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第六十話 次なる一手
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万竜の巣からの帰路は、往路とは全く違う壮観なものだった。
カイザーの背に乗る私の、そのさらに後ろには、数十頭もの色とりどりの竜たちが雄大な編隊を組んで続いている。その光景は、まるで神話の軍勢が天を征くかのようだった。
彼らはカイザーへの敬意と、そして私へのほんの少しの好奇心をその瞳に宿しながら、静かに、しかし力強く私たちに付き従っていた。
「すごい……」
私は後ろを振り返り、そのあまりにも幻想的な光景に思わずため息を漏らした。
「……少し騒がしすぎるがな」
カイザーの声が私の頭の中に直接響いてくる。その声は呆れたような響きを持っていたが、どこか嬉しそうにも聞こえた。
数千年の孤独を生きてきた彼。
その背後に今、これほど多くの同胞たちがいる。
その事実が、私自身のことのように嬉しかった。
天空城へと帰還した私たちを、最初に出迎えてくれたのは城そのものの優しい魔力だった。
主の帰還と、そして新たな仲間たちの来訪を歓迎してくれているかのようだった。
若い竜たちは初めて見る雲の上の城に子供のようにはしゃぎ、興奮したように城の周りをぐるぐると飛び回っている。
「……静かにしろと言っても、聞かぬだろうな」
カイザーは、やれやれといった様子で首を振った。
私たちはテラスに着地すると、人型に戻った。
そしてカイザーが、若い竜たちの中からリーダー格と思われる一頭の青銅の鱗を持つ竜に指示を出す。
「バルドスよ。お前たちにはしばらくこの城の警護を任せる。何人たりとも俺の許しなく、この城に近づけるな」
「はっ! 竜王様のご命令とあらば!」
バルドスと呼ばれた青銅竜は、その巨大な頭を恭しく下げた。
これでこの城の守りは、以前とは比べ物にならないほど強固なものになった。もう異端審問官のような隠密な侵入者が現れたとしても、竜たちの鋭敏な感覚からは逃れることはできないだろう。
後顧の憂いを断つことができた。
これで心置きなく、次なる一手へと進むことができる。
私とカイザーは書斎へと戻り、大きな机の上に再び地図を広げた。
「……さて」
カイザーが険しい表情で地図を睨みつける。
「レオンがどうしているかだな」
彼の指が、西の魔族領をゆっくりとなぞる。
私たちが万竜の巣へと旅立ってから、もう一週間以上が経過していた。
その間、彼から何の連絡もない。
無事に魔将軍ゼノヴィアと接触できたのだろうか。
それとも、何か不測の事態に巻き込まれてしまっているのだろうか。
不安が胸をよぎる。
「……少し様子を見てみよう」
カイザーはそう言うと、机の上に置かれていた銀の水盤に手をかざした。
水鏡の魔法。
だが、彼が魔法を発動させようとした、その時だった。
水盤の水がひとりでに波紋を描き始めたのだ。
「……!」
カイザーが目を見開く。
これは、こちらから覗き見る魔法ではない。
向こう側からこちらに何かを伝えようとしている通信の魔法。
水面には、すぐに鮮明な映像が結ばれた。
そこに映し出されていたのは。
「レオン!」
私は思わず叫んだ。
そこにいたのは、間違いなく勇者レオンだった。
だがその姿は、旅立つ前の凛々しいものとは程遠かった。
彼の黄金の髪は乱れ、その顔にはいくつかの痣や切り傷が見える。いつもの白銀の鎧も、所々が黒く焦げ付いていた。
彼のいる場所は薄暗い石造りの部屋のようだった。牢獄と言った方が近いかもしれない。
「レオン! 大丈夫なの!? 一体何が……!」
私が水鏡に向かって必死に呼びかける。
すると映像の中のレオンは、こちらに気づいたように顔を上げた。そして、その傷だらけの顔にいつもの不敵な笑みを浮かべた。
「……やあ、二人とも。少し手間取ってしまってね。心配をかけたかな」
その軽口。
