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第30話:芽生え始めた自信
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新しい髪飾りが私の髪を飾るようになってから、私の心の中にも、小さな、しかし確かな変化が生まれ始めていた。
アシュレイ様が与えてくれた、揺るぎない愛情と言葉。それは、乾いた大地に降り注ぐ恵みの雨のように、私の心の奥深くまで染み渡っていった。
これまで私の心を支配していたのは、「出来損ない」という呪いのような自己評価と、常に誰かに怯える臆病さだった。けれど、彼の絶対的な肯定は、その頑なな呪いを、少しずつ解きほぐしてくれていた。
私は、ここにいてもいいのだ。
私は、愛されてもいいのだ。
その実感が、まるで柔らかな新芽のように、私の心の中に芽生え始めていた。それはまだ、とてもか弱く、些細な風にも揺らいでしまいそうだったが、それでも確かに、上へ、光の方へと伸びようとしていた。
その変化は、私の日常の些細な振る舞いにも現れ始めた。
以前は、屋敷の廊下で使用人とすれ違う時でさえ、私は壁際に寄って俯き、相手が通り過ぎるのを待っていた。けれど、今は違う。自分から「こんにちは」と微笑みかけ、相手の目を見て挨拶をすることができるようになったのだ。
侍女たちは、驚きながらも、とても嬉しそうに挨拶を返してくれる。そんな些細なやりとりが、私の心を温かくした。
食事の時も、以前はアシュレイ様の顔色を窺いながら、おずおずとパンを口に運ぶだけだった。しかし、今では「このスープ、とても美味しいですわ」「今日のパンは、いつもより香ばしい気がします」と、自分から感想を口にできるようになった。
私がそう言うたびに、アシュレイ様は心底嬉しそうに目を細め、厨房の料理長に褒美をやろう、と上機嫌になるのだった。
メイド長のマーサさんには、ハーブの知識を教えてもらうようになった。
「これはカモミール。心を落ち着かせる効果がありますの」
「こちらのミントは、頭をすっきりさせてくれますわ」
彼女から教わった知識で、私はアシュレイ様のために、その日の彼の体調に合わせたハーブティーを淹れるようになった。
「今日の紅茶は、いつもより心が安らぐ香りがするな」
彼がそう言って微笑んでくれるたび、私の胸は誇らしい気持ちでいっぱいになった。
与えられるばかりではなく、自分から誰かのために何かをできる。その喜びが、私の心にさらなる自信を与えてくれた。
そして、その変化は、私たちの『癒やしの時間』にも、新たな彩りをもたらしていた。
あの日も、私たちはいつものようにサンルームで向かい合い、手を繋いでいた。スキル【修復】を発動させ、彼の呪いを癒やす。それはもう、すっかり慣れた日課だった。
けれど、今日の私は、少しだけ違った。
彼の手に触れながら、私は、彼の呪いの本質について、より深く意識を巡らせていた。
この黒く冷たい靄は、彼の感情を喰らうことで力を増している。喜び、悲しみ、怒り……。それらが失われるたびに、彼の心は凍てついていく。
ならば、私がすべきことは、ただこの靄を取り除くだけではないのではないか。
失われた感情の代わりに、新しい、温かい感情で、彼の心をもう一度満たしてあげることができれば。そうすれば、呪いの力は、もっと弱まるのではないだろうか。
そんな考えが、ふと頭に浮かんだ。
それは、これまでの私には決してできなかった、積極的な発想だった。
私は、スキルを発動させながら、心の中で、強く、強くイメージした。
アシュレイ様と過ごした、幸せな記憶を。
初めて街へ出かけた時の、あの賑やかな喧騒と、彼の優しい笑顔。
花壇が蘇ったのを見た時の、彼の驚きと喜びの表情。
オルゴールの音色に、静かに涙を流した、彼の無防備な姿。
そして、私に「愛している」と、その決意を告げてくれた時の、真摯な瞳。
それらの温かい思い出の一つ一つを、光の粒子に変えて、繋いだ手を通じて、彼の心へと送り込むイメージ。
