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第五十九話 援軍
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竜の長老たちからの協力を取り付けたという事実は、私たちの計画にとってあまりにも大きな前進だった。
ボルガノスの許可が出ると、今まで遠巻きに私たちを観察していた他の竜たちが、次々とその姿を現した。
黄金の鱗を持つもの、白銀の鱗を持つもの、中には虹色に輝く美しい鱗を持つ若い竜もいた。
彼らは最初はまだ私に対して警戒心を解いてはいなかったが、長老たちの決定に従い、そして何よりも彼らが敬愛する竜王カイザーの隣に立つ私を、徐々に受け入れ始めてくれていた。
「カイザー様がそこまで信じる人間というものを、我々も見てみたいと思いましてな」
翼に傷跡を持つ歴戦の竜が、そう言ってにやりと笑った。
彼らは決して人間が好きになったわけではない。
だが、カイザーの千年の孤独と、その新たな決意を彼らなりに理解し、そして応援しようとしてくれているのだ。
その不器用な優しさが、私の心を温かくした。
その夜、私たちは万竜の巣で一夜を明かすことになった。
長老たちが私たちに用意してくれたのは、洞窟の中でも特に地熱で温められた、居心地の良い小さな横穴だった。
「……疲れただろう」
カイザーが焚き火の炎を見つめながら静かに言った。
「少しだけ」
私は正直に答えた。
肉体的な疲労よりも、精神的な消耗が大きかった。一日でこれほど多くの感情の揺れを経験したことは、今までになかった。
「だが、お前は見事にやり遂げた」
カイザーは私の隣に座ると、その大きな手で私の頭を優しく撫でた。
「お前のあの真っ直ぐな言葉がなければ、長老たちの心を動かすことはできなかっただろう。……ありがとう、アリア」
彼の心からの感謝の言葉。
「いいえ」
私は首を振った。
「カイザー様の覚悟があったからです。あなたの本当の想いが、長老様たちに届いたんですよ」
私たちは互いの健闘を称え合うように、微笑み合った。
焚き火の炎が、ぱちぱちと静かに爆ぜる。
洞窟の外からは竜たちの低いいびきのような音が、風に乗って聞こえてくる。
穏やかで、そしてどこか不思議な夜だった。
「……明日にはここを発つ」
カイザーが呟く。
「レオンがどうしているか、気がかりだ」
「……はい」
私も同じ気持ちだった。
無事に魔族との接触はできただろうか。
彼も今頃どこかで、一人戦っているのかもしれない。
「カイザー様」
「なんだ」
「……勝てますか、私たちは」
ふと、そんな弱気な言葉が口をついて出てしまった。
相手は教皇。
その底知れぬ悪意と計画。
竜族という強力な味方を得た今でも、その先の見えない戦いに私の心は時折不安に揺れてしまう。
カイザーは私のそんな不安を見透かしたように、静かに言った。
「勝つさ」
その声には一片の迷いもなかった。
「俺と、お前と、そしてあの勇者がいる。……今の我々ならば、神にだって手が届く」
そのあまりにも力強い言葉。
私の心の中の不安の靄が、すっと晴れていくようだった。
そうだ。
私たちはもう一人ではない。
私は彼の胸にそっと頭をもたせかけた。
彼は何も言わずに、その腕で私の肩を優しく抱き寄せてくれた。
私たちはそのまま言葉もなく、揺れる炎を見つめながら静かな夜を過ごした。
翌朝。
私たちが旅立ちの準備を整え広場へと向かうと、そこには信じられない光景が広がっていた。
広場には、数十頭の若い竜たちが集結していたのだ。
そのどれもが戦うための鋭い牙と爪を持つ、屈強な戦士竜たち。
その先頭にボルガノス、ヴィリディス、アクエリアの三体の長老竜が並び立っていた。
「これは……?」
カイザーが驚きの声を上げる。
ボルガノスは、その地響きのような声で言った。
「お前たち二人だけで行かせるわけにはいくまい」
「……まさか」
「ここにいるのは我らの中でも選りすぐりの若者たちだ。お前たちの援軍として、共に行かせよう」
援軍。
そのあまりにも心強すぎる申し出。
「だが、長老たちよ! これは我々の戦いだ! 竜族全体を巻き込むわけには……!」
カイザーが慌てて制止しようとする。
だがヴィリディスが、それを遮った。
「もうお前たちだけの戦いではないのだ、カイザーよ」
「……!」
「聖女アリアのあの言葉。あれはここにいる若者たちの心にも火をつけた。我らはただ過去の傷に怯え、引きこもっているだけで良いのか、と。竜としての誇りを忘れてはいないか、と」
彼の言葉に若い竜たちが賛同するように、一斉に低い咆哮を上げた。
その声は、大地を揺るがした。
「行け、カイザー。そして聖女アリアよ」
ボルガノスは、その厳格な瞳で私たちを見据えた。
「お前たちの信じる道を行け。我らは、お前たちの盾となり、そして剣となろう」
それは竜族が再び世界の歴史の表舞台へと帰還した瞬間だった。
私は込み上げてくる熱いものを、もう堪えることはできなかった。
涙でぐしゃぐしゃになった顔で。
私は彼らに向かって深く、深く頭を下げた。
カイザーもその隣で、竜王としてではなく、ただ一人の仲間として静かに頭を垂れていた。
私たちの背後には今、百人力、いや万竜力とも言うべき最強の援軍がついてくれている。
もう何も恐れることはない。
私たちは顔を見合わせると、力強く頷き合った。
