クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第31話 夏祭りの約束

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潮さんという名の最強の援軍を得てからというもの、俺の夏休みはさらに輝きを増していた。
あの日以来、雫とのメッセージのやり取りには、時々潮さんが乱入してくるようになった。
『よお航くん、うちの妹とイチャイチャしてるぅ?』
そんなフランクすぎるメッセージが突然送られてきて、俺が慌てふためく。するとすぐに雫から『ごめんなさい!お姉ちゃんが勝手に!』という謝罪メッセージが届く。その一連の流れが、もはや俺たちの間の恒例行事になりつつあった。

潮さんは、口では俺たちをからかうものの、その行動は完全に俺たちのキューピッドだった。
『今度の日曜、両親が旅行でいないんだけど、また宿題しに来ちゃったりする? チラッ』
そんな、あからさまなお誘いメッセージを送ってきたりもする。
そのおかげで、俺は夏祭りを待つまでもなく、もう一度月宮家を訪れるという幸運に恵まれた。

二度目のお家デート。今回は潮さんがいない分少しだけ緊張したが、雫が手作りの昼ごはん(絶品のオムライスだった)を振る舞ってくれて、俺の心は完全に胃袋を掴まれた。
もちろん、宿題もちゃんとした。前回とは比べ物にならないくらい集中して。
二人きりの静かな部屋で、隣に座って問題を解く。時々、分からないところを教え合う。その穏やかで満ち足りた時間は、俺にとって何物にも代えがたい宝物だった。

そして、あっという間に時間は過ぎ、俺が帰る時間になった。
玄関まで見送りに来てくれた雫は、どこか名残惜しそうな顔をしている。俺も同じ気持ちだった。
このまま別れるのが、寂しい。
そう思った俺は、彼女を引き留めるように声をかけた。

「あ、そうだ。夏祭りのことなんだけど」
俺がそう切り出すと、彼女の表情がぱっと明るくなった。
「待ち合わせ、どうする? 駅前がいいかな」
俺が手話で尋ねると、彼女はこくりと頷いた。そして、スマホを取り出しメッセージを打ち込んでくる。
『何時にする?』
『そうだなぁ。あんまり早いと暑いし、六時くらいでどうかな?』
俺の提案に、彼女はまた頷いた。

約束の詳細が決まっていく。
その一つ一つが、俺たちの未来を形作っているようで、胸が高鳴った。
俺は、ふと潮さんの言葉を思い出した。

「雫の浴衣、楽しみにしてていいんだよな?」
俺が、少しだけ意地悪な笑みを浮かべて手話でそう尋ねた。
その瞬間、雫の顔が、ぼん、と音を立てて真っ赤に染まった。
彼女は「あうあう」と声にならない声を漏らし、慌てたように両手で顔を覆ってしまった。その初々しい反応が可愛すぎて、俺は思わず吹き出してしまいそうになる。

彼女は顔を覆ったまま、ぶんぶんと首を横に振っている。
『そんなに期待しないで』とでも言いたいのだろう。
でも、その真っ赤な耳が彼女の本音を物語っていた。

俺は、そんな彼女の姿がたまらなく愛おしくて。
思わず、一歩だけ彼女に近づいた。
そして、今度は真剣な表情で、彼女の目を真っ直ぐに見つめる。

「俺も、ちゃんとした格好していくから」

俺がそう声で伝えると、彼女は指の隙間から、潤んだ瞳でこちらを窺った。
ちゃんとした格好。それが何を意味するのか、彼女にはすぐに伝わったようだった。
俺も、甚平でも着ていこうか。そんな考えが頭をよぎる。

俺たちの間に、甘くて、少しだけ緊張した空気が流れる。
玄関のドアから差し込む西日が、彼女の赤い頬をキラキラと照らしていた。
この時間が、永遠に続けばいいのに。

そんなことを考えていると、不意に背後から軽快な足音が聞こえてきた。
ガチャリ、とリビングのドアが開き、ひょこりと顔を出したのはコンビニ袋をぶら下げた潮さんだった。

「おっ、やってるやってる。青春だねえ」
潮さんは、俺たちの甘い雰囲気をぶち壊すように、ニヤニヤしながら言った。
俺と雫は、びくりと肩を震わせ、慌てて距離を取る。
「ち、潮さん! いつの間に……」
「さっき帰ってきたのよ。あんたたちのいい雰囲気を邪魔しちゃ悪いと思って、息を潜めてたんだけどねえ」
彼女は楽しそうに笑いながら、俺の肩をぽんと叩いた。

「航くん、聞いたわよ。雫の浴衣、楽しみにしてるんだって?」
「え、あ、はい……」
「よろしい!」
潮さんは満足そうに頷くと、雫の方を向いて力強く宣言した。
「任せなさい、雫! あんたをこの夏一番の美少女にして、こいつをメロメロの骨抜きにしてやるから!」
その言葉に、雫はもう恥ずかしさの限界を超えたのか、その場にへたり込んでしまった。

潮さんは、最後に俺に向かって悪戯っぽくウィンクした。
「雫の浴衣姿、マジで楽しみにしてなさいよ。腰、抜かすなよ?」

その言葉は、もはや脅迫にも似た、期待を煽る魔法の呪文だった。
俺は、ただ「はい!」と力なく頷くことしかできない。
心臓が、もう夏祭り本番を待たずに爆発してしまいそうだった。

帰り道、俺の頭の中は浴衣姿の雫のことでいっぱいだった。
一体、どんなに可愛いんだろう。
どんなに、綺麗なんだろう。
潮さんの自信満々の笑顔が、俺の期待を無限大に膨らませていく。

約束の日まで、あと三日。
俺の夏休みは、人生で最も甘くて、最も長い三日間を迎えようとしていた。
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