ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

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第五十八話 認められた絆

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カイザーの魂からの叫び。
それは千年の時を超えて、彼自身が過去の呪縛から解放された瞬間だった。そのあまりにも気高い覚悟を前にして、洞窟の中は水を打ったような静寂に包まれた。
三体の長老竜は言葉を失っていた。
彼らは、ただ固く手を握り合う私とカイザーの姿を、その古代の瞳に焼き付けるようにじっと見つめている。
やがて、一番最初に動いたのは蒼い竜、アクエリアだった。
彼女は、そのしなやかな首をゆっくりと私たちの方へと近づけてきた。山のように巨大な顔が、私の目の前に迫る。
その深海の色をした瞳が、私の魂の奥底までを覗き込むようにじっと見つめてくる。
私は一歩も引かなかった。
ただ真っ直ぐに、彼女の瞳を見つめ返す。
「……なるほどな」
アクエリアは満足したように深く頷いた。
「カイザーがそこまで惚れ込むだけのことはある。その瞳、その魂の輝き……確かに、そこらの人間の小娘とは物が違う」
その声には、もう以前のような冷たさはなかった。
「良い目をしている。恐怖に屈せず、媚びることもない。それでいて、どこまでも慈愛に満ちている。……初代聖女様も、きっとお前のような瞳をしていたのだろう」
それは彼女からの最大限の賛辞だった。
「アクエリア……」
緑の竜、ヴィリディスが戸惑ったように彼女の名前を呼ぶ。
アクエリアはヴィリディスの方をちらりと見やると、ふん、と優雅に鼻を鳴らした。
「何をためらうことがある、ヴィリディス。ボルガノスよ。我らはもう答えを出すべき時なのではないか」
その言葉に、ヴィリディスはぐっと言葉を詰まらせる。
全ての視線が、中央にいる最も巨大な竜、ボルガノスへと集まった。
彼は、ずっと目を閉じたまま黙考していた。
その溶岩のような赤黒い鱗が、洞窟の光を反射して不気味に輝いている。
どれくらいの時間が経っただろうか。
やがてボルガノスは、その重い瞼をゆっくりと押し上げた。
そして、その地響きのような声で言った。
「……カイザーよ」
「ここに」
「お前は、この小娘と共に茨の道を行く覚悟があると、そう言ったな」
「ああ」
「その道は我ら竜族そのものを、再び戦いの渦に巻き込むかもしれん。それでもか」
「覚悟の上だ」
カイザーの即答。
ボルガノスは一度大きく息を吸い込んだ。
そして吐き出した。
その息は、まるで太古の風のように洞窟全体を揺るがした。
「―――よかろう」
そのたった一言。
「我ら万竜の巣の長老たちは、お前たちのその絆を認める」
その言葉が響き渡った瞬間。
カイザーの固く握られていた拳が、ゆっくりと解かれていくのが分かった。
私も全身から力が抜けていくような、深い深い安堵感に包まれた。
「そして」
ボルガノスは言葉を続けた。
「古の契約に基づき、そして何よりも、カイザーのその千年越しの覚悟に免じて。我ら竜族は、お前たちに力を貸すことを、ここに誓おう」
その厳かな宣言。
それは歴史が再び動き出した瞬間だった。
「……感謝する」
カイザーが絞り出すように言った。その声はわずかに震えていた。
「礼を言うのはまだ早い」
ボルガノスは、その厳格な表情を崩さない。
「我らはあくまで協力するだけだ。戦いの主体は、お前たち二人。そしてお前たちが信じるという人間の勇者。我らは、その後ろ盾となるに過ぎん」
「十分だ」
カイザーは力強く頷いた。
「それだけで我らの力は百倍にも千倍にもなる」
ボルガノスは、その答えに満足したように一度だけ大きく頷いた。
そして、その鋭い視線を私に向けた。
「聖女アリアよ」
「……はい」
「カイザーを頼んだぞ」
そのあまりにも不器用で、そして温かい言葉。
私は込み上げてくる熱いものを必死で堪えた。
そして最高の笑顔で答えた。
「はい。お任せください」
私の力強い返事。
それを聞いて、ボルガノスの厳つい顔がほんの、ほんのわずかだけ綻んだように見えた。
認められた絆。
私たちはついに、竜族という最強の味方を手に入れたのだ。
洞窟の中は、もはや冷たい緊張感には包まれていなかった。
代わりにそこにあったのは、これから始まる厳しい戦いに共に立ち向かっていこうとする、種族を超えた仲間たちの熱い、熱い決意だけだった。
空には、きっと夜明けの光が差し込み始めている。
そんな確かな予感がした。
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