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第五十三話 旅立ちの準備
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カイザーが提示した、あまりにも壮大な作戦プラン。
竜族と、そして魔族と、同盟を結ぶ。
その夜、私たちは夜が更けるのも忘れ、具体的な計画を練り続けた。
「まず、俺の同族の元へ向かう」
カイザーが、地図の遥か東の果てを指さした。そこは、人間が足を踏み入れることのない、世界の果てと呼ばれる未踏の山脈地帯だった。
「万竜の巣。我ら竜族の最後の安息地だ。そこにいる長老たちを説得する」
「……説得は難しいのか?」
レオンが尋ねる。
「ああ。今の竜たちは、人間との関わりを極端に嫌っている。過去に何度も人間に裏切られ、同族を狩られてきたからな。俺のように、古の契約を律儀に守ろうとする者は、もはや少数派だ」
カイザーの声に、わずかな苦渋の色が滲んだ。
「だが、やるしかない。教皇が神代の呪具を持ち出してきた以上、俺一人では万全とは言えん。同族の力が必要不可欠だ」
「分かった。ならばその間、俺は魔族との接触を試みる」
レオンが、今度は西の魔族領を指さした。
「幸い、俺には心当たりがある。魔族の中にも無益な争いを好まない、穏健派と言われる者たちがいる。その筆頭である魔将軍ゼノヴィア。彼女ならば話を聞いてくれるかもしれん」
「魔将軍……。あの魔王軍最強と謳われた、氷の魔女か」
カイザーが眉をひそめる。
「危険すぎる。お前一人では返り討ちに遭うぞ」
「いや、俺一人だからこそ意味があるんだ」
レオンは首を振った。
「大軍を率いていけば、ただの侵略だ。だが、勇者である俺が単身で丸腰で彼らの懐に飛び込めば……彼らも話を聞かざるを得ないはずだ。これは俺にしかできない役目だ」
その瞳には、揺るぎない覚悟が宿っていた。
カイザーはしばらく黙ってレオンを見つめていたが、やがて小さく頷いた。
「……分かった。だが、無茶はするな。お前の命は、もはやお前一人のものではない。我らの貴重な戦力なのだからな」
その不器用な気遣いの言葉。
レオンは、ふっと笑みを浮かべた。
「ああ。肝に銘じておく」
二人の間に、確かな信頼の絆が生まれていた。
私は、そんな二人を誇らしい気持ちで見つめていた。
そして同時に、自分の役割を考えていた。
私は何をするべきなのだろうか。
私がここに、ただ守られているだけではいけない。私も、この壮大な作戦の一員でなければならない。
「……私は」
私が口を開くと、二人の視線が一斉に私に集まった。
「私は、カイザー様と一緒に万竜の巣へ行きます」
それは、私の固い決意だった。
カイザーは、驚いたように目を見開いた。
「……何を言う。お前はここに残るんだ。ここが一番安全だ」
「いいえ」
私は首を振った。
「もう安全な場所などどこにもありません。それはカイザー様が一番分かっているはずです」
私の言葉に、彼はぐっと言葉を詰まらせた。
「それに……竜の長老たちを説得するのでしょう? 人間を嫌っているという彼らを。ならば、その説得の場に私がいるべきです。古の契約の当事者である聖女が」
「……だが、危険すぎる!」
「危険は承知の上です」
私は立ち上がると、カイザーの目を真っ直ぐに見つめ返した。
「私はもう、守られるだけのか弱い聖女ではありません。あなたのパートナーです。ならば、あなたと共に危険の中へ飛び込む覚悟はできています」
私の揺るぎない瞳。
カイザーは、私の覚悟を悟ったのだろう。
彼は苦しげに顔を歪め、深く、深いため息をついた。
「……分かった」
彼は観念したように呟いた。
「お前は、俺が何を言っても聞かぬのだろうな。昔から頑固なところがあった」
その、どこか懐かしむような口ぶり。