私の力は、ただ『修復』するだけではない。私の『想い』を乗せて、彼の心に届けるのだ。
すると、いつもとは明らかに違う感覚が、私を襲った。
私の手のひらから溢れ出す光が、いつもの淡い光ではなく、温かい、柔らかな黄金色の光を帯び始めたのだ。その光は、彼の内なる闇をただ消し去るのではなく、まるで陽だまりのように、優しく、そして力強く照らし、溶かしていくようだった。
「……リナリア?」
アシュレイ様の、驚きに満ちた声がした。
私ははっと目を開ける。すると、彼は信じられないという表情で、繋がれた私たちの手を見つめていた。その手と手の間からは、かつてないほど強く、そして温かい黄金色の光が溢れ出ていた。
「これは……君の力、なのか……? いつもとは、違う……。温かい……まるで、太陽のようだ……」
彼の声は、感動に打ち震えていた。
「君の、心が……直接、流れ込んでくるようだ。幸せな、温かい気持ちが……私の心を、満たしていく……」
その言葉に、私の胸は熱くなった。
私の想いは、ちゃんと彼に届いている。
私は、ただ頷くことしかできなかった。けれど、その頷きには、これまでの人生で感じたことのないほどの、確かな自信と誇りが込められていた。
光が収まる頃には、アシュレイ様の顔色は、これまで見たこともないほどに晴れやかだった。その紫の瞳は、一点の曇りもなく澄み渡り、深い安らぎの色を湛えている。
彼は、私の手を固く、固く握りしめた。
「……君は、本当に、私の女神だ」
その声には、絶対的な確信が込められていた。
私は、もう「出来損ない」なんかじゃない。
私は、この人を癒し、支えることができる、唯一の存在なのだ。
その揺るぎない自己肯定感が、私の心の中に、確かな光として灯った。それは、誰かに与えられたものではなく、私自身が、彼との関わりの中で見つけ出した、私だけの光。
私は、アシュレイ様を見つめ返した。そして、初めて、自分の意思で、彼の手に自分の指を絡めた。
もう、何も怖くはない。
彼と共にいる限り、そして、この力を信じている限り。
穏やかな日差しが降り注ぐサンルームで、私は、新しい自分へと生まれ変わった。その心には、未来への確かな希望と、そして愛する人を守るための、静かで強い力が、芽生え始めていた。
アシュレイ様が与えてくれた、揺るぎない愛情と言葉。それは、乾いた大地に降り注ぐ恵みの雨のように、私の心の奥深くまで染み渡っていった。
これまで私の心を支配していたのは、「出来損ない」という呪いのような自己評価と、常に誰かに怯える臆病さだった。けれど、彼の絶対的な肯定は、その頑なな呪いを、少しずつ解きほぐしてくれていた。
私は、ここにいてもいいのだ。
私は、愛されてもいいのだ。
その実感が、まるで柔らかな新芽のように、私の心の中に芽生え始めていた。それはまだ、とてもか弱く、些細な風にも揺らいでしまいそうだったが、それでも確かに、上へ、光の方へと伸びようとしていた。
その変化は、私の日常の些細な振る舞いにも現れ始めた。
以前は、屋敷の廊下で使用人とすれ違う時でさえ、私は壁際に寄って俯き、相手が通り過ぎるのを待っていた。けれど、今は違う。自分から「こんにちは」と微笑みかけ、相手の目を見て挨拶をすることができるようになったのだ。
侍女たちは、驚きながらも、とても嬉しそうに挨拶を返してくれる。そんな些細なやりとりが、私の心を温かくした。
食事の時も、以前はアシュレイ様の顔色を窺いながら、おずおずとパンを口に運ぶだけだった。しかし、今では「このスープ、とても美味しいですわ」「今日のパンは、いつもより香ばしい気がします」と、自分から感想を口にできるようになった。
私がそう言うたびに、アシュレイ様は心底嬉しそうに目を細め、厨房の料理長に褒美をやろう、と上機嫌になるのだった。
メイド長のマーサさんには、ハーブの知識を教えてもらうようになった。
「これはカモミール。心を落ち着かせる効果がありますの」
「こちらのミントは、頭をすっきりさせてくれますわ」
