ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

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第五十二話 作戦会議

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レオンからの、あまりにも予想外の申し出。
私は、驚きのあまり、カイザーとレオンの顔を、交互に見比べることしかできなかった。
つい半日前まで、命のやり取りをしていた相手だ。その相手から、「仲間に加えてくれ」と、言われている。にわかには、信じがたい状況だった。
沈黙を破ったのは、カイザーだった。
彼の表情は、相変わらず読めなかったが、その声には、わずかな、興味の色が浮かんでいた。
「……ほう。面白いことを言う」
彼は、レオンから視線を外さずに、言った。
「つい先ほどまで、俺を『邪悪なる竜』と呼び、その剣を向けていた男が、今度は、何を企んでいる?」
その問いは、当然の、そして、鋭いものだった。
レオンは、ゆっくりと、下げていた頭を上げた。その青い瞳は、カイザーの、探るような視線を、真っ直ぐに、受け止めている。
「俺は、過ちに気づいただけだ」
彼の声には、一片の迷いもなかった。
「真に、この世界を蝕む悪は、天上にいるあなたではない。地上に蔓延る、教会の腐敗と、それを黙認する、王国の歪んだ秩序だ。俺は、それを正したい。勇者として、いや……ただ、一人の人間として」
その、あまりにも、真っ直ぐな言葉。
それは、レオンという人間の、本質そのものだった。
カイザーは、しばらく、黙ってレオンの瞳を見つめていたが、やがて、ふっと、その口元に、面白そうな笑みを浮かべた。
「……気に入った」
彼は、短く、そう言った。
「お前のような、単純で、馬鹿正直な人間は、嫌いではない」
それは、彼なりの、最大限の、賛辞だった。
「だが、勘違いするな。俺は、まだ、お前を、完全に信用したわけではない」
カイザーは、続ける。
「お前が、本当に、我らの味方となり得るのか。その覚悟と、力を、見せてもらおうか。……まずは、中へ入れ。話は、それからだ」
彼はそう言うと、レオンに背を向け、城の中へと、私たちを促した。
レオンは、一度だけ、深く頷くと、その後に続いた。
私も、まだ、状況が完全に飲み込めていないまま、二人の、大きな背中を、追いかけた。
敵同士だった、竜王と、勇者。
その、ありえないはずの、邂逅。
世界の歴史が、今、大きく、動き出そうとしている。
そんな、壮大な予感が、私の胸を、支配していた。

場所は、カイザーの書斎に移っていた。
大きな机を囲んで、私、カイザー、そして、レオンの三人が、向かい合っている。
カイザーが、魔法で淹れてくれたお茶の、良い香りが、部屋に満ちていた。
それは、まるで、作戦会議のような、不思議な光景だった。
「さて、勇者レオンよ」
カイザーが、口火を切った。
「お前の言う、真の悪とは、具体的には、誰を指す?」
「教皇だ」
レオンは、間髪入れずに、答えた。
「アリアの告白を聞いて、確信した。全ての元凶は、あの男だ。彼が、その慈悲深い仮面の裏で、王国を操り、人々を扇動し、自らの野望のために、全てを、動かしている」
その、淀みない答え。彼は、ここに来るまでの間に、一人で、そこまでの結論に、達していたのだ。
「俺も、同意見だ」
カイザーが、頷く。
「先日、この城を襲撃してきた、異端審問官。あれも、教皇が差し向けた、刺客だろう。奴らは、我々が思う以上に、厄介な手駒を、隠し持っている」
二人の間で、話が、進んでいく。
竜王の、数千年の知恵と、勇者の、人間界での経験。
その二つが組み合わさることで、今まで、点と点でしかなかった情報が、一つの、確かな線となって、結びついていく。
「教皇の、真の目的は、何だと思う」
カイザーが、問いかける。
「……分からん」
レオンは、首を振った。
「ただ、一つだけ、確かなことがある。彼は、アリアの、その、強大すぎる聖なる力を、欲している。それも、ただ、奇跡を起こすための力としてではない。もっと、別の、恐ろしい何かのために」
恐ろしい、何か。
その言葉に、私の背筋を、冷たいものが、走り抜けた。
「聖女の力を、悪用する……。古の文献に、いくつか、心当たりがある」
カイザーが、難しい顔で、呟いた。
「いずれにせよ、このまま、手をこまねいていては、奴らの思う壺だ。こちらからも、動く必要がある」
「ああ。俺も、そう思う」
レオンが、力強く、同意する。
「だが、我々だけでは、力が足りん。教皇は、王国だけでなく、大陸中の教会組織を、その手に握っている。その力は、あまりにも、巨大すぎる」
「仲間が、必要だということか」
「そうだ」
レオンは、地図を広げた。
「幸い、全ての人間が、教皇を妄信しているわけではない。地方の貴族や、騎士団の中には、今の、中央集権的すぎる教会の方針に、疑問を抱いている者たちも、少なくない。彼らを、味方に引き入れることができれば……」
「だが、危険すぎる」
カイザーが、その案を、一蹴した。
「お前が、俺たちと組んだと知れれば、彼らは、お前を、異端者として、処刑するだろう。そうなれば、味方になるはずだった者たちも、恐れをなして、口を閉ざす。逆効果だ」
「……ぐっ」
レオンが、言葉に詰まる。
カイザーの指摘は、的確だった。
「では、どうする」
「人間以外の、力を借りる」
カイザーの、その一言。
私とレオンは、同時に、息を呑んだ。
「……まさか」
レオンが、信じられない、という顔で、カイザーを見る。
カイザーは、静かに、頷いた。
「俺の、同族。そして……」
彼は、一度、言葉を切ると、地図の、さらに向こう側。人間界と、魔王軍の領土を隔てる、緩衝地帯を、指さした。
「かつての、敵。魔族の力も、だ」
その、あまりにも、大胆で、そして、常識外れの提案。
竜族に、協力を仰ぐ。
そして、つい数年前まで、人類の存続を懸けて戦っていた、魔族と、手を組む。
そんなこと、できるはずが、ない。
だが。
カイザーの瞳は、本気だった。
「敵の敵は、味方だ。教皇の真の目的が、もし、この世界そのものを、揺るがすようなものであったなら……利害は、一致するはずだ」
壮大すぎる、作戦。
私の頭は、もう、完全に、追いついていなかった。
だが、分かったことが、一つだけ、あった。
私たちの戦いは、もう、私個人を守るための、小さな籠城戦では、なくなったのだ。
これは、この世界の、未来そのものを懸けた、大きな、大きな戦いの、始まりなのだ、と。
机の上で、三人の視線が、交錯する。
竜王と、勇者と、聖女。
ありえないはずの、三者が、今、一つの目的のために、手を取り合おうとしていた。
夜は、まだ、明けない。
だが、闇が、最も深い時こそ、夜明けは、近い。
私は、固く、拳を握りしめた。
この、歴史的な作戦会議の、一員であるという、誇りと、そして、責任を、その小さな胸に、深く、深く、刻み込みながら。
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