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第六十七話 教皇の真の目的
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レオンからの断片的な情報。
教皇が魔王軍の残党と手を組み、古代遺跡から何かを運び出させている。
その不穏な知らせは、私たちの心に重くのしかかっていた。
「一体、何を企んでいる……」
書斎の机でカイザーは古びた羊皮紙の地図を睨みつけながら、低い声で呻いた。その地図には大陸中に点在する古代遺跡の場所が、赤いインクでいくつも印されている。
私もその隣で、不安な気持ちで地図を見つめていた。
私たちはレオンからの続報を待ちながら、独自に調査を進めていた。
カイザーは万竜の巣から援軍に来てくれた若い竜たちを密偵として地上に放った。彼らはその巨体を魔法で鳥ほどの大きさに変え、人間の目をごまかしながら各地の情報を集めてくれている。
「―――報告します、竜王様」
一体の銀色の鱗を持つ竜が、書斎の窓から音もなく舞い込んできた。彼はカイザーの前で恭しく頭を下げる。
「南方のザラーム砂漠にある太陽の神殿跡。そこでも教皇の息がかかった者たちの動きを確認しました」
「またか」
カイザーが舌打ちをする。
「これで五箇所目だ。奴らはまるで大陸中の主要な古代遺跡を巡礼でもしているかのようだ」
竜たちがもたらす情報は、どれも同じようなものだった。
北の氷河地帯にある「月の祭壇」。
東の大森林の奥深くにある「生命の泉」。
西の火山地帯に眠る「炎の霊廟」。
そして今報告があった、南の砂漠の「太陽の神殿」。
それらは全て神話の時代にこの世界を創造したとされる神々を祀っていた聖地。
だが今はもうその力を失い、ただの遺跡として忘れ去られている場所だ。
教皇はそんな過去の遺物を、一体どうしようというのだろう。
「……何か共通点はないのか」
カイザーが唸る。
「それぞれの遺跡の特徴。祀られていた神々の神格。何でもいい」
私は彼の言葉を聞きながら、必死に頭を働かせた。
聖女として幼い頃から教え込まれてきた神話の知識。
太陽、月、生命、炎……。
それらのキーワードが私の頭の中をぐるぐると回る。
そして、ふとある一つの可能性に思い至った。
それはあまりにも恐ろしく、そして冒涜的な仮説。
「……まさか」
私のか細い声に、カイザーがはっと顔を上げた。
「どうした、アリア。何か気づいたか」
「あの……これはただの私の考えすぎかもしれませんが……」
私はためらいながらも口を開いた。
「それらの遺跡、もしかしたら全てある一つの存在に繋がっているのではないでしょうか」
「ある一つの存在?」
「はい」
私はゴクリと喉を鳴らした。
「神話の中でも禁忌としてほとんど語られることのない、忘れられた神。……世界が創造される以前の混沌を司っていたとされる、古の邪神」
邪神。
その不吉な響きに、カイザーの黒曜石の瞳が鋭く細められた。
「……続けろ」
「伝承によれば、その邪神は創造主である女神によってその力を五つに分割され、世界の四方と中央に封印されたとされています。その封印の要となったのが……」
私の指が震えながら地図の上をなぞる。
「北の月の祭壇。南の太陽の神殿。東の生命の泉。西の炎の霊廟……。そして、その全てを統べる中央の封印。それが置かれた場所こそが……」
私の指がぴたりと止まった。
その場所。
それはリンドバーグ王国の王都。
今、教皇がその本拠地としている場所だった。
「……そういうことか」
カイザーが全ての点を線で結んだように呟いた。
その顔は今まで見たこともないほど険しく、そして蒼白になっている。
「奴の目的は……邪神の復活だ」
そのあまりにもおぞましい結論。
書斎の空気が一瞬にして凍りついた。
邪神の復活。
それはこの世界の終わりを意味する。
神話によれば、邪神はあらゆる秩序を憎み、全てを原初の混沌へと還そうとする破壊の化身。
もしそんなものが現代に蘇れば……。
「なぜだ……」
私は震える声で言った。
「なぜ教皇は、そんな世界の終わりを望むようなことを……」
「……浄化だ」
カイザーが吐き捨てるように言った。
「奴はそう考えているのだろう。争いを繰り返し、過ちを犯し続ける愚かな人間。そして人間以外の全ての異種族。それら全てを一度無に帰し、世界を浄化する。そしてその更地の上に自らが神となって、新たな世界を再創生する。……狂信者が考えそうなことだ」
そのあまりにも歪んだ選民思想。
そして、そのために世界中の全ての命を犠牲にすることも厭わない狂気。
私たちはようやく敵の本当の恐ろしさを理解した。
これはもはや私一人の身柄を巡る戦いではない。
この世界の存亡そのものを懸けた最終戦争なのだ。
「……儀式には何が必要だ」
カイザーが私に問いかける。
「邪神を復活させるための触媒があるはずだ」
私は必死に記憶の糸を手繰り寄せた。
禁忌の書物の片隅に記されていた、その一文。
「……五つの封印を解くための鍵。そして……神の血を引く者の魂。その二つが揃う時、古の混沌は再びこの世に解き放たれる……」
神の血を引く者。
それは、すなわち。
「……聖女」
カイザーが私の名前を呼んだ。
その声はどうしようもないほどの怒りと、そして絶望に震えていた。
ようやく全てが繋がった。
教皇が私に執着する本当の理由。
彼は私を、邪神復活のための最後の生贄として捧げるつもりなのだ。
ぞっとするほどの悪寒が私の背筋を走り抜けた。
敵の真の目的が今、明らかになる。
そして、そのあまりにも巨大で邪悪な計画を前にして、私たちはただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