彼女から教わった知識で、私はアシュレイ様のために、その日の彼の体調に合わせたハーブティーを淹れるようになった。
「今日の紅茶は、いつもより心が安らぐ香りがするな」
彼がそう言って微笑んでくれるたび、私の胸は誇らしい気持ちでいっぱいになった。
与えられるばかりではなく、自分から誰かのために何かをできる。その喜びが、私の心にさらなる自信を与えてくれた。
そして、その変化は、私たちの『癒やしの時間』にも、新たな彩りをもたらしていた。
あの日も、私たちはいつものようにサンルームで向かい合い、手を繋いでいた。スキル【修復】を発動させ、彼の呪いを癒やす。それはもう、すっかり慣れた日課だった。
けれど、今日の私は、少しだけ違った。
彼の手に触れながら、私は、彼の呪いの本質について、より深く意識を巡らせていた。
この黒く冷たい靄は、彼の感情を喰らうことで力を増している。喜び、悲しみ、怒り……。それらが失われるたびに、彼の心は凍てついていく。
ならば、私がすべきことは、ただこの靄を取り除くだけではないのではないか。
失われた感情の代わりに、新しい、温かい感情で、彼の心をもう一度満たしてあげることができれば。そうすれば、呪いの力は、もっと弱まるのではないだろうか。
そんな考えが、ふと頭に浮かんだ。
それは、これまでの私には決してできなかった、積極的な発想だった。
私は、スキルを発動させながら、心の中で、強く、強くイメージした。
アシュレイ様と過ごした、幸せな記憶を。
初めて街へ出かけた時の、あの賑やかな喧騒と、彼の優しい笑顔。
花壇が蘇ったのを見た時の、彼の驚きと喜びの表情。
オルゴールの音色に、静かに涙を流した、彼の無防備な姿。
そして、私に「愛している」と、その決意を告げてくれた時の、真摯な瞳。
それらの温かい思い出の一つ一つを、光の粒子に変えて、繋いだ手を通じて、彼の心へと送り込むイメージ。
私の力は、ただ『修復』するだけではない。私の『想い』を乗せて、彼の心に届けるのだ。
すると、いつもとは明らかに違う感覚が、私を襲った。
私の手のひらから溢れ出す光が、いつもの淡い光ではなく、温かい、柔らかな黄金色の光を帯び始めたのだ。その光は、彼の内なる闇をただ消し去るのではなく、まるで陽だまりのように、優しく、そして力強く照らし、溶かしていくようだった。
「……リナリア?」
アシュレイ様の、驚きに満ちた声がした。
私ははっと目を開ける。すると、彼は信じられないという表情で、繋がれた私たちの手を見つめていた。その手と手の間からは、かつてないほど強く、そして温かい黄金色の光が溢れ出ていた。
「これは……君の力、なのか……? いつもとは、違う……。温かい……まるで、太陽のようだ……」
彼の声は、感動に打ち震えていた。
「君の、心が……直接、流れ込んでくるようだ。幸せな、温かい気持ちが……私の心を、満たしていく……」
その言葉に、私の胸は熱くなった。
私の想いは、ちゃんと彼に届いている。
私は、ただ頷くことしかできなかった。けれど、その頷きには、これまでの人生で感じたことのないほどの、確かな自信と誇りが込められていた。
光が収まる頃には、アシュレイ様の顔色は、これまで見たこともないほどに晴れやかだった。その紫の瞳は、一点の曇りもなく澄み渡り、深い安らぎの色を湛えている。
彼は、私の手を固く、固く握りしめた。
「……君は、本当に、私の女神だ」
その声には、絶対的な確信が込められていた。
私は、もう「出来損ない」なんかじゃない。
私は、この人を癒し、支えることができる、唯一の存在なのだ。
その揺るぎない自己肯定感が、私の心の中に、確かな光として灯った。それは、誰かに与えられたものではなく、私自身が、彼との関わりの中で見つけ出した、私だけの光。
私は、アシュレイ様を見つめ返した。そして、初めて、自分の意思で、彼の手に自分の指を絡めた。
もう、何も怖くはない。
彼と共にいる限り、そして、この力を信じている限り。
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