私は、きょとんとして首を傾げた。
「え……?」
「……いや、何でもない」
彼は慌てたように話を逸らした。
「ならば決まりだ。俺とアリアは東の万竜の巣へ。レオンは西の魔族領へ。目的を果たしたら、この城で再び落ち合う」
三人の間で、固い約束が交わされた。
私たちの反撃の狼煙が、今、上がろうとしていた。
翌日から、私たちはそれぞれの旅立ちの準備を始めた。
レオンは傷ついた体を癒やし、聖剣の手入れをしながら、魔族に関する古い文献を読み漁っていた。
そして、私は。
「これは……?」
カイザーが私のために用意してくれたものを見て、目を見開いた。
それは一着の旅装束だった。
動きやすい革のズボンと、丈夫な生地で作られたフード付きのチュニック。そして、柔らかい革で作られた編み上げのブーツ。
聖女のドレスでも、城で着ていたワンピースでもない。
冒険者や旅人が身につけるような、実用的な服装。
「万竜の巣への道は険しい。ドレスでは動きにくいだろう」
カイザーが、ぶっきらぼうに言う。
「それから、これもだ」
彼が次に差し出したのは、一本の杖だった。
白樺の木をそのまま削り出したかのような、美しい白い杖。その先端には、大きな水晶が嵌め込まれている。
「これは、聖なる力を増幅させる効果がある。お前の身を守る武器となるだろう」
武器。
私は、その杖をそっと受け取った。
ひんやりとした水晶の感触。そして、温かい木の温もり。
杖を握ると、体の中の聖なる力が呼応するように、じんわりと温かくなるのを感じた。
これが、私の武器。
私はもう、誰かに守られるだけの存在ではない。
自分の足で立ち、自分の力で戦うのだ。
私は、用意された旅装 சூரに着替えると、姿見の前に立った。
そこに映っていたのは、もう聖女アリアではなかった。
フードを目深にかぶり、その手には白き杖を握る、一人の凛とした旅人の姿。
鏡の中の自分と目が合う。
その瞳には、もう迷いの色はなかった。
ただ、これから始まる未知なる旅への期待と、そして愛する人と共に戦うという固い決意だけが、静かに燃えていた。
旅立ちの日は、もうすぐそこまで迫っていた。
竜族と、そして魔族と、同盟を結ぶ。
その夜、私たちは夜が更けるのも忘れ、具体的な計画を練り続けた。
「まず、俺の同族の元へ向かう」
カイザーが、地図の遥か東の果てを指さした。そこは、人間が足を踏み入れることのない、世界の果てと呼ばれる未踏の山脈地帯だった。
「万竜の巣。我ら竜族の最後の安息地だ。そこにいる長老たちを説得する」
「……説得は難しいのか?」
レオンが尋ねる。
「ああ。今の竜たちは、人間との関わりを極端に嫌っている。過去に何度も人間に裏切られ、同族を狩られてきたからな。俺のように、古の契約を律儀に守ろうとする者は、もはや少数派だ」
カイザーの声に、わずかな苦渋の色が滲んだ。
「だが、やるしかない。教皇が神代の呪具を持ち出してきた以上、俺一人では万全とは言えん。同族の力が必要不可欠だ」
「分かった。ならばその間、俺は魔族との接触を試みる」
レオンが、今度は西の魔族領を指さした。
「幸い、俺には心当たりがある。魔族の中にも無益な争いを好まない、穏健派と言われる者たちがいる。その筆頭である魔将軍ゼノヴィア。彼女ならば話を聞いてくれるかもしれん」
「魔将軍……。あの魔王軍最強と謳われた、氷の魔女か」
カイザーが眉をひそめる。
「危険すぎる。お前一人では返り討ちに遭うぞ」
「いや、俺一人だからこそ意味があるんだ」
レオンは首を振った。
「大軍を率いていけば、ただの侵略だ。だが、勇者である俺が単身で丸腰で彼らの懐に飛び込めば……彼らも話を聞かざるを得ないはずだ。これは俺にしかできない役目だ」
その瞳には、揺るぎない覚悟が宿っていた。
カイザーはしばらく黙ってレオンを見つめていたが、やがて小さく頷いた。