目指すは西。
レオンが待つ、魔族の領土。
私たちの反撃が、今、本当の意味で始まろうとしていた。
ボルガノスの許可が出ると、今まで遠巻きに私たちを観察していた他の竜たちが、次々とその姿を現した。
黄金の鱗を持つもの、白銀の鱗を持つもの、中には虹色に輝く美しい鱗を持つ若い竜もいた。
彼らは最初はまだ私に対して警戒心を解いてはいなかったが、長老たちの決定に従い、そして何よりも彼らが敬愛する竜王カイザーの隣に立つ私を、徐々に受け入れ始めてくれていた。
「カイザー様がそこまで信じる人間というものを、我々も見てみたいと思いましてな」
翼に傷跡を持つ歴戦の竜が、そう言ってにやりと笑った。
彼らは決して人間が好きになったわけではない。
だが、カイザーの千年の孤独と、その新たな決意を彼らなりに理解し、そして応援しようとしてくれているのだ。
その不器用な優しさが、私の心を温かくした。
その夜、私たちは万竜の巣で一夜を明かすことになった。
長老たちが私たちに用意してくれたのは、洞窟の中でも特に地熱で温められた、居心地の良い小さな横穴だった。
「……疲れただろう」
カイザーが焚き火の炎を見つめながら静かに言った。
「少しだけ」
私は正直に答えた。
肉体的な疲労よりも、精神的な消耗が大きかった。一日でこれほど多くの感情の揺れを経験したことは、今までになかった。
「だが、お前は見事にやり遂げた」
カイザーは私の隣に座ると、その大きな手で私の頭を優しく撫でた。
「お前のあの真っ直ぐな言葉がなければ、長老たちの心を動かすことはできなかっただろう。……ありがとう、アリア」
彼の心からの感謝の言葉。
「いいえ」
私は首を振った。
「カイザー様の覚悟があったからです。あなたの本当の想いが、長老様たちに届いたんですよ」
私たちは互いの健闘を称え合うように、微笑み合った。
焚き火の炎が、ぱちぱちと静かに爆ぜる。
洞窟の外からは竜たちの低いいびきのような音が、風に乗って聞こえてくる。
穏やかで、そしてどこか不思議な夜だった。
「……明日にはここを発つ」
カイザーが呟く。
「レオンがどうしているか、気がかりだ」
「……はい」
私も同じ気持ちだった。
無事に魔族との接触はできただろうか。
彼も今頃どこかで、一人戦っているのかもしれない。
「カイザー様」
「なんだ」
「……勝てますか、私たちは」
ふと、そんな弱気な言葉が口をついて出てしまった。
相手は教皇。
その底知れぬ悪意と計画。
竜族という強力な味方を得た今でも、その先の見えない戦いに私の心は時折不安に揺れてしまう。
カイザーは私のそんな不安を見透かしたように、静かに言った。
「勝つさ」
その声には一片の迷いもなかった。
「俺と、お前と、そしてあの勇者がいる。……今の我々ならば、神にだって手が届く」
そのあまりにも力強い言葉。
私の心の中の不安の靄が、すっと晴れていくようだった。
そうだ。
私たちはもう一人ではない。
私は彼の胸にそっと頭をもたせかけた。
彼は何も言わずに、その腕で私の肩を優しく抱き寄せてくれた。
私たちはそのまま言葉もなく、揺れる炎を見つめながら静かな夜を過ごした。
翌朝。
私たちが旅立ちの準備を整え広場へと向かうと、そこには信じられない光景が広がっていた。
広場には、数十頭の若い竜たちが集結していたのだ。
そのどれもが戦うための鋭い牙と爪を持つ、屈強な戦士竜たち。
その先頭にボルガノス、ヴィリディス、アクエリアの三体の長老竜が並び立っていた。
「これは……?」
カイザーが驚きの声を上げる。
ボルガノスは、その地響きのような声で言った。
「お前たち二人だけで行かせるわけにはいくまい」
「……まさか」
「ここにいるのは我らの中でも選りすぐりの若者たちだ。お前たちの援軍として、共に行かせよう」
援軍。
そのあまりにも心強すぎる申し出。
「だが、長老たちよ! これは我々の戦いだ! 竜族全体を巻き込むわけには……!」
カイザーが慌てて制止しようとする。
だがヴィリディスが、それを遮った。
「もうお前たちだけの戦いではないのだ、カイザーよ」
「……!」
「聖女アリアのあの言葉。あれはここにいる若者たちの心にも火をつけた。我らはただ過去の傷に怯え、引きこもっているだけで良いのか、と。竜としての誇りを忘れてはいないか、と」
彼の言葉に若い竜たちが賛同するように、一斉に低い咆哮を上げた。
その声は、大地を揺るがした。
「行け、カイザー。そして聖女アリアよ」
ボルガノスは、その厳格な瞳で私たちを見据えた。
「お前たちの信じる道を行け。我らは、お前たちの盾となり、そして剣となろう」
それは竜族が再び世界の歴史の表舞台へと帰還した瞬間だった。
私は込み上げてくる熱いものを、もう堪えることはできなかった。
涙でぐしゃぐしゃになった顔で。
私は彼らに向かって深く、深く頭を下げた。
カイザーもその隣で、竜王としてではなく、ただ一人の仲間として静かに頭を垂れていた。
私たちの背後には今、百人力、いや万竜力とも言うべき最強の援軍がついてくれている。
もう何も恐れることはない。
私たちは顔を見合わせると、力強く頷き合った。
目指すは西。
レオンが待つ、魔族の領土。
私たちの反撃が、今、本当の意味で始まろうとしていた。
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