だが彼の額からは、だらだらと冷や汗が流れている。
「……何があった」
カイザーが低い声で問うた。
「見たままさ。捕まってしまった」
レオンはあっけらかんと言った。
「魔将軍ゼノヴィアには会えた。だが彼女は、俺が想像していた以上に頑固でね。話を聞く前に力づくで俺をここに放り込みやがった」
「……馬鹿者が」
カイザーが吐き捨てるように言う。
「やはりお前一人で行かせるべきではなかった」
「いや、これも計算のうちさ」
レオンは笑みを崩さない。
「彼女は俺を殺しはしなかった。それはまだ俺の話を聞く気が残っているという証拠だ。……ただ、少し時間がかかりそうなんだ」
彼の言葉。
それは強がりではなかった。彼はこの状況すらも利用して、目的を果たそうとしているのだ。
「それで、連絡してきた用件は何だ」
カイザーが本題を促す。
レオンの表情が一転して、真剣なものに変わった。
「……ああ。二人にも伝えておかなければならない情報が手に入った」
彼は周囲を警戒するように声を潜めた。
「どうやら、教皇の真の目的が少しだけ見えてきたらしい」
「……なんだと?」
「ここは魔族の情報が集まる場所だ。奴らも教皇の動きを警戒していたようでね。盗み聞きした兵士たちの話によると……」
彼は一度言葉を切ると、衝撃的な事実を告げた。
「教皇は……かつての魔王軍の残党と手を組んでいるらしい」
魔王軍の残党。
そのありえない言葉。
私とカイザーは、同時に息を呑んだ。
人間と魔族。
決して相容れることのない二つの種族。
その禁断の同盟。
「奴らの目的はただ一つ。共通の敵を排除することだ」
レオンは続ける。
「共通の敵……?」
「ああ」
レオンは水鏡の向こう側から、真っ直ぐに私たちを見据えた。
「―――終焉の黒竜カイザー。そして聖女アリア。……つまり、君たちのことだ」
次なる一手。
それは私たちが打つよりも先に。
敵の側から、既に放たれていたのだ。
水鏡に映るレオンの険しい顔。
そして、その向こう側に広がる底知れぬ新たな闇。
私たちの戦いは、想像以上に複雑で、そして巨大なものへと姿を変えようとしていた。
カイザーの背に乗る私の、そのさらに後ろには、数十頭もの色とりどりの竜たちが雄大な編隊を組んで続いている。その光景は、まるで神話の軍勢が天を征くかのようだった。
彼らはカイザーへの敬意と、そして私へのほんの少しの好奇心をその瞳に宿しながら、静かに、しかし力強く私たちに付き従っていた。
「すごい……」
私は後ろを振り返り、そのあまりにも幻想的な光景に思わずため息を漏らした。
「……少し騒がしすぎるがな」
カイザーの声が私の頭の中に直接響いてくる。その声は呆れたような響きを持っていたが、どこか嬉しそうにも聞こえた。
数千年の孤独を生きてきた彼。
その背後に今、これほど多くの同胞たちがいる。
その事実が、私自身のことのように嬉しかった。
天空城へと帰還した私たちを、最初に出迎えてくれたのは城そのものの優しい魔力だった。
主の帰還と、そして新たな仲間たちの来訪を歓迎してくれているかのようだった。
若い竜たちは初めて見る雲の上の城に子供のようにはしゃぎ、興奮したように城の周りをぐるぐると飛び回っている。
「……静かにしろと言っても、聞かぬだろうな」
カイザーは、やれやれといった様子で首を振った。
私たちはテラスに着地すると、人型に戻った。
そしてカイザーが、若い竜たちの中からリーダー格と思われる一頭の青銅の鱗を持つ竜に指示を出す。
「バルドスよ。お前たちにはしばらくこの城の警護を任せる。何人たりとも俺の許しなく、この城に近づけるな」
「はっ! 竜王様のご命令とあらば!」
バルドスと呼ばれた青銅竜は、その巨大な頭を恭しく下げた。
これでこの城の守りは、以前とは比べ物にならないほど強固なものになった。もう異端審問官のような隠密な侵入者が現れたとしても、竜たちの鋭敏な感覚からは逃れることはできないだろう。
後顧の憂いを断つことができた。
これで心置きなく、次なる一手へと進むことができる。
