ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

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第八十一話 地下遺跡への扉

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王子の涙の贖罪。
そのあまりにも劇的な光景を、広場の人々は固唾を飲んで見守っていた。
やがて、アルフォンス王子はレオンに支えられながらゆっくりと立ち上がった。その瞳にはまだ深い悲しみの色が残っていたが、以前のような虚ろな光は消えていた。
彼は民衆と兵士たちに向かって、震える声で、しかしはっきりと告げた。
「……皆の者、聞いてくれ」
その声は、もはや傲慢な王子の声ではなかった。ただ一人の罪を犯した人間の声だった。
「私は間違っていた。教皇の甘言に騙され、真実から目を背け、この国を、そして聖女アリアを苦しめてしまった。……この罪は万死に値する」
彼は一度言葉を切ると、深く、深く頭を下げた。
「どうか許してくれとは言わん。だが、これだけは信じてほしい。私はこれより生まれ変わる。この残りの人生の全てを懸けて、この国を立て直すことをここに誓う!」
その魂からの叫び。
民衆たちは何も言わなかった。
だが、その沈黙は非難の沈黙ではなかった。
静かな赦しと、そして新たな王へのかすかな期待が込められた、温かい沈黙だった。
レオンは満足そうに頷くと、アンドリュー卿に王子のことを託した。
「……さて」
レオンは私たちの方へと向き直った。
その青い瞳は、もはや過去を振り返ってはいなかった。
ただ、これから為すべきことだけを見据えている。
「……残るは首魁のみ、だな」
カイザーが静かに応じる。
そうだ。
私たちはまだ戦いの真っ只中にいる。
真の決戦はこれからなのだ。
「ゼノヴィアはどうした?」
カイザーが尋ねる。
「彼女ならもう動いている」
レオンは、大聖堂の薄暗い裏口の方を指さした。
「彼女の部下たちが既に地下へと続く隠し通路を確保してくれた頃だろう。我々も行くぞ」
私たちは顔を見合わせた。
そして、力強く頷き合う。
民衆と王国騎士団に後を任せ、私たちは四人、静かに広場を後にした。
目指すは、大聖堂。
そして、その地下深くに眠る決戦の地。

大聖堂の内部は、不気味なほど静まり返っていた。
聖騎士団の兵士たちは皆、地下へと撤退したのだろう。
私たちは、ゼノヴィアの部下である影のような魔族の兵士に案内され、祭壇の裏にある隠し扉へと向かった。
そこには地下へと続く螺旋階段が、闇の口を開けていた。
「……ここから先は我々だけで行く」
カイザーが魔族の兵士に告げる。
「お前たちはここを固めろ。何人たりとも中へ入れるな」
「御意」
兵士は一礼すると、影の中に溶けるように消えた。
私たちは覚悟を決め、螺旋階段を下り始めた。
ひんやりとした湿った空気が肌を撫でる。壁からは水滴が滴り落ちる音だけが、不気味に響いていた。
どれくらい下っただろうか。
やがて螺旋階段は終わりを告げ、私たちの前に一つの巨大な石の扉が立ちはだかった。
扉には見たこともない禍々しい紋様が、びっしりと刻まれている。
それは邪神を崇める古代のルーン文字だった。
「……ここが入り口か」
レオンが聖剣の柄を握りしめる。
「強力な封印がかかっているわね。並の魔法や物理攻撃ではびくともしないわよ」
ゼノヴィアが眉をひそめる。
だが、カイザーは動じなかった。
彼は静かに一歩前に出ると、その右手を扉にそっと触れた。
「……道を開けろ」
その低い命令。
彼の手のひらから黒い雷が迸った。
だが、それは破壊の雷ではなかった。
雷は扉に刻まれたルーン文字の上をまるで蛇のように走り、その複雑な術式を内側から解析し、そして書き換えていく。
神代の魔法。
竜王だけが成せる超絶的なハッキング。
やがて禍々しい光を放っていたルーン文字が、その輝きを失っていく。
ゴゴゴゴゴゴ……。
地響きと共に、数千年間閉ざされていた巨大な石の扉が、ゆっくりとその重い口を開いていった。
扉の向こう側。
そこから吹き付けてきたのは、現代のものではない、あまりにも濃密で、そして邪悪な古代の瘴気だった。
そして闇の奥からは、無数の不気味な鳴き声と、何かが蠢く音が聞こえてくる。
ここはもはや人間の世界ではない。
邪神が支配する魔の領域。
決戦の舞台は整った。
私たちは武器を構え直し、覚悟を決めた。
そして四人並んで、その底知れぬ闇の中へと足を踏み入れた。
世界の運命を懸けた最後の戦いが、今、始まろうとしていた。
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