「……分かった。だが、無茶はするな。お前の命は、もはやお前一人のものではない。我らの貴重な戦力なのだからな」
その不器用な気遣いの言葉。
レオンは、ふっと笑みを浮かべた。
「ああ。肝に銘じておく」
二人の間に、確かな信頼の絆が生まれていた。
私は、そんな二人を誇らしい気持ちで見つめていた。
そして同時に、自分の役割を考えていた。
私は何をするべきなのだろうか。
私がここに、ただ守られているだけではいけない。私も、この壮大な作戦の一員でなければならない。
「……私は」
私が口を開くと、二人の視線が一斉に私に集まった。
「私は、カイザー様と一緒に万竜の巣へ行きます」
それは、私の固い決意だった。
カイザーは、驚いたように目を見開いた。
「……何を言う。お前はここに残るんだ。ここが一番安全だ」
「いいえ」
私は首を振った。
「もう安全な場所などどこにもありません。それはカイザー様が一番分かっているはずです」
私の言葉に、彼はぐっと言葉を詰まらせた。
「それに……竜の長老たちを説得するのでしょう? 人間を嫌っているという彼らを。ならば、その説得の場に私がいるべきです。古の契約の当事者である聖女が」
「……だが、危険すぎる!」
「危険は承知の上です」
私は立ち上がると、カイザーの目を真っ直ぐに見つめ返した。
「私はもう、守られるだけのか弱い聖女ではありません。あなたのパートナーです。ならば、あなたと共に危険の中へ飛び込む覚悟はできています」
私の揺るぎない瞳。
カイザーは、私の覚悟を悟ったのだろう。
彼は苦しげに顔を歪め、深く、深いため息をついた。
「……分かった」
彼は観念したように呟いた。
「お前は、俺が何を言っても聞かぬのだろうな。昔から頑固なところがあった」
その、どこか懐かしむような口ぶり。
私は、きょとんとして首を傾げた。
「え……?」
「……いや、何でもない」
彼は慌てたように話を逸らした。
「ならば決まりだ。俺とアリアは東の万竜の巣へ。レオンは西の魔族領へ。目的を果たしたら、この城で再び落ち合う」
三人の間で、固い約束が交わされた。
私たちの反撃の狼煙が、今、上がろうとしていた。
翌日から、私たちはそれぞれの旅立ちの準備を始めた。
レオンは傷ついた体を癒やし、聖剣の手入れをしながら、魔族に関する古い文献を読み漁っていた。
そして、私は。
「これは……?」
カイザーが私のために用意してくれたものを見て、目を見開いた。
それは一着の旅装束だった。
動きやすい革のズボンと、丈夫な生地で作られたフード付きのチュニック。そして、柔らかい革で作られた編み上げのブーツ。
聖女のドレスでも、城で着ていたワンピースでもない。
冒険者や旅人が身につけるような、実用的な服装。
「万竜の巣への道は険しい。ドレスでは動きにくいだろう」
カイザーが、ぶっきらぼうに言う。
「それから、これもだ」
彼が次に差し出したのは、一本の杖だった。
白樺の木をそのまま削り出したかのような、美しい白い杖。その先端には、大きな水晶が嵌め込まれている。
「これは、聖なる力を増幅させる効果がある。お前の身を守る武器となるだろう」
武器。
私は、その杖をそっと受け取った。
ひんやりとした水晶の感触。そして、温かい木の温もり。
杖を握ると、体の中の聖なる力が呼応するように、じんわりと温かくなるのを感じた。
これが、私の武器。
私はもう、誰かに守られるだけの存在ではない。
自分の足で立ち、自分の力で戦うのだ。
私は、用意された旅装 சூரに着替えると、姿見の前に立った。
そこに映っていたのは、もう聖女アリアではなかった。
フードを目深にかぶり、その手には白き杖を握る、一人の凛とした旅人の姿。
鏡の中の自分と目が合う。
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