世界の終わりの足音が、もうすぐそこまで迫ってきていた。
教皇が魔王軍の残党と手を組み、古代遺跡から何かを運び出させている。
その不穏な知らせは、私たちの心に重くのしかかっていた。
「一体、何を企んでいる……」
書斎の机でカイザーは古びた羊皮紙の地図を睨みつけながら、低い声で呻いた。その地図には大陸中に点在する古代遺跡の場所が、赤いインクでいくつも印されている。
私もその隣で、不安な気持ちで地図を見つめていた。
私たちはレオンからの続報を待ちながら、独自に調査を進めていた。
カイザーは万竜の巣から援軍に来てくれた若い竜たちを密偵として地上に放った。彼らはその巨体を魔法で鳥ほどの大きさに変え、人間の目をごまかしながら各地の情報を集めてくれている。
「―――報告します、竜王様」
一体の銀色の鱗を持つ竜が、書斎の窓から音もなく舞い込んできた。彼はカイザーの前で恭しく頭を下げる。
「南方のザラーム砂漠にある太陽の神殿跡。そこでも教皇の息がかかった者たちの動きを確認しました」
「またか」
カイザーが舌打ちをする。
「これで五箇所目だ。奴らはまるで大陸中の主要な古代遺跡を巡礼でもしているかのようだ」
竜たちがもたらす情報は、どれも同じようなものだった。
北の氷河地帯にある「月の祭壇」。
東の大森林の奥深くにある「生命の泉」。
西の火山地帯に眠る「炎の霊廟」。
そして今報告があった、南の砂漠の「太陽の神殿」。
それらは全て神話の時代にこの世界を創造したとされる神々を祀っていた聖地。
だが今はもうその力を失い、ただの遺跡として忘れ去られている場所だ。
教皇はそんな過去の遺物を、一体どうしようというのだろう。
「……何か共通点はないのか」
カイザーが唸る。
「それぞれの遺跡の特徴。祀られていた神々の神格。何でもいい」
私は彼の言葉を聞きながら、必死に頭を働かせた。
聖女として幼い頃から教え込まれてきた神話の知識。
太陽、月、生命、炎……。
それらのキーワードが私の頭の中をぐるぐると回る。
そして、ふとある一つの可能性に思い至った。
それはあまりにも恐ろしく、そして冒涜的な仮説。
「……まさか」
私のか細い声に、カイザーがはっと顔を上げた。
「どうした、アリア。何か気づいたか」
「あの……これはただの私の考えすぎかもしれませんが……」
私はためらいながらも口を開いた。
「それらの遺跡、もしかしたら全てある一つの存在に繋がっているのではないでしょうか」
「ある一つの存在?」
「はい」
私はゴクリと喉を鳴らした。
「神話の中でも禁忌としてほとんど語られることのない、忘れられた神。……世界が創造される以前の混沌を司っていたとされる、古の邪神」
邪神。
その不吉な響きに、カイザーの黒曜石の瞳が鋭く細められた。
「……続けろ」
「伝承によれば、その邪神は創造主である女神によってその力を五つに分割され、世界の四方と中央に封印されたとされています。その封印の要となったのが……」
私の指が震えながら地図の上をなぞる。
「北の月の祭壇。南の太陽の神殿。東の生命の泉。西の炎の霊廟……。そして、その全てを統べる中央の封印。それが置かれた場所こそが……」
私の指がぴたりと止まった。
その場所。
それはリンドバーグ王国の王都。
今、教皇がその本拠地としている場所だった。
「……そういうことか」
カイザーが全ての点を線で結んだように呟いた。
その顔は今まで見たこともないほど険しく、そして蒼白になっている。
「奴の目的は……邪神の復活だ」
そのあまりにもおぞましい結論。
書斎の空気が一瞬にして凍りついた。
邪神の復活。
それはこの世界の終わりを意味する。
神話によれば、邪神はあらゆる秩序を憎み、全てを原初の混沌へと還そうとする破壊の化身。
もしそんなものが現代に蘇れば……。
「なぜだ……」
私は震える声で言った。
「なぜ教皇は、そんな世界の終わりを望むようなことを……」
「……浄化だ」
カイザーが吐き捨てるように言った。
「奴はそう考えているのだろう。争いを繰り返し、過ちを犯し続ける愚かな人間。そして人間以外の全ての異種族。それら全てを一度無に帰し、世界を浄化する。そしてその更地の上に自らが神となって、新たな世界を再創生する。……狂信者が考えそうなことだ」
そのあまりにも歪んだ選民思想。
そして、そのために世界中の全ての命を犠牲にすることも厭わない狂気。
私たちはようやく敵の本当の恐ろしさを理解した。
これはもはや私一人の身柄を巡る戦いではない。
この世界の存亡そのものを懸けた最終戦争なのだ。
「……儀式には何が必要だ」
カイザーが私に問いかける。
「邪神を復活させるための触媒があるはずだ」
私は必死に記憶の糸を手繰り寄せた。
禁忌の書物の片隅に記されていた、その一文。
「……五つの封印を解くための鍵。そして……神の血を引く者の魂。その二つが揃う時、古の混沌は再びこの世に解き放たれる……」
神の血を引く者。
それは、すなわち。
「……聖女」
カイザーが私の名前を呼んだ。
その声はどうしようもないほどの怒りと、そして絶望に震えていた。
ようやく全てが繋がった。
教皇が私に執着する本当の理由。
彼は私を、邪神復活のための最後の生贄として捧げるつもりなのだ。
ぞっとするほどの悪寒が私の背筋を走り抜けた。
敵の真の目的が今、明らかになる。
そして、そのあまりにも巨大で邪悪な計画を前にして、私たちはただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
世界の終わりの足音が、もうすぐそこまで迫ってきていた。
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