クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第39話 夕暮れの観覧車

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砂浜に書いた二人の名前が波に消えていった後、俺たちは健太たちと合流し、海での残り少ない時間を満喫した。
太陽が水平線に近づき、空がオレンジと紫のグラデーションに染まり始める頃、俺たちは名残惜しさを感じながらも海の家に引き上げた。
シャワーを浴びて着替えを済ませると、すっかり辺りは夕暮れの雰囲気に包まれていた。

「あー、楽しかったなー! でも、このまま帰るのもったいなくね?」
駅へ向かう帰り道、健太が不意に立ち止まって言った。
彼が指差す先には、煌々とネオンが輝き始める小さな遊園地があった。海沿いに建てられた、どこかノスタルジックな雰囲気の遊園地だ。

「うわ、本当だ! イルミネーション綺麗そう!」
天野さんたちが声を上げると、男子たちも「行くしかねえだろ!」と盛り上がる。
俺は雫の方をちらりと見た。彼女は少し疲れた顔はしていたが、きらきらと輝く遊園地の灯りを興味深そうに見つめていた。その瞳には、行ってみたいという好奇の色が浮かんでいる。
俺が小さく頷いてみせると、彼女は嬉しそうにふわりと微笑んだ。

こうして、俺たちの海遊びは延長戦として遊園地デートへと突入した。
日が落ちた遊園地は、昼間とは全く違うロマンチックな顔を見せていた。メリーゴーラウンドの柔らかな光、コーヒーカップのカラフルな電飾。その全てが、俺たちの高揚感を煽る。

俺たちはいくつかの絶叫系アトラクションを楽しんだ。雫は怖がって乗らなかったが、俺たちがキャーキャー叫びながら乗り物から降りてくるのを、楽しそうに笑って見ていてくれた。
その笑顔を見ているだけで、俺は満足だった。

そして、閉園時間が近づいてきた頃。健太が、にやりと笑いながら言った。
「よし、じゃあ締めはアレだな!」
彼が指差したのは、遊園地で最も高く、そしてゆっくりと回る巨大な観覧車だった。色とりどりのイルミネーションが施され、夜空に浮かぶ宝石のように輝いている。

「いいねー! 夜景絶対綺麗だよ!」
女子たちが賛成の声を上げる。
そして、俺たちが観覧車の乗り場へ向かおうとした時だった。健太が俺と雫の背中を、ぽんと力強く押した。

「俺らはあっちのジェットコースターでもう一回絶叫してくるわ!」
え、と俺が振り返ると、健太は悪戯っぽくウィンクしてきた。
「お前らは二人でロマンチックにどうぞ! 心配すんな、俺たちが時間稼いでやるから!」
その言葉に、天野さんたちも「いってらっしゃーい!」とひらひらと手を振っている。
これは、完全に仕組まれたものだった。
親友たちの最高に粋な計らい。

俺と雫は顔を見合わせた。お互いの顔が、驚きと戸惑い、そして隠しきれない喜びで赤く染まっているのが分かる。
断る理由なんて、どこにもなかった。
俺たちは周りの仲間たちに背中を押されるように、二人きりで観覧車のゴンドラへと乗り込んだ。

ドアが静かに閉まり、カタンとロックがかかる。
その瞬間、外の喧騒が嘘のように遠ざかり、俺たち二人だけの静かな密室空間が生まれた。
向かい合わせのシートに座った、二人きり。
緊張で息が詰まりそうだ。
雫は恥ずかしそうに俯いて、自分の浴衣の膝元を指でいじっている。

やがてゴンドラがゆっくりと動き出した。
きしむような音を立てて、少しずつ、少しずつ高度を上げていく。
窓の外の景色がだんだんと広がっていくのが見えた。
「わあ……」
雫が声にならない感嘆の息を漏らした。
彼女の視線の先には、息をのむような絶景が広がっていた。
眼下には宝石をちりばめたような街の灯り。そして、その向こうには月明かりを反射して銀色にきらめく夜の海。

「……綺麗だね」
俺が手話でそう伝えると、彼女は夢見るような表情でこくりと何度も頷いた。
俺は、そんな彼女の横顔から目が離せなかった。
夜景の光が、彼女の白い頬を柔らかく照らし出している。
その潤んだ瞳に映るキラキラとした光。
少しだけ開かれた艶やかな唇。
その全てがどんな夜景よりもずっとずっと美しくて、俺の心を締め付けた。

好きだ。
この気持ちが胸の奥から溢れ出して、止まらない。
今、この最高の瞬間に。
この気持ちを全部伝えてしまったら、どうなるだろう。
このゴンドラが頂上に着く、その時に。
「好きだ」と、伝えたら――。

俺がそんな衝動に駆られていた、その時だった。
景色に見とれていた雫が、ふと俺の視線に気づいた。
そして、はにかむようにふわりと微笑んだ。
その笑顔は反則的なまでに可愛らしくて。

彼女は少しだけ躊躇うように、ゆっくりと俺の方へ身を寄せた。
そして、俺の肩にその小さな頭を、こてんと優しく預けてきたのだ。

「!」

俺の肩に伝わる、彼女の髪の柔らかさと温もり。
ふわりと香る甘いシャンプーの匂い。
俺の思考は完全に停止した。心臓が今にも破裂しそうなくらい、激しく暴れている。
ゴンドラはゆっくりと、一番高い場所へと差し掛かっていた。
世界で一番、星空に近い場所。

俺は肩に感じる確かな重みと温もりを感じながら、固く誓った。
いつか、必ず。
この気持ちをちゃんと彼女に伝えよう。
この、どうしようもないくらい愛おしい女の子を、俺が必ず幸せにしよう。

告白への思いは、もうただの漠然とした「意識」ではなかった。
それは俺の心の中に深く、深く刻み込まれた、確かな「決意」へと変わっていた。

観覧車がゆっくりと下降を始める。
俺たちの最高に甘くてロマンチックな一日は、もうすぐ終わりを告げる。
でも、俺たちの物語はまだ始まったばかりだ。
この確かな決意を胸に、俺たちの夏はさらに深く色づいていく。
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