クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第40話 誕生日が近い君へ

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観覧車でのロマンチックなひとときから数日。
俺たちの夏休みは、穏やかで甘い日々に戻っていた。
海での出来事を思い出すだけでまだ胸が高鳴る。肩に残る彼女の頭の重みと温もりは、今でも鮮明に思い出すことができた。

雫とのメッセージのやり取りは日に日に親密さを増していく。
もはや、おはようとおやすみの挨拶だけでは終わらない。暇さえあれば俺たちはスマホを手に取り、どうでもいいことを報告し合っていた。
『見て、虹が出てる』
雫から送られてきた写真には、雨上がりの空にかかる七色の大きな橋が映っていた。
『本当だ、綺麗だな。こっちからも見えるかな』
俺は慌ててベランダに出る。
そんな、離れていても同じ景色を共有できるという事実が、どうしようもなく嬉しかった。

そんなある日の夜。
いつものように他愛ないメッセージを交わしていた時のことだった。
俺がふとカレンダーアプリを開きながらメッセージを打っていたのが、全ての始まりだった。

『そういえば、来週の金曜日、俺の誕生日なんだよな』

自分でも何気なく送った一言だった。
別に祝ってほしいとか、そういう意図があったわけじゃない。ただ、目に入ったからそのまま口に出すように指が動いただけだ。
送信した直後に少しだけ後悔した。なんだか催促しているみたいで気恥ずかしい。

メッセージはすぐに既読になった。
だが、そこから雫の返信がぱったりと途絶えてしまったのだ。
いつもならすぐにスタンプの一つでも返ってくるのに。画面にはただ「既読」の文字が表示されているだけ。

「……あれ?」
俺は首を傾げた。
何かまずいことでも言ってしまっただろうか。
いや、でも、ただ誕生日だって言っただけだ。
俺が不安になって何か追加でメッセージを送ろうか迷っていると、数分後、ようやく彼女から返信が来た。

『そうなんだ!』

たったそれだけ。
その後に続く言葉もスタンプもなかった。
俺は、その素っ気ない返事に少しだけ胸がちくりと痛むのを感じた。
やっぱり迷惑だったのかもしれない。誕生日なんていう個人的な情報を急に突きつけられて、どう反応していいか困らせてしまったのだろう。

『ごめん、急に変なこと言って』
俺がそう送ると、すぐに返事が来た。
『ううん、そんなことないよ! 教えてくれてありがとう!』
そのメッセージには、にこやかに笑う犬のスタンプが添えられていた。
いつも通りの明るい反応。
俺はさっきの胸の痛みは気のせいだったのだと、自分に言い聞かせた。
その後、何事もなかったかのように俺たちの会話は続き、そしていつも通り「おやすみ」を言って、その日のやり取りは終わった。

だが、俺が眠りについた後。
月宮家の雫の部屋では、小さな事件が起こっていた。

雫はベッドの上でスマホを握りしめ、頭を抱えていた。
(どうしよう……!)
彼女の心の中はパニックと興奮、そして焦りで大嵐が吹き荒れていた。
航くんの誕生日。
来週の金曜日。もう、あと一週間しかない。
何か、何かプレゼントを贈りたい。心からのお祝いを伝えたい。
でも、何を贈ればいいのか全く見当がつかなかった。

彼は何が好きなんだろう。
何をもらったら喜んでくれるんだろう。
今まで、誰かの誕生日プレゼントを真剣に考えたことなんて一度もなかった。
雫はベッドの上でうんうんと唸りながら、必死で頭を悩ませる。
ゲーム? 漫画? 音楽?
彼の好きなものはいくつか知っている。でも、彼の好みにぴったり合うものを選べる自信は全くなかった。

「……そうだ!」
雫は何かを思いついたように、ベッドから飛び起きた。
そしてパタパタとスリッパを鳴らしながら、廊下を挟んだ向かいの部屋のドアを、遠慮がちにコンコンとノックした。
「……なに? まだ起きてたの?」
眠そうな声と共にドアが開き、姉の潮が顔を出す。

雫は姉を部屋の中に引き入れると、必死の形相でスマホのメモ帳に文字を打ち込み、それを見せた。
そこには、こう書かれていた。
『助けて、お姉ちゃん! 好きな人の誕生日プレゼントが、分かりません!』

その文章を読んだ潮は、一瞬きょとんとした顔をした。
そして、次の瞬間。
その眠そうだった目がカッと見開かれ、面白いものを見つけた猫のように、ニヤリと口の端を吊り上げた。
「……ほう。好きな人、ねえ」
潮は妹の肩をがっしりと掴んだ。
「よろしい! この恋愛マスターの潮様が、あんたの初恋を全力でサポートしてやろうじゃないの!」
その目は、完全に獲物を見つけた狩人の目だった。

その夜、月宮家の姉妹の部屋では深夜までこうこうと明かりが灯り、秘密の作戦会議が繰り広げられたという。
航くんの好みは? 予算は? 手作りはアリかナシか?
潮の的確な質問に雫は必死で答え、二人はああでもない、こうでもないと頭を突き合わせる。

俺が、そんな微笑ましい(そして少しだけ恐ろしい)作戦会議が開かれていることなど知る由もなかった。
俺はただ、自分の何気ない一言で彼女を困らせてしまったのではないかと、少しだけ後悔しながら眠りについたのだった。
俺の誕生日が彼女にとっての一大イベントになろうとしていることなど、夢にも思わずに。
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