私とカイザーは書斎へと戻り、大きな机の上に再び地図を広げた。
「……さて」
カイザーが険しい表情で地図を睨みつける。
「レオンがどうしているかだな」
彼の指が、西の魔族領をゆっくりとなぞる。
私たちが万竜の巣へと旅立ってから、もう一週間以上が経過していた。
その間、彼から何の連絡もない。
無事に魔将軍ゼノヴィアと接触できたのだろうか。
それとも、何か不測の事態に巻き込まれてしまっているのだろうか。
不安が胸をよぎる。
「……少し様子を見てみよう」
カイザーはそう言うと、机の上に置かれていた銀の水盤に手をかざした。
水鏡の魔法。
だが、彼が魔法を発動させようとした、その時だった。
水盤の水がひとりでに波紋を描き始めたのだ。
「……!」
カイザーが目を見開く。
これは、こちらから覗き見る魔法ではない。
向こう側からこちらに何かを伝えようとしている通信の魔法。
水面には、すぐに鮮明な映像が結ばれた。
そこに映し出されていたのは。
「レオン!」
私は思わず叫んだ。
そこにいたのは、間違いなく勇者レオンだった。
だがその姿は、旅立つ前の凛々しいものとは程遠かった。
彼の黄金の髪は乱れ、その顔にはいくつかの痣や切り傷が見える。いつもの白銀の鎧も、所々が黒く焦げ付いていた。
彼のいる場所は薄暗い石造りの部屋のようだった。牢獄と言った方が近いかもしれない。
「レオン! 大丈夫なの!? 一体何が……!」
私が水鏡に向かって必死に呼びかける。
すると映像の中のレオンは、こちらに気づいたように顔を上げた。そして、その傷だらけの顔にいつもの不敵な笑みを浮かべた。
「……やあ、二人とも。少し手間取ってしまってね。心配をかけたかな」
その軽口。
だが彼の額からは、だらだらと冷や汗が流れている。
「……何があった」
カイザーが低い声で問うた。
「見たままさ。捕まってしまった」
レオンはあっけらかんと言った。
「魔将軍ゼノヴィアには会えた。だが彼女は、俺が想像していた以上に頑固でね。話を聞く前に力づくで俺をここに放り込みやがった」
「……馬鹿者が」
カイザーが吐き捨てるように言う。
「やはりお前一人で行かせるべきではなかった」
「いや、これも計算のうちさ」
レオンは笑みを崩さない。
「彼女は俺を殺しはしなかった。それはまだ俺の話を聞く気が残っているという証拠だ。……ただ、少し時間がかかりそうなんだ」
彼の言葉。
それは強がりではなかった。彼はこの状況すらも利用して、目的を果たそうとしているのだ。
「それで、連絡してきた用件は何だ」
カイザーが本題を促す。
レオンの表情が一転して、真剣なものに変わった。
「……ああ。二人にも伝えておかなければならない情報が手に入った」
彼は周囲を警戒するように声を潜めた。
「どうやら、教皇の真の目的が少しだけ見えてきたらしい」
「……なんだと?」
「ここは魔族の情報が集まる場所だ。奴らも教皇の動きを警戒していたようでね。盗み聞きした兵士たちの話によると……」
彼は一度言葉を切ると、衝撃的な事実を告げた。
「教皇は……かつての魔王軍の残党と手を組んでいるらしい」
魔王軍の残党。
そのありえない言葉。
私とカイザーは、同時に息を呑んだ。
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決して相容れることのない二つの種族。
その禁断の同盟。
「奴らの目的はただ一つ。共通の敵を排除することだ」
レオンは続ける。
「共通の敵……?」
「ああ」
レオンは水鏡の向こう側から、真っ直ぐに私たちを見据えた。
「―――終焉の黒竜カイザー。そして聖女アリア。……つまり、君たちのことだ」
次なる一手。
それは私たちが打つよりも先に。
敵の側から、既に放たれていたのだ。
水鏡に映るレオンの険しい顔。
そして、その向こう側に広がる底知れぬ新たな闇。
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