繰り返される。そのたびに、結界は虚しく光を弾き返し、轟音だけが空しく響き渡った。それは、まるで子供が癇癪を起こして、岩の壁を叩き続けているかのような、滑稽で、そして哀れな光景だった。
私は、カイザーの背中の後ろで、ただ唇を噛み締めていた。
これが、私の故郷の、騎士たちの姿。
これが、私がかつて婚約者だった、王子の姿。
あまりの愚かさに、悲しみさえも通り越して、ただ心が冷えていくのを感じた。
「……飽きた」
不意に、隣でカイザーがぽつりと呟いた。
その声は、絶対零度の響きを持っていた。娯楽に飽いた王が、つまらない道化師に死を宣告するような、冷徹で、無慈悲な声。
私は、はっと息を呑んで彼を見上げた。
彼の横顔は、もはや何の感情も浮かべていなかった。ただ、その黒曜石の瞳の奥に、人間という種の愚かさに対する、底なしの失望が、静かに渦巻いている。
彼は、ゆっくりと私の方を向いた。
そして、その大きな手で、私の両耳を優しく覆った。
「アリア。少しだけ、耳を塞いでいろ」
その声は、先ほどとは打って変わって、どこまでも優しかった。
「少し、うるさくなる」
「カイザー様……?」
私の問いに答える代わりに、彼は、私の目の前で、一歩、前に出た。
結界の、内側。テラスの、一番縁。
そして、彼の体が、眩いばかりの光に包まれた。
光が、天を衝く。
私は、彼の手に耳を覆われながらも、その光景から目を離すことができなかった。
光が収まった時、そこに立っていたのは、人型の彼ではなかった。
天を覆い尽くさんばかりの、巨大な黒竜。
漆黒の鱗が、鉛色の空の下で、ぬらりとした光を放つ。二本の巨大な角は、天を突き刺すかのように鋭く伸び、その翼は、広げればこの城さえも覆い隠してしまいそうなほど、広大だった。
絶対的な、神威。
生物としての格が、あまりにも違いすぎた。
あれが、カイザーの、本当の姿。
終焉の黒竜。
その姿が現れただけで、騎士団の攻撃は、完全に止んだ。
魔法の詠唱も、鬨の声も、全てが嘘のように消え失せる。
数百頭いたワイバーンたちは、主人の制御を離れ、恐怖に金切り声を上げて暴れ出した。あるものは主を振り落とし、あるものは仲間同士でぶつかり合う。あれほど統率の取れていた騎士団は、一瞬にして烏合の衆と化した。
騎士たちの顔から、血の気が引いているのが、遠目にも分かった。
彼らは、ようやく理解したのだ。
自分たちが、戦いを挑んでいた相手が、いかなる存在であったのかを。
それは、英雄譚に語られるような、討伐可能な「悪竜」などではない。
人の理を超えた、神話そのもの。抗うことさえ許されない、厄災の化身。
黒竜は、燃え盛る黄金の瞳で、眼下で狼狽える、ちっぽけな虫けらのような人間たちを、ただ、静かに見下ろしていた。
そして、その巨大な顎の隙間から、低く、地を揺るがすような唸り声が、ゆっくりと漏れ出した。
グルルルル……。
それは、これから始まる一方的な蹂躙の、静かな序曲だった。
私は、彼の圧倒的な神威を前に、耳を塞がれたまま、ただ、立ち尽くすことしかできなかった。
だが、彼らの心は、それを真実として受け入れることを拒絶した。アルフォンス王子が叫んだ「あれは偽物だ」という言葉は、彼らが聞きたかった唯一の答えだったのだ。
動揺は、瞬く間に狂信へと上書きされる。
騎士たちは再び剣を掲げ、その瞳に盲目的な正義の光を宿した。
「総攻撃を開始せよ!」
王子の号令が、戦いの開始を告げる。
数百の騎士たちが、一斉に魔法を放った。炎の矢、氷の槍、雷の礫。色とりどりの死の光が、一つの巨大な奔流となって、天空城へと殺到する。
世界が、音と光に飲み込まれた。
ズウウウウウウンッ!
凄まじい轟音と共に、城全体が激しく揺れる。私は思わずカイザーのマントを強く握りしめた。
光の津波は、城を覆う見えない結界に激突した。
だが、次の瞬間、信じられない光景が広がった。
あれほど凄まจいエネルギーの塊が、まるで硬い水晶の壁にぶつかった水飛沫のように、あっけなく弾け飛んだのだ。結界は、びくともしていない。揺らぎさえ、見せなかった。
「なっ……!?」
アルフォンス王子が、絶句する声が聞こえる。
騎士たちも、自分たちの全力攻撃が全く通用しなかった現実に、呆然としていた。ワイバーンたちが不安げな鳴き声を上げる。
「怯むなあっ!」
王子の金切り声が、再び響き渡った。その顔は、屈辱と焦りで醜く歪んでいる。
「第二波を放て! 魔力が尽きるまで撃ち続けろ! あれほどの結界、いつまでも維持できるはずがない!」
彼の言葉は、もはや理性を失っていた。騎士たちは、戸惑いながらも、主君の狂気に満ちた命令に従うしかない。
再び、魔法の光が放たれる。
一度、二度、三度。
無意味な攻撃が、何度も繰り返される。そのたびに、結界は虚しく光を弾き返し、轟音だけが空しく響き渡った。それは、まるで子供が癇癪を起こして、岩の壁を叩き続けているかのような、滑稽で、そして哀れな光景だった。
私は、カイザーの背中の後ろで、ただ唇を噛み締めていた。
これが、私の故郷の、騎士たちの姿。
これが、私がかつて婚約者だった、王子の姿。
あまりの愚かさに、悲しみさえも通り越して、ただ心が冷えていくのを感じた。
「……飽きた」
不意に、隣でカイザーがぽつりと呟いた。
その声は、絶対零度の響きを持っていた。娯楽に飽いた王が、つまらない道化師に死を宣告するような、冷徹で、無慈悲な声。
私は、はっと息を呑んで彼を見上げた。
彼の横顔は、もはや何の感情も浮かべていなかった。ただ、その黒曜石の瞳の奥に、人間という種の愚かさに対する、底なしの失望が、静かに渦巻いている。
彼は、ゆっくりと私の方を向いた。
そして、その大きな手で、私の両耳を優しく覆った。
「アリア。少しだけ、耳を塞いでいろ」
その声は、先ほどとは打って変わって、どこまでも優しかった。
「少し、うるさくなる」
「カイザー様……?」
私の問いに答える代わりに、彼は、私の目の前で、一歩、前に出た。
結界の、内側。テラスの、一番縁。
そして、彼の体が、眩いばかりの光に包まれた。
光が、天を衝く。
私は、彼の手に耳を覆われながらも、その光景から目を離すことができなかった。
光が収まった時、そこに立っていたのは、人型の彼ではなかった。
天を覆い尽くさんばかりの、巨大な黒竜。
漆黒の鱗が、鉛色の空の下で、ぬらりとした光を放つ。二本の巨大な角は、天を突き刺すかのように鋭く伸び、その翼は、広げればこの城さえも覆い隠してしまいそうなほど、広大だった。
絶対的な、神威。
生物としての格が、あまりにも違いすぎた。
あれが、カイザーの、本当の姿。
終焉の黒竜。
その姿が現れただけで、騎士団の攻撃は、完全に止んだ。
魔法の詠唱も、鬨の声も、全てが嘘のように消え失せる。
数百頭いたワイバーンたちは、主人の制御を離れ、恐怖に金切り声を上げて暴れ出した。あるものは主を振り落とし、あるものは仲間同士でぶつかり合う。あれほど統率の取れていた騎士団は、一瞬にして烏合の衆と化した。
騎士たちの顔から、血の気が引いているのが、遠目にも分かった。
彼らは、ようやく理解したのだ。
自分たちが、戦いを挑んでいた相手が、いかなる存在であったのかを。
それは、英雄譚に語られるような、討伐可能な「悪竜」などではない。
人の理を超えた、神話そのもの。抗うことさえ許されない、厄災の化身。
黒竜は、燃え盛る黄金の瞳で、眼下で狼狽える、ちっぽけな虫けらのような人間たちを、ただ、静かに見下ろしていた。
そして、その巨大な顎の隙間から、低く、地を揺るがすような唸り声が、ゆっくりと漏れ出した。
グルルルル……。
それは、これから始まる一方的な蹂躙の、静かな序曲